1983年。ギター2人の5人組。5曲入りミニ・アルバム。デビュー当時このような純粋ヘビーメタルはアメリカに存在しなかった。分かりやすく説明するためにジューダス・プリーストと比較されるが、それは追随しているということではなく、似たようなバンドがないために、あえて近くて有名なバンドを引き合いに出しているだけだ。「女王の国」「プロフェシー」収録。
1984年。サウンドがSF的。アイアン・メイデンとジューダス・プリーストの良さを吸い取って、ややハードさを抑え、暗くした感じ。ジューダス・プリーストがアメリカ出身ならこういう音であろうという音をクイーンズライチがやっている。
1986年。邦題「炎の伝説」。クイーンズライチは時期によって音楽の方向が変わるが、最も純粋なヘビーメタルをやっていたのはこのアルバムまでで、なおかつ、これが他のバンドの作品をはるかに凌ぐ傑作とされた。しかし、次作は違う方向で圧倒的な作品を提示し、このアルバムのすごさが相対的に薄くなってしまった。
1988年。アルバム全体が一つの物語となっている。ヘビーメタルにコンセプト性を持たせたことで、ヘビーメタル史上の重要なアルバムとされている。日本とは異なり、欧米ではラプソディーやアンソニー・アルイエン・ルカッセンもこの系統に属するとされている。メロディー、曲構成、曲順、サウンドとも高品質。
1990年。前作ほど物語性が強いわけではない。メロディーのストックが豊富で、ヘビーメタル以外のロックファンも多く取り込んだ。全米7位、300万枚。「ベスト・アイ・キャン」収録。
1991年。ライブ盤。
1992年。シングル盤。「ベスト・アイ・キャン」は40秒短いラジオ・エディット・バージョン収録。「夢の光線」はアコースティック・バージョン、「プロフェシー」は1984年の東京でのライブ。
1994年。邦題「約束の地」。「エンパイア」を暗くしたような音。このころは「暗い」というのが時代を象徴する雰囲気で、そうした意味では時代を反映していると言える。ミドルテンポが多く、ハードな曲は少ない。
1997年。「オペレーション・マインドクライム」では時代の先端のさらに先を行っていたが、少なくともサウンド面においては「エンパイア」以降、時代の先端を同時進行しているだけになった。このアルバムは、ギターサウンドや曲調に流行を取り入れ、時代に追いついているかのように見える。しかし、同じところを走っていながら実は最先端ではなく、周回遅れである。サウンドそのものは普通のハードロックで、「約束の地」ほど暗くない。
1999年。ギターのクリス・デガーモが抜けケリー・グレイが加入。「約束の地」並みに暗いサウンドだが、前作ほどオルタナティブ・ロックに偏った作風ではない。
2001年。ライブ盤。
2003年。ギターが抜け4人編成。前作と同路線。今回はコンセプトがあって、そのコンセプトに従えば、サウンドが暗くなるのは必然だ。しかし、全体を暗くしても、単調にならないような工夫はできるはずだ。そこはアーティストの力量で処理するべきで、それをできるかどうかがドリーム・シアターとの差になっている。
2006年。「オペレーション・マインドクライム」の続編。合唱団や女声ボーカル、キーボードを使用し、全体として暗めの雰囲気になっている。サウンド面で「オペレーション・マインドクライム」と連なっているところはほとんどない。このアルバムは「オペレーション・マインドクライムII」というタイトルにした時点で「オペレーション・マインドクライム」と比較されることになり、評価に大きなハンディを背負うことになる。結果的にもこのアルバムは評価が低くなる。80年代のサウンドに戻れば評価が上がるということではなく、広い意味での音楽の起伏に欠ける。高揚感、発見と確認、再構築が頭の中に喚起されない。「約束の地」以降のアルバムを見れば、クイーンズライチが80年代の質を取り戻すのは厳しいと判断するのが妥当だ。タイトルが「オペレーション・マインドクライムII」ではなかったとしても評価が改善するわけではない。
2007年。カバー曲集。収録曲はピンク・フロイド「ようこそマシーンへ」、ジーザス・クライスト・スーパースター「彼らの心は天国に」、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング「カット・マイ・ヘアー」、バッファロー・スプリングフィールド「フォー・ホワット」、オージェイズ「フォー・ザ・ラヴ・オブ・マネー」、クイーン「イニュエンドウ」、ブラック・サバス「ネオンの騎士」、ポリス「シンクロニシティーII」、ピーター・ガブリエル「レッド・レイン」、マルセロ・アルバレス&サルヴァトーレ・リチートラ「オデュッセイア」、U2「ブレット・ザ・ブルー・スカイ」。ジーザス・クライスト・スーパースターはロック・オペラで、キリスト役はディープ・パープルのイアン・ギランだった。マルセロ・アルバレス&サルヴァトーレ・リチートラはテノール歌手2人組で、「オデュッセイア」の作曲者はJ.E.T.、マティア・バザールのボーカル兼ギター、カーロ・マッラーレ。J.E.T.は「消えゆく希望の灯」で有名なイタリアのプログレッシブ・ロックバンド。ほとんどの曲は原曲にに忠実な演奏で、やや面白味に欠ける。
2009年。1990年代後半以来、アメリカではカントリーがポピュラー音楽の中で大きな位置を占めるようになり、アメリカ人の開拓精神、自由な気風を称賛する傾向が強くなった。これが白人の精神的満足感を満たしたのと同時に、カントリー・ポップスの拡大の要因ともなっている。我々日本人は、戦争を題材とする芸術作品に触れると、条件反射のように作者の反戦的メッセージをくみ取ろうとするが、アメリカでは必ずしも反戦の意味を込めていない作品もある。このアルバムがどういう意図を持って作られたにせよ、アメリカ人以外の他者をほとんど考慮していない点で、他の反戦的アルバムとは異質だ。仮に反戦的メッセージが込められていたとしても「他国で罪のない人が犠牲になるから戦争をやめよう」ではなく「戦争に行ったアメリカ人やその家族がつらい思いをするから戦争をやめよう」ということになる。「兵士のためのアルバム」とはそういうことだ。日本人から見れば、視野が狭く、第三者的視点が少ないところが気になる。兵士のインタビューと思しき話し声が曲のイントロや途中に差し挟まれている。
2011年。