1994年。ギター、ベース、ドラムと多少のサックス、シンセサイザーで最小限のアンサンブルを構成する。当時のロックの主流と共通するのは、ボーカルがポップスにもソウルにもブルースにもつながらない非80年代風の歌い方になっていることだ。歌うというよりは適当に声を出しているようにも聞こえる部分がある。バンドサウンドはこの当時のグランジやオルタナティブロック、ラウドロックと大きく異なり簡素さを追求する。広義のオルタナティブロックとも言えるだろう。日本盤は2001年発売。
1995年。ロックの力強さを感じさせる曲が過半数を占める。タイミングを合わせたアンサンブルも多い。ボーカルも「ラモンツ・ラメント」ではシャウトが出るほどに力が入っている。前作にあったサックスは使われないが「パラソル」「アローン、フォー・ザ・モーメント」ではバイオリンとチェロが使われる。「ア・マン・フー・ネヴァー・シーズ・ア・プリティー・ガール・ザット・ヒー・ダズント・ラヴ・ハー・ア・リトル」「アース・スター」はインスト曲。「ザ・ワールド・イズ・アゲンスト・ユー」「アイ・ウィル・ホールド・ザ・ティー・バッグ」はロックの要素が大きい。日本盤は2001年発売。
1995年。バンドサウンドは概ねロック由来のまま、ボーカルは「ザ・シー・アンド・ケイク」と「ナッソウ」の間にある抑制的な歌い方となっている。90年代以降の新しいロック、あるいはバンド形態の音楽を包括的に、便宜的にオルタナティブロックと呼ぶならば、下位ジャンルが未設定のオルタナティブロックになるだろう。「エスコート」は前作の「アイ・ウィル・ホールド・ザ・ティー・バッグ」を継承するドラムとギター中心のインスト曲。このアルバムで日本デビュー。日本盤は1996年発売。
1997年。エレクトロニクスとシンセサイザーを大きく取り入れ、デビュー以来最も大きな音の変化となった。メロディーの中心楽器はキーボードとなっている。エレクトロニクスとバンドの各楽器が相互に「バーズ・アンド・フラッグ」「ドゥ・ナウ・フェアリー・ウェル」はメロトロンのような音を使う。この時点でのエレクトロニクスやシンセサイザーで何ができるかを試したとも言える。日本盤ボーナストラックの5曲はいずれもエレクトロニクスの要素を残したロック。
2000年。エレクトロニクス由来の音は前面には少なくなり、バンド演奏を補完する。オープニング曲の「アフタヌーン・スピーカー」、「ユー・ビューティフル・バスタード」はエレクトロニクスを使っていることがよく分かる音だが、「オール・ザ・フォトズ」「ザ・コロニー・ルーム」「ミッドタウン」はアコースティック調のギターとパーカッション、抑制的なボーカルがボサノバをはじめとするブラジル音楽を思わせる。エレクトロニクスが多少入っている曲でも全体の曲調は変わらず、現代型の、あるいは2000年代のブラジル音楽風ポップスになっている。
2003年。再びエレクトロニクス、シンセサイザーを多用する。変わらないのはボーカルの歌い方だけだ。多くの曲でドラムマシンを取り入れ、実際のドラム演奏も組み合わせる。シンセサイザーは輪郭の曖昧な持続音が中心。「ホテル・テル」「ル・バロン」「ショルダー・レングス」は現代的な音だ。「レフト・サイド・クラウデッド」と「インテリアーズ」の後半は珍しく歪みの大きいギターを使う。「ザ・フォーン」以降の3枚はエレクトロニクスとバンドサウンドの組み合わせ方の実験場になっている。「サウンド・アンド・ヴィジョン」はデヴィッド・ボウイのカバー。
2007年。バンド演奏中心のサウンドになった。メロディーの中心楽器がギターに戻っている。「ミドルナイト」「ライトニング」「イントロデューシング」ではキーボードの音も聞こえる。「ライトニング」等ではドラムマシンを使っており、エレクトロニクスを排除しているわけではないが、以前に比べれば目立たないくらいに減っている。「ウィ」のころのようなブラジル音楽風の雰囲気はあまりなく、ロックの押しの強さがある。
2008年。バンド演奏とエレクトロニクスのどちらかに偏ることなく、シンセサイザーを適度に用いたロック。エレクトロニクスとバンド演奏のバランスに変化はあるとしても、曲調や全体像に大きな変化はなく、評価も上がらない。「ニュー・スクールズ」は昔ながらのギターソロのような間奏がある。「ウィークエンド」はシンセサイザー中心。「CMSシークエンス」「ミラーズ」は1分台のインスト曲。
2011年。EP盤。6曲収録。日本盤は出なかった。
2012年。前作と同様にオープニング曲はアップテンポのロックで始まる。3曲目まではこれまでのバンド演奏の雰囲気をそれぞれ表している。「ジ・インヴィテーションズ」はシンセサイザーを前面に出している。1980年代前半のキーボードが入ったポップなロック30年後に再現しているようなサウンド。30年後だからこそ別の呼び方をされるし、されなければならないが、表現の拡張の幅は大きくない。
2018年。