1969年。キーボードを含む5人編成。イギリス出身。ボーカルはジョン・アンダーソン、ギターはピーター・バンクス、ベースはクリス・スクワイア、ドラムはビル・ブラッフォード、キーボードはトニー・ケイ。全盛期のコーラス・ハーモニーはすでに1曲目の冒頭から出てくるし、クリス・スクワイアのベースもデビュー当初から変わってない。長い曲はなく、バーズやビートルズのカバーも含まれることからプログレッシブ・ロックというより普通のロックと言った方がよい。
1970年。邦題「時間と言葉」。攻撃的な展開の曲が多く、あふれ出るアイデアをそのまま曲にしましたというような勢いを感じさせる。リッチー・ヴァレンスとバッファロー・スプリングフィールドのカバー収録。オーケストラを大々的に導入。激しさは「こわれもの」や「危機」を上回る。全英45位。
1971年。ギターがスティーヴ・ハウになった。ピーター・バンクスは脱退後フラッシュ結成。曲が長くなり、2部構成、3部構成の曲も出てきた。ホーンやストリングスを使わなくても展開や劇性を持たせることに成功。全米40位、全英7位。
1971年。邦題「こわれもの」。トニー・ケイが脱退しバジャーを結成、リック・ウェイクマンが加入。めまぐるしくメロディーやリズムが変わる曲と、普通の曲が混在。バンド全体で作った曲は前者が多いが、メンバー個人が作った曲は後者が多い。前者の「ラウンドアバウト」「燃える朝やけ」、後者の「ザ・フィッシュ」「ムード・フォー・ア・デイ」「遙かなる想い出」収録。全米4位、200万枚、全英7位。
1972年。「危機」。大作が3曲。いずれも緊張感をともなった鋭い展開の曲。傑作。クラシック趣味のリック・ウェイクマンが活躍。「危機」「同志」は4部構成。全米3位、全英4位。
1973年。傑作ライブ。トニー・ケイ時代の曲をリック・ウェイクマンが弾いて豪勢になっている。13曲のうちビル・ブラッフォードがドラムを叩いているのは2曲だけ。残りはアラン・ホワイト。全米12位、全英7位。
1973年。邦題「海洋地形学の物語」。約20分の曲が4曲だが、イエスの解説によると、4曲はそれぞれ第一楽章から第四楽章を形成していて、解釈としては80分以上に及ぶ単一曲ということになる。以前入っていたスティーヴ・ハウのアコースティック・ギターのソロは3曲目の中に含まれている。しかし、フレーズが以前の曲と似ている。長い曲は、長さを感じさせないような工夫が必要だ。4曲目は良い。アメリカ、イギリスを通じ、アルバムがチャートで1位になったのはこのアルバムと「究極」だけである。全米6位、全英1位。
1974年。キーボードがリック・ウェイクマンからパトリック・モラーツに交代。「危機」と同じ構成で3曲。各楽器のスリリングな応酬は「危機」並み。特にパトリック・モラーツのプレイは近寄りがたい雰囲気がある。「錯乱の扉」「サウンドチェイサー」は傑作。全米5位、全英4位。
1975年。初期2作のベスト盤。アルバム未収録2曲。「アメリカ」収録。全米17位、全英27位。
1977年。「究極」。キーボードにリック・ウェイクマンが復帰。教会オルガンを使用した「パラレルは宝」は終始重厚な音ながらロックのビート感を失わない。「不思議なお話を」収録。パンク・ロック全盛の時期にイギリスで1位となっているのは、リック・ウェイクマンの加入が好感したからか。全米8位、全英1位。
1978年。曲がコンパクトになったが、アレンジもコンパクトになった。アメリカ寄りになったとも解釈できる。日本人には評判のよくない「クジラに愛を」収録。全米10位、全英8位。
1980年。ボーカルのジョン・アンダーソンとキーボードのリック・ウェイクマンが抜け、バグルスのトレヴァー・ホーンとジェフ・ダウンズが加入。似せているわけではないだろうがトレヴァー・ホーンはジョン・アンダーソンの声に似ている。サウンドがややあか抜けてモダンになったのは、ジェフ・ダウンズが前任者のようにムーグやメロトロンを愛用しなかったからだと思われる。バグルスで一度成功しているという自信があったことも影響しているだろう。このあとスティーヴ・ハウとジェフ・ダウンズはエイジアを結成、成功する。全米18位、全英2位。
1980年。76年から78年にかけてのライブ。「錯乱の扉」と「儀式」の長尺2曲はキーボードがパトリック・モラーツ、それ以外は「究極」のメンバー。イエスソングスと曲のダブりがない。曲順がよい。パトリック・モラーツのライブ音源が聞けるのがポイントか。全米43位、全英22位。
1982年。ライブとスタジオの混在盤。全米142位。
1983年。ギターがトレヴァー・ラビンに交代、キーボードは12年ぶりにトニー・ケイが復帰。トレヴァー・ホーンによる機械的な音処理とポップな曲で「ロンリー・ハート」が全米1位となった。「リーヴ・イット」はジェントル・ジャイアントのようなコーラス。全米5位、300万枚、全英16位。
1985年。90125のメンバーによるライブ。「ホールド・オン」と「チェンジズ」は「90125」収録曲のライブで、これ以外の5曲はメンバーのソロという但し書きがついている。全米81位、全英44位。
1987年。トレヴァー・ホーンは完全に裏方に回った。トレヴァー・ラビンの影響力が強く出ている。キーボードはオルガンの音が多く使われて初期イエスのサウンドに戻ったが、ボーカルハーモニーやギター、曲の展開はトレヴァー・ラビンが主導権を握った。全米15位、全英17位。
1989年。久しぶりに邦題「閃光」がついた。ジョン・アンダーソン、ビル・ブラッフォード、リック・ウェイクマン、スティーヴ・ハウによるアルバム。70年代黄金期のメンバーにクリス・スクワイアがいないだけだ。曲は大作が多く、9曲のうち4曲は3、4部構成。ジャケットはロジャー・ディーン。嫌がらせのごとくトレヴァー・ラビン、クリス・スクワイアと反対の路線を行っている。ジョン・アンダーソンが歌い上げる小品もある。「クァルテット」はリック・ウェイクマンのクラシック趣味が出ている。作曲でジェフ・ダウンズ、マックス・ベーコン、ヴァンゲリス参加。ヒット作。全米30位、全英14位。
1991年。邦題「結晶」。別々のイエスを寄せ集めましたというアルバム。メンバーは8人。ジョン・アンダーソン、ビル・ブラッフォード、リック・ウェイクマン、スティーヴ・ハウに加え、トレヴァー・ラビン、クリス・スクワイア、アラン・ホワイト、トニー・ケイが参加している。ギター、ドラム、キーボードが2人ずついる状態。トレヴァー・ラビンのいるイエスはポップでコーラスが分厚いのですぐ分かる。全米15位、全英7位。
1993年。アンダーソン、ブラッフォード、ウェイクマン、ハウによるライブ。イエスのライブ「イエスソングス」はストラビンスキーの「火の鳥」で始まるが、このライブ盤はブリテンの「青少年のための管弦楽入門」で始まる。スティーヴ・ハウによる「ザ・クラップ」と「ムード・フォー・ア・デイ」収録。「閃光」の曲のほか「危機」「同志」「燃える朝焼け」「遙かなる想い出」「ラウンドアバウト」をやっている。リック・ウェイクマンは「キャサリン・パー」「魔術師マーリン」を、ジョン・アンダーソンは「ロンリー・ハート」をそれぞれソロでやっている。有名曲は観客の歓声が大きい。
1993年。ジョン・アンダーソン、スティーヴ・ハウ、ビル・ブラッフォードがロンドン・フィルと共演した企画盤。コーラスはクラシックではなくゴスペルの合唱団を起用している。全米164位。
1994年。結局あの8人からリック・ウェイクマン、スティーヴ・ハウ、ビル・ブラッフォードが抜けて元の90125のイエスに戻った。トレヴァー・ラビンがトレヴァー・ホーンに頼らずに作ったアルバムはこれが最初。初めて15分超の大作も書いている。小品は「結晶」の路線。全米33位、全英20位。
1996年。ライブ盤。トレヴァー・ラビン、トニー・ケイが脱退し、スティーブ・ハウ、リック・ウェイクマンが加入。「イエス・ミュージックの夜」とはリズム隊が違うということになる。太いベース音、アナログなドラムの音で生っぽいライブが聞ける。新曲2曲収録。全米99位、全英48位。
1997年。リック・ウェイクマンが抜け、キーボード兼ギターにビリー・シャーウッドが加入。トレヴァー・ラビンがいるかのようなサウンド。演奏によって緊張や幻想を呼び起こすよりは、ビートに合わせてボーカルハーモニーやギター、キーボードを絡ませる一般的なロックだ。ジョン・アンダーソンの多声ボーカルも含め、コーラスが多い。「フロム・ザ・バルコニー」はスティーヴ・ハウのアコースティック・ギターとジョン・アンダーソンのボーカルだけだが、この曲も含めて全曲がメンバー全員の作曲ということになっている。全米151位。
1997年。「キーズ・トゥ・アセンション」の続編。新曲2曲収録。全英62位。
1999年。キーボードにイゴール・コロシェフが加入し6人編成。ビリー・シャーウッドはギターに転向している。ファンの間では久々の名作とされている。10分を超えるような曲はないが9分台は2曲ある。1曲目は曲の構造から3つに分割できるが、これまでのようにサブタイトルをつけるようなことはしていない。目の覚めるような劇的な起伏は「危機」に比べれば少ない。全米99位、全英36位。
2000年。「ラダー」のメンバーでのライブ盤。
2001年。キーボードがいなくなり、オーケストラを代役に立てた異色アルバム。キーボードがいなくてもベースの音やギターのフレーズが30年前と変わっておらず、ボーカルがジョン・アンダーソンでなくてもイエスだと分かる。ワン・フレーズでバンドの個性を表現しうるメンバーが集まっているからこそ名バンドといえる。オーケストラはキーボードの代役以上の役割は果たさず。
2007年。モントルー・ジャズ・フェスティバルでのライブ。キーボードはリック・ウェイクマン、ドラムはアラン・ホワイト。1970年代前半の曲を中心に演奏している。他のアーティスト同様、70年代よりも音が軽くなっている。オープニング曲は「イエスソングス」と同じ「シベリアン・カートゥル」だが、ストラヴィンスキーの「火の鳥」からではなく、そのまま曲に入っている。リック・ウェイクマンのキーボードソロは「ヘンリー8世の6人の妻」から抜粋。「燃える朝焼け」ではスティーヴ・ハウがギターを手抜きしているのが分かる。
2010年。邦題「ユニオン・ツアー1991」。ギター2人、ドラム2人、キーボード2人の8人編成によるライブ。2000年にDVDで発売された「ショウズ'91」をCD化した。曲のタイトルも邦題に修正され、ジャケットも明るく変更されている。「結晶」収録曲は「セイヴィング・マイ・ハート」だけで、「ショック・トゥ・ザ・システム」と「リフト・ミー・アップ」が削除されているのは理解しがたい。13曲のうちソロが4曲もあり、クリス・スクワイアのソロはなくてもよかったか。キーボードの音が現代化されており、厚みのあるドラマチックな音にはならないが、8人編成の「燃える朝焼け」や「ラウンドアバウト」「ユアズ・イズ・ノー・ディスグレイス」が聞けるのは貴重だ。スティーヴ・ハウ、アラン・ホワイトは昔気質、トレヴァー・ラビン、ビル・ブラッフォードは新しいサウンドを取り入れた音。
2011年。ジョン・アンダーソンが抜けベノワ・デイヴィッドが加入。キーボードにエイジアのジェフ・ダウンズが加入し5人編成。ベノワ・デイヴィッドはジョン・アンダーソンよりも声が柔らかく、中域を中心に使う。表現力や声の強弱はつきにくく、若さが出ているとも言える。前半の6曲は24分近くの組曲。アナログ・レコードならA面で1曲という感覚だ。スティーヴ・ハウのギターがかつての「こわれもの」や「危機」を思い出させる。7曲目からの5曲はアコースティック・ギターを使う曲が多い。最後の「イントゥ・ザ・ストーム」はベノワ・デイヴィッドとアラン・ホワイトが作曲に関わった唯一の曲。他の曲はプロデューサーのトレヴァー・ホーンを含む4人のいずれかが関わっている。「アワー・オブ・ニード」のフルレンス・バージョンはロドリーゴのアランフェス協奏曲の有名メロディーを使用している。
2011年。ベノワ・デイヴィッドのボーカルによるライブ盤。2枚組。「フライ・フロム・ヒア」を発表する前のライブなので「フライ・フロム・ヒア」収録曲はなく、「ドラマ」から2曲、「トーマト」から1曲、「時間と言葉」から1曲を選んでいる。残りの曲はライブ盤に毎回収録されている定番の曲だが、「こわれもの」収録の「南の空」は珍しい。ベノワ・デイヴィッドのボーカルはあまり安定せず、時折よろめきがある。オープニング曲の「シベリアン・カートゥル」はこれまでのライブ盤で最も遅いテンポではないか。この曲に限らず、全体にテンポが遅い。「スターシップ・トゥルーパー」はボーカルハーモニーに新しいアレンジがある。
2014年。ボーカルが交代。ジョン・アンダーソンに近い声のボーカルを選んだ。テンポが緩く、リズムも単純な部分が多いため、緊張感のなさによる物足りなさが残る。ボーカルの声に、以前と同じだという安心感を求めることはあっても、曲の展開や演奏にそれを求めることはない。サウンドがとても保守的になってしまった。
1995年。マグナ・カルタ・レーベルを中心とするアーティストによるトリビュート盤。スティーブ・ハウやピーター・バンクス、パトリック・モラーツも参加している。アニー・ハズラムの熱唱が美しい。