ヴェノム・プリズンはイギリスのデスメタルバンド。女性ボーカル、ギター2人を含む5人編成。女性ボーカルが作詞する政治、人権、社会問題についての歌詞が注目されている。
2016年。整合感の取れた音が分厚いデスメタル。女性ボーカルのデス声は安定している。デビュー盤なので突進する部分が多い。近年のデスメタルバンドは多かれ少なかれハードコアの要素が含まれているが、このバンドもハードコアを思わせるところがある。オープニング曲はイントロ的な曲で、それ以外は1分半から5分。このバンドが他のデスメタルと大きく異なる点は、女性嫌悪が当たり前となっているヘビーメタルの風潮に強く反発し、格差社会、ファシズムを批判する社会性の高さにある。この点は現代のロックにおいては音響よりも重要だ。
2019年。インスト曲の「ディーヴァズ・エネミー」以外は前作を上回るような勢いで曲が続く。「アシュラズ・レルム」はネットでの自己肥大の末路、「ユータライン・インダストリアリゼーション」は出産の強制代理を歌う。
2020年。2015年に出したEP2枚を再録音し、新曲を加えた企画盤。1枚目と2枚目のEPは作詞において大きな進歩がみられる。「デーモン・ヴルガリス」は環境破壊、「ナルコティック」は大衆性、「ザ・プライマル・ケイオス」は資本主義社会、「ディフィアント・トゥ・ザ・ウィル・オブ・ゴッド」は中絶支持、「スレイヤー・オブ・ホロフェルネス」は「バビロン・ザ・ホア」と同じく、神話上悪役となっている女性をフェミニストとして解釈するという視点を持ち込んでおり、知的水準が高い女性が中心メンバーになっていることの効果を示している。
2022年。前作から曲の幅を広げ、「テクノロジーズ・オブ・デス」は6分半ある。「コンフォート・オブ・コンプリシティ」はアーク・エネミー風のメロディアスなギターソロがある。「キャスティゲイティッド・イン・スティール・アンド・コンクリート」「ゴーゴン・シスターズ」は現代的な音の加工がみられる。「コンフォート・オブ・コンプリシティ」は移民排斥、「ゴールデン・アップルズ・オブ・ザ・ヘスペリデス」はネットメディアの扇動によって奪われる自由、「ゴーゴン・シスターズ」は白人による強制不妊手術、「テクノロジーズ・オブ・デス」は死刑制度について歌っているとみられる。このアルバムのハードコア風デスメタルの音響に理解を示すことができても歌詞の内容に狼狽する男性は、自分自身が無自覚の加害者であることを突きつけられる。反発が多ければ多いほどアルバムの評価は高くなっていく。このアルバムで日本デビュー。