テイラー・スウィフトは1989年生まれのアメリカのシンガー・ソングライター。2010年代の若手白人女性のトップアーティスト。カントリー・ポップでデビューし、シンセサイザーを多用したポップスに変化している。シャナイア・トゥエイン、リアン・ライムス、ディクシー・チックスが開いた90年代カントリー・ポップをフェイス・ヒルが2000年代にエンターテインメント化し、2000年代後半にテイラー・スウィフトがさらにポップ化させた。同時期に出てきたキャリー・アンダーウッドよりも宗教色、カントリー色が少なく、アメリカ以外にも人気がある。
2006年。テイラー・スウィフトはカントリー歌手。1989年生まれ。バイオリン、バンジョー、7曲目まではカントリー風の曲とポップな曲が交互に出てくる。後半はポップな曲が多い。若いので高音が自然な発声で出てくる。ポップな曲はロックのような派手さを抑え、保守的なカントリーファンに配慮している。「ティム・マックグロウ」はカントリー歌手のティム・マッグロウのこと。日本盤は2010年発売。
2008年。カントリーポップに留まっているが、ややポップ寄りのサウンドになったか。ミドルテンポで弾き語り風の曲はドラムがブラシを使って演奏する。「ユー・ビロング・ウィズ・ミー」「フォーエヴァー&オールウェイズ」はポップだ。「シュドゥヴ・セッド・ノー」「ティアドロップス・オン・マイ・ギター」「アワ・ソング」「アイム・オンリー・ミー・ホエン・アイム・ウィズ・ユー」はデビュー盤収録曲。このアルバムで日本デビュー。
2010年。白人、金髪、露出を強調しない健康的なファッションで幅広い年齢層の白人の支持を得た。サウンドも不協和音やディストーションが少ないエレキギターを使い、耳をつんざくことがない。ポップになっても大きな冒険をしないところは安心できるが、ロックファンには刺激がやや少ないだろう。「ミーン」はカントリーポップ。「ザ・ストーリー・オブ・アス」「ベター・ザン・リヴェンジ」はロック。
2011年。ライブ盤。
2011年。クリスマス曲集。6曲収録。2曲はテイラー・スウィフトの新曲となっている。どの曲もカントリーポップのサウンド。「ラスト・クリスマス」はワム、「ホワイト・クリスマス」はビング・クロスビー、「サンタ・ベイビー」はアーサ・キットのカバー。
2012年。オープニング曲はアコースティックギターが出てこないポップス。「トラブル」「22」「私たちは絶対に絶対にヨリを戻したりしない」の3曲はマックス・マーティンがプロデュースし、他の曲よりもポップになっている。1970年代のシンガー・ソングライターと比べるまでもなく、カントリーの要素は薄くなった。「ザ・ラスト・タイム」はスノウ・パトロールのボーカルと、「エヴリシング・ハズ・チェンジド」はエド・シーランと共演している。
2014年。1980年代中盤のシンセサイザーポップ、ニューロマンティクスを2010年代に再現している。エレクトロポップに聞こえないようにしているところが音作りの肝だろう。現代のテイラー・スウィフトファンと、その親世代が安心しそうなサウンドだ。「シェイク・イット・オフ~気にしてなんかいられないっ!!」はアヴリル・ラヴィーンの「ガールフレンド」を意識したような若い曲。この曲と「アイ・ウィッシュ・ユー・ウッド」はバンド演奏に近い。曲ごとにプロデューサーが作曲から演奏まで関わる。マックス・マーティンが半数の曲を制作している。
2017年。「1989」のエレクトロ路線をさらに進め、ほとんどの曲がシンセサイザーとプログラミングによる音で構成される。カントリーポップの代表的女性アーティストというイメージを拒否しようとしていることは明確だ。オープニング曲の「・・・レディ・フォー・イット?」はアフリカ系女性歌手のような曲。「ルック・ホワット・ユー・メイド・ミー・ドゥ~私にこんなマネ、させるなんて」「ゴージャス」「ゲッタウェイ・カー」「ダンシング・ウィズ・アワ・ハンズ・タイド」はバンド編成で録音してもヒットしそうだ。最後の「ニュー・イヤーズ・デイ」だけがアコースティックギターとピアノで演奏される。テイラー・スウィフトがこのアルバムのために書いて載せている文章は重要で、テイラー・スウィフトが成熟した大人の理解力を備えていることが分かる。それは自己の万能感や無謬性を信じることが未熟さの象徴と気付き、人間や社会の多面性を認め、多くの人が未熟であることに無自覚なまま大人になることも理解しながら、自らの生き方の基本を提示している。このような理解に達する人は社会の中の一部だけだ。理解の度合いによって社会から割り当てられる地位が決まり、生活上の利益と比例することによって社会の階層差が生まれる。達しない者が多数であるが故に自己、または自己の帰属集団を上位に引き上げる集合的エネルギーが発生する。引き上げる要素を持たない者は他者の集団を引き下げることで相対的に自己を引き上げる。テイラー・スウィフトがこの文章を載せたきっかけは自分へのさまざまな評判に対する包括的回答だったかもしれないが、載せたタイミングは時勢と共鳴している。
2019年。シンセサイザーを多用するポップスだが「レピュテーション」のような陰鬱さは薄れ、ポップに回帰しつつある。「レッド」や「1989」のような若さを感じさせる力強さよりも、経験を積んだ前向きさがある。「1989」までは自分とその周辺に起こる出来事を歌い、「レピュテーション」では巨大化した大衆イメージとテイラー・スウィフト自身の自己認識のずれを歌っていた。「レピュテーション」は、テイラー・スウィフトが社会的存在として意識せざるを得なくなった日常空間の拡大が示されており、多くの若年層と同様に、「社会化する自己」と「精神的に追いつかない自己」の差の埋め合わせに悩んでいた。「ラヴァー」では、その問題が簡単には解決しえないものとして消化され、「私の主張」の力強さよりも「主張する私」の経験的視点、または他者視点が上回る。「クルーエル・サマー」「ペーパー・リングス」はアップテンポのポップス。「スーン・ユール・ゲット・ベター」はディキシー・チックスが参加し、ギター、バンジョー、バイオリンが使われる。「Me!」はパニック・アット・ザ・ディスコのブレンドン・ユーリーが参加している。
2020年。ピアノを中心とする弾き語り風の曲が多い。「フォークロア」というアルバムタイトル、モノクロのアルバムジャケットが、「レピュテーション」のアコースティック版を予測させる。「ザ・ラスト・グレイト・アメリカン・ダイナスティ」「ミラーボール」「オーガスト」は、作風が「レッド」や「1989」のようなポップスならヒットしているだろう。「ディス・イズ・ミー・トライング」はサイケデリック方向に傾いた音の厚いポップスで、どのアルバムに入っていても名曲だ。「ベティ」はハーモニカが入る60年代フォーク。「エグザイル」はボン・イヴェールと共演。1曲目に「ザ・ワン」、7曲目に「セヴン」、8曲目に「オーガスト」を置いており、アルバムの中で何曲目かということと曲のタイトルを一致させている。曲単位よりもアルバム単位で聞かれることを想定していることがうかがえる。
2021年。「フォークロア」と同じメンバーで、その延長線上のアルバムとして制作されている。従って作風も似ているが、「フォークロア」よりもアコースティック楽器を使う曲が多い。ミドルテンポのフォーク、ピアノ弾き語りが続く中で、電子音中心の「ゴールド・ラッシュ」「ロング・ストーリー・ショート」、バンド演奏が目立つ「ノー・ボディ、ノー・クライム」をほどよい感覚で配置している。「ノー・ボディ、ノー・クライム」はハイム、「コニー・アイランド」はザ・ナショナル、「エヴァーモア」はボン・イヴェールと共演し、同じような曲調が続かないようにしており、一定数いるであろうポップ志向の聞き手をつなぎ止める。