クワイエット・ライオットは78年、79年に日本のみでアルバムを2枚出している。デビュー当時、ライオット、レッグス・ダイアモンドとともにアメリカン・ヘビーメタルの一翼を担うグループとされていた。しかし、そう言っていたのは日本だけで、海外ではバン・ヘイレンだけが突出した存在になっていた。ハードロックの歴史的な流れに対する海外と日本の認識の違いはこのころ始まったのではないか。その後、80年代前半にアメリカで言う「ヘア・メタル」がブームになったとき、日本はまたしても「LAメタル」という混乱させる名前をつけ、日本でしかアルバムが出なかったクワイエット・ライオットが活躍した78年を「第一次LAメタル・ブーム」とした。メディアはロックのシーンを形成する媒体の一つであり、メディアが積極的にブームを盛り上げていくことは、イギリスのニューウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘビーメタルの例を見るまでもなく、よいことだ。しかし、日本のメディアの場合、ハードロックの発展に貢献したかどうかは別にして、少なくとも、ロックの状況をきちんと伝えてはこなかった。この企画盤はデビュー盤の「静かなる暴動」から3曲、79年の「暴動に明日はない」から2曲選曲し、あとの5曲は未発表曲。「ラスト・コール・フォー・ロックン・ロール」は「ママズ・リトル・エンジェルス」の歌詞、タイトル違い。全曲にケヴィン・ダブロウによるコメントがついており、曲によってはスウィート、ビートルズ、アリス・クーパーに影響を受けたとも書かれている。この企画盤で最も注目すべき点はケヴィン・ダブロウの作曲能力の高さで、ランディー・ローズのギターではない。ケヴィン・ダブロウはトゥイステッド・シスターのディー・スナイダーと同じタイプで、勢いよりもメロディーを大事にするロックン・ロールを得意とする。ランディー・ローズのギタープレーに対する評価はケヴィン・ダブロウの評価に反比例する。
1983年。邦題「メタル・ヘルス~ランディ・ローズに捧ぐ~」。スレイドの「カモン・フィール・ザ・ノイズ」をカバーして、これが全米5位、アルバムは全米1位。ロックの楽しさを伝え、メロディーのすばらしさを感じさせる。アルバムタイトル曲もヒット。最高傑作。
1984年。このバンドの良さは曲の覚えやすさで、具体的に言えば無理なく流れるメロディー、誰でも分かるやさしい単語を使った若者の共感を得やすい歌詞だ。つまり、ヒットの要因はビートルズとまったく同じだ。前作と同じ路線で、またスレイドの「クレイジー・ママ」をカバーしている。
1986年。キーボードを大幅に導入したのはヴァン・ヘイレンの影響か。カバーはないが、プロデューサーとキーボードが作曲に大きく関わっている。コーラスが分厚いままラバーボーイのようなキーボードが入ってきたため、売れる要素は増えている。ターゲットとする年齢層が上がった感じだが、楽しさというかつての持ち味は減った。曲のよさはそのまま。キーボードのジョン・プーデルは実は大物。故人。
1988年。邦題「新たなる暴動」。ケビン・ダブロウが脱退し、ラフ・カットのポール・ショーティノが加入。どちらかというとホワイトスネイクのデイビッド・カバーデイルのような歌い方なので、これまでとずいぶんイメージが変わる。ケビン・ダブロウではないボーカルを受け入れられるかどうかの問題。曲もボーカルに合わせた曲調。キーボードはニュー・イングランドのジミー・ウォルドー。ジャケットに定番の仮面が出ていない。
1993年。ケヴィン・ダブロウが復帰。キーボードもほとんど使わず、「メタル・ヘルス」のころに戻っているが、当時の厚いコーラスはない。アコースティック・ギターの使用が増えた。あか抜けた曲が少ない。「イチクー・パーク」はスモール・フェイセズのカバー。日本盤の「ウィッシング・ウェル」はフリーのカバー。
1995年。オーソドックスなハードロック。全盛期から比べると覚えやすさは減少。印象的なメロディーが減ったということだ。キンクスの「オール・オブ・ザ・ナイト」をカバー。
1999年。久しぶりに会心の出来だ。曲に勢いがあり、アングリー」、「アゲンスト・ザ・ウォール」などは「メタル・ヘルス」時代の分かりやすさ、覚えやすさが戻っている。ほぼ全曲をメンバー全員で作曲している。「スラム・ダンク」は前作の日本盤ボーナス・トラックに入っていた曲の再録音。AC/DCの「地獄のハイウェイ」をカバー。ボーナス・トラックが6曲あり、「メタル・ヘルス」から「QRIII」までの代表曲をカバーしている。
2001年。カバー曲はなく、全曲がメンバーの作曲。
2007年。ギター、ベースが抜け、ケヴィン・ダブロウとドラムのフランキー・バネリの2人になった。ギターはラナ・レーンのニール・シトロン、ベースはブルー・マーダーのトニー・フランクリンがゲストで参加している。ケヴィン・ダブロウの声の大きさと力は衰えていない。分かりやすいメロディーで、声域の広さをめいっぱい使って歌う。バックの演奏も変わらない。「イーヴル・ウーマン」はグレン・ヒューズと共演し、迫力のあるボーカルを9分近く聞ける。ケヴィン・ダブロウはこのアルバムが出たあと死亡。