1982年。EP盤。5曲収録。ザ・スミスのデビュー盤のような、抑制的なギターのバンドサウンド。「ウルフ、汝、卑しきものよ」「目眩」といった曲名からは、修辞的、抽象的、夢想的な志向が見える。「夜の庭師」「カーニヴァル事典」はベスト盤にもよく収録される。全曲が1987年の「デッド・レター・オフィス」に収録されている。
1983年。フォークロックの影響を受け、パンクを通過したサウンドで、勢いと整合感のバランスがうまく取れている。ギターは不協和音をあまり伴わない聞きやすい音で、若干のキーボードも使う。大衆的陽気さはほとんどない。マイケル・スタイプのボーカルは低音部分ではブルース・スプリングスティーンのように聞こえる。「ラジオ・フリー・ヨーロッパ」「トーク・アバウト・ザ・パッション」収録。全米36位、50万枚。
1984年。邦題「夢の肖像」。ロックの勢いを重視した研ぎ澄まされたサウンド。12弦ギターを多用し、バーズの演奏でブルース・スプリングスティーンが抑制的に歌うような曲調。「セントラル・レイン(サウス・セントラル・レイン)」「想いはひとつ」「ロックビル」収録。全米27位、50万枚。
1985年。邦題「玉手箱」。先に歌詞があり、それを聞かせるように作ったような曲が多くなっている。歌詞は物語になっているものの、解釈は多様さを許容するので聞き手の想像を膨らませる。歌詞が物語になっているので、サビで曲のタイトルを連呼するような覚えやすい曲は少ない。「夕暮れ少年」「ドライバー8」「R.E.M.人生講座」「遠くにありて」「緑の季節」収録。全米28位、50万枚。
1986年。力強さが戻った。「夢の肖像」のころに比べ、歌詞が説明的になり、長くなっている。キーボード、バンジョー、アコーディオンも使い、曲調も多彩になった。全体として編曲がよく練られ、演奏も整然としている。「ビギン・ザ・ビギン(begin the begin)」はスタンダード曲のカバーではないが、「ビギン・ザ・ビギン(begin the biguine)」を踏まえた歌詞になっている。「スーパーマン」はベースがボーカルをとる。「フォール・オン・ミー」「アイ・ビリーヴ」「クヤホガ」収録。全米21位、50万枚。
1987年。アルバム収録のために録音した曲のうち、収録されなかった曲を集めた企画盤。「白のトルネード」はシングル盤デビューした1981年の曲。「ゼア・シーズ・ゴー・アゲイン」「ペイル・ブルー・アイズ」「ファム・ファタル」はヴェルヴェット・アンダーグラウンドのカバー。「トーイズ・イン・ジ・アティック」はエアロスミスのカバー。15曲全てに、ギターのピーター・バックが解説を付けており、どの曲がいつごろ録音されたのかが分かる。ピーター・バックは「ハロルドの声」を「必聴曲」としており、確かに出来はよい。最後の5曲は「クロニック・タウン」の全曲。
1987年。同時代のロックの影響を受けたか、ボーカルも各楽器も聞き取りやすくなっている。曖昧さをあまり残さないサウンドは、異質な物を排除する主流のロックに近い。しかし、「最高級の労働歌」「世界の終わる日」のような社会的な曲があることによって他のバンドと差をつけ、初期からの聞き手を満足させる。ロックンロールや明るいハードロックの曲もあり、懐は広い。「ワン・アイ・ラヴ」収録。全米10位、200万枚。
1988年。ベスト盤。12曲収録。「夜の庭師」は1982年のEPから。「ロマンス」は映画のサウンドトラックから。日本盤は1989年発売。全米44位。
1988年。このアルバムから大手レコード会社から発売されるようになった。日本では曲に邦題がつかなくなり、曲のイメージがつかみにくくなっている。オープニング曲はロックらしさを出しているが、主流のロックを批判しているような曲だ。3曲目以降は抑制の効いたロックとなる。「ワールド・リーダー・プリテンド」は適切な邦題を付けるべきだった。「スタンド」「オレンジ・クラッシュ」は代表曲。全米12位、200万枚。
1991年。キーボード、ストリングスがギターと対等の使われ方をする。「ラヂオ・ソング」の後半はギターが抑えられ、オルガンが活躍する。「ルージング・マイ・レリジョン」「ニア・ワイルド・ヘヴン」「シャイニー・ハッピー・ピープル」は、力の抑制が効いた明るさを持つ。「ラヂオ・ソング」はブギー・ダウン・プロダクションズのKRS・ワンが参加しており、デビュー以来のイメージ通り、知性を感じさせる人選だ。全米1位、400万枚。このアルバムから世界中でヒットするようになった。
1991年。イギリスで発売されたベスト盤。16曲収録。「カーニヴァル事典」は1982年のEPから。日本盤は1992年発売。
1992年。時代の空気の変化を反映し、80年代とは明確に異なるサウンドを提示している。ストリングスやキーボードを多用し、音の輪郭を曖昧にしている。不確実さと不安定さが内省と諦観となって、アコースティックギターで余韻を残したサウンドが多くなっている。内省と諦観を抑制的に表現したのがR.E.M.で、ロックのエネルギーに転換したのがグランジだと言える。「ドライヴ」「エヴリバディ・ハーツ」「マン・オン・ザ・ムーン」収録。全米2位、400万枚。
1994年。ディストーションがかかったギターを中心とするロック路線のサウンド。キーボードは減り、ストリングスはキーボードで代用される。グランジを意識し、不協和音を積極的に取り入れている。それに合わせてメロディーもやや陰鬱だ。「タング」はソウル風。「サーカス・エンヴィ」はキンクスの曲にディストーションがかかったギターをかぶせたような曲。「ホワッツ・ザ・フリークエンシー、ケネス?」収録。全米1位、400万枚。
1994年。シングル盤。「モンティ・ガット・ア・ロウ・ディール」「エヴリバディ・ハーツ」「マン・オン・ザ・ムーン」はライブ。
1996年。グランジ、オルタナティブロックがアメリカで最高潮に達したころに、そのイメージ通りのサウンドを提示した。「オートマチック・フォー・ザ・ピープル」でアコースティック方向に振れた不確実さと、「モンスター」でロック方向に振れた疎外感をうまくひとつにまとめた。キーボードはオルガンとピアノを中心に使われる。オープニング曲の「ハウ・ザ・ウェスト・ワズ・ヲン・アンド・ホウェア・イット・ガット・アス」はピンク・フロイドの「幻の翼」を思わせる。「アンダートウ」はグランジ、「E-ボウ・ザ・レター」はオルタナティブロックそのもののサウンドで、「E-ボウ・ザ・レター」はパティ・スミスがボーカルで参加している。全米2位、200万枚。
1998年。ドラムが抜け3人編成。ドラムはジョーイ・ワロンカー等が演奏している。オープニング曲の「エアポートマン」はドラムマシーンのリズムで始まり、サウンドの変化を印象づける。「アポロジスト」「サッド・プロフェッサー」「ユーアー・イン・ジ・エアー」などはレディオヘッドを思わせるような、抑制と解放を対比させる曲が増えている。マイケル・スタイプの弾き語りのような弱いボーカルに、ディストーションのかかったエレキギターが切り込む手法もよく使われる。「オートマチック・フォー・ザ・ピープル」の内省的サウンドを、現代的な音で再現したようなアルバム。「デイスリーパー」「ロータス」「アット・マイ・モスト・ビューティフル」収録。全米3位、50万枚。
1999年。R.E.M.の「マン・オン・ザ・ムーン」に着想を得た映画のサウンドトラック盤。14曲のうちR.E.M.の曲が9曲あり、このうち7曲は映画のための新曲。「ザ・グレイト・ボヨンド」は「マン・オン・ザ・ムーン」にやや似たボーカル付きの曲、「フレンドリー・ワールド」はR.E.M.と俳優との共演曲。他の5曲はインスト曲。「マン・オン・ザ・ムーン」はアルバム収録曲と同じバージョンとオーケストラバージョンの2曲収録。トニー・クリフトンの「アイ・ウィル・サヴァイヴ」はグロリア・ゲイナーの「恋のサバイバル」のカバー。「キス・ユー・オール・オーヴァー」はエグザイルの曲。ロックファンではない映画ファンにとっては、この2曲の方がなじみがあるだろう。
2001年。世紀が変わったというよりも、90年代が終わったことをサウンドで示し、曲調に明るさや前向きなイメージが含まれる。エレクトロニクスも使われるが、意図的な不協和音は大幅に少なくなり、ストリングスやピアノ、オルガンのような伝統楽器を多用する。エレキギターも使うにせよ、ディストーションは抑えられている。「サタン・リターン」は90年代風の不穏な背景音を伴う。マイケル・スタイプのボーカルは聞きやすくなり、下を向いて歌うような声から正面を向いて歌うような声になった。「イミテイション・オブ・ライフ」はストリングスとギターがメロディーを主導する古典的な編曲。「オール・ザ・ウェイ・トゥ・リノ(ユーアー・ゴナ・ビー・ア・スター)」もポップだ。全米6位、50万枚。
2003年。ベスト盤。「グリーン」から「「リヴィール」までの14曲とサウンドトラック盤から2曲、新曲2曲を収録。スペシャル・エディションは2枚組で、2枚目にはバージョン違いやライブなど15曲を収録。新曲の「バッド・デイ」はアップテンポ、「アニマル」もロック。スペシャル・エディションの未発表曲は2曲ともミドルテンポ。「アラウンド・ザ・サン」以降の曲調の変化や人気の下降を考えれば、結果的に、全盛期にあたる時期のベスト盤となっている。全米8位、100万枚。
2004年。ピアノ、キーボードを中心とするミドルテンポの曲が続き、ロックやポップスの緊張感が薄れた。ロックらしい曲は「ワンダーラスト」くらいか。抽象的、社会的で省略の多い歌詞は急に変えられるものではないので、以前とそれほど大きな差はないが、曲については挑戦的試みがない。聞きやすい音に振れすぎた。全米13位。
2006年。「ドキュメント」までのベスト盤。全米116位。
2007年。2日分の公演から選択し、ライブ1回分を収録したライブ盤。「エヴリバディ・ハーツ」「ルージング・マイ・レリジョン」は観客の合唱が大きい。「マーマー」と「玉手箱」以外の全てのアルバムから選曲されている。会場の音の響き方や曲間の歓声、マイケル・スタイプの話し言葉がいずれも適度に入っており、ライブの雰囲気がよく伝わる。全米72位。
2008年。エレキギターが曲を推進し、キーボード、ストリングス、エレクトロニクスを大幅に減らしたロック寄りのサウンド。フー・ファイターズの曲調に似ており、一般的なロック、ロックンロールとなっている。前作の反動のように角が立ったサウンドだ。「ヒューストン」は60年代のブルースロック風。全米2位。
2009年。2枚組。「アクセラレイト」収録曲と「ドキュメント」以前のアルバム収録曲を中心とする変則的なライブ盤。「グリーン」から「リヴィール」までの代表的な曲はほとんど選ばれていない。「ドキュメント」以前の曲でも「最高級の労働歌」「世界の終わる日」「ロックヴィル」といった有名曲は選ばれていない。ライブの演奏そのものよりも、選曲自体がバンドのメッセージをうかがわせる。それは、80年代の自由で真摯な感性で、90年代とは異なる2000年代のサウンドを模索することだ。新しい方向性には、必ずしも聞き手の大きな支持がなければならないわけではないだろうが、「アラウンド・ザ・サン」以降の支持の低下は、バンドに方向性の再考を迫ったと言える。ライブ盤としては「R.E.M.ライヴ」と同様の安定した演奏が聞ける。39曲を次々と演奏していく。全米95位。
2011年。前作の「アクセラレイト」と前々作の「アラウンド・ザ・サン」はサウンドの硬軟でそれぞれ一方向に強く振れていたが、このアルバムは硬軟というよりも曲調の多様さが出ている。とはいえエレクトロニクス満載であるとかレゲエやヒップホップ調であるとか、突き抜けた曲にはならず、ロックの範囲内での多様さにとどまる。R.E.M.が支持され始めた90年前後に比べ、ロックだけを聞くロックファンは少なくなり、曲の多様さの幅は広がっている。このアルバムにはパティ・スミスやパール・ジャムのエディー・ヴェダーが参加しており、大物バンドのアルバムとして一目置く価値はあるものの、バンドが想定するサウンドのイメージは80年代的だ。このアルバムで解散。ドラムのサポートメンバーだったビル・リーフリンはキング・クリムゾンに加入。全米5位。
2011年。ベスト盤。2枚組。デビューから解散までの代表曲を時系列で並べている。ライブやデモバージョンなどはなく、アルバムやサウンドトラック盤等に収録されたスタジオ録音で統一されている。2枚目の最後の3曲は新曲。新曲を除くと37曲収録されているが、「ラヂオ・ソング」「E-ボウ・ザ・レター」「ドライヴ」等が漏れており、バンドの歴史を知るには3枚以上が必要だ。全米55位。
2014年。ライブ盤。2枚組。1991年と2001年に出演したMTVの「アンプラグド」での演奏を収録。1991年は17曲、2001年は16曲あり、MTVで放映されなかった曲も計11曲含まれている。「ルージング・マイ・レリジョン」のみ両方のライブに収録されている。1991年の「ラヴ・イズ・オール・アラウンド」はトロッグスの「愛にすべてを」のカバーで、これ以外の32曲はバンドの曲。2001年の方はピアノやキーボードがメロディーを主導するが、「ルージング・マイ・レリジョン」は終始ギターが中心となる。もともとエレキギターでハードに演奏するバンドではないので、アコースティック楽器でも違和感はまったくない。