アメリカン・ティアーズはキーボード奏者のマーク・マンゴールドが結成したハードロックバンド。タッチはマーク・マンゴールドが結成したハードロックバンド。キーボード以上にコーラスを重視し、爽快でポップなメロディーを作った。
1972年。アメリカン・ティアーズ、タッチのキーボード、マーク・マンゴールドが最初に出したレコード。キーボードを含む5人編成で、キーボードはほとんどがオルガン。ほとんどの曲をマーク・マンゴールドが作曲している。アメリカのバンドでありながら、ゲルマン神話の「バルハラ」をバンド名に使っている。ジャケットは明らかに北欧のバイキング船の構造。オルガン中心であるため、バニラ・ファッジを想起するが、曲によっては軽くオーケストラも入り、ややプログレッシブ・ロック風でもある。時代背景を考えれば、当時の流行を取り入れた極めてオーソドックスな音だろう。
1974年。マーク・マンゴールドが新たに結成したトリオ編成のバンド。マーク・マンゴールドは全曲を作曲、ボーカルも全曲でとっている。キーボードはシンセサイザーを導入してバラエティーに富んでいるが、基本はオルガンとピアノ。メロトロンも使用し、70年代中期のイギリスのバンドがやっていたようなプログレッシブ・ロックとポップスとロックが混ざったサウンド。ロックンロール的軽さはない。
1975年。大きくプログレッシブ・ロック方向に向いたアルバム。アナログでいうA面に8分の曲が2曲あり、これが特異な構成を持った曲になっている。キーボードもシンセサイザー、オルガン、メロトロンを駆使してスペーシーな雰囲気を出している。B面冒頭のアルバム・タイトル曲もそういう感じの曲だが、それ以外の曲は普通のロックバンドの曲とそう変わらない。
1976年。ギターが新たに加入し4人編成になった。ベース、ドラムも入れ替え。ポップ化した。このころになると、キーボードが活躍するプログレッシブ・ハードロックのバンドが大きな成功を収めていたので、ある程度その流れに沿った作風だ。「リッスン」と「ラスト・チャンス・フォー・ラヴ」はタッチのメンバーで再レコーディングされる。「キャント・キープ・フロム・クライン」は名バラード。
2018年。マーク・マンゴールドがボーカル、ベース、ドラム、キーボードを1人で担当。キーボードはほぼオルガンとシンセサイザーの2種類で完結させ、ピアノなどはあまり出てこない。アルバムタイトル曲、「ニュークリア」「ローズ・オヴ・ライト」はシンセサイザー中心。「ディプローラブル」はエレクトロ音楽としても聞ける。「スモーク・アンド・ミラーズ」はオルガンを主体としてソロはシンセサイザーを弾く。「ファイア」は1968年のクレイジー・ワールド・オブ・アーサー・ブラウンの「ファイア」を強く意識した曲で、敬意とみていいだろう。「フェリーマン」はボーカル主体。「ティアー・ガス2017」は再録音。「アット・ラスト」は最後にふさわしいインスト曲になっている。マーク・マンゴールドが自分の人生を再確認しながら制作したアルバムと言える。
2019年。マーク・マンゴールドがボーカル、ベース、ドラム、キーボードを1人で担当。前作と同様にキーボードはオルガンとシンセサイザー主体、ベースもキーボードで代用、ドラムはプログラミングで、ギターは出てこない。長年バンド編成でロックをやってきたため、曲の多くもバンド編成を前提としている。しかし、通常のドラムのイメージから離れた「ラブ・イズ・ラブ」やアルバムタイトル曲は、マーク・マンゴールドが主流のエレクトロ音楽に対応できることを示しており、この柔軟性が長年の活動につながっていると感じさせる。「ウェイク・アップ・シティ」「ヘル・オア・ハイ・ウォーター」は70年代ロック風。
2020年。メコンデルタ、ラプソディー、キャメロットのドラムが参加。13曲のうち2曲はベースもゲスト参加がある。ドラムが人力になった分、曲もバンド編成を前提にした編曲になっている。したがって、プログラミングが主体のエレクトロ調の曲はない。デイヴ・ブルーベックの「ブルー・ロンド」はドラムがいなくてもプログラミングでカバーできただろうが、あえてドラム演奏でカバーしたというような演奏だ。8分台や10分台の長い曲があり、マーク・マンゴールドの趣味が出ている。最後の曲はオルガンの弾き語り。ボーカルはやや弱くなった。
1980年。アメリカン・ティアーズのメンバーのうち、ベースを入れ替えて結成されたバンド。ボーカルを3パートに分け、コーラスを重厚にしている。高音を歌うギターをリードボーカルにしたのは正解だった。「ブラック・スター」はクイーンの「ストーン・コールド・クレイジー」を思い出す。「愛は謎のストーリー」「朱いスピリット」収録。マーク・マンゴールドが関わったバンドでは最高傑作だ。当時のモンスターズ・オブ・ロックに出演したが、2枚目のアルバムが出ず、そのまま消滅してしまったのが惜しまれる。
1981年にレコーディングされたが発売されなかったアルバム。前作と同路線ではあるが、サックスが入った教科書的なAORがあったり、ニューウェイブ的なサウンド処理があったりして同時代的だ。シングル・ヒットを狙える曲やハードロックも残っており、バラエティーに富んでいるとも言える。
2021年。再結成。メンバーは80年当時と同じ。曲もキーボードを主体とするハードロックだ。90年代以降の電子音響がない古風なキーボードを守っている。ボーカルは高い声を保っているが、他のメンバーは衰えているのでコーラスは全体のトーンが下がる。「レット・イット・カム」は明らかに80年の「愛は謎のストーリー」を意識した曲だ。8分近くある「スワン・ソング」はアメリカン・ティアーズに近いプログレッシブロック風。「ワナ・ヒア・ユー・セイ」「ラン・フォア・ユア・ライフ」は80年のアルバムと同じように明るめの曲をアルバムの最後に並べている。