1994年。ギター兼ボーカルが2人の4人編成。アメリカ出身。ギターにあいまいなディストーションがかかっているが、シンプルなロック。この時期特有の陰鬱さやボーカル・メロディーの抑揚のなさは感じられない。バック・コーラスにアマチュアらしさを残し、80年代ロックとは対極にあるバンドの生々しさを作っていると思われる。パワー・ポップと呼ばれることもある。プロデューサーはカーズのリック・オケイセク。「バディー・ホリー」収録。
1996年。曲がハードになり、必要に応じてキーボードも使う。前作と同様、4曲目がポップ。メロディーも覚えやすくなり、快活さがある。「ザ・グッド・ライフ」「ピンク・トライアングル」収録。ジャケットは安藤広重の「東海道五十三次」の「蒲原」。アルバムタイトルのピンカートンはプッチーニのオペラ「蝶々夫人」に出てくるアメリカ人の名前。アメリカではデビュー盤を大きく下回る売り上げだったが日本でヒットした。
1996年。シングル盤。アルバム未収録曲2曲収録。
1996年。シングル盤。「アイ・ジャスト・スルー・アウト・ザ・ラヴ・オブ・マイ・ドリームス」はキーボード主導で女性ボーカルになっている。
2001年。ハードロックとなり、ギターが2人いることのメリットを生かした曲が増えている。コーラスも慣れている。ボーカルがこのサウンドよりソフトなハードロック・バンドはたくさんあるが、ハードロックのバンドというイメージが一度でもつくと、注目度が大きく下がるのはしょうがない。ハードロックとしてデビューしなかったことが幸いしている。曲が短く、10曲でも30分以下しかない。
2001年。シングル盤。日本のみの発売。「クリスマス・セレブレイション」はアルバム未収録曲。曲はクリスマスの雰囲気ではない。
2002年。前作よりもソフトな方に戻ったが、曲によっては「グリーン・アルバム」程度のハードさがある。曲数が多くなっても曲の長さは2分半くらいで、最長でも3分半に届かないシンプルさ。メロディーは一貫している。
2002年。シングル盤。「フォトグラフ」と「デス・アンド・ディストラクション」のライブ収録。
2002年。シングル盤。
2005年。「グリーン・アルバム」と「マラドロワ」の中間のようなサウンドで、「グリーン・アルバム」よりも音が整った感じだ。「ディス・イズ・サッチ・ア・ピティ」「マイ・ベスト・フレンド」ではキーボードが使われる。アレンジ能力が上がり、曲がやや長くなった。
2008年。邦題「ザ・レッド・アルバム」。「ザ・グレイテスト・マン・ザット・エヴァー・リヴド(ヴァリエイションズ・オン・ア・シェイカー・ヒム)」はウィーザーのアレンジ能力の到達点ではないか。「ハート・ソングス」は1970年代から90年代までの、リヴァース・クオモが影響を受けたアーティストを回顧する曲。5分、6分の曲が増えた。キーボードをほとんど使わず、バンドサウンドだけで演奏している。ボーナストラックの「ザ・ウェイト」はザ・バンドのカバー。「ライフ・イズ・ホワット・ユー・メイク・イット」はトーク・トークのカバー。「メリクリ」は日本語で歌われる曲。
2009年。リヴァース・クオモとメンバー以外の作曲者が共作した曲がほとんどを占める。どの曲も自信がみなぎり、安定感のあるサウンドになっている。ポップを絵に描いたようなアルバム。オープニング曲の「アイ・ウォント・ユー・トゥ」は覚えやすい。「ザ・ガール・ガット・ホット」はゲイリー・グリッターの「ロックン・ロール・パート2」を思わせるリズム。「ラヴ・イズ・ジ・アンサー」はシタールが使われ、歌詞にはインド系文字(デーヴァナーガリー)が含まれる。日本盤は2枚組になっているが、2枚合わせても16曲で56分。
2010年。前作の前向きなポップさとロックの快活さを持っている。オープニング曲の「メモリーズ」と次の「ルーリング・ミー」はすばらしい。ストリングスが入った「ハング・オン」もいい曲だ。「アンスポークン」「タイム・フライズ」はアコースティックギター中心の曲で、後者は終始ノイズの中で演奏される。ボーナストラックの「美しき生命」はコールドプレイのカバー。
2010年。邦題「デス・トゥ・フォルス・メタル~レア・トラック貯蔵庫」。未発表曲集。これまでのサウンドと著しく雰囲気が異なるというような曲はない。ウィーザーのアルバムは収録時間が短いため、アルバムに入りきらなかったというよりも、選別されたということだろう。アルバムタイトルはヘビーメタルバンドが他のバンドを貶す時に使う「偽りのメタルに死を」。
2014年。ギターが2人いることを生かした曲が多く、70年代のロックの響き方を多用する。ザ・カーズのリック・オケイセクがプロデューサーとなっているが、ザ・カーズのプロデューサーであったロイ・トーマス・ベイカー、すなわちクイーンのプロデューサーの手法をリック・オケイセクが模倣したようなサウンドとなっている。オープニング曲のイントロはルーベッツの「シュガー・ベイビー・ラヴ」のようなメロディー。「アイヴ・ハッド・イット・アップ・トゥ・ヒア」「ダ・ヴィンチ」「フーリッシュ・ファーザー」はハードロック風だ。リヴァース・クオモは80年代後半にロサンゼルスに出てきているので、この時期のハードロックに近づいたサウンドにも納得がいく。最後の3曲は「ザ・フューチャースコープ・トリロジー」として組曲になっている。
2016年。邦題「ウィーザー(ホワイト・アルバム)」。ホワイト・アルバムという副題を付けた狙いは2つあるだろう。1つは「ブルー・アルバム」「グリーン・アルバム」の系譜に連なる初期のサウンドを想像させること。もうひとつはビートルズの「ザ・ビートルズ」、通称ホワイト・アルバムに通じる重要作だと思わせることだ。サウンド上は「ブルー・アルバム」「グリーン・アルバム」に近く、ビートルズほどの突き抜けた小難しさがないことは、予想の範囲内だ。オープニング曲の「カリフォルニア・キッズ」はコーラスのつけ方にビーチ・ボーイズの影響があるが、ビーチ・ボーイズのようなゴスペルの影響はない。ギターは90年代以降の粗い響きを維持するが、80年代風の懐古的なアンサンブルやギターソロも使われており、デビュー当時からの聞き手は納得できる。2010年代以降のロックファン、ポピュラー音楽ファンにどう解釈されるかは分からない。
2017年。オープニングからの3曲はいずれも夏の思い出に関する曲。「ビーチ・ボーイズ」はビーチ・ボーイズそのものを歌っているが、ボーカルハーモニーはそれほど意識せず、他の曲と同じようにリヴァース・クオモが聞き取りやすく歌う。「フィールズ・ライク・サマー」はファルセットを使い、サウンドもエレクトロニクスの強い2010年代風。アルバムの中盤以降は曲の出来がよく、「ウィークエンド・ウーマン」「スウィート・メアリー」は他のアーティストのアルバムに入っていても高く評価されるだろう。
2019年。カバー曲集。概ね原曲通りに演奏しており、TOTOの「アフリカ」のキーボードやコーラス、エレクトリック・ライト・オーケストラの「ミスター・ブルー・スカイ」のビートルズ風サウンド処理はそのままだ。マイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」はマイケル・ジャクソン風の歌い方ではなく普通に歌っている。ベン・E・キングの「スタンド・バイ・ミー」はスタンダード曲としてカバーしただろうが、タートルズの「ハッピー・トゥゲザー」は好きでカバーしたのだろう。
2019年。メンバーのうちドラム以外の3人がキーボードをふんだんに使い、ギター中心のバンドであることを感じさせない。実際の楽器に近い音でありながら編集も加工もさえているようなサウンドは、TV・オン・ザ・レイディオのメンバーがプロデューサーになっているからだろう。オープニング曲の「キャント・ノック・ザ・ハッスル」ではマリアッチ風トランペット、ソウル風女性ボーカルが入る。「ザ・プリンス・フー・ウォンテッド・エヴリシング」はグラムロック風。「カリフォルニア・スノー」収録。
2021年。前作の流れを受け、オーケストラとピアノを中心とするビートルズ風の曲調となっている。ギターはほぼ出てこない。録音にはロンドンのアビーロードスタジオも使われており、ストリングス、ピアノ、キーボードの多さは後期ビートルズを強く意識した結果だろう。「ヒア・カムズ・ザ・レイン」はビートルズの「ヒア・カムズ・ザ・サン」にちなんだと思われる。「グレイオウス・オブ・ラス」はスタインベックの「怒りの葡萄」に触れており、オーウェルの「1984」、マイケル・ジャクソンの「スリラー」も出てくる。「ナンバーズ」と「スクリーンズ」は現代の社会人が抱く
2021年。エレキギターを中心とするロック。「ヴァン・ウィーザー」というタイトルはヴァン・ヘイレンへの敬意であり、アルバム全体の曲調も80年代のハードロックに近い。「オーケー・ヒューマン」と対をなすサウンドとも言える。「オール・ザ・グッド・ワンズ」はジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツの「アイ・ラヴ・ロックン・ロール」風。「ブルー・ドリーム」はオジー・オズボーンの「クレイジー・トレイン」のギターフレーズをそのまま使っている。「プレシャス・メタル・ガール」はヘアメタル全盛期の文化を歌っており、この種の曲としては珍しくファスター・プッシーキャット、LAガンズが出てくる。
1995年。邦題「レンタルズの逆襲」。ウィーザーのベース、マット・シャープが結成したバンド。編成は定かではないが、写真によるとマット・シャープがボーカル兼ベース兼ムーグ、ほかにムーグ奏者が2人、バイオリン奏者を含む6人。ムーグの1人は女性で、ボーカルもとる。ムーグで演奏することが目的になっているようなサウンド。プログレッシブ・ロックやアメリカン・プログレッシブ・ハードロックで聞かれるような厚みのある音よりも、電子的、機械的な音を選んでいる。ボーカルはオルタナティブ・ロック風。あまり声を張り上げない。日本盤は1996年発売。
1999年。ボーカル、ギター、ムーグ、ドラムの4人編成。メンバー以外のアーティストが全曲で参加しており、ほとんどの曲で女声ボーカルが入っている。前作でバイオリン奏者だったザット・ドッグのペトラ・ヘイデンが最も活躍し、ブラーのデーモン・アルバーン、アッシュのティム・ウィーラー、エラスティカの女性ボーカルも参加している。正規のメンバーだけで完成させるという感覚はないようだ。曲調はやや落ち着き、ムーグもメインの楽器とまでは言えなくなっている。
2014年。マット・シャープのほか、女性ボーカル2人、ギター、ビオラ、ドラムの6人編成。シンセサイザーはマット・シャープが弾く。女性ボーカルはリードボーカルをとらず、マット・シャープのボーカルにコーラスをつける。バイオリンも目立たない。ムーグにはこだわっていないが、使っているシンセサイザーはわざわざ古い機種を選んでいる。ウィーザーと同じ程度のノイズを伴っており、それが90年代以降のオルタナティブ・ロックらしさを感じさせる。「トレーシズ・オブ・アワ・ティアーズ」「ワン・サウザンド・シーズンズ」「ダマリス」「ソウト・オブ・サウンド」「ザ・フューチャー」は古風なシンセサイザーが活躍する。