1997年。ボーカル兼ギター、キーボードを含む4人編成。アイスランド出身。楽器を使って演奏するよりは、音響効果で楽器を利用しているという印象。リズム感が不明確で、実験音楽の要素が強い。曲の多くはインストで、歌詞はアイスランド語。ロックやポップスとは呼びにくい。たいていの場合、空間のある響きや幻想的なサウンドがアイスランドのイメージと結びつけられて語られる。
2001年。ストリングスの量が多くなり、ボーカルがある曲も増えた。10曲のうち7曲にボーカルが入るが、依然アイスランド語なので、歌詞の意味を読み取ることも一般には難しい。このアルバムで日本デビュー。
2002年。ドラムが交代。8曲あるが、曲のタイトルはない。エンディング曲はハードなサウンドが聞ける。最短で6分半、最長13分で計72分。前作に比べ、再び実験的なサウンドに戻っている。曲にタイトルがなくても雰囲気で楽しめる作品であり、特に曲の切れ目を意識することなく聞ける。アルバム全体が1個の曲としても違和感はない。これを洋楽のロックやポップスとして売り出したところが販売戦略上のポイントか。
2005年。一般的な洋楽ファンにも親しみやすくなったとはいえ、前作までのサウンド傾向は大きく変わらない。11曲で66分なので、曲の長さは前作の3分の2になっている。曲にもタイトルがつき、ロック寄りのリズムを持つ曲もある。これまでで最も接しやすい体裁。
2007年。邦題「HVARF/HEIM~消えた都」。2枚組EP。「HVARF」は5曲で36分、「HEIM」は6曲で35分。「HVARF」はエレクトリック、「HEIM」はアコースティック・ライブの但し書きがある。エレクトリックやアコースティック・ライブといっても、もともとのサウンドがそうした分類を拒否するような音だ。「クヴァルフ」は1995年から2002年までの作曲で、3曲は未発表曲。「ヘイム」は全曲がライブ。
2008年。邦題「残響」。オープニング曲の「ゴーブルディゴーク」はパーカッションを強調したアフリカ風のリズム。続く「インニ・ミェル・シングル・ヴィトゥレイシングル」は前向きで厚いサウンド。「フェスティヴァル」は9分あり、徐々に盛り上がっていく。アルバムの後半はもの悲しさ、わびしさをたたえた曲が中心。「オール・ボート」はオーケストラを使用する。
2011年。2枚組ライブ盤。アルバムの雰囲気をそのままサウンドで復元している。世界の多くの人が想像するアイスランドの幻影を、ギターとキーボードで極端に曖昧にし、ボーカルとドラムでダイナミックさを作る。オープニング曲の「スヴェン・ギー・エングラー」はイントロも含む。「ヴィズ・スピルム・エンダロイスト」「インニ・ミェル・シングル・ヴィトゥレイシングル」はポップ。
2012年。邦題「ヴァルタリ~遠い鼓動」。キーボード、エレクトロニクスで曲を覆い尽くし、リズム、ビートにあたるものがほぼなくなっている。一般的な親しみやすさから遠ざかり、良く言えば芸術志向、悪く言えば自己満足を追求している。デビュー当初にあったサウンドを再演したとも言え、革新性は薄れている。タイトル、歌詞はアイスランド語。
2013年。キーボード奏者が抜け3人編成。これまでで最もドラムとパーカッションが目立ち、ビートが曲の根幹をなしていることが多い。オープニング曲の「ブレンニステイン」はずっしりと響く低音のドラムで始まる。「イースヤキ」から「ストルムル」は一般的なロックから見ればまだかなり前衛的だが、これまでのシガー・ロスのサウンドを考えると驚くほど分かりやすい。「ブラゥスラウズゥル」もドラムが活躍する。「ラフストラウム」はコーラスを含めた曲の盛り上がりが大きい。日本盤ボーナストラックの2曲はビートのない「ヴァルタリ」路線の曲。シガー・ロス、モグワイ、ムーム、トータス、ニューヨーク・ブルックリンのインディーズのようなアーティストは、誰にでも分かるサウンドを避けることによって解釈の可能性と多義性を大きく担保し、分かりやすさを歓迎する大衆層に対して意識的に無関心な態度をとってきた。そこには、分かる者だけが分かればいいという一種の階級(階層)志向があり、それはつまり(そのアーティストが意識しているかどうかに関わらず)インテリ志向だ。ビートルズ、ビーチ・ボーイズ、ローリング・ストーンズが人気だった時代に、ニューヨークの大学生がボブ・ディランをはじめとするフォークを聴いていたのと同じで、音楽に代理させた階層文化だ。90年代はその役割をレディオヘッド、ビョークが担い、2000年代に入ってから通俗化した。シガー・ロスもその域に達しようとしている。
2010年。シガー・ロスのボーカル兼ギター、ヨンシーのソロアルバム。シガー・ロスよりもアップテンポで、リズムを明確にした曲が多い。オープニング曲の「ゴー・ドゥー」はドラムは力強い。曲調はやや明るい。サンプリングは使っているがキーボードは使わず、弦楽器、管楽器は実際の楽器を使っている。グロッケンシュピールやカリンバ、ピアノなど、減衰音を多用して連続的に弾くことで、音の固さと曲の浮遊感を両立している。9曲で40分。
2010年。ライブ盤。「ゴー」の全曲と、未発表曲4曲、アルバム未収録曲1曲の14曲。MCや歓声も入り、案外親しみやすい。最後の「グロウ・ティル・トール」は9分あり、終演後のBGMも含まれているようだ。