シザはアメリカの女性シンガー・ソングライター。1989年生まれ。2010年代前半にEP盤を3枚出している。「コントロール」「SOS」がいずれも高く評価されている。
2017年。邦題「コントロール」。アルバムタイトルが「コントロール」だと、アルバムを聴き始める前に、誰が何をコントロールするのか、またはされているのかについて、聞き手の関心が向く。したがって曲の音響的特徴よりも歌詞を注意深く聴くということになる。その関心に従って聞くと、シザはこれまでのアフリカ系女性歌手と違い、中産階級に多い認知構造を持つということが分かる。ステレオタイプ化された2方向の女性像、男性に依存する情緒的な個人と、対等な関係を求める自立した個人の、そのあいだにあるあまり注目されてこなかった層、さらに今後増えていくであろう層の認知を提示している。対等な関係の自立した個人は理想像であり、そうなるように求められる社会的圧力もあるが、大多数はそうなれずに二つの女性像の間のどこかで浮遊し、それが精神的不安定の一因になっていく。このアルバムでは、シザが過去の恋愛の失敗について、相手にも自分にも一方的に非難したり依存したり自傷したりすることなく、自分にもある程度の原因があることを認めて精神の自己修復を図っている。シザの両親はいずれも世界的企業に属しており、アフリカ系アメリカ人の女性シンガー・ソングライターとしては、ミレニアム世代以降初めて、インテリ家庭に育った女性の感性を表出したシンガー・ソングライターとも言える。音響的には現代的なR&Bが中心だが、2010年代に入ってもアフリカ系の歌手をR&Bと名指してしまうことには違和感がある。ケンドリック・ラマー、トラヴィス・スコットが参加している。
2022年。23曲、68分収録。2010年代後半から、社会の新しい価値観を提示する世代がZ世代となり、ポピュラー音楽では白人女性がビリー・アイリッシュ、アフリカ系女性がシザやリゾ、ヒスパニック系女性がオリヴィア・ロドリゴが代表的アーティストとなっている。このアルバムの曲の多さはジャンルの多様さにつながっている。白人が歌えばポップスになるものを、アフリカ系歌手が歌えばR&Bとされてしまうことに対する異議を、曲の多様性で訴えている。「F2F」は90年代のオルタナティブロック風で、アルバムの中ではとりわけ異質な曲になっているが、これを意図的に入れてアフリカ系女性シンガー・ソングライターのイメージを崩そうという試みは理解できる。Z世代の女性が人間的に成熟していく過程で、参照する人や事例が見当たらない境遇をジャケットでうまく表している。「SOS」というタイトルはシザ自身と、同世代からのメッセージだ。