リナ・サワヤマは日本生まれイギリス育ちの女性アーティスト。1990年生まれ。
2020年。「ダイナスティ」「コムデギャルソン」「アカサカ・サッド」「パラダイシン」など、アメリカやイギリスの女性ポップス歌手のアルバムと変わらない曲が並ぶ。「XS」はギターが随分ハードだと思ったら「STFU!」は90年代後半のヘビーロックのような曲だ。「ラヴ・ミー・フォーミー」でも間奏はわざわざ古風なギターソロを入れている。このアルバムは、先進国に住むディアスポラ的東洋人の精神的苦痛、日本人、イギリス人の大衆性に対する異議、複合的に抑圧された自己、資本主義自由経済の矛盾といった現代的な問題を、日本に生まれてイギリスで暮らすリナ・サワヤマを通じて発信し、マドンナやレディー・ガガ、ビヨンセ、ロード、フィービー・ブリジャーズ、リゾ並みの高い社会性を持つ。2000年代以降出てきた女性ポップス歌手やシンガー・ソングライターの多くは、歌詞によって自らの境遇や意見を表明するが、それが世界共通の社会的課題と一致することは少ない。性別に関係なく、若くして成熟した個人として各所から賞賛されるのは当然と言える。「チョーズン・ファミリー」がハイライト。
2022年。社会批判を直接的に表現している曲としては「ディス・ヘル」くらいになった。日本の地名は出てこない。アルバム全体として、歌詞がリナ・サワヤマの個人的な精神状態や葛藤、心理的困難の克服にシフトしており、社会に楯突く要素は減っている。タイトル曲はマックス・マーティン風のメロディー。アルバムの曲調も80、90年代のロバート・ジョン・マット・ランジのようにマイルドだ。バンドサウンドでは80年代ハードロックにも聞こえる。
2024年。ジャケットが異なる新盤。当初のアルバムにも同じ図柄の写真が入っている。