フジロックフェスティバル07

フジロックフェスティバル07に参加しました(2007年7月27~29日、新潟県湯沢町・苗場スキー場)。

初日は快晴、2、3日目は曇りときどき雨の涼しい天候でした。昨年は最終日の夜に3日間の入場者数が掲示されていましたが、今年は張られていませんでした。当日券が販売されていたところを見ると、今年はフジロックフェスティバルの入場者数が初めて減少するのではないかと思います。(追記・07年は前夜祭を含めると12万7000人で昨年より4000人減、3日間では11万2000人で昨年より3000人減でした。観客動員の減少は2000年、2004年に続き通算3度目でした。)行動記録

以下は管理人の行動記録。

26日(木曜日・前夜祭)

前日(当日)午前0時半ごろまで仕事。1時ごろ帰宅。手荷物の準備。テント、いす、寝袋等は24日に宅急便で発送済み。バックパック1個だけで午前6時出発。

朝一番の新幹線で新神戸から東京乗り換えで越後湯沢まで行く。午前11時ごろ越後湯沢駅到着。昨年買い損ねたフジロッククッキーと今年新たに出たフジロックせんべいを駅の売店で確保する。公式ガイドも同時に買う。

シャトルバスより先に路線バスが来たのでそれに乗る。約40分で会場近くに到着。運賃650円。

降りてそのままリストバンド交換の行列に並ぶ。交換したあと宅急便の荷物を受け取る。キャリーカートも一緒に送っていたので、現地で荷物をセットし、そのままキャンプサイトへ。

テントを設営し、場内ショップエリアなどを歩き回る。午後6時半ごろ前夜祭に参加。苗場音頭、抽選会、花火のあとレッドマーキーレイルロード・アースをフルで見る。フジロックフェスティバルの常連客なら「ジャムバンド」で通じるのだろうが、一般向けには「カントリー、もしくはブルーグラスのバンド」という紹介になるだろう。バイオリン(フィドル)、マンドリン、ウッドベース、ギター、ドラムが基本編成。カントリーとブルーグラスの両方が持ち合わせている大衆ダンスの雰囲気を残している。バイオリンとマンドリン、バンジョーがメロディー楽器になり、アコースティックギターはリズム楽器の一部になる。このようなバンドの場合、キーボード奏者が入るとサウンドが一気にモダンになり、一般にイメージされるカントリーやブルーグラスからは遠くなる。このバンドはキーボードを入れずにドラムを入れ、「アメリカのルーツ音楽」とロックのバランスをうまい具合に取っている。

スペース・カウボーイ、ラタタット、ジライラは見ず。あとから思えば、ラタタットは見ておいてもよかった。11時ごろ退場。

27日(金曜日・1日目)

午前9時半ごろ起床。11時前入場。

グリーンステージサンボマスターを見る。前回出演したときは見なかったが、そのときの評判がよかったので今回はフルで見た。MCが熱い。「原爆は『しょうがない』んですか?」と問い、今を意識した真面目な性格を思わせる。グリーンステージに立てたという喜びも大いに伝わってくる。やや早口で興奮したしゃべり方なので内容は取りにくいが、「何かの縁で金曜朝一のサンボマスターを見に来てくれたお客さんに感謝している」というような誠実さが伝わってくる。ボーカルはやや粗めだが、それを補ってあまりある求心力だった。人気があるのもうなずける。

サンボマスターが終わったあと、フィールドオブヘブン渋さ知らズオーケストラを見に行く。04年のクロージングバンドを見て以来2度目。フジロックに行く少し前に、渋さ知らズオーケストラのライブをみた鷲田清一(哲学者、大阪大学総長、57歳)が新聞にライブ評を書いており、それを読んだ上で見る。鷲田清一は渋さ知らズの魅力を分業の交感と分析している。「ああ、そういう解釈もあるかな」と思いながら見ていると、ステージの両サイドに立つスピーカーのてっぺんに白塗りのダンサーが登っていた。ステージ上での動きと同じように、高さ十数メートルのところで踊っている。かなり恐怖感があるだろうと思うが、同時に「目に見える光景すべてがライブステージ(舞台)」という、ライブの解釈のようなものを再確認させてくれる。途中でフォーク歌手の三上寛が参加していた。

ホワイトステージ赤犬に移動。ステージの横に大画面があるので、赤いふんどしだけの姿がより強烈に映る。「うんこ」や「ちんこ」を観客に言わせるのは、手法としての驚きは少ない。以前ビート・クルセイダーズが「パンクスプリング06」で、観衆の女性だけに「おまんこ」と大合唱させていたのと同じだ。ライブに限らず、どんな芸でも下ネタに走るのは古典的であり、飽きられるのも早い。ただ、曲は楽しいし、ライブの盛り上げ方もうまいので、飽きられる前に「次の何か」を模索した方がいいと思った。

赤犬の「3日目の夜、苗場食堂で打ち上げやろう」というMCを聞いてグリーンステージイエローカードに移動。大阪のサマーソニックで見て以来2度目。最新アルバムの「ペイパー・ウォールズ」はバイオリンの活躍が戻っており、バイオリン付きメロディックパンクを楽しめた。

時間を空けてオレンジコートセンチメンタル・シティ・ロマンスを見に行く。日本のウェストコースト・ロックの先駆け。2年くらい前に大阪の春一番コンサートで見たときは3人だけで活動していたが、ドラム付きのバンド編成になった。ドラムは元シュガーベイブの野口明彦で、「ダウンタウン」の録音メンバーだった人。コーラスは当時も今も美しい。途中から見たので代表曲「うちわもめ」をやったのかどうかは分からない。観客の年齢層がとても高く、白髪交じりの人が多かった。全盛期は30年前だから、当時20歳の人は今50歳。03年の外道でも同じような客層だったな。同じ03年の早川義夫は、ジャックスの中心人物という「『伝説』の確認」目的で見る若い人が結構いた。センチメンタル・シティ・ロマンスも外道も、ジャックスほどの認知度はないが、「日本ロックの歴史的バンド」が間近に見られるのはうれしい。

アバロンフィールドつじあやのをちょっとだけ見る。かつてフィールドオブヘブンの早い時間帯で出たことがあるが、そのときも他に見る物があったのでちょこっとしか見なかった。つじあやのが出ていた時間はフィールドオブヘブンがセットチェンジ、ホワイトステージがスティーヴィー・サラス・カラーコードだった。轟音サウンドを渡り歩いたあとつじあやのを聞くとなごむ。

その後会場内をうろうろしてオレンジコート日野皓正クインテットを見る。日野皓正は有名アーティストだと思うが、意外に客は少ない。MCは日野皓正が行うが、1曲ずつ丁寧に曲の紹介をしていた。日野皓正によると、日野皓正の父はマイルス・デイヴィスなんだそうである。「フジロックのステージで演奏するのが夢でした」というようなことを言っていたが、日野皓正が本当にそう思ってるのか、観客へのサービスなのか分からなかった。確かにフジロックは、ジャズ専門誌が毎年特集を組むほどジャズファンに浸透している。ジャズのアーティストにとっては、フジロック出演がステータス化しつつあるのかもしれないと想像がつくが、それでもあのヒノテル、日野皓正が言うとかなり驚く。私の認識が甘い、あるいは無知なんだろうか。ライブ自体は通常のジャズライブで、奇をてらうことはしていない。予定時間より早く終了した。

フィールドオブヘブンレイルロード・アースに移動。レイルロード・アースの次に控えていたダミアン・ライスが公演中止になったためか、長時間にわたって演奏。日野皓正より40分も前に終わっているはずが、日野皓正終了後もレイルロード・アースの演奏が続いていた。

その後グリーンステージミューズを見る。予定より30分押している。昨年千葉・幕張のサマーソニックでフルで見たが、今回もフルで見た。演奏は安定。映像も凝っている。ザ・フーやクラッシュみたいにギターを振り回したあと、また出てきて再びライブを始めた。最後はドラムセットもギターも破壊。

グリーンステージのザ・キュアーと苗場食堂の三上寛は同じ時間に始まる予定だったが、ミューズが30分遅れだったのでザ・キュアーも遅れるだろうと推測。苗場食堂三上寛を見る。三上寛が登場する前に、ふんどし姿の男が三上寛のすごさを客に説明していた。しかし、その中で中津川フォークジャンボリーを「神奈川県」でやったという重大なミスがあった。中津川は岐阜県だ。当時のフォークの2大中心地である関西と東京から遠く離れた場所というところに意味があるのだ。フジロックフェスティバルを(都市部ではなく)新潟県の山中でやるというのも似たような意味合いがある。三上寛を見るのはこの日で2度目、フジロックでは3度目、それ以外も含めて通算4度目。地方出身者としての自意識を前面に出した曲は、今日では(世界システム論的)辺境者の叫びの先駆だろう。

グリーンステージザ・キュアーを見る。予備知識ほとんどなし。フジロックでグリーンステージのトリを取るようなアーティストは、予備知識がなくてもほぼ全て見ることにしている。ほとんど見なかったのはジーズ・チャーミング・メンくらいだ。ザ・キュアーは舞台をエンターテイメント化するバンドではなく曲そのものを聞かせるバンドであるため、曲をある程度知らないとなかなか楽しめない。ザ・キュアーがイギリスのロック史で、ある程度の位置を占めることは理解しているが、パフォーマンスがごく普通だと「動く姿を確認した」というだけで終わってしまう。もちろんザ・キュアーにはなんの落ち度もない。途中まで見た。

ホワイトステージのグルーヴ・アルマダが16人編成でライブをやるというので、ホワイトステージに移動。通常のバンド編成のほか、ホーンセクションやパーカッションが加わる。70年代ディスコの現代的解釈か。踊れるライブは単純に楽しい。ホワイトステージのトリだったのでアンコールがあり、最後まで見た。

フィールドオブヘブン経由でオレンジコートに行き、オールナイトフジを見る。入れ替わるDJの名前はいちいち確認しないが、流れる音に身を任す。ケミカル・ブラザーズやアンダーワールド、ザ・ホワイト・ストライプスが使われると盛り上がる。ステージの両サイドで妖艶なパフォーマンスをするビキニ姿の女性に視線が集まっていた。演奏途中で曲を中断し、客の緊急呼び出しが2回あった。午前3時ごろボードウォークを歩いて退場。午前4時ごろ就寝。

28日(土曜日・2日目)

午前9時半ごろ起床。

グリーンステージジュリエット&ザ・リックスを見る。2年前のレッドマーキーでのパフォーマンスがよかったという話を聞いていたのと、ハリウッド女優が自分のバンドを組んでパンクをやっているという話題性で、前から見ておこうと思ったバンド。一般的なロックバンドと同じパフォーマンス。ボーカルのジュリエット・ルイスは動きが激しい。

ジュリエット&ザ・リックスが終わったあとフィールドオブヘブンパノラマ・スティール・オーケストラを途中から見る。ステージ上に何人いるのか分からないくらい多い。30人くらいか。全員がお揃いの青いTシャツを着ている。メンバーの9割くらいはスティールパン、それ以外の人はドラムやパーカッションなど。スティールパンは楽器としては打楽器だがメロディーを作りやすい。南洋的雰囲気があるので夏のフェスティバルにもふさわしい。曲も乗りやすい。朝一の出演なのに客の歓声に応えてアンコールをやった。曲の途中で観客を全員しゃがませた。ライブでしゃがませられるのはスリップノット以来だ。

ホワイトステージ髭(HiGE)に移動。2人いるドラムのうち一方はサンタクロースの格好だった。あまり時間をかけずにグリーンステージに移動。

グリーンステージモーション・シティ・サウンドトラックを見る。キーボード奏者を含むメロディックパンクバンドで、ポイントはキーボード奏者がムーグを中心に演奏するということだ。ムーグは見た目はキーボードと変わらないが、出てくる音が特徴的で、70年代ロック、特にプログレッシブロックに愛着のある人にとっては特別の意味を持つ楽器だ。クラシック音楽風に言えばムーグは古楽器である。このバンドのサウンド的ユニークさはムーグにほぼ集約されると言ってよい。ライブではムーグを前面に出さず、あくまで楽器のひとつとして扱われていた。特に大きな音を出していたわけではなく、むしろムーグであることを気付かせない音の大きさであったが、ムーグにしか出せない電子的な歪みも時折使っており、必然性は示していた。イエローカードのバイオリンがムーグになったサウンドとでも言えようか。

ホワイトステージメイを見る。後半だけ。

グリーンステージに戻って!!!(chk chk chk)を見る。8人編成。いろんな楽器が出てきてファンク風のパフォーマンスを見せる。バンド名からして奇抜で注目を集めるが、ライブもさすがにうまく、かなり盛り上がっている。 陽気に踊れて爽快感がある。

レッドマーキー少年ナイフを見る。昨年は前夜祭でフルで見た。20代のOL兼業時代をいまだに感じさせるガレージ感、素人臭さはすごい。キャリアとともに演奏やパフォーマンスが洗練されていくことの予定調和的安心感を拒否するかのようだ。うまくなったり有名になったりすることに腐心せず、やりたいようにやっているような姿も長年支持される理由ではないか。

少年ナイフを途中で抜け、グリーンステージクーラ・シェイカーを眺めながら横断。オルガンでバッハのトッカータとフーガを弾いていた。あとで知ったがキーボード奏者はクラシック志向でディープ・パープルのジョン・ロードが好きらしい。

ホワイトステージレス・ザン・ジェイクを途中から見る。5人のうち2人がホーンセクションのスカパンク・バンド。MCが面白い。レス・ザン・ジェイクをサポートする日本人スタッフが考えたMCだろうが、バンドのイメージに合った演出でよかった。会場全体で巨大なモッシュピットがあったという。

フィールドオブヘブンに移動しダチャンボを見る。もともと見る予定はなく、たまたま見たらやっていたという感じだ。ドラム2人、ディジュリドゥを含む。結成して3年で念願のフジロック出演だそうだ。サウンドの中心はもちろんディジュリドゥだ。ドローン効果が気分をハイにさせるのだろうか。ドローン効果とパーカッションがダンス気分を盛り上げる。

ダチャンボが終わったあとホワイトステージアタリスを見る。7人編成で、キーボードやチェロ奏者もいることになっているが、見た限りでは5人しか出てこなかった。トリプルギターを見るのはいつぞやのビーチ・ボーイズ以来だ。ボーカル兼ギターがステージ下に降りて客にタッチしながら歌う。何人もの客が頭の上を転がっていく様子を大画面が映していたが、女性が転がりながら、ボーカルにチューしようとしているのがばっちり映った。「どさくさにまぎれて何しとんねん」と突っ込んだ人は多いと思う。客席の中に原始人集団がいて、石玉の上に乗って客を煽っていた。途中まで見た。

グリーンステージカイザー・チーフスを見る。ボーカルがフジロックのスタッフTシャツを着ている。ドラムはフジロックの公式Tシャツを着ている。カイザー・チーフスもボーカルが客席に寄っていく。そこまでは他のバンドにも見られる一般的なパフォーマンスであるが、カイザー・チーフスのボーカルはステージ端から客席との壁を乗り越え、ポカリスエットのブースまで行ってペットボトルをもらった(買ったのではないと思う)。ペットボトルを持ったまま再びステージに戻り、少し飲んでからそのまま客席に投げ込んだ。ポカリスエットのブースに行っている間は客がたくさん群がり、大騒ぎになっていた。トリ級のアーティストならすぐにステージに戻れなかったかもしれない。単に水が飲みたいだけならステージ上やステージ脇にたくさんあるだろうから、突発的パフォーマンスというべきか。カイザー・チーフスのボーカルは「今度来るときはヘッドライナーで」と発言していた。可能性はないことはないと思う。

カイザー・チーフスのあと、レッドマーキーに移動しG.ラヴ&スペシャル・ソースを見に行く。とても人が多く、レッドマーキーの後方から動く姿が一部見えるだけだ。2、3曲だけ見た。

ホワイトステージに行きオマー・ロドリゲス・ロペス・グループの後半を見る。オマー・ロドリゲス・ロペスはマーズ・ヴォルタのギタリストで、中心人物。前回マーズ・ヴォルタをホワイトステージで見たときは、持ち時間1時間半で2曲だった。それぞれ50分と40分で、マーズ・ヴォルタをあまり知らない人にはつらかったと思う。今回は適度に曲が途切れていた。マーズ・ヴォルタとどう違うかといえばよくわからなかった。

グリーンステージに戻ってイギー・ポップ&ザ・ストゥージズを見る。イギー・ポップが03年にもフジロックに出演したことは知っていたが、そのときはビョークとの二者択一でビョークを選んだので見られなかった。ステージに客を上げるといううわさを聞いていたので期待して見ていたら本当に上げた。100人から200人は上げたんじゃないだろうか。客がどんどん上がっている間もイギー・ポップは歌い続けていた。イギー・ポップ本人はご満悦で、「テイク・イット・イージー」「イージー」を何度も繰り返していた。ライブは一時中断し、「ライブを続けるために、速やかに降りてください」という場内アナウンスが何回も流れた。「みなさん、イギー・ポップのライブもっと見たいですよね」というのもあった。5分から10分ぐらいして再び演奏が始まり、予定通り終了。記憶に残る出来事だった。

イギー・ポップ&ザ・ストゥージズが終わったあとホワイトステージへシャーロット・ハザレイの抜けたアッシュを見に行こうと思ったが、この時点で疲れており、動く気力が沸かなかった。オアシスエリアでうろうろしながら時間をつぶし、グリーンステージビースティ・ボーイズを見る。はじめにDJが出てきてターンテーブルのテクニックを見せつけたあと、3人のMCがそろいのスーツで出てきた。最初はMCがマイクだけで歌っていたが、途中からバンド形式になり、ハードコアとインスト曲をしばらく続ける。最新アルバムがインスト曲なので、最新アルバムからの曲をやっているということになるが、後方の客はあまり盛り上がらない。「チ・チェック・イット・アウト」「ソー・ワァッチャ・ウォント」「スリー・MC&ワン・DJ」など、ラップを駆使した曲になると歓声が上がる。初期の代表曲である「ノー・スリープ・ティル・ブルックリン」では「ブルックリーン」の大合唱だった。アンコールでは、DJがレッド・ツェッペリンの「移民の歌」をサンプリングしてDJテクニックを見せる。それが大画面に大映しにされて会場がどよめいていた。3人のMCは、楽器を持つとそれぞれギター、ベース、ドラムを担当するが、高速のハードコアになるとサポート要員がドラムを演奏する。

ビースティ・ボーイズ終了後、レッドマーキースペース・カウボーイを見に行く。ビースティ・ボーイズを見終わった人が大量にオアシスエリアに向かうので大渋滞。グリーンステージからレッドマーキーに行くだけで15分かかった。すでにレッドマーキーは後方まで人で埋まっている。スペース・カウボーイの姿はほとんど見えない。疲れているので睡魔が襲ってくる。あまり覚えていない。

引き続きレッドマーキーシミアン・モバイル・ディスコを見る。見るというより聞いているという感じ。睡魔と戦うが劣勢。

引き続きレッドマーキー石野卓球を聞く。さすがに日本の代表的なDJで、人気が違う。メロディーの引っかけも多く、意識のはっきりしたときにあらためて聞いてもいいと思わせる。

引き続きレッドマーキージャスティスを見る。これはレッドマーキーの中ほどまで入っていってちゃんと見た。ニューレイヴの代表のようなグループであり、どんなライブをやるのか興味があったが、案外普通だった。DJセットの前に十字架を置いていた。外道がステージに鳥居を置くようなものか。このときは好奇心が勝り、睡魔には優勢だった。ボーカルがつく曲では盛り上がる。一緒に歌う人も多い。1時間ほどだったが、バンドセットで見たいと思った。

ルーキーアゴーゴーをひととおり見て回り、午前4時半ごろ就寝。

29日(日曜日・3日目=最終日)

午前10時すぎに起床。グリーンステージに近い洗面所でソイル&ピンプ・セッションズの熱そうな音を聞いていた。

12時ごろ会場入りし、オアシスエリア等で適当に過ごす。

午後1時半ごろからフィールドオブヘブンザ・キング・トーンズを見る。後半だけだったので「グッド・ナイト・ベイビー」や「煙が目にしみる」を聞けなかった。トーケンズの「ライオンはねている」をやっていた。すごい歓声だった。パティ・ペイジの「テネシー・ワルツ」のあと、最後はレイ・チャールズの「愛さずにはいられない」。メーンボーカルの「みんな、体に気をつけてね」という言葉に強い説得力がこもる。観客も半ばお笑いのネタと解釈して盛り上がっていた。

レッドマーキーに戻りジ・アンサーを見る。ボーカルの歌唱力は、ハードロックとしては屈指かもしれない。フリーのポール・ロジャースやフェイセズのロッド・スチュワートを高くしたような声で、力も張りもある。曲の間のMCも誠実だ。「みんな、一緒に歌ってくれ」というMCは日本語でやっていた。ジ・アンサーの個性は、MCも含めたボーカルの個性とイコールではないだろうか。ボーカルが退いたあと、最後にギタリストがギターソロをやったのは蛇足だった。このバンドにギターソロを求める人は少ないのではないか。80年代ハードロックのような時代錯誤を感じる。このバンドはボーカルだけが重要だということをさらに強調してしまった。

グリーンステージに入りMIKAを見る。楽しい。MIKAの声域の広さ(オクターブの広さ)はすばらしい。スタジオ盤で高音が出せてもライブで低音になったり、観客に歌わせて高音を避けて失望させるボーカルはいくらでもいるが、MIKAは高音でファルセット(裏声)になったりせず、通常の声が出せる。それ自体が大きな実力なのに加え、曲が前向きで、風船、紙吹雪、シャボン玉、着ぐるみまで出てくれば気分は高揚しないはずがない。白のTシャツ、水色のぴったりしたパンツでがシンプルで、ステージ衣装という認識がもともとないかのようだ。Tシャツを脱いで上半身裸になったときは会場がどよめいたが、あとでTシャツを着直して「また着るんかい」と突っ込まれていた。曲の途中でドラムセットのシンバルなどをたたくのも様になる。ドラムはアフリカ系女性だった。

MIKAはその生い立ちの特殊さや不遇さがよく紹介され、90年代後半からのある種の流行に沿った宣伝のされ方をしている。KORNやエミネムはその代表だろう。しかし、MIKAもKORNもエミネムも、そうした「生い立ちのドラマ」がなくても十分通用する曲の良さがある。いかにして聞いてもらうか、の努力のひとつとして生い立ちを紹介することは否定しないが、宣伝の仕方としてもっと違う戦略があってもいいのではないか。

フィールドオブヘブンに行き、せいかつサーカスを見る。ステージにロープが張ってあり、演奏中に綱渡りの曲芸をやっていた。ただ曲芸をやっているのではなく、曲芸の効果音の一部を実際の演奏で行っていた。曲芸と音楽がリンクしている。

ホワイトステージに行きザ・シンズを見る。公式ガイドに書いてあるような、ブライアン・ウィルソン(ビーチ・ボーイズの中心人物)風ポップスという印象は受けなかった。ポップでやや明るめでコーラスが入るような曲は「ビーチ・ボーイズ風」あるいは「ブライアン・ウィルソン風」と書けば分かりやすいが、フジロックフェスティバルに来るようなファンの多くはブライアン・ウィルソンといえば「ペット・サウンズ」なのだろう。「サーフィン・USA」を想像するするのは少数派だ。

オレンジコート上原ひろみを見に行く。すごい人の数だ。オレンジコートが後方まで人で埋まっている。こんなに人がいるオレンジコートは初めて見た。次に出るときはホワイトステージかグリーンステージにした方がいいだろう。もちろんピアノ、キーボードで演奏されるが、ジャズ、フュージョンをそれほど積極的に聞かない人には、上原ひろみがどうすごいのか分かりづらい。スタジオ盤の曲を知っておかないとライブならではのアドリブも分からない。人気アーティストを生で見たという「音楽経験の積み上げ」になってしまった。

ホワイトステージクラムボンをやっていたので少しだけ見る。やはり曲を知っていた方が面白いんだろうなと思いながら好奇心だけで眺めていた。

レッドマーキーに戻りピーター、ビヨーン・アンド・ジョンを見に行く。上原ひろみを見終わった人の大行列で、レッドマーキーまで25分かかった。ほとんど演奏終了に近かった。口笛が印象的な「ヤング・フォークス」さえ聞ければ満足だったが聞けず。

そのまま隣のグリーンステージハッピー・マンデーズを見る。昨年のクロージングバンドで見た。ジョン・コンゴスの「ステップ・オン」やスエットホグの「ハレルヤ」はハッピー・マンデーズではなく原曲で知っているので、ハッピー・マンデーズをそれほど知らなくても楽しめる。「ステップ・オン」も「ハレルヤ」も原曲に忠実だ。ボーカルが男女2人いることが生かされたカバーだ。

終わったあとホワイトステージバトルズを見る。とても人が多い。このバンドの重要性を理解しないまま見たので、特に印象に残らなかった。予備知識があった方が楽しめたのは確実だ。

フィールドオブヘブンソウル・フラワー・ユニオンを見る。この時間帯はグリーンステージの東京スカパラダイス・オーケストラ、オレンジコートのジェイク・シマブクロとの三択だった。ゲストにソウル・フラワー・モノノケ・サミットの伊丹英子が参加した。阪神・淡路大震災との関係が深いバンドなので、今回も中越沖地震を意識したようなMCが出るかと思ったが、それほど強いメッセージは出していなかったと思う。少しだけ言ったかも知れないが覚えていない。ライブ自体はどの曲も踊れる曲で、最後は阿波踊りの文句「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損」で終わった。「エエジャナイカ」はモップスの「御意見無用」かと思った。元のリズムが同じ阿波踊りだ。

ホワイトステージに移動、ボアダムスを見る。DJ1人とドラム3人。延々と演奏が続き、その間3人のドラムが休みなく鳴り続ける。即興演奏ではなく、3人ともあらかじめ編曲されたことがわかる演奏。大画面を見る限りでは、唯一の女性ドラマーのヨシミもまったく汗をかいていない。ヨシミはキーボードやコーラスも使うが、他の男性2人のドラマーはずっとドラムだ。一方はロックドラム、他方はジャズドラムだった。少なくともスティックの持ち方はそうだった(ヨシミはロックドラム)。DJのアイはハイテンションに叫びながら、ギターのネックを何本も取り付けた楽器を壁にかかげ、たたきまくる。アイはDJなのでテーブルで機械操作もするが、ギター十数本連結をたたいているときはパーカッション奏者として見ることができるから、4人ともが打楽器奏者だ。ただ、楽器の音そのものがすでに音の壁と化している状態で、アイの衝動的な叫声は暑苦しい。

グリーンステージに戻ってケミカル・ブラザーズを見る。最新アルバムからの選曲が中心で、「ヘイ・ボーイ、ヘイ・ガール」は本編の前半で出てきた。全体的には落ち着いた曲が多く、陽気な雰囲気で踊り通せるというライブではない。ダンスミュージックには多少なりともラテン的要素が必要だと思った。

ケミカル・ブラザーズが終わったあと、ホワイトステージジュノ・リアクターを見る。通常のバンドにテクノ、トランスのエレクトロニクスを加え、複数のパーカッション奏者が民族音楽風リズムを乗せる。ステージ上の半分以上は何らかの打楽器をたたいている。ドラムはいるが、サウンドはドラムとDJのダブルで基礎を作っている。パーカッション奏者のファッションがいずれもアフリカや南米、オセアニアの土着民族を思わせるデザインで、多分に多民族共生のイメージがある。欧米の白人によるテクノ、トランス、アフリカ系によるパーカッションはいずれも踊ることに主眼を置いたジャンルだが、ライブ中はずっと踊らせているわけではない。女声ボーカルだけが周りとは異なるファッションで目立っている。リーダー(と思われる人)のMCは、自然をたたえる内容や儀式の崇高さを述べ、未開社会の生活に根ざした音楽であることを訴える。土着宗教に由来する神聖な音楽、神に献呈するための舞踊(ダンス)だということを積極的に意識して見る(聞く、踊る)ライブは新鮮だ。

このバンドの個性を形作っているテクノ、トランス、民族音楽風パーカッション、ショウビジネス風女性ボーカルそれぞれが、単独でもひとつのステージを構成できる要素だ。それを3つ合わせてひとつのエンターテイメント集団にしたアイデアが賞賛ものだ。組み合わせる素材が異なるだけで、渋さ知らズオーケストラもこれと同じアイデアと思う。

ジュノ・リアクターを最後まで見たあと、グリーンステージに戻ってロストプロフェッツを見る。予定ではすでに始まっている時間だったが、ずれ込んでいたのでフルで見ることができた。帰宅のため観客席側の後方は人が減っている。昨年もライブを見たが今回もフルで見た。ロストプロフェッツは3枚アルバムを出しているが、最新作は2枚目までと違い、メロディーが格段に覚えやすい。アルバム全体の質も高い。最新作を中心にして、過去2作のヒット曲を挟んだ選曲なので、どの曲も盛り上がる。ボーカルが誕生日だったらしく、途中で誕生ケーキが差し入れられていた。ボーカルはケーキに顔を突っ込み、パイ投げ被弾状態になっていた。さらにそのケーキを観客の方に投げていた。ペットボトルを投げるのは何回も見たことがあるが、ケーキやその他食品を投げるのは初めてだ。午前1時ごろまではやったか。

最後まで見て「パワー・トゥ・ザ・ピープル」(邦題「人々に勇気を」)を聞き、3時ごろまでオアシスエリアをうろうろする。パープルヘイズと言った方が分かりやすいか、岩盤スクエアでは3日目の深夜でも(女性を中心に)踊りまくる人がいる。パレスオブワンダーのルーキーアゴーゴーで最後の出演バンドが演奏していたが、50人くらいは見ていた。パレスオブワンダーだけでも200人くらいはいた。午前4時半ごろ就寝。

30日(月曜日・撤収)

午前10時ごろ起床、かなり強い雨が降っている。雨の中でテントの撤収作業をするのはきつい。11時半ごろキャンプサイトから撤収。そのまま場外ショップエリアで荷物のほとんどを宅急便で送る。本来は正午までにテントを撤収しなければならないが、毎年のことながら、正午過ぎでも若干のテントが残っていた。無料シャトルバスは午後0時半で終了なので、それ以降は路線バスを使うことになる。今年は行きも帰りも路線バスだった。フジロックフェスティバルに最も近いバス停より2つ手前の停留所から乗ったにもかかわらず、ホテル宿泊者で座席が埋まっており、40分立ったまま越後湯沢駅に到着。新幹線で新神戸に着いたのは午後8時半ごろだった。

今年のフジロックフェスティバルの総括コメント

今年は遊覧ヘリコプターがなくなったかわりに、パーカッションでジャムを行うストーンドサークルができた。素人でも参加できる楽器演奏なので企画自体はよいと思うが、場所に難があった。しかし、他にどこでできるのかと言われればすぐには思いつかない。企画の内容からしてフィールドオブヘブンの近所がいいのだろうが、アバロンフィールドがセットチェンジしている間に、アバロンフィールドの上(後方)でやるぐらいしかアイデアはない。

天気はよかった。03年や05年に比べれば極めて快適だった。

公式グッズ、アーティストグッズの行列は相変わらず長蛇の列だった。そもそも、1カ所で販売しなければいけないことはないのではないか。オレンジコートの奥やストーンドサークルの場所に販売所を設ければ、どうしても欲しい人はそこへ行くだろう。

出演アーティストについては特に不満はない。

苗場音頭、抽選会、花火、早食い競争というパターンはマンネリ化していると思うが、チケットなしでも参加できるおまけみたいなものなので、しょうがないかとも思う。大道芸人も毎年同じ顔ぶれのような気がする。かつてはラジオのコンテストで優勝したアマチュアミュージシャンが、優勝のご褒美としてフジロック会場内でゲリラ的に即興ライブをやるというのがあり、オアシスエリアの大道芸スペースでもやっていた。CD-Rもただで配布していた。主催者の許可を得ていたのかどうかは知らないが、個人的には大道芸を見るなら音楽の生演奏を見る。これもかつてあったが、ポカスカジャンのような音楽系ギャグのライブでもいいと思う。

パレスオブワンダーのオブジェはそろそろ総入れ替えしてほしい。が、無料エリアなのでそれほど強くは要望しない。ただ、一日3、4万人のうちの何割かが目にすることを魅力に感じる造形アーティストはいるのではないか。公募すれば何らかの反応があると思う。制作期間が必要なので早い時期の公募になるだろうが。

グリーンステージのPAブースの後ろは、当然ながらステージが見えず、大画面の映像を見上げるしかない。少し移動すれば生の動く姿が見られるのにわざわざ映像を見るような人はいない。したがって、そこは常に人がまばらである。この空間をこのままにしておくのは場所の使い方としてもったいない。ここに(今年の場合で言えば)ハイネケンとポカリスエットのブースを持ってきてはどうか。商品の性格上、電気(電源)と簡易水道くらいは必要と思われるが、PAブースが直近にあるなら可能なのではないか。客席側から見て右にある2つ(あるいは1つ)のブースをここに移動して、空いたスペースを仮設トイレにすれば立ち小便による悪臭が解消される。PAブースの裏に物販スペースを設ける方式は、2006年9月のつま恋コンサート(1ステージで35000人動員)で実際に設営されている。保冷車2台が常駐し、飲食物も販売されていた。

仮設トイレのグレードアップ、ステージ間移動の混雑解消、ルート新設、足もとのぬかるみ解消など、目に見える大きな改善ができるなら、その資金調達のためのスポンサー広告が増えてもかまわない。各ステージに冠スポンサーがあってもかまわないし、昨年のグリーンステージ下にあった「グローバル・クール」程度の大広告があってもかまわない。フジロックフェスティバルに限らず、こうしたイベントを継続していくには、スポンサーがどれだけつくかが重要ということを多くの人が理解していると思う。