STYX

スティクスはアメリカのプログレッシブ・ハードロックバンド。ボーカル兼キーボード奏者を含む5人編成。デビュー当初はプログレッシブロック風、「分岐点」から「ピーシズ・オブ・エイト」までアメリカン・プログレッシブ・ハードロック、「コーナーストーン」から「ミスター・ロボット」までポップなロック。ボーカルが3人、ギターが2人おり、コーラスはプログレッシブ・ハードロックのバンドの中では厚い。代表作は「分岐点」「グランド・イリュージョン」「コーナーストーン」「パラダイス・シアター」。代表曲は「ベイブ」「レディ」「カム・セイル・アウェイ」「ミスター・ロボット」「ブルー・カラーマン」「スイート・マダム・ブルー」。

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STYX

1972年。アメリカン・プログレッシブ・ハードロックの5大バンドの中では最も早いデビュー。当初は「スタイクス」と呼ばれていた。「ベスト・シング」「クイック・イズ・ザ・ベスト・オブ・マイ・ハート」収録。1曲目から4部構成で13分超の大作。デニス・デヤングのキーボードは明らかにキース・エマーソンの影響を受けている。

2
STYX II

1973年。「レディ」「ユー・ニード・ラブ」収録。長い曲もあり、普通のロックンロールもあり、すでに個性を確立している。デニス・デヤングが5曲、ジョン・クルルスキーが2曲。トリプル・ボーカル、ダブル・ギター、ダブル・キーボードなので、カンサスと似たところがある。

3
THE SERPENT IS RISING

1973年。メロトロンを本格的に導入。「アズ・バッド・アズ・ジス」の後半はハリー・ベラフォンテの「バナナ・ボート」か。ラスト曲は「ハレルヤ・コーラス」。「ヤング・マン」「22イヤーズ」収録。

4
MAN OF MIRACLES

1974年。デニス・デヤングの作る曲とジョン・クルルスキーの作る曲のニュアンスの違いがはっきり分かる。デニス・デヤングはメロディアスというよりはプログレッシブ・ロック風でドラマチック。ボーカル・ハーモニーを駆使するのもデニス・デヤング。「ア・ソング・フォー・スザンヌ」「マン・オブ・ミラクルズ」で顕著だ。

5
EQUINOX

1975年。邦題「分岐点」。大手のレコード会社に移籍。初期の傑作「スイート・マダム・ブルー」収録。「ローレライ」は普通のラブ・ソングだが、曲の後半に重厚コーラスが次々と重なってくるあたりは、ドイツ・ライン川のローレライ伝説を踏まえている。「ミッドナイト・ライド」はアメリカの独立戦争にからむレキシントンの戦いで、イギリス国王軍の動きを独立軍に伝達した「真夜中の騎行」を踏まえている。「真夜中の騎行」はアメリカ独立の際の愛国的行動としてアメリカ人のほとんどが知っているできごと。

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CRYSTAL BALL

1976年。ジョン・クルルスキーが脱退し、トミー・ショウ加入。3作連続でクラシックの有名曲を取り入れている。最後の曲がドラマティックで長いのも踏襲。

7
THE GRAND ILLUSION

1977年。芸術的なジャケット。「大いなる幻影」で始まり「グランド・フィナーレ」で終わる。全曲がシングルになってもおかしくないほど充実した内容。トミー・ショウの初期の名曲「怒れ!若者」収録。「永遠への航海」ではジェイムズ・ヤングがシンセサイザーを弾いている。

8
PIECES OF EIGHT

1978年。「古代への追想」という副題がついている。しかし、この副題に沿った曲を書いているのはデニス・デヤングだけで、トミー・ショウの書いた曲は普通のロックだ。普通と言っても、どれもヒット性のあるいい曲。インストの「アク・アク」はイースター島の「アク・アク伝説」と思われる。「アイムOK」のパイプ・オルガンはシカゴの教会を使用。長めの曲はなくなったが、展開のある曲を4分や5分にまとめる技術はさすがだ。

9
CORNERSTONE

1979年。一般的にはこの「コーナーストーン」と次作の「パラダイス・シアター」がバンドの代表作という受け止められ方をしているが、ブリティッシュ・ロック的な展開や大仰さを求めていたファンからは受けがよくない。ホーンセクションを入れるにしても、ユーライア・ヒープの「ソールズベリー」のようなクラシック風ホーンならまだいいが、ジャズやリズム・アンド・ブルース風のサックスが入ってくると、ブリティッシュ・ロック指向のファンは動揺してしまう。「ホワイ・ミー」でたじろいだファンは「ボート・オン・ザ・リバー」で落胆を隠せなくなる。しかし、シンセサイザーを背景音にも使い、曲の雰囲気を決定する手法は、ロックの中でのシンセサイザーの位置づけに新しさを与えた。特にバラードでその効果が発揮され、「ベイブ」は80年代のロックのバラードのあり方を示したと言える。

10
PARADISE THEATRE

1981年。実在のシアターを題材にしたコンセプト盤。好セールスを記録。ジャケットと裏ジャケが対応している。「時は流れて」「ザ・ベスト・オブ・タイム」収録。

REPPOO

1981年。邦題「烈風」。来日公演に合わせて日本のみで発売されたベスト盤。11曲収録。この時期のベスト盤としては順当な選曲。「クリスタル・ボール」はライブ。「1928年(パラダイス・シアター・オープン)」「ロッキン・ザ・パラダイス」は「パラダイス・シアター」のオープニングと同様に2曲連続で収録されている。

11
KILROY WAS HERE

1983年。邦題「ミスター・ロボット」。再びコンセプト盤で、最後のスタジオ盤。「ミスター・ロボット」は日本語を使用。「愛の火を燃やせ」収録。

 
CAUGHT IN THE ACT

1984年。ライブ盤。どの曲もヒット曲もしくはスタジオ盤のハイライト曲。

12
EDGE OF THE CENTURY

1990年。トミー・ショウの代役にグレン・バートニック。どの曲もそこそこ売れそうなアダルト・オリエンテッド・ロック。「ショウ・ミー・ザ・ウェイ」収録。

 
GREATEST HITS

1995年。A&M時代のベスト。11年ぶりに黄金期の5人で「レイディ’95」を録音、収録。

 
GREATEST HITS PART.2

1996年。「グレイテスト・ヒッツ」に収録されなかった曲から13曲と、グレン・バートニック在籍時の未発表2曲を加えたベスト盤。「リトル・スージー」はゲイリー・グリッターの「ロックン・ロール・パート2」風、「イット・テイクス・ラブ」はバラード。

 
RETURN TO PARADISE

1997年。再結成ツアーのライブに新曲3曲を加えている。亡くなったドラムのジョン・パノッゾに変わりトッド・ズッカーマンが加入。新曲はいずれもバラード。「ディアー・ジョン」は亡くなったジョン・パノッゾについて歌った曲。

13
BRAVE NEW WORLD

1999年。9年ぶりのスタジオ盤。デニス・デヤングとトミーショウが揃った組み合わせでは16年ぶり。トミー・ショウとともにダム・ヤンキースで活動していたナイト・レンジャーのジャック・ブレイズが2曲、作曲に関わっている。全体に陰鬱で、全盛期の明るさは控えめ。

 
ARCH ALLIES LIVE AT RIVERPORT

2000年。REOスピードワゴンとのダブル・ヘッドライナー・ツアーのライブ。ボーカルはデニス・デヤングに代わってローレンス・ゴーワン、ベースはチャック・パノッゾに代わってグレン・バートニック。2枚組で一方はスティクス、もう一方はREOスピードワゴンのライブを収録。両方のCDの最後の2曲は、両バンド全員がそれぞれのヒット曲を合同で演奏した同一曲。すなわち「ブルー・カラー・マン」と「ロール・ウィズ・ザ・チェンジズ」は計10人でプレイし、両方のCDに入っている。しかもその2曲はバンド単独の演奏でも収録されているので、ダブリが多い。スティクスは実質9曲のうち、「エッジ・オブ・ザ・センチュリー」から1曲、「ブレイブ・ニュー・ワールド」から2曲を演奏。メンバー2人が入れ替わり、オリジナル・メンバーは1人になってしまったが、ボーカルやコーラスはそれほど変化はなく、違和感はない。

 
HITS FROM YESTERDAY&TODAY

2001年。1997年から2000年のライブから選曲。

 
AT THE RIVER'S EDGE LIVE IN ST.LOUIS

2002年。「アーチ・アライズ・ライヴ・アット・リヴァーポート」と同じメンバー。2002年のライブだと思われる。各時代のヒット曲をバランスよく選曲。デニス・デヤング不在で、ジェイムズ・ヤングもかつてほど高音を出さないのでコーラスは中音域が中心。

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CYCLORAMA

2003年。ライブ盤のメンバーでレコーディングされている。1曲目の冒頭からコーラスが「南無妙法蓮華経」と歌っているが、30年以上前にカナダのライトハウスが同じことをやっているので、さして驚きはない。最後の曲も「ゲンキ・デス・カ」という曲だが、これも「ミスター・ロボット」の延長線上。デニス・デ・ヤングがおらず、ジェイムス・ヤングも高音を出さなくなったのでハイトーン・コーラスはそれほどではない。プログレッシブ・ロック指向のメンバーがいないぶん、曲調はギターが中心のロック。「フーリング・ユアセルフ(パーム・オブ・ユア・ハンズ)」の短いリメイクはビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンが参加。90年の再編成以降では最も充実したアルバムかもしれない。

 
BIG BANG THEORY

2005年。ベイビーズ、バッド・イングリッシュのリッキー・フィリップスが加入。6人編成。チャック・パノッゾもいるのでベースは2人いることになるが、主にリッキー・フィリップスが活動するとみられる。13曲はカバーで、「ブルー・カラー・マン@2120」は再録音。ビートルズの「アイ・アム・ウォーラス」、ザ・フーの「恋のマジック・アイ」、ブラインド・フェイスの「マイ・ウェイ・ホーム」、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングの「自由の値」、ラヴィン・スプーンフルの「サマー・イン・ザ・シティ」、プロコル・ハルムの「ソルティ・ドッグ」、ジェスロ・タルの「ロコモーティブ・ブレス」、フリーの「ウィッシング・ウェル」などをカバー。

 
REGENERATION VOLUME I&II

2011年。「分岐点」から「パラダイス・シアター」までの13曲と、新曲1曲、ダム・ヤンキースの2曲を現在のメンバーで録音した企画盤。2枚組。ボーカルはトミー・ショウ、ジェイムズ・ヤング、ローレンス・ゴーワンの3人が交代で取る。デニス・デヤングがボーカルを取っていた曲は、デニス・デヤングよりやや低めの音程になっている。「ブルー・カラー・マン」は「ビッグ・バン・セオリー」に続き2度目の再録音。多くの曲は原曲をほぼなぞる演奏なので驚きは少ない。「永遠の航海」はエンディングが長め。新曲はジェリーフィッシュのような雰囲気があるアコースティックギターの曲。ダム・ヤンキースの2曲はダム・ヤンキースのアルバムにそのまま入っていても違和感はない。

THE GRAND ILLUSION/PIECES OF EIGHT LIVE

2012年。ライブ盤。2枚組。映像盤も出ている。「グランド・イリュージョン」「ピーシズ・オブ・エイト」を再現したライブ。シンセサイザーの音はほぼアルバム収録曲通り。もともとフェードアウトで終わっている曲は編曲して終わらせている。「ミス・アメリカ」「グレイト・ホワイト・ホープ」ではジェイムズ・ヤングが頑張っている。

LIVE AT THE ORLEANS ARENA LAS VEGAS

2015年。ライブ盤。「分岐点」から「パラダイス・シアター」までの曲が中心。キーボード、シンセサイザーの音はヒットした当時とほぼ同じになっている。かつてコーラスの高音を担っていたジェイムズ・ヤングが高音を出せなくなったのか、「スイート・マダム・ブルー」「スーパースター」などではコーラスの厚さで補完している。「大いなる幻影」はエンディングで独自の編曲をしている。「ライト・アップ」はジェイムズ・ヤングが歌う。「怒れ若者」はイーグルスのドン・フェルダーがギターで参加。ベースのチャック・パノッゾも一部の曲で参加している。日本盤は2016年発売。

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THE MISSION

2017年。トミー・ショウとゲス・フーのウィル・エヴァンコヴィッチが創作した物語に沿って曲が進む。ウィル・エヴァンコヴィッチはプロデューサーも担う。2033年の有人火星探査を想像しており、火星の後冥王星の衛星に向かうことになっている。冥王星の衛星が2013年にスティクスと命名されていることから、これ以降に物語を着想したとみられる。探査の目的は地球の人間を火星に植民することであり、アメリカ人のフロンティア精神、西部開拓の植民地主義的発想が見て取れる。探査チームの名前が「ヘディヴ」(副王)となっているのも、地球にいる王の代官として他の領域を支配する意識が表れている。ここは「ピーシズ・オブ・エイト」の「グレイト・ホワイト・ホープ」から変わらない部分だろう。「ザ・ミッション」というタイトルから。キリスト教の布教と同様に、目的を肯定的に捉えてるはずだ。70年代半ばごろの曲調を意識したような伝統的バンドサウンドとボーカルハーモニーで構成する。随所にかつてのサウンドを思わせる音色が出てくる。物語に沿うため、若さが感じられるポップな曲やボーカルを前面に出したバラードは少ないが、後半は希望を感じさせる。「オーヴァーチュアー」は「大いなる幻影」風の序曲。「レッド・ストーム」はかつてデニス・デヤングが多用していたシンセサイザーの音色を使う。「ゴーン・ゴーン・ゴーン」はオルガンが活躍するアップテンポの曲。「ジ・アウトプット」は「スイート・マダム・ブルー」を思わせる波状コーラスがある。チャック・パノッゾは「ハンドレッド・ミリオン・マイルズ・フロム・ホーム」のみ参加、ジェイムズ・ヤングは「トラブル・アット・ザ・ビッグ・ショウ」のみボーカルをとる。

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CRASH OF THE CROWN

2021年。15曲のうち、トミー・ショウ、ローレンス・ゴーワン単独の作曲がそれぞれ1曲、ウィル・エヴァンコヴィッチが2曲、それ以外はトミー・ショウとウィル・エヴァンコヴィッチの共作またはローレンス・ゴーワンが加わった3人の共作。リッキー・フィリップスも1曲関わっている。ボーカルはトミー・ショウとローレンス・ゴーワンがとる。ベースのチャック・パノッゾは2曲のみ参加、ジェイムズ・ヤングは1曲のみボーカルをとるだけで作曲もしなくなった。70年代後半から80年代前半のスティクスを思わせるところは前作と同じで、シンセサイザーの音色はデニス・デヤングの時代に似せている。前作と違うのはストーリー性のない歌詞だが、安全で平和な世界に向けて行動しようというメッセージが各曲に表れている。命を守ろうという曲もあり、社会背景を考えると、政治的な意味とコロナ禍の克服を意識している。「セイヴ・アス・フロム・アワセルヴズ」は第2次大戦中の英首相ウィンストン・チャーチルの演説を使用。「コモン・グラウンド」は「怒れ!若者」を思わせる。