2008年。ボーカル兼ギターのアダム・グランデュシエルとギターのカート・ヴァイルがほとんどの楽器を演奏。オープニング曲はハーモニカ、オルガンを使い、ボブ・ディランそっくりの歌い方で1960年代後半のフォークロックを思わせる。多くの曲でシューゲイザーのようにギター、オルガン、シンセサイザーの持続音が背景音になっている。「ショー・ミー・ザ・コースト」は10分のうち後半5分が長い楽器演奏となっている。
2011年。ギター、ドラムが抜け、ピアノ、ドラムが加入。アダム・グランデュシエルが大量の楽器を演奏する。サイケデリックロックの影響が出てきた。「ユア・ラヴ・イズ・コーリング・マイ・ネーム」から「オリジナル・スレイヴ」まではギター、シンセサイザー、キーボード、多数の機材を重ね、持続音の中での音の変化を持たせる。インスト曲も多い。そうした曲調にボブ・ディラン風のボーカルが入ってくると、演奏とボーカルの取り合わせが意外性を生む。アコースティックギター中心の曲は最後の「ブラック・ウォーター・フォールズ」くらいだ。このアルバムで日本デビュー。
2014年。ドラムが交代し、ギターが加入、5人編成。過剰だったシンセサイザーがそぎ落とされた。中心人物のアダム・グランデュシエルがボブ・ディランに似ている歌い方だったため、デビュー当初から歌詞が注目されたものの、「スレイヴ・アンビエント」までは特筆すべき点が見当たらなかった。このアルバムでは、アダム・グランデュシエルが孤独や喪失をテーマとした統一的な歌詞にしており、評価が高くなったようだ。曲調が、ブルース・スプリングスティーンによって確立された白人中産階級労働者のロック、いわゆるハートランドのロックに近いというのも、好意的に見られただろう。内省的な歌詞のアルバムは多数あるため、それだけで他のアーティストと区別されるほどではないにしろ、精神や意識に自覚的であることは成熟した人格の証とみなされる。「レッド・アイズ」収録。
2017年。バンド演奏の雰囲気を補完する形でプログラミングを取り入れている。大手レコード会社から出たことで音質が向上している。シンセサイザーとドラム、プログラミングによる整った音色に不協和音を伴うギターとハーモニカが加わってくる曲が多い。「ペイン」「ホールディング・オン」のようにギターが核となる曲ではギターも響きやタイミングが整えられている。全曲が「僕」を主人公とする「君」との「恋の苦しみ」について歌われ、前作と同様に孤独や喪失感をテーマとしている。11分ある「シンキング・オブ・ア・プレイス」はこのアルバムを代表する曲。11分の曲を最初のシングル曲にしたのは自信の表れだろう。「ナッシング・トゥ・ファインド」のようなアップテンポの曲でもアダム・グランデュシエルのボーカルは寂寥感がある。次のアルバムでは、失恋から離れたテーマの曲がほしいところだ。