1965年。ザ・フーがデビューするころにはビートルズもローリング・ストーンズも人気バンドとなっていて、彼らと若者の精神的連帯感は薄れつつあった。「マイ・ジェネレーション」や「キッズ・アー・オールライト」といった曲は、アウトローになりきれない若者の共感を得た。ビートルズとローリング・ストーンズはどちらもロックであるが、どちらかと言えば親しみやすいビートルズと、どちらかと言えば不良のイメージがあるローリング・ストーンズの間を、ザ・フーが埋めた。スーツ姿でありながら(一見普通でありながら)、日常の行動はローリング・ストーンズ・ファンと変わらないというのがモッズの端的な特徴であり、イギリスのロックの一スタイルとして定着していく。「アイム・ア・マン」はボ・ディドリー、「アイ・ドント・マインド」「プリーズ・プリーズ・プリーズ」はジェイムズ・ブラウンのカバー。ボーナストラックに「アイ・キャント・エクスプレイン」収録。
1966年。前作はデビュー盤らしい荒々しさがあった。このアルバムはまとまりがあり、アレンジもよい。「クイック・ワン」は9分を超え、ザ・フーによる最初のロック・オペラだという。マーサ&ヴァンデラスの「恋はヒートウェーブ」をカバー。ボーナストラックでジャン&ディーンの「バケット・T」、リージェンツ(ビーチ・ボーイズ)の「バーバラ・アン」をカバー。「マイ・ジェネレーション/希望と栄光の国」はエルガーの「威風堂々」を使用。「ハッピー・ジャック」収録。
1967年。オープニングの「アルメニアの空」以外はすべてメンバーの作曲。ほとんどの曲の間にラジオのジングルのような曲が入っており、アルバム全体が統一された体系の中にある。「恋のマジック・アイ」収録。「山の魔王の宮殿にて」収録。
1968年。未発表曲集。
1969年。一般的に世界で最初のロックオペラとされている。最初から最後まで物語が一つにまとまっている。しかし、まじめに聞こうとすると、ある程度想像力が必要なので軽い気持ちでは聞けない。「ピンボールの魔術師」収録。「序曲」と「シー・ミー・フィール・ミー」のメロディーは随所に出てくる。
1970年。ライブ盤。ロック全体の中でも評価が高い。
1971年。シンセサイザーを本格的に導入。スティービー・ワンダーとともに、ARP(アープ)シンセサイザーを使う代表的なアーティストとなった。「ソング・イズ・オーバー」のピアノはニッキー・ホプキンス。「ババ・オライリー」「無法の世界」収録。ボーナストラックの曲はマウンテンのレスリー・ウェストやアル・クーパーが参加。
1971年。未発表曲集。
1973年。邦題「四重人格」。プログレッシブ・ロック全盛期の中で発売された。再び物語の解釈を迫られる内容。ピート・タウンセンドが全曲作曲。
1974年。未発表曲集。アンダー・マイ・サム」はローリング・ストーンズのカバー。「マリー・アンヌ」は初期のザ・バーズのような曲。
1975年。「トミー」の映画版のサウンドトラック。
1975年。アコースティック・ギターやウクレレが使われ、シンガーソングライター・ブームやウエストコースト・ロックなどに影響されたのかとさえ思わせる。ピアノはニッキー・ホプキンス。全体的に減衰音の楽器が多いので音がシンプルに聞こえ、それにともなってハードさよりもメロディーが強調される。
1978年。前作とは異なり、キーボードを大幅に導入した。「ギター・アンド・ペン」はピート・タウンセンドとアージェントのロッド・アージェントが2人でキーボードを弾いている。
1978年。ドキュメンタリー映画のサウンドトラック。
1979年。映画のサウンドトラック。
1981年。ドラムのキース・ムーンが死亡し、元フェイセズのケニー・ジョーンズが加入。キーボードを適度に使い、ポップなロックになっている。「フーズ・ネクスト」に近いか。「ユー・ベター・ユー・ベット」はすばらしい。「デイリー・レコーズ」は久しぶりにビーチ・ボーイズ風のサウンド。
1982年。ザ・フーでなければできないサウンドが薄れつつある。キーボードは、わざわざその音を使っている、というのではなく、あくまでハーモニーの範囲内で使われ、ポリシーのようなものが感じられない。最後のスタジオ盤は前作でもよかった。「I've known no war」を、この曲だけ邦題をつけて「戦争は知らない」と訳したのはなかなかのセンス。
1983年。未発表曲集。
1983年。未発表曲集の続編。
1984年。解散コンサートのライブ。代表曲のメドレー。「フェイス・ダンシズ」と「イッツ・ハード」からの曲はない。
1984年。シングル集。
1985年。未発表曲集。
1987年。未発表曲集の続編。
1988年。ベスト盤。
1990年。ライブ盤。3枚組。89年の結成25周年ライブ。
1994年。ボックスセット。
1996年。邦題「ワイト島ライブ1970」。1970年のワイト島フェスティバルのライブ。
2000年。1965年から67年に録音されたセッション。
2002年。ベスト盤。
2003年。3枚組ライブ盤。2枚は2000年、1枚は2002年の公演。
2004年。ベスト盤。初来日公演に合わせて発売。
2006年。スタジオ盤としては24年ぶり。19曲のうち、後半の10曲が「ワイヤー&グラス~ミニ・オペラ」となっている。ボーカルのロジャー・ダルトリーは音程が安定しないが、バックの演奏はかつてのザ・フーの面影を残している。特にピート・タウンゼンドのギターは変わっていない。ドラムはビートルズのリンギ・スターの息子であるザック・スターキー。このアルバムでは1曲しか演奏していない。それ以外の曲はピート・タウンゼンドとゲスト・ミュージシャンが演奏している。事実上ピート・タウンゼンドのソロ・アルバムで、たまたまボーカルがザ・フーのロジャー・ダルトリーという雰囲気だ。ギターだけの弾き語りから、キーボードやストリングスまで入ったロックまで多彩。やや刺激に欠ける。「マイク・ポストのテーマ」のマイク・ポストはアメリカの映画・テレビドラマ音楽の作曲家の名前だが、それらしき音楽は挿入されているかどうか不明。