WILCO

  • アメリカのオルタナティブロックバンド。オルタナティブ・カントリーの代表的バンド、アンクル・テュペロから発展した。
  • ボーカル兼ギター、ギター、ベース、ドラム、バンジョー兼マンドリン兼ペダルスチール等の5人編成で始まり、現在はボーカル兼ギター、ギター、ギター兼キーボード、キーボード、ベース、ドラムの6人編成。中心人物はボーカル兼ギターのジェフ・トゥイーディ。
  • 「ヤンキー・ホテル・フォックストロット」に前衛音楽家のジム・オルークが参加し、幅広い支持を獲得した。
  • 「スカイ・ブルー・スカイ」以降はアルバムごとにサウンドが変わる。

1
A.M.

1995年。90年代前半、ロック、ポップスのほとんどが共時的に変化したときに、カントリーロックとしてその変化に追随したアンクル・テュペロを母体とするバンド。カントリーのバンドがロック化したのではなく、ロックバンドがカントリー化している。バンジョー、マンドリン、ペダルスチールを使い、アコースティックギターは目立たない。オルタナティブ・カントリーを意識せずに聞けば、アメリカの伝承音楽をロックに取り入れた、地域性の大きいロックと言える。

DOWN BY THE OLD MAINSTREAM/GOLDEN SMOG

1996年。邦題「オールド・メイン・ストリーム」。ゴールデン・スモッグはウィルコ、ジェイホークス、リプレイスメンツ、ソウル・アサイラム等のメンバーが多数参加する覆面バンド。CDの表記上は変名の6人によるバンドとなっている。オルタナティブ・カントリーの中心的バンドであるジェイホークスから3人程度が参加し、ソウル・アサイラムのボーカルも参加している。ウィルコのジェフ・トゥイーディが作曲で3曲に参加しているので、録音でも参加しているだろう。カントリーとは異なるオルタナティブ・カントリー、フォークロックで、アコースティックギター、スライドギター、ピアノが出てくれば何となくオルタナティブ・カントリーと認識してしまう。日本盤ボーナストラックの「プリズン・ワイフ」はギターソロもあるオルタナティブ・ロック。

2
BEING THERE

1997年。2枚組。メンバー全員が複数の楽器を演奏するザ・バンドのような形態。オープニング曲の「ミスアンダーストゥッド」はオルタナティブロック風。「マンデイ」ではホーンセクションも使う。メンバーが扱える楽器の数が増えたことによりサウンドが厚くなり、特にオルガンの多用は各楽器の音のすき間を埋める役割を果たしている。「アイ・ガット・ユー」はコーラスが厚い。「ホテル・アリゾナ」はイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」とは関係なさそうだ。2枚目はテンポが遅くなり、カントリーロックに近くなる。

WEIRD TALES/GOLDEN SMOG

1998年。メンバーが変名ではなく本名で記載されており、ウィルコのジェフ・トゥイーディのほか、ソウル・アサイラムのギター、ジェイ・ホークスのボーカル兼ギター、ベース、ラン・ウェスティ・ランのギター、ビッグ・スターのドラムの6人となっている。12弦ギター、アコースティックギターが増え、サウンドがカントリー方向に傾いている。ジェイホークスのボーカル兼ギター、ゲイリー・ローリスの曲が突出してよく、「ホワイト・シェル・ロード」「ジェニファー・セイヴ・ミー」はオルタナティブ・カントリーらしさが出たいい曲だ。オープニング曲の「トゥ・コール・マイ・オウン」はバーズの「ミスター・タンブリン・マン」に似た曲で、一種の敬意だろう。「キーズ」は70年代のファンクロック風。

3
SUMMERTEETH

1999年。バンジョー兼マンドリン兼ペダルスチールが抜け、ボーカル兼ギター、ベース、ドラム、キーボードの4人編成。「ショット・イン・ジ・アーム」はサイケデリックなシンセサイザーが新しい可能性を切り開く。「アイム・オールウェイズ・イン・ラヴ」もキーボードが肝になっており、キーボード奏者がバンドの中核になっている。アルバムタイトル曲の鳥の鳴き声もキーボードで再現したのか。「ナッシングス・エヴァー・ゴーイング・トゥ・スタンド・イン・マイ・ウェイ(アゲイン)」「ELT(エヴリ・リトル・シング)」はポップ。アルバムの後半はビートルズの後期のような曲が多くなる。

4
YANKEE HOTEL FOXTROT

2002年。ドラムが交代。不協和音と前衛性を取り入れ、アコースティックギターやピアノとの対比によってアメリカの前衛ロックを創出している。オルタナティブ・カントリーロックから出発し、アコースティックギター、エレキギターをバンドの中心楽器にしながら、予測可能性を持たせないサウンドを提示している。イギリスのレディオヘッドが「キッドA」でエレクトロニクス中心の前衛ロックを提示し、ビョークが同様に前衛ポップスを提示し、アメリカからようやくアメリカらしさを保持した前衛ロックが登場した。その立役者はボーカル兼ギターのジェフ・トゥイーディとミキシングのジム・オルークだろう。このアルバムはレディオヘッドやビョークの追随ではなく、革新性を取り入れにくいアメリカのロックに新しい可能性を提示しているところが重要。アメリカのロックらしさを残しているからこそ評価される。「アイ・アム・トライング・トゥ・ブレイク・ユア・ハート」「ウォー・オン・ウォー」「プア・プレイシズ」「リザベーションズ」は曲の終わりが近づくに従って前衛性が大きくなる。これらの曲に差し挟まるように「カメラ」「ジーザス・エトセトラ」「ヘヴィ・メタル・ドラマー」「ポット・ケトル・ブラック」のようなポップな曲が入り、緊張感を緩和する。「アイム・ザ・マン・フー・ラヴズ・ユー」はエレキギターが目立つ。「アメリカ国旗の灰」収録。

LOOSE FUR/LOOSE FUR

2002年。ウィルコのジェフ・トゥイーディ、ドラムのグレン・コッチェ、前衛音楽家のジム・オルークによる3人編成。アコースティックギターとパーカッションにジム・オルークがエレキギターやピアノなどを加えて曲を完成させているようなサウンド。ジェフ・トゥイーディは曲の流れを維持するための演奏をしている。前衛性が顕著なのは「ソー・ロング」で、ドラムのグレン・コッチェもパーカッションで不定型の演奏をしている。6曲のうちインストは1曲。

5
GHOST IS BORN

2004年。ギターが交代し、キーボードが加入。5人編成。バンドとジム・オルークが共同で制作。前作ほどの前衛性はないが、10分を超える曲が2曲ある。10分超の「スパイダース(キッズモーク)」は不定型ではないアンサンブルなので、曲として完成させるうちに10分を超えたというような雰囲気だ。それに比べれば15分超の「レス・ザン・ユー・シンク」は途中から電気的音響が続き、前衛といえば前衛だ。しかし、通常の曲に10分以上の音響をつなげたような構成を、前衛と認めるかどうかは聞き手によって異なるだろう。オープニング曲とその次の曲はシンガー・ソングライターのような抑制されたボーカルだが、エレキギターは鋭く切り込む。

KICKING TELEVISION LIVE IN CHICAGO

2005年。ライブ盤。2枚組。ギターが加入し6人編成。4日間のライブから選曲。23曲のうち「ビーイング・ゼア」から1曲、「サマーティース」から2曲、「ヤンキー・ホテル・フォックストロット」「ゴースト・イズ・ボーン」から18曲選曲し、「A.M.」からは選曲されていない。キーボード2人のうち1人はギターを兼任し、ギター3人とキーボード、ベース、ドラムで演奏される曲が多い。もはやオルタナティブ・カントリーロックの面影はなく、「ヤンキー・ホテル・フォックストロット」以降がウィルコのサウンドだと主張するかのような演奏だ「ヴィア・シカゴ」は「サマーティース」収録曲だが、途中で不協和音が入る「ヤンキ・ホテル・フォックストロット」仕様。「エアライン・トゥ・ヘヴン」はウディ・ガスリーの詞にウィルコがメロディーを付けた曲。カントリーロックの面影がある演奏。。2枚組で2時間近くあるので、概ねライブ1本分が収録されていることになり、「スパイダーズ(キッドスモーク)」がハイライトということになる。「ミスアンダーストゥッド」「ハンドシェイク・ドラッグス」「「ジーザス・エトセトラ」「ヴィア・シカゴ」「アメリカ国旗の灰」など、、数曲ごとに聞きどころが出てくる。

6
SKY BLUE SKY

2007年。電気的音響はほとんどなくなり、ギター、ピアノ、オルガンがメロディーを構成する。60年代後半から70年代のアメリカのロック、フォーク、シンガー・ソングライターを思わせるサウンド。ビートルズやビーチ・ボーイズではなく、ボブ・ディランやザ・バンド、フェイセズ等に近い。カントリー、フォーク、ブルース、ブルーアイドソウルなど、アメリカの土着音楽をロックの体で演奏し、オルタナティブ・カントリーロック由来のバンドであることを確認させる。「インポッシブル・ジャーマニー」でのギターソロは目立つ。

7
WILCO(THE ALBUM)

2009年。前作に続き、サウンド自体は70年代アメリカのシンガー・ソングライター風。ギターやオルガンやピアノに聞こえる音の中には、新しい技術によって出している音もあるだろう。和音や旋法といった、音楽を構成する様々な規範を、多少逸脱させている部分もあるだろう。ロックやポップスが築いてきた音楽上の規範を、大枠では従いながら、その範囲内で独自性を発揮する。ジャンルを飛び越えるような挑戦はせず、既存のロックやポップスに恭順しており、「ヤンキー・ホテル・フォックストロット」との評価の差もここにある。「ユー・ネバー・ノウ」は多くの人がジョージ・ハリソンの「マイ・スイート・ロード」を思い出すだろう。「ディーパー・ダウン」以外は全てジェフ・トゥイーディの作曲。

8
THE WHOLE LOVE

2011年。「スカイ・ブルー・スカイ」「ウィルコ(ジ・アルバム)」から大きくポップに傾き、「サマーティース」以来のポップさ。80年代のような世俗性の強いポップさはではなく、抑制の効いた賢明なポップさだ。オープニング曲はメロトロン、エレクトロニクス、プログラミングを使った、70年前後と現代の折衷のような曲。「アイ・マイト」は60年代後半のサイケデリックなポップスを思わせる。「ドーンド・オン・ミー」は楽器の数が多いポップな曲。「ブラック・ムーン」。「キャピトル・シティ」「ライジング・レッド・ラング」「ワン・サンデー・モーニング」はカントリー風味がある。

WHAT'S YOUR 20? ESSENTIAL TRACKS 1994-2014

2014年。ベスト盤。2枚組。日本盤は2015年発売。ビリー・ブラッグと共演した曲も含まれている。ルース・ファーの曲は入っていない。

9
STAR WARS

2015年。前作の多彩な楽器群から、1人1、2楽器に絞られ、バンドサウンドに近くなっている。エレキギターは切り込みが鋭く、粗い。電子音やプログラミングは以前ほど分かりやすく使われていないが、残響なく音が収束したり、ギターの背景で聞こえたりする。キーボードも少なく、ギター中心のロックとなっている。オープニング曲はインスト曲は切り裂くようなギターが1分ほど続く。「ザ・ジョーク・エクスプレインド」はボブ・ディラン、あるいはルー・リードのような歌い方。「ユー・サテライト」は5分程度でフェードアウトするが、ライブでは長く演奏されそうな、徐々に盛り上げていく曲。この曲以外は全て3分台かそれ以下で終わり、アルバム全体では前作より17分短い33分。

10
SCHMILCO

2016年。「スター・ウォーズ」がエレキギター主体のロックになっていたのに対し、「シュミルコ」はアコースティックギター中心に選曲したようなサウンドだ。これらの中には、エレキギターで演奏すれば別の曲のようになる曲もあるのだろう。ジェフ・トゥイーディのボーカルは弾き語りに近く、抑制されている。「スター・ウォーズ」と「シュミルコ」は対称の作品だ。「イフ・アイ・エヴァー・ワズ・ア・チャイルド」はカントリーロックらしい曲。「コモン・センス」は実験的。「サムワン・トゥ・ルーズ」はエレキギターが目立つ。「ロケーター」は途中で終わってしまうような曲になっており、これもライブでは長くなるのだろうと思わせる。アルバム後半の曲は3分を超えることがない。