1998年。スウィートボックスはプロデューサーのGEOと女声ボーカルのティナ・ハリスによるグループ。サンプリングにクラシックを使うことで有名。「エヴリシング・イズ・ゴナ・ビー・オールライト」が世界的にヒットした。この曲はバッハのG線上のアリアを使用している。ボーカルはラップで歌われ、バックはクラシックや映画音楽が使われる。オーケストラが使われることもあればキーボードで代用されることもある。これまでヒップホップのサンプリングにジャズが使われることはよくあり、一つのジャンルを形成しているが、クラシックをメーンに用いるグループはスウィートボックスが初めてだ。クラシックばかりになっているわけではなく、むしろ少数。大半はクラシックを使わない通常のヒップホップ。「イフ・アイ・キャント・ハヴ・ユー」はイヴォンヌ・エリマンのカバー。「ヒア・ウィ・ゴー・アゲイン」のベースはワイルド・チェリーの「プレイ・ザット・ファンキー・ミュージック」。「エヴリシング・イズ・ゴナ・ビー・オールライト」以外の曲で使われているクラシック曲はマーラーの交響曲第5番第4楽章とアルビノーニのアダージョ。
2001年。ボーカルがジェイドに交代。ほぼ全曲がなんらかの曲をサンプリングもしくは引用している。クラシックが多く、ハードロックも複数ある。オープニング曲の「シンデレラ」はあまり一般的ではないテレマンの曲。「フォー・ザ・ロンリー」はエンニオ・モリコーネ、「エヴリシング・イズ・ゴナ・ビー・オールライト」は新ボーカルで再録音。「ボーイフレンド」はビル・コンティの「ゴナ・フライ・ナウ」。映画「ロッキー」で有名な曲。「スーパースター」はチャイコフスキーの「白鳥の湖」。「スケアド」はラベルのボレロをリズムだけ使用。「ザッツ・ナイト」はブックレットに書いていないが、ナザレスの「ラヴ・ハーツ」であることは明らか。ブラウン・ヘアード・ボーイ」のイントロはベートーベンの「エリーゼのために」。「クレイジー」はベートーベンの交響曲第5番第1楽章とAC/DCの「バック・イン・ブラック」。「トライング・トゥ・ビー・ミー」はグリーグの「ソルベイグの歌」。「ノット・ディファレント」はヘンデルの「クセルクセス」のラルゴ。全体としてはヒップホップのボーカルが減り、メロディーを歌うことがほとんど。
2002年。クラシックを引用した曲が減り、独自に作曲した曲が大半を占める。「ヒューマン・サクリファイス」はフォーレのパヴァーヌ。「アンフォーギヴン」は東南アジアの楽器が多数出てくる。「ドント・プッシュ・ミー」のイントロはベートーベンの「月光」。アルバムを出すたびにサウンドの傾向が大きく変わるので、グループの個性を見出すのはなかなか難しい。ただ、今回はメンバーの変更を伴わずにサウンドが変わっているため、ボーカルのジェイドがある程度の主導権を持ったと考えられる。東南アジアの打楽器系民族楽器が多いのもジェイドの趣味だろう。「オールライト」は世界で初めてレコードを100万枚売り上げたイタリアのテノール歌手、エンリコ・カルーゾをサンプリング。
2003年。新曲、リミックス、アコースティック・バージョンを含むCDを付けた2枚組特別盤。
2004年。再びクラシックを大きく取り入れている。「リバティー」はモーツァルトのレクイエム、「ライフ・イズ・クール」はパッヘルベルのカノン、「サムホエア」はグノーの「アベ・マリア」、「ヘイト・ウィズアウト・フロンティアーズ」はペルゴレージの「スタバト・マーテル」。ここまではいずれもかなり有名な曲。「ファー・アウェイ」はマルチェッロのオーボエ協奏曲。あまり一般的ではない。ドラムやギターはロック寄り。「テスティモニー」はコーラスがゴスペル風。男声ラップも入る。グリーグの「ゆりかごの歌」引用。「アイル・ビー・ゼア」は不明。「ラクリモーサ」はモーツァルトのレクイエム、「ソーリー」はソフト・マシーン、アディエマスのカール・ジェンキンスだという。「アイ・ドント・ウォナ・ビー」はドニゼッティのラルゲットだという。日本盤解説にはドニゼッティを「イタリア・オペラ界を代表する19世紀の作曲家」と書いてあるが、ヴェルディやプッチーニを差し置いてドニゼッティがイタリア・オペラの代表になることはあり得ない。ラルゲットも、どの曲の中のラルゲットなのか特定すべきだ。ボーナストラックの「ミス・ユー」はエルガーの「威風堂々」。「ユー・キャント・ハイド」はバッハのオーボエ協奏曲。
2004年。クリスマスに合わせて発売された13曲入りアルバム。クリスマスに関係ない曲はどういう位置づけなのか不明。クラシックを引用している曲はない。
2005年。ベスト盤。20曲のうち2曲が新曲、6曲がバージョン違い。「エヴリシング・イズ・ゴナ・ビー・オールライト・リボーン」はロック・バージョン。新曲の2曲にクラシックは引用されていない。
2006年。デビュー以来、奇数枚目のアルバムではクラシックの引用を抑え、偶数枚目で大きく取り入れている。今回は5枚目なのでクラシックの引用は少なく、12曲中2曲。「アディクテッド」はヴィヴァルディのバイオリン協奏曲集の「冬」、「ヒア・カムズ・ザ・サン」はバッハの無伴奏チェロ組曲第1番。曲の版権はすべて日本の会社にある。
2006年。リミックス・バージョンによるベスト盤。
2006年。ライブ盤。
2007年。2枚組ベスト盤。1枚目はクラシックを引用した曲を集めている。エンニオ・モリコーネとソフト・マシーン、アディエマスのカール・ジェンキンスも含む。2枚目はリミックスを中心に集め、日本初CD化や世界初CD化を含む。
2009年。ボーカルの女性は5人目だという。代表曲である「エヴリシング・イズ・ゴナ・ビー・オールライト」のほか、クラシック曲を引用した4曲、ストリングスとプログラミングを中心とするポップスを歌う。引用したクラシック曲は有名曲ばかりで、ヴィヴァルディのバイオリン協奏曲第1番「春」の冒頭、バッハの「トッカータとフーガニ短調」、ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」の「歓喜の歌」、バッハの「G線上のアリア」。ボーカルは突出してうまい部分はないが、表現力やメロディーの安定感は高い水準だ。
2011年。