1980年。4人編成。アイルランド出身。ボーカルのボノのわびしさ、悲しさ、不安をかかえたような歌い方と、ディレイを多用するエッジのギターが特徴。歌詞は聞き手に考えさせるものが多く、このアルバムでは少年が大人になっていく過程でのとまどいを中心としたテーマになっている。「アイ・ウィル・フォロー」収録。全米63位。
1981年。邦題「アイリッシュ・オクトーバー」。前作よりやや明るくなったが全体としてはまだ憂鬱さが感じられる。ピアノやバグパイプを使用した曲もストイックさを増幅する。最後の曲はハードだ。「グロリア」収録。全米104位。
1983年。邦題「WAR(闘)」。サウンドは変化したがメロディーは変わらない。バイオリンや女声コーラスを使い、徐々に使う楽器が増えている。メッセージ性が強い歌詞で、U2として最初のヒット作になった。「ニュー・イヤーズ・デイ」「ブラディ・サンデー」収録。全米12位、400万枚。
1983年。邦題「ブラッド・レッド・スカイ・四騎」。ライブ盤。歓声が大きく、ボノのMCもリアルだ。アルバムタイトルは「ニュー・イヤーズ・デイ」の歌詞の一部。アルバム1枚分では物足りないような印象。全米28位、300万枚。
1984年。邦題「焔(ほのお)」。プロデューサーがロキシー・ミュージックのブライアン・イーノに変わったからかどうか分からないが、音に浮遊感があり、前作にあったような切れが薄くなっている。内容にたるみを作らないように、サビで歌い上げるところが多い。サウンドと曲とでうまくバランスを取っている。アルバムタイトルは原爆のことだという。「プライド」収録。全米12位、300万枚。
1985年。ライブ2曲とアルバム未収録曲2曲。日本発売は1993年。「スリー・サンライズ」はいい曲。全米37位。
1986年。「WAR(闘)」と「焔(ほのお)」のプロデューサー両方がかかわっており、歌詞もジャケットも宗教に関連している。U2のサウンドが大きく変わらなければ、売れないはずがない。この当時は世界的にハードロックが全盛期を迎えていたが、その中にいるバンドが持っていた楽しさや不良っぽさは、U2にはまったく見られない。ひたすら自分と世界とのかかわりや世の中の不条理、怒りをサウンドに乗せている。ブルース・スプリングスティーンの「ボーン・イン・ザ・USA」などとともに80年代ロックの最高傑作のひとつ。全米1位、1000万枚。「ブリット・ザ・ブルー・スカイ」「終りなき旅」収録。「ヨシュア」とはヘブライ語でイエスのこと。
1988年。邦題「魂の叫び」。映画のサウンドトラックのような体裁。新曲が9曲、ライブが6曲。「終りなき旅」はゴスペル・グループが参加し、神々しい曲になっている。「エンジェル・オブ・ハーレム」は本格的にホーンセクションが入り、リズム&ブルースに近い。ボノの歌い方はそのまま。オルガンを使っている曲が複数あり、全体的に60年代のアメリカ音楽に傾倒している。新曲の「ゴッド・パートII」はジョン・レノンの「神」をパートIとして作曲されている。ストリングスが入るエンディング曲もすばらしい。「ヘルター・スケルター」はビートルズ、「見張塔からずっと」はボブ・ディラン、「星条旗よ永遠なれ」はジミ・ヘンドリクスのカバー。「ラヴ・カムズ・トゥ・タウン」にB.B.キンクが参加。全米1位、500万枚。
1988年。シングル盤。「デザイアー」のバージョン違いがすばらしい。
1989年。シングル盤。未発表曲1曲収録。「ルーム・アット・ザ・ハートブレイク・ホテル」は女声ゴスペルボーカルとホーンセクションが入るリズム&ブルース。エルビス・プレスリーとは関係ない。「ラヴ・レスキュー・ミー」はライブ・バージョンで、ローリング・ストーンズのキース・リチャーズがギターで参加。
1989年。「ダンシング・ベアフィット」はパティ・スミスのカバー。「ラヴ・カムズ・トゥ・タウン」のライブ・バージョン、「ゴッド・パートII」のバージョン違い収録。
1991年。パーカッションやキーボードが多くなり、歌詞も「愛」をテーマとする曲がほとんど。オープニング曲のボーカルは音響的に細工されており、前作までとは大きくイメージを変えている。ポップにはならないが、視野が小さくなっている。アクトンはドイツ語で、英語のアテンションに相当する。全米1位、800万枚。
1991年。シングル盤。「アレックス・ディセンズ・イントゥ・ヘル」はU2ではなくボノとエッジの名義で、「時計じかけのオレンジ」の演劇用の曲の一部。
1991年。シングル盤。アルバムバージョンとそのリミックス4曲を収録。
1992年。邦題「リアル・シング」。シングル盤。「サロメ」「ホエア・ディド・イット・オール・ゴー・ウロング」「スピニング・ヘッド」はアルバム未収録曲。
1992年。シングル盤。「ペイント・イット・ブラック」はローリング・ストーンズの「黒くぬれ」のカバー。「フォーチュネイト・サン」はクリーデンス・クリアウォーター・リバイバルのカバー。
1993年。前作に続きエレクトロニクスに傾き、冷たい感触がある。全体的に雰囲気が暗く、ロック全体の流行に沿っている。全米1位、200万枚。
1993年。邦題「ステイ」。シングル盤。「アイヴ・ゴット・ユー・アンダー・マイ・スキン」はフランク・シナトラが参加し、曲調もジャズ。「レモン」はバージョン違いが2曲。
1995年。U2とブライアン・イーノによるプロジェクトの企画盤。映画用音楽を中心とした曲をU2とブライアン・イーノが演奏している。日本人作品も15曲中3曲ある。「イト・オカシ」で小林明子が参加。「ミス・サラエボ」でルチアーノ・パバロッティが参加。ロックとはいい難い。
1996年。邦題「ミッション・インポッシブルのテーマ」。シングル盤。アダム・クレイトン&ラリー・ミューレン名義。「ミッション・インポッシブル任務完了のテーマ」収録。
1997年。前作よりはロックに揺り戻し、中には80年代にあってもいいような曲もある。「ステアリング・アット・ザ・サン」はいい曲だ。アコースティック・ギターを多く使い、ボノのボーカルは声を張り上げて歌うことはない。グランジ、オルタナティブ・ロックの影響下にあるという点では革新性は少ない。「ザ・プレイボーイ・マンション」はバーズのカバー。全米1位。
1997年。シングル盤。「ホリー・ジョー」のバージョン違い収録。
1997年。シングル盤。「ポップ・ミュージック」はMの「ポップ・ミューヂック」のカバー。「ハピネス・イズ・ア・ウォーム・ガン」はビートルズのカバー。
1997年。シングル盤。「アイム・ノット・ユア・ベイビー」は映画のサウンドトラックのインスト版。
1998年。80年代のベスト盤。2枚組もある。
2000年。ストリングスやギターなど、一般的な楽器を使い、自然なロックサウンドになった。人工的だと感じさせるような音はまったくなく、とても優しく響く音が多い。メロディーも70年代アメリカのシンガー・ソングライターや90年代のルーツ回帰ブームに乗ったアーティストに近い。「スタック・イン・ア・モーメント」はMR.BIGかと思うほどだ。
2000年。シングル盤。「サマー・レイン」「オールウェイズ」はアルバム未収録曲。「サマー・レイン」はほとんどアコースティック・ギターだけで演奏される。「オールウェイズ」は80年代のU2風。いずれも前向きなメロディーで、2000年代に入りU2のサウンドが変わったことを印象づける。「ディスコテック」「イフ・ユー・ウェア・ザット・ヴェルヴェット・ドレス」はライブ。
2003年。90年代のベスト盤。新曲2曲を含む。
2004年。ギターがディレイをあまり使わない80年代U2だ。80年代ほどのメッセージ性はなく、普通のロックバンドになった。前作よりも適度にハードで、前向きなメロディーも多い。80年代からのファンは「アクトン・ベイビー」以降で最もなじみやすいのではないか。
2004年。シングル盤。「アー・ユー・ゴナ・ウェイト・フォーエヴァー」は明るい曲調、「ネオン・ライツ」はピアノ主体の曲。
2005年。シングル盤。
2009年。2000年以降のアルバムはオーソドックスなロックになり、ジャケットにもメンバー全員が写っていたが、今回はバンド史上最もシンプルなジャケットだ。ダンスの要素を取り込んだロックが2000年以降流行しているのに合わせ、U2もそれに近いサウンドに近づいている。ボーカルのボノはファルセットをよく使うようになった。「ゲット・オン・ユア・ブーツ」はアップテンポ。続く「スタンド・アップ・コメディ」はザ・ミュージックを思い出す。同時代のロックサウンドと影響を与え合っている。
2014年。アルバムタイトルや「ザ・ミラクル(オブ・ジョーイ・ラモーン)」「カリフォルニア(ゼア・イズ・ノー・エンド・トゥ・ラヴ)」といった曲から、このアルバムが思春期のメンバーに大きな影響を与えた音楽や思い出を軸にした内容と推測できる。CDにはボノがこのアルバムのために書いた「追想」が付けられており、思春期の音楽的影響に加えて家族や友人に対する深い関わりを綴っている。作詞はボノとジ・エッジが全曲で共作している。音楽的影響についての曲は、サウンドは影響元に似せたりせず、U2のバンドサウンドにしている。やりたい音楽を素直にやっていた80年代、90年代とは創作上の方向が異なる。オープニング曲の「ザ・ミラクル(オブ・ジョーイ・ラモーン)」はボーカルやタイトルを気にしなければゲイリー・グリッターやバブルガムサウンドのリズムになっている。4曲目以降は2000年前後に出てきたロックンロールに準じるサウンドが多い。最後の「ザ・トラブル」は最後の曲にふさわしい曲調。
2017年。前作の「ソングス・オブ・イノセンス」と連作であることを示すアルバムタイトルとなっている。前作同様、ボノがこのアルバムのために文章を書いており、曲名を挙げて具体的にどういう曲かを説明している。このアルバムは現在のU2、特にボノが感じた世界の状況や個人的関わりを曲にしている。全曲をボノが単独で作詞しており、ボノの個人的考え方が前作よりも強く反映されていると言える。オープニング曲の「ラヴ・イズ・オール・ウィ・ハヴ・レフト」はキーボードのみの演奏にボーカルがつく。バンド演奏となるのは2曲目以降。「ベスト・シング」「ゲット・アウト・オブ・ユア・オウン・ウェイ」はエレクトロ音楽を感じさせる曲で、覚えやすい。「ゲット・アウト・オブ・ユア・オウン・ウェイ」の後半と、それに続く「アメリカン・ソウル」はケンドリック・ラマーが参加している。全曲をボノが作詞していることになっているため、ケンドリック・ラマーがラップをする部分もボノが作詞したと解釈できるが、「アメリカン・ソウル」の詞の一部はケンドリック・ラマーが「ダム」でU2と共演した「XXX」と同じだ。U2とケンドリック・ラマーが主張するところは同じということだろう。「サマー・オブ・ラヴ」はレディー・ガガが参加している。1967年のサンフランシスコではなく、現在のシリア内戦に言及している。ジャケットはボノの息子とジ・エッジの娘だという。前作と今作を通じ、近年のボノが親と子ども、あるいは世代を意識した生活を送っていることがうかがえる。