RHAPSODY/RHAPSODY OF FIRE

ラプソディーはオーケストラを本格的に取り入れたヘビーメタルバンド。イタリア出身。ラプソディーとラビリンスが90年代後半のイタリアのヘビーメタル2大バンドだった。アルバムは大作志向で、物語性が強い。ボーカルのファビオ・リオーネはヨーロッパでも屈指の歌唱力だった。クラシックの影響も見られるが、職業作曲家が作曲していたころの映画音楽により強い影響を受けている。

 
ETERNAL GLORY

1995年。いくつかのアルバムで言及されているデモ。ボーカルはファビオ・リオーネではなく前任者。「インバーナル・フューリー」は「レイジ・オブ・ザ・ウィンター」の原曲。既に完成形に近い。「ウォリアー・オブ・アイス」はボーカル・メロディーがやや異なる。「ランド・オブ・イモータルズ」は前奏も含めて1曲となっている。デビュー盤ではオーケストレーションでかなりドラマチックに仕上げたことが分かる。「エターナル・グローリー」はデモ段階から語りや雷鳴、雨音などの効果音が入っている。メロディーはかなり異なる。

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LEGENDARY TALES

1997年。キーボードを含む5人編成。クラシックのオーケストラと混声合唱を大幅に取り入れた物語性の強いヘビーメタル。注目すべき点は、バンドがイタリア出身でありながら、ドイツ的伝統に従った音を作っていることだ。つまり神話的で、象徴主義で、擬歴史的で、壮大であることだ。民謡の旋律を多用していることもドイツ・ロマン主義的と言える。サウンドの主導権を握っているのはギターとキーボードで、ギターのルカ・トゥリッリはアメリカ映画音楽の巨匠であるジョン・ウィリアムズに影響を受けているという。ジョン・ウィリアムズは「スター・ウォーズ」や「スーパーマン」「E.T.」「未知との遭遇」のような映画に関わっているが、音楽はいずれも壮大で勇ましく、映画自体の内容は西部開拓の精神が基底にある。このアルバムが初めてラジオで紹介されたときの聞き手の反応は相当よかった。ボーカルのファビオ・リオーネはラビリンスのジョー・テリーと同一人物で、初めてラジオで流れたときも曲が終わらないうちにその人だと分かるほど特徴的だった。

EMERALD SWORD

1998年。シングル盤。「エメラルド・ソード」を言葉通りに「エメラルドの剣」だと思うヨーロッパ人はいない。「ランド・オブ・イモータルズ(リメイク)」はボーカルメロディーを若干変え、コーラスも異なっている。バンドサウンドを強調し、ギターが目立つ。

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SYMPHONY OF ENCHANTED LANDS

1998年。ベースが交代。デビュー盤の続編。個々の曲のつながりが強くなっており、曲間に語り等が入る。物語性が強く、場面に応じて舞台設定が変わるがごとく、曲の構成や雰囲気も頻繁に変えられている。

 
HOLY THUNDERFORCE

2000年。先行シングル。「ダーガー、シャドーランド・オブ・ザ・ブラック・マウンテン」は2倍近い長さになっている。「レイジ・オブ・ザ・ウィンター」はボーカル・メロディーがやや違うがデモと同じではない。アレンジも厚い。

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DAWN OF VICTORY

2000年。ドラムが交代。前作と同路線。同じ物語が続いているのでサウンドが大きく変わることはない。

 
RAIN OF A THOUSAND FLAMES

2001年。企画盤とはいえ、従来のアルバムと同じ40分以上ある。7曲のうち4曲はトータル23分の4部構成。ドボルザークの交響曲第9番「新世界より」の一節を使用、初めてクラシックから本格的に引用した。

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POWER OF THE DRAGONFLAME

2002年。「エメラルド・ソード」の物語はこのアルバムで終わる。エメラルドはそれ自体、魔力を封じるという意味があるが、希望の象徴でもある。剣にも象徴的意味はたくさんあるが、この物語では「正義」だろう。「強い意志を持って行動すれば希望は実現する」というのが物語の趣旨かもしれないが、もともと神話には教訓や教育的主題がないのが普通で、「意志あるところ・・・」的な見方よりも英雄物語として見るのが適切だ。

 
TALES FROM THE EMERALD SWORD SAGA

2004年。ベスト盤。

 
THE DARK SECRET

2004年。アルバム収録曲のバージョン違いとアルバム未収録曲4曲収録。最後の曲はゴブリンのカバーで、映画のサウンドトラック。「セイクリッド・パワー・オブ・レイジング・ウインズ」は10分を超える。

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SYMPHONY OF ENCHANTED LANDS II -THE DARK SECRET

2004年。新しく物語が始まるにしてはサウンドに新機軸がなく、面白味に欠ける。物語そのものが「シンフォニー・オブ・エンチャンテッド・ランズ」の続編の形をとっているので大きく変える必要はないが、全く変えないのも理由を見出しにくい。このアルバムからまた話の続編が続くならば、評価が大きく上がることはない。仮に次作以降、すなわち物語の途中からサウンドが変化するならば、相応の理由が要求される。「ザ・ラスト・エンジェルズ・コール」のギターソロは有名なクラシック曲、もしくはヨーロッパ民謡を使用しているが曲名が思い出せず。

 
THE MAGIC OF THE WIZARD'S DREAM

2005年。「シンフォニー・オブ・ザ・エンチャンテッド・ランズII」収録曲のオーケストラ・バージョン、英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語バージョン収録。いずれも映画俳優のクリストファー・リーがボーカルで参加している。この5バージョンはマノウォーのジョーイ・ディマイオがプロデュースしている。アルバム未収録曲2曲を含む他の3曲はルカ・トゥリッリとキーボードのアレックス・スタロポリがプロデュース。

 
LIVE IN CANADA 2005 THE DARK SECRET

2006年。ライブ盤。オーケストラや合唱も再現されるが、実際に演奏されているわけではない。ギターを1人加えて6人編成で演奏している。ファビオ・リオーネのボーカルのうまさがよく分かる。

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TRIUMPH OR AGONY

2006年。前作の路線。「ザ・ミスティック・プロフェシー・オブ・ザ・ディーモンナイト」は5部構成で16分半。他の10曲はおおむね3分から5分。オーケストラを取り入れたヘビーメタルとしては、ある程度の到達点に達しているので、なにか別の基軸を打ち出した方がよい。

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THE FROZEN TEARS OF ANGELS

2010年。3作連続で展開される物語の3作目。サウンドがそれほど大きく変わらないことがあらかじめ分かっているため、驚きはほとんどないが安心して聞ける。オープニング曲の「ダーク・フローズン・ワールド」は2曲目のイントロ。ハードな曲が3曲続いたあと、「不滅の炎」は民俗音楽になる。アルバムタイトル曲は12分。ラプソディーのアルバムはほぼすべて、ギターのルカ・トゥリッリが創作した物語に沿って進むが、これは作曲手法の都合だと思われる。曲と詞を何もないところから別個に作れる人もいれば、何かを題材にした方が作りやすい人もいる。中世の画家が、表現の実験としてギリシャ神話や聖書にテーマを求めたのと同じように、ラプソディーは自ら創作した物語を扱う。アモルフィスがカレワラ叙事詩を扱い、アイアン・メイデンが戦史を扱うのと同じだ。テーマの内容や主張はいわばダシであって、それ自体の(またはそうした作曲手法の)評価よりは、サウンドだけを評価する方が適切だと思われる。ラプソディーのサウンドは、ラプソディー以外に求めることができないレベルになっており、キーボードや合唱とバンドサウンドの絡み合いは他のバンドと一線を画している。このアルバムで3作続いた物語が終わるので、次のアルバムはややサウンドが変わるかもしれないが、手法は変わらないだろう。

 
THE COLD EMBRACE OF FEAR

2010年。7曲で35分ある一連の物語となっている。このうち明確な歌詞がある曲は3、5、6曲目の3曲。3曲は15分ある。

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FROM CHAOS TO ETERNITY

2011年。ギターが1人増え6人編成。ナレーションや台詞があるのはイントロの「アド・インフィニトゥム」と19分ある「ヒーローズ・オブ・ザ・ウォーターフォールズ・キングダム」で、それ以外は4分から5分のヘビーメタル。オーケストラや合唱は大量に使われているが、効果音やナレーションは案外少ないので、一般的なアルバムとして聞ける。ギターが増えたので、ギターの出番が多くなっている。このサウンドの発展形をどこかで出してもよかったのではないか。これまでのラプソディーのサウンドの範囲内に収まっている。

LIVE FROM CHAOS TO ETERNITY

2013年。ライブ盤。2枚組。ギターのルカ・トゥリッリが抜け、ギターが2人入っている。ベースも交代。合唱やオーケストラをキーボードと録音によって再現しているため、一般的なバンドのライブと変わらない。「トッカータ・オン・ベース」はバッハのトッカータを用いたベースソロ。

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DARK WINGS OF STEEL

2013年。オーケストラの音で大仰なサウンドにする手法はこれまで通りだが、全体がそうであると逆に平板だ。歌詞に物語を設定することは、サウンドの大仰さに意味を持たせるとともに、大仰にする必要のない部分をつくって全体のバランスを取るという役割があったと認識できる。それをルカ・トゥリッリが抜けたことによって実感してしまうのは皮肉だ。スピード感のある曲が少なく、ミドルテンポの曲に同じようなストリングスの音を乗せているのは工夫がないだろう。オーケストラの大仰さが迫力を持って聞こえてくるのは、大仰さのない音楽が存在するからだ。次作以降は相当の変革が求められる。

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INTO THE LEGEND

2016年。アルバム全体に共通する物語は設定されず、個々の曲が独立している。ナレーションはない。デビュー当初のように民族音楽風の曲やバラードがあり、食傷気味にさせない。レベルの高いソプラノ歌手が参加しており、合唱隊とともにボーカルの多様性も感じられる。イントロがあり、最後の曲が15分あるところは過去のアルバムを踏襲しており、デビュー時と変わるところは少ないが、前作の難点をうまく解消している。ソプラノ歌手を効果的に使っているので、使い方によっては別の展開が期待できる。

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THE EIGHTH MOUNTAIN

2019年。ボーカル、ドラムが交代。ボーカルは前任のファビオ・リオーネと比較されるのは仕方ないが、全体として声の力は弱くなっている。ラプソディーは同時に演奏されている楽器の数が多いため、ボーカルはそれに劣らない肉厚さが必要で、高音が出にくいボーカルは苦しい。デビュー時からのメンバーがキーボード奏者のみとなり、作曲もキーボード奏者が中心となっている。ラプソディーはヘビーメタルバンドとして既に個性が確立しているため、キーボード奏者がこのアルバムの路線を続けていけば、今後も大きく変わることはないとみられる。