2014年。14曲収録。民族音楽に近い曲から一般的なポップスに近い曲まで幅がある。スイスのバスティアン・ベイカーは通常のポップなロック。ドイツのフィドラーズ・グリーンはコルピクラーニに近い。スウェーデンのサー・レッグは疾走する民謡ロック。スロベニアのハッピー・オール・マクウィーゼルはアイリッシュパンクに近い。採り上げているアーティストはヨーロッパがほとんど。タワーレコードがいう「フォークロック」とは、ドラムによるリズムがあり、アコーディオンやバイオリンで東欧系のメロディーを演奏するというイメージがあるようだ。つまり、ブラームスやリストが関心を持ったハンガリー民謡や、ヤッシャ・ハイフェッツやイツァーク・パールマンがさかんに演奏したジプシー音楽と同じ系統の音楽だ。逆に言えば、東欧の民族音楽は200年以上にわたり、クラシックやロックというジャンルを超えて聞き手を強く引きつける力があるということを示している。
2015年。15曲収録。ハッピー・オール・マクウィーゼル、スキニー・リスター、レーヴェンなどは前作に続き収録されている。メキシコ、アルゼンチンのバンドが4つに増えた。曲の幅が広がっている。カデボスタニーはニューウェーブ調、メキシコのソニド・サンフランシスコはシンセサイザーが中心。アリー・バンドはリミックスバージョンを収録している。
2016年。18曲収録。レーヴェン、スキニー・リスター、オンダ・ヴァガ、バスティアン・ベイカーは3枚連続で収録されている。ソロアーティストの3人は民謡の雰囲気が少なく、一般的なシンガー・ソングライターとそれほど変わらない。バンドでの収録曲の多くはアイリッシュパンク系とジプシー音楽系に大別できる。かつてアイリッシュパンクはアイルランド、またはイギリスのバンドが中心だったが、現在は国に関係なく登場し、北欧や日本からも出てきている。ジプシー音楽系もヨーロッパ中心ながら国に関係なく出てきている。90年代以降、多文化主義の伸長によってアメリカとイギリスのロックが絶対的規範ではなくなり、アメリカやイギリスのロックではないからこそ注目されるという現象が起きている。この文脈でのアメリカやイギリスのロックとは、国籍ではなくサウンドの実態なので、アメリカやイギリスのアーティストであっても民族音楽系のサウンドならばこのシリーズに収録されることになる。2000年代の民族音楽系ロックを総称する用語を、誰かが設定すべきだろう。