ヴェノムはイギリスのヘビーメタルバンド。ブラックメタルのルーツとされる。
1981年。シングル盤。A、B面ともアルバムとはバージョンが異なり、ドラムとボーカルが聞き取りやすい。2曲ともアルバムよりやや短い。
1981年。邦題「地獄への招待状」。ボーカル兼ベースのクロノス、ギターのマンタス、ドラムのアバドンの3人編成。ボーカル、演奏とも当時のロックとしてはパンク、ガレージロック並に粗野なイメージを与える。しかし、この粗野なサウンドが欧米のアマチュアミュージシャンに「この程度の録音でレコードを出しても許される」という希望を抱かせ、音楽性の拡大に大きな可能性を与えることになった。歌詞の面でも、70年代のレッド・ツェッペリン、ブラック・サバスをはじめとする魔術、暗黒精神から大きく踏み込み、伝統宗教を挑発的している。このような曲が出てくるきっかけが、つたない演奏と権威に反抗する歌詞で支持を得たセックス・ピストルズにあることは間違いない。パンクがポストパンクとニューウェーブを生んだのと同様に、ヴェノムはヴェノムだけでスピードメタル、ブラックメタルを生んだ。曲そのものは伝統的なロックのアンサンブルで演奏されており、「天使の如く生きて」「魅せられた時」「エンジェル・ダスト」は80年当時のヘビーメタルの雰囲気を反映している。「イン・リーグ・ウィズ・サタン」収録。日本盤は1982年発売。当時のバンド名表記はベノン。
1982年。自らのロックをヘビーメタルと認識したうえで、これまでのヘビーメタルとは異なるイメージを抱えていることを自覚し、それを「ブラック・メタル」と名付けたことは音楽評論家よりも知的だ。新しい音楽を従来の音楽と区別して適切な名前をつけることは簡単ではない。間奏にギターソロを挟むなど、ジャンルとしてハードコアとはみなされていないが、ボーカルやドラムは同時代の影響を受けている。ギターの刻み方がヘビーメタルの意匠を保っている。70年代後半から80年代に出てきた新しいロックをポストパンク、ニューウェーブと呼ぶならば、ヴェノムもそこに入る余地はあったかもしれないが、自己認識がヘビーメタルである以上、一般のロックファンへの認知は限られた。「カウンテス・バソリー」収録。日本盤は1987年発売。
1982年。シングル盤。A、B面ともアルバム未収録。「ブラッドラスト」はスピーディーなヘビーメタル。
1983年。シングル盤。A、B面ともアルバム未収録。2曲ともパンク、ハードコアに近い。
1984年。A面はアルバムタイトル曲が1曲、20分収録されている。主人公が地獄の兵となってサタン、ルシファーとともに天国と戦う。地獄が堕落した天国がに勝つという展開は、宗教に仮借した社会批判であり、クロノスの知性が表れているといえる。20分の中に次々とヘビーメタル由来のギターやアンサンブルが出てくる。この曲の出来そのものよりも、20分の曲を作ろうとして、それに合った歌詞が作られたことの方が重要だ。ジャケットが革張りの本の表紙を模しているのは、中世、近世の宗教文学、特に天国と地獄を扱ったダンテの「神曲」、ミルトンの「失楽園」を意識したからだろう。B面は2分から4分の曲が6曲並ぶ。日本盤は1993年発売。
1984年。シングル盤。歌い方は当時の一般的なハードロック、ヘビーメタルよりもパンク、ハードコアだ。「レディー・ラスト」はスラッシュメタル。
1984年。シングル盤。タイトル曲は本格的なコーラスをつけている。B面の「ウーマン」は演奏能力の向上がよく分かる。
1984年。ミニアルバム。シングル曲3曲とライブ3曲収録。ヴェノムはこの時期、国ごとに6種類のミニアルバムを出している。
1985年。これまでのアルバムのように2、3分でスピーディーに演奏する曲と、5分近くになる曲が並存している。メンバーそれぞれの演奏技術が上がり、曲の幅を広げようと思えばできるようになっており、それが「ミスティーク」のような長めの曲になっている。方向性の一部にロックンロールの要素があったり、ギターソロがない短い曲があればヘビーメタル以外の聞き手から注目されたかもしれないが、アルバム全体がヘビーメタル、スピードメタルの曲調で貫かれ、ハードコアと解釈する余地はあまりない。日本盤は1987年発売。
1985年。ミニアルバム。スタジオ録音3曲とライブ3曲収録。スタジオ録音の3曲はスピーディーな曲を選んでいる。ライブの3曲はイギリスでの録音。
1985年。ミニアルバム。スタジオライブ2曲、ライブ1曲、スタジオ録音3曲収録。ライブの3曲はすべてイギリス録音。
1985年。ミニアルバム。ライブ3曲とスタジオ録音3曲を収録。
1985年。ミニアルバム。6曲のほかに4分のインタビューが収録されている。
1986年。邦題「小夜曲」。ライブ盤。アルバムタイトルはモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」をそのまま用いており、イントロにもその曲が使われている。「ウィッチング・アワー」までが85年のイギリス・ロンドンでの録音、「ブラック・メタル」から「ブラッドラスト」までが86年のアメリカ・ニューヨークでの録音。3人で演奏し、音の分離がよい。同時代のヘビーメタルバンドのライブ盤と比べてもハードだ。音域の狭いクロノスのボーカルが逆にボーカルの伝統的表現の否定とみることもでき、旧来型の技巧的ボーカルとは異なる新しい歌い方の前触れになっている。1枚目にギターソロ、2枚目にベースソロがある。
1986年。一連のシリーズでは最も多い11曲が収録されている。アルバム未収録曲を中心に選曲している。スタジオ録音の曲はアルバムやシングル盤と同じバージョンが多い。ライブは「ウィッチング・アワー」「セヴン・ゲイツ・オブ・ヘル」の2曲。「地獄への招待状」以来の日本盤が出た。
1987年。ギターのマンタスが抜け、ギターが2人加入、4人編成。メロディアスなギターソロが明瞭に聞こえ、一般的なヘビーメタルになっている。「アンダー・ア・スペル」はコーラスもつく。ボーカルが以前のヴェノムのまま、演奏がヘビーメタルになると、ボーカルのアンバランスがもたげてくる。スラッシュメタルが既に流行している時期に出ているが、「メタル・パンク」「ジプシー」はスラッシュメタルと呼んでもいいような曲。このアルバムと同時に「ブラック・メタル」「ポゼスト」の日本盤が初めて出た。このアルバムからバンド名表記がヴェノムになった。
1989年。ボーカル兼ベースのクロノスが抜けデモリション・マンが加入。ギターが2人とも変わり、マンタスが復帰。デモリション・マンはクロノスよりも音程のコントロールがうまくでき、ヘビーメタル化した演奏との整合性がとれている。オープニング曲のイントロは電話のSE、「ブラッケンド・アー・ザ・プリースツ」のイントロは宗教音楽風の合唱、「イントゥ・ザ・ファイア」はラジオの音から入る。実際の曲に注意を促すための仕掛けを兼ね、アイデアが先行している。「メガロマニア」はブラック・サバスの「誇大妄想狂」のカバーで、AC/DC風に歌う。「スクール・デイズ」はヴェノムのイメージを変える曲として収録したとみられる。曲の最後にアリス・クーパーの「スクールズ・アウト」の一節が入る。
1991年。アナログ盤でのA面とB面で雰囲気を変えているようだ。A面はドラマチックなヘビーメタルで、曲の一部でベースが目立つことが多い。ギターソロのメロディーやアコースティックギターの使用も含め、アイアン・メイデンを思わせる。「トリニティMCMXLV 0530」は原爆開発の核実験(トリニティ実験)を扱っている。B面はロックンロール中心。「プレイタイム」はアップテンポなロックンロールで、前作の「スクール・デイズ」の路線。「スピード・キング」はディープ・パープルのカバー。アルバムの最後となるタイトル曲は過去最長の7分近くあり、4分の曲に1分強のイントロと2分弱のエンディングを付加した3部構成になっている。
1992年。ギターの1人が交代、キーボードが加入し5人編成。オープニング曲の「カーズド」は前半の2分半がシンセサイザーによるSE。間奏もシンセサイザーのソロが入る。「ニード・トゥ・キル」の後半もシンセサイザーを使い、アナログ盤のA面を変化の表出にあてている。ロック、あるいはヘビーメタルが変革期にあった中、ヴェノムも「以前とは違うサウンドを試みる」という精神的変革において先端を並走していたと言える。ここで問題になるのは、以前のイメージを求め続ける大衆的ファンと、精神的変革を評価する意識的聞き手の圧倒的な数の差だ。他のヘビーメタルバンドと同様、かつてのイメージと同じであることに安心し、評価が定まっていないジャンルへの接近に強い不安を覚える大衆層に商業的評価を握られ、もともと少ない意識的聞き手の評価をかき消された。
1997年。2枚組。ボーカル兼ベースのクロノスが復帰し、ギターとキーボードが抜け、デビュー時の3人に戻った。バンドサウンドは「カーム・ビフォー・ザ・ストーム」のように明瞭で、一般的なヘビーメタルと同じ。デビュー時のメンバーであること以外に話題性がなく、次作以降でどう展開するかが問われる。2枚目は1985年までのシングル盤等収録曲の再録音。日本盤は1998年発売。
2000年。「カーム・ビフォー・ザ・ストーム」のアルバムタイトルを変更して再発売。
2000年。ドラムが交代。「ウォー・アゲインスト・クライスト」「伏魔殿」「ブラック・フレイム(オブ・サタン)」のような曲でブラックメタルのイメージを使いつつ、演奏は通常のヘビーメタルだ。ギターも2人必要な演奏。轟音と静止の対比を強調する90年代以降の曲調に準拠している。
2006年。ギターのマンタスが抜け、「カーム・ビフォー・ザ・ストーム」期のギターが加入。クロノスがプロデュースをしており、意図的に「地獄への招待状」「ブラック・メタル」の時代の音に近づけている。ベースをギターの代替として使い、ギターソロでも3人編成の演奏で成り立つような曲になっている。アルバム名を「メタル・ブラック」としている意味が音から分かる。日本盤はライブが4曲収録されているが、このアルバムに限ってはスタジオ録音とあまり変わらないか、むしろ聞きやすい。
2008年。ギターが交代。「メタル・ブラック」の音響で「レザレクション」のような曲をやっている。「USA・フォー・サタン」は具体的にアメリカの何かを批判しているわけではなく、イメージ通りのアメリカにサタンをこじつけ、最後にアメリカ国歌を演奏している。
2011年。ドラムが交代。1980年代のスラッシュメタルに近い。オーバーキル、メタリカ、テスタメントを思わせるが、80年代のそれらを上回ることはない。ヴェノムの名前だけでは厳しい。「パンクス・ノット・デッド」収録。このアルバムから日本盤が出なくなった。
2015年。「フォールン・エンジェルズ」を踏襲する曲調で、ロックンロールを通過したヘビーメタルを基調とする。「ロング・ヘアード・パンクス」はバンドを自己肯定する曲だが、ヒップホップとファンクを否定してパンクとヘビーメタルを賞賛しており、人格の未熟さがうかがえる。「ザ・デス・オブ・ロックン・ロール」はエルヴィス・プレスリーとロバート・ジョンソンに言及しながらバンドを自画自賛する。ブックレットの歌詞にはキッド・クレオールと書かれているが、キング・クレオールが適切なのではないか。
2017年。84年から87年に出たミニアルバムのライブ盤6枚を集めたボックスセット。
2018年。84年までのシングル盤5枚を集めたボックスセット。
2018年。クロノスのボーカルが低音に傾き、音域が狭くなっている。オープニング曲からメロディーを抑えた歌い方をしており、パンク、ハードコアの要素が大きくなっている。ベースはギターの代用になるような歪みの大きい音。「アイ・ダーク・ロード」「ビーテン・トゥ・ア・パルプ」等はボーカルを奥に引っ込めている。