サバトンはスウェーデンのヘビーメタルバンド。ボーカル兼キーボード、ギター2人、ベース、ドラムの5人編成。戦争に関する曲がほとんどを占める。
2005年。戦記、戦争を題材にした歌詞で豪快なヘビーメタルをやっている。第2次世界大戦、ベトナム戦争、中東戦争、湾岸戦争、イラク戦争を取り上げており、歴史的な戦争よりも現代の戦争に関心があるようだ。80、90年代のハードロック、ヘビーメタルに影響を受けた男性的なロックで、戦争を歌うのも男らしさや英雄譚(ヒロイズム)に酔っている面がある。ボーカルは音域は広くないが、グレイヴ・ディガーのクリス・ボルテンダールのような野卑で太い声だ。「メタル・マシーン」は70、80年代のヘビーメタル、ハードロックの曲名を歌詞に織り込んだ曲。90年代以降のヨーロッパ大陸型ヘビーメタルではなく、80年代の英米型ヘビーメタルに影響を受けていることを示している。
2006年。キーボードが加入し6人編成。前作に続き、アルバムの最後にヘビーメタル、ハードロックのバンド名を多数織り込んだ曲を入れている。ここから分かるのは、自分たちが関心を持ったものに強い愛着と忠誠心を抱き、それを顕示したがるということだ。それは戦争に関する歌詞でも同じことだ。「ライズ・オブ・イーヴル」はブラック・サバス風。「ニュークリア・アタック」は広島と長崎の原爆投下を扱う。
2007年。2002年に録音したアルバムを5年後に発売。オープニング曲はジューダス・プリーストの「ラム・イット・ダウン」を思わせる。アルバムタイトル曲はヘビーメタルを絶賛する曲。このアルバムでは戦争に特化した歌詞になっていない。ボーナストラックの「ドリーム・デストロイヤー」はジューダス・プリーストの「ペインキラー」を思わせる。このアルバムを2002年に発売しなかったレコード会社の判断は間違っていない。
2008年。孫子の「兵法」をアルバムタイトルにし、曲間にも「兵法」のナレーションが入る。曲が「兵法」の内容に沿っているわけではなく、「プリモ・ヴィクトリア」「アッテロ・ドミナトゥス」のように第1次、第2次世界大戦を題材にした曲が多い。ボーカルの薄さと演奏の厚さバランスをとるためか、コーラスが大幅に強化されている。コーラスはメンバーではなく男女4人ずつのゲストが参加している。キーボードもギターと同じように曲の厚みを加えることが多い。「アッテロ・ドミナトゥス」から大きく飛躍したと言える。「クリフズ・オブ・ガリポリ」収録。
2010年。「ジ・アート・オブ・ウォー」からナレーションを除き、一般的な形式に戻した。戦争を題材にしていても曲はそれぞれ内容が違うので、曲調も変わる。ミドルテンポを含め4分程度に曲をまとめ、うまく起伏を作っている。コーラスはサバトンのメンバーを含めると20人くらいに増えた。「メタル・リッパー」は毎回収録されるヘビーメタル讃歌で、イントロはジューダス・プリーストの「ザ・リッパー」を引用している。ポーランドでヒットしたのは、緩衝国のポーランドが第2次世界大戦で重大な戦地になり、ポーランドに関する曲が多く含まれたからだろう。このアルバムで日本デビュー。
2011年。ライブ盤。2枚組。1枚目は曲が終わるたびに数十秒から2分、ボーカルの雑談が入る。これが勢いを削いでいる。ライブ自体も特に工夫はなく、2枚目のように1曲終わるごとにフェードアウトする方がライブアルバムとしての出来がよい。
2012年。戦争に強い関心を持つ男性は過去を美化するためナショナリズムになりやすいが、このアルバムはその最たるものだろう。スウェーデンの歴史で国際的に最も存在感を高めた国王を取り上げている。自分たちの国は昔はこんなにすごかった、自分たちの歴史は偉大だと他者にアピールしたい心性は、90年代以降のヨーロッパのヘビーメタルの中核だ。戦闘的だ、勇壮だという表面的な印象よりも、ヨーロッパの若年下層にサバトンのアルバムが支持されることの今日的意味を考察した方がいいだろう。ヘビーメタルとしては「コート・オブ・アームズ」の路線を引き継ぐ。スウェーデンで大ヒットした。
2014年。ボーカルとベース以外の4人が抜け、3人が加入。ボーカル兼キーボード、ギター2人、ベース、ドラムの5人編成。第2次世界大戦等の戦争で、戦功のあった兵士を取り上げる。各曲には誰を取り上げているかを示す個人名が付記されている。自分が属する組織や仲間に対してどれだけ忠義を示したかが重視されている。「ハーツ・オブ・アイアン」はギターソロでバッハの「G線上のアリア」を引用。ボーナストラックの「マン・オブ・ウォー」はマノウォーを賞賛する曲。「フォー・フーム・ザ・ベル・トールズ」はメタリカの「誰がために鐘は鳴る」のカバー。
2015年。ライブ盤。2枚組。「ワールド・ウォー・ライヴ」と同様に曲間の話が長い。
2016年。ライブ盤。
2016年。主として最後の戦いを扱っている。諦めないという意志が重視されたようだ。戦争のエピソードを取り上げるのはバンドの趣味として許容したとしても、個別のエピソードをただ並べるだけの構成からは脱却すべきだろう。「ブラッド・オブ・バノックバーン」はディープ・パープルの「ハイウェイ・スター」、「ヒル3234」はメタリカの「クリーピング・デス」を思わせる。「城山」は西南戦争を扱っている。ボーナストラックの「バーン・イン・ヘル」はトゥイステッド・シスターのカバーで、ギターソロはモーツァルトの交響曲第40番。
2019年。ギターの1人が交代。第1次世界大戦をテーマにしている。アップテンポの曲が多く、全体としてハードで勢いがある。ボーカルの多くの部分をコーラスで分厚くしている。コーラスはクラシック調になった。「ザ・レッド・バロン」はユーライア・ヒープの「安息の日々」のような曲で、イントロにバッハの小フーガト短調を使っている。何の戦争に注目するにせよ、前線ばかりを取り上げている限りは高い評価にならない。