1982年。ドラム、ベースは規則正しいリズムを演奏し続け、その上をギターが舞うように自由に演奏する。ボーカルは重視されず、商業性もほぼない。ポストパンク、ニューウェーブの実験的サウンドという解釈が妥当か。現在の再発売盤は1981年のライブ7曲、スタジオ録音1曲が追加されている。
1983年。ドラムが交代。ベースのキム・ゴードンがボーカルを取るようになった。ギターがサウンドの中心となり、ドラムは補助的な演奏だ。音質には構わず、ガレージ録音のような音だ。シングルの4曲が追加収録されている。
1985年。ドラムが交代。アンサンブルが事前に組み立てられ、録音時の即興的な雰囲気は少なくなっている。パティ・スミスのような、詩を朗読するような曲がいくつかある。1曲目は2曲目のイントロ、最後の曲は短いインスト曲なので、アルバムとして構成が練られていることが分かる。
1986年。ドラムが交代。アメリカでロックが商業的になった時代、音階や音色をはっきりさせないギターによって分かりやすいサウンドから一線を画している。土台となるベースとドラムは安定した演奏なので、サウンドが崩壊しない。ボーカルのメロディーは抑揚が少なく、朗読になっている部分も多い。
1987年。ボーカルにメロディーがついている曲が多く、曲調もパンクが多い。これまでで最も親しみやすいと言えるが、ギターまでパンクになっているわけではない。
1988年。実験的な曲が多く、音響の断片のほか、当時アメリカで流行していたポピュラー音楽を模倣したサウンドも聞こえる。「アディクテッド・トゥ・ラヴ」はマドンナやシンディ・ローパー、「メイキング・ザ・ネイチャー・シーン」はランDMCやパブリック・エナミーのような曲。ソニック・ユースとは趣が異なる曲が多いためチコーネ・ユースとして発売したという。
1988年。曲とアレンジに整合感があり、ロックのアルバムとして大きく飛躍した。ロックンロールの明快さやヘビーメタルの過剰さではなく、双方に反駁する非商業的なサウンドを追求する。自己満足におぼれた不協和音を減らし、形式上はロックの形になっている曲が増えているのはレコード会社の忠告かもしれないが、結果的に聞き手を増やしている。最後の曲は3部構成で14分。
1991年。音階の不明瞭さ、音とノイズの境界をあいまいなまま利用したギターによって、パティ・スミスのようなロックを演奏する。ロックにある快活さや明るさとは別の方向を向いたサウンドで、90年代の新しさを感じさせる。ソニック・ユースの代表作。
1992年。一般的なロック、ロックンロールに近い曲が増えているので、広く受け入れられやすい。ボーカルはグランジ、オルタナティブ・ロックの典型となるような感情優先の歌い方で、ギターもそれに呼応している。80年代のロックバンドにあった、見られ方、聞かれ方を重視する意識とは逆方向にある。バンドのアンサンブルは以前よりよく練られており、場当たり的に自由に演奏する場面は少ない。プロデューサーはニルヴァーナの「ネヴァーマインド」を制作したブッチ・ヴィグ。
1992年。シングル盤。タイトル曲はLPバージョンと修正バージョンが収録されている。
1994年。オープニング曲はギターの弾き語り。ギターの量が抑えめになり、ハードな曲が減っている。オルタナティブ・ロックの抑鬱的なイメージを体現している。「スターフィールド・ロード」はホークウィンドの「シルバー・マシーン」ようなサウンド。「トーキョー・アイ」は関西の少女を主人公としている。
1995年。ベスト盤。デビュー盤から1曲、2枚目以降から2、3曲を収録。
1995年。ギターの不協和音を追求してきたロックバンドが、グランジを通過したあとに制作した折衷的なサウンド。「ソーサー・ライク」はザ・バーズの「霧の8マイル」をのようなギターフレーズが使われる。4分台の曲が多い。アルバムタイトル曲は9分半、最後の「ザ・ダイアモンド・シー」は後半がギターの即興演奏となり20分弱ある。
1998年。曲がやや長くなった。編集上の不協和音が増え、落ち着いたテンポになっている。オルタナティブ・ロックの陰鬱さを反映しているとも言えるが、グランジで一時代を築いたバンドがそうした音をやる必然性はないだろう。
2000年。ギターをどう弾いたらどんな音が出てくるか、よりも、どう録音したらどう聞こえるか、を追求したようなアルバム。曲の実験性は強い。ベース兼ボーカルのキム・ゴードンの歌い方がビョークに近い曲もある。
2002年。ジム・オルークが加入し5人編成。キーボードやエレクトロニクスも使われるようだ。これまでで最もなじみやすいメロディーのロックと、即興演奏風に響くギターやバンドサウンドが同じ曲の中に入っている。11分ある「カレン・リヴィジテッド」は前半がロック、後半がギター演奏。9分の「シンパシー・フォー・ザ・ストロベリー」もギターが長く使われるが、即興演奏というわけではなく、構成に基づいて弾いている。
2004年。吹っ切れたようなオーソドックスなロックが多い。実験的なサウンドは少なくなり、バンドアンサンブルを重視している。メンバーが1人増えたことでサウンドに厚みが増し、音の加工の仕方が耳になじみやすくなった。前作に続き聞きやすい。
2006年。シングルのB面曲、未発表曲などを収録した企画盤。
2006年。ジム・オルークが抜け4人編成。ジム・オルークがいたころのサウンドづくりを受け継ぎ、前作と同様に聞きやすいロックだ。
2009年。ベースが加入し5人編成。ベースが2人いることになる。最後の曲以外は2、3分台が多く、オープニング曲や「サンダークラップ・フォー・ボビー・ピン」「ノーウェイ」は勢いがある。新しいジャンルの代表的バンドとして認知されたアメリカの多くのバンドが、デビュー当初の先鋭的なサウンドから普遍的なロックのサウンドに変わる有り様を、ソニック・ユースもたどっている。
2011年。