1982年。ボーカル兼キーボードのデヴィッド・デフェイスとギターのジャック・スターを中心とする4人組。1曲はメンバー全員で作曲、ギターのインストはジャック・スター、残りの9曲はデヴィッド・デフェイスとジャック・スターが作曲している。メロディー楽器であるキーボードとギターがイギリス的、ヨーロッパ的なサウンドで、そこがこのバンドの個性であることは明らかだ。オープニング曲のイントロはバッハの「アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳」から「メヌエット・ト短調」を引用している。A面最後の「スティル・イン・ラブ・ウィズ・ユー」は6分を超えるすばらしいバラード。「チルドレン・オブ・ザ・ストーム」と「ヴァージン・スティール」はギターとキーボードがほどよく主張しあういい曲。
1983年。キーボードソロが増え、曲もドラマチックになった。キーボードはタッチのマーク・マンゴールドのような演奏が複数の曲で出てくる。特に「ザ・リディーマー」から「ガーディアンズ・オブ・ザ・フレーム」までの3曲はプログレッシブ・ロックの雰囲気を漂わせる。ここで顕著になってくるのは、キーボードのデヴィッド・デフェイスとギターのジャック・スターのサウンド指向の違いで、ジャック・スターが単独で作曲した曲は必ずしもキーボードを必要としないが、デヴィッド・デフェイスの曲はドラマチックな雰囲気を出すためにキーボードが不可欠である。
1985年。ギターが交代。デヴィッド・デフェイスがすべての曲を作曲しているが、前作のスリリングな演奏はあまり聞かれず、ヘビーメタルよりはハードロックに近い。A面、B面の最後の曲はキーボードが活躍する長い曲。ボーカルは力強くなった。現在出回っているCDは、10曲目までが当時のアナログの曲。
1988年。現在出回っているCDはデヴィッド・デフェイスによって曲順が大幅に変更されている。当時の曲順は9曲目から13曲目までがA面。1、4、15、16曲目がB面。オリジナルの曲順で聞けば、このアルバムがコマーシャルな作風になっていることは容易に分かる。特にデビッド・デフェイスのキーボードは角の丸いソフトな音を中心に演奏されており、攻撃的なソロはない。「ステイ・オン・トップ」はユーライア・ヒープのカバー。「ザ・バーニング・オブ・ローマ(クライ・フォー・ポンペイ)」はタイトルどおり叙事詩的な曲で、サウンドもドラマチック。「ライオン・イン・ウィンター」も同系統で、このB面前半の2曲がデビュー当時の面影を残す。後半2曲はこのアルバムを象徴するアメリカン・ハードロック。追加された7曲のうち「デザート・プレインズ」はジューダス・プリーストのカバー。「サーペンツ・キッス」は8分を超え女性コーラスを導入、ボーカルがマノウォーのエリック・アダムスに似ている。旧約聖書を題材に取り、アダム、イブ、カインが登場する。9曲のうち8曲はデヴィッド・デフェイスがキーボードでベースを弾き、1曲はギターがベースも弾いている。
1992年。前作と同路線で、80年代のハードロックのサウンド。後半はほとんどがバラードになるのも、ハードロック全盛期の終焉のころをそのまま再現したかのようだ。このころ、同じようなサウンドで低迷期に入ったり、活動そのものを停止したりするバンドは多かった。
1995年。ドラマチックなヘビーメタルに戻り、キーボードもクラシック風のサウンドが増えた。個々の曲も構成がすばらしいものが多い。アメリカン・ハードロック路線だった前作はラブソングが多かったが、今作は神話的で、物語性が強い。
1996年。前作の続編とされるアルバムで、サウンドの大きな変化がないことがあらかじめ分かっている。ドラマチックさは前作を超えており、オープニングからの5曲はすばらしい。「シンフォニー・オブ・スティール」はマノウォー・スタイル。中盤から終盤にもいい曲がそろっており、名盤と呼べる。
1998年。「ザ・マリッジ・オブ・ヘブン・アンド・ヘル」の続編で、そのテーマ曲もアルバムの中に入っている。前作よりも壮大で、キーボードは補助的に響くことが多い。雄壮さを出すために管楽器の音も増える。ツーバスを使う曲も増えたが、スピーディーになったわけではない。デヴィッド・デフェイスのボーカル表現力も向上。このレベルになると、もはやマノウォーに似ているかどうかの議論はどうでもよくなり、アルバムそのものが個性を伴った独立した存在となっている。後期の傑作か。ヨーロッパ、特にドイツでは「ザ・マリッジ・オブ・ヘブン・アンド・ヘル」がヒットしたようだが、このクオリティーをもってすればヒットは当然で、この手のジャンルでは名盤、少なくともアメリカのバンドでは最高傑作。
1999年。ベースが抜け3人編成。ベースはデヴィッド・デフェイスがキーボードで演奏。トロイ戦争を題材にしたアルバム2作、CD3枚に及ぶロックオペラ。CD1枚目の本作は第1幕。22曲のうち7曲はインスト。ロックオペラなのでインストというよりは間奏。前作は叙事詩の体裁だが、このアルバムは登場人物が10人設定されており、作品としてはオペラの体裁をとっている。すべての登場人物をデヴィッド・デフェイスが1人で歌っている。曲調がクラシック寄りになった。壮大さは前作並み。コーラスにも気を遣い、質の向上を目指す。「ATREUS、アトレウス」とは第1幕の主人公であるギリシャ軍大将アガメムノンの父。物語はトロイ戦争が終わる前日から始まるので、トロイの木馬やアキレスの話は出てこない。
2000年。前作の続編。ここで展開される物語は、のちにユングが名付けた「エレクトラ・コンプレックス」の語源になった物語と同じで、リヒャルト・シュトラウスも楽劇「エレクトラ」の題材にしている。CD1枚目でアガメムノンの妻クリテムネストラが息子オレステスに殺され、2枚目でオレステスが死ぬ。登場人物は7人で、コーラスが2つある。第1幕とサウンドが異なる点は、スピーディーな曲があることと、サビの部分でコーラスやハイトーンを使い分けていること。これは表現上大きな進歩だ。
2006年。
2010年。