プレイング・マンティスはイギリスのハードロックバンド。4人編成。1981年にデビューしたため、ニューウェーブ・オブ・ブリティッシュ・ヘビーメタルの一群として認識された。当初は「戦慄のマンティス」のみの発表だったが、90年代に再結成している。
1981年。邦題「戦慄のマンティス」。4人編成。シン・リジーがロックンロールをやらずにハード・ロックをやったらこのようになるというサウンド。哀愁を帯びたメロディーはニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘビーメタルの中で最高の部類に属し、ブリティッシュ・ロックのなかでも高品質になる。ギターのツイン・リードはシン・リジーほどエッジはないが、ボーカルはハーモニーをよく使っている。メンバー4人のうち3人がリードボーカル。キンクスのカバーはなくてもよい。「チーテッド」「チルドレン・オブ・ジ・アース」収録。
1984年。アイアン・メイデンのドラムのクライヴ・バーがプレイング・マンティスのティノ・トロイ、クリス・トロイ、グランプリのボーカルのバーニー・ショウ、ワイルドファイア、スタンピードのキーボードのアラン・ネルソンと結成したバンド。爽快なハードロックで、キーボードとギターがメロディアスだ。ドラムはエレキドラムを併用している。「ラン・フォー・ユア・ライフ」は映画のサウンドトラックになった。
1990年。ニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘビー・メタルから10年経つのを記念して日本で企画されたライブを収録。プレイング・マンティスとアイアン・メイデンのポール・ディアノ、デニス・ストラットンが合同で演奏。アイアン・メイデンの初期2枚の曲のほか、ライオンハートやストレイタスの曲もやっている。当然、ライオンハートやストレイタスのライブ・バージョンはこれしかない。
1990年。ファストウェイのギター、リー・ハートを中心とするプロジェクト。曲によって作曲者も演奏者もサウンドも異なる。演奏者の共通点はニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘビーメタルのころに活躍したバンドのメンバーであること。プレイング・マンティスのティノ・トロイ、アイアン・メイデンのポール・ディアノ、デニス・ストラットン、サムソンのポール・サムソン、サクソンのビフ・ハイフォード等が参加。ニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘビーメタルのアーティストではないがシン・リジーのスコット・ゴーハム、レインボーのドン・エイリー、ホワイトスネイク、ブラック・サバスのニール・マーレイも参加している。ポップな曲が多く、サウンドは80年代のハードロックに多いタイプ。間奏はギターソロでコーラスは厚め。演奏者の所属バンド、各曲の作曲者、演奏者はすべて明示されている。
1991年。ボーカルにアイアン・メイデンのギター、デニス・ストラットンを迎えた。ドラムは元ウェポン、スウィートのブルース・ビスランド。ティノ・トロイはボーカルをとっていないので、クリス・トロイとデニス・ストラットンのダブルボーカルになる。メロディアスなハードロックとしては高品質。よくこの時代にこういう音を出してきたという意味ではダム・ヤンキースと同じ。分厚いコーラス。流れるようなメロディー。名盤。「タイム・スリッピング・アウェイ」収録。
1992年。ファストウェイのギター、リー・ハートが結成したバンド。リー・ハートとアイアン・メイデンのデニス・ストラットンがボーカル兼ギター、ドラムはアイアン・メイデンのクライブ・バー、ほかにギターとベースの5人編成。ゲスト・ミュージシャンが36人いる。「オール・スターズ」と同じように曲によって演奏者が異なり、11曲のうちメンバーが全員参加しているのは4曲。主なゲスト・ミュージシャンはアイアン・メイデンのポール・ディアノ、プレイング・マンティスのティノ・トロイ、モーターヘッドのエディ・クラーク、タンクのアルジー・ワード、サムソンのポール・サムソン、サンダースティックス、シン・リジーのスコット・ゴーハム、ホワイトスネイクのニール・マーレイ、レインボーのドン・エイリー、スウィートのアンディ・スコット、マイケル・シェンカー・グループのゲイリー・バーデン、ユーライア・ヒープのジョン・スローマン等。サウンドは「オール・スターズ」に近い。ティノ・トロイは「ドント・テイク・ジーズ・ドリームズ・アウェイ」に参加しているだけなのにすぐ分かる演奏をしている。
1993年。専任ボーカルにコリン・ピールを迎え、ティノ・トロイとデニス・ストラットンがギターに専念。ボーカルの数が増えてコーラスがややハイ・トーンになった。正式な奏者はいないがキーボードの比重が大きくなっている。イギリス的哀愁は希薄になった。
1993年。「トゥ・ザ・パワー・オブ・テン」に収録されている「オンリー・ザ・チルドレン・クライ」のミニ・アルバム。ボーカルはライオンズハートの前身バンドにいたマーク・トンプソン・スミス。ややハイトーン。「ターン・ザ・テーブルズ」は83年に出したシングルの再録音。どの曲もコーラスが厚い。
1995年。ボーカルが元マイケル・シェンカー・グループのゲイリー・バーデンに交代。日本側の援助でアルバム発売。アメリカで成功したいという意気込みはかなりあるらしく、テンプテーションズの「サイケデリック・ワールド」をカバーしている。60年代R&Bの定番曲だというところがポイント。「ウェルカム・トゥ・マイ・ハリウッド」収録。
1996年。東京でのライブを収録。ドラムがアイアン・メイデンのクライブ・バーに交代。アイアン・メイデンのメンバーが2人、マイケル・シェンカー・グループのメンバーが1人いる豪華な構成。ツイン・ギター、コーラスをきちんと再現し、期待するとおりの演奏をしている。マイケル・シェンカー・グループの「アームド・アンド・レディ」をカバー。限定盤は2枚組、通常盤は1枚で、「アームド・アンド・レディ」のほか「オンリー・ザ・チルドレン・クライ」「チーテッド」等が削除されている。
1998年。ボーカルがトニー・オホーラに交代。サウンドに大仰さがついてきた。後半の盛り上がりはかなりのもの。
1999年。セカンド・アルバムになる予定だった曲、ライオンハートの曲、レコード・デビューすることなく終わったバンドの曲など、プレイング・マンティス関連人脈の貴重音源を集めた企画盤。
2000年。初めてボーカルの交代なしに制作。もはやイギリスというよりはヨーロッパのバンドが出すようなサウンドに近くなっている。ギターの音を短く切るプレイング・マンティス特有のサウンドはデビュー以来健在。
2003年。正式メンバーはティノ・トロイ、クリス・トロイ、デニス・ストラットンの3人となり、ドラムとボーカルはゲスト。前任のトニー・オホーラとブルース・ビスランドはスウィートに加入。10曲のうち元グランプリ、ゲイリー・ムーア、ユーライア・ヒープのジョン・スローマンが3曲、元レインボーのドゥギー・ホワイトが5曲、メンバーが2曲でボーカルをとる。個性は失われておらず、曲を聞いてプレイング・マンティスだろうと思わせる部分は残っている。再録音された「ネイキッド」や「ロスト・ワールド」の後半は特にそうだろう。音楽性が確立されているので驚きは少ないが安心はある。音楽性が確立されないバンドも多いことを考えれば、驚きの少なさも納得できる。
2004年。ベスト盤。
2009年。ボーカル、ギター2人、ベース、ドラムの5人編成。ギター2人とベースはキーボードを兼任するのでキーボード奏者が3人いる。新しいボーカルはゲイリー・バーデンの声に似ているが、ゲイリー・バーデンよりやや安定しているか。曲はメロディアスなハードロック。特に目新しい点はない。プレイング・マンティスというバンド名で活動する限り、永遠にニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘビーメタルとか、泣きのギターなどと言われ続けてしまう。過去の知名度にしがみついているのはアーティストではなく、評論家やレコード会社や、案外ファンなのかもしれない。「スレッショルド・オブ・ア・ドリーム」は最もプレイング・マンティスらしい曲。
2015年。ボーカル、ドラムが交代。ボーカルは1990年代前半から活動しているようで、プレイング・マンティスが初の本格的所属バンドだ。歌い方は声を張り上げて明瞭に発音するロニー・ジェイムス・ディオ型。プレイング・マンティスのサウンドとロニー・ジェイムス・ディオ型ボーカルという組み合わせは、中高年の日本のハードロックファンにしか支持の基盤はない。90年代以降の音楽的特徴は取り入れず、ギターもプレイング・マンティス特有であった小刻みのフレーズがほとんどないため、北欧のメロディアスなハードロックと同じ懐古サウンドになっている。ロックバンドとして活動をしていてもよいが、アルバム制作は2000年で終わっていてもよかった。
2018年。不遇が続いてもずっと信念を貫くという決意を示す曲が多い。オープニング曲は力強い。「マンティス・アンセム」はキーボードを中心とするポップな曲で、バンドに入れというティノ・トロイの曲。「39イヤーズ」はプレイング・マンティスのデビューからの年数を表しているとみられる。クリス・トロイが作曲している。この2曲はティノ・トロイとクリス・トロイがまだプレイング・マンティスとして活動を続けていくことを示唆する。「デスティニー・イン・モーション」はUFOの「ドクター・ドクター」を思わせるイントロだ。2本のギターのハーモニー、キーボード、ボーカルハーモニーは当面維持されるだろう。
2022年。バンドとレコード会社とファンが、閉じたサークルの中で現状の存続を確認して安心するアルバムとなっている。日本盤の帯の宣伝文句はその象徴だ。「マスカレイド」はディオ風。80年代のプレイング・マンティスを思わせるのは「ドント・コール・アス・ナウ」。
2024年。90年代のハードロックを一世代後に再現しているようなハードロック。「アイ・サレンダー」はレインボーのカバーで有名な曲。「スタンディング・トール」はシンセサイザー中心のダンス音楽で、ロックの雰囲気を残そうとして突き抜けられていないが、試験的に入れたか遊興で入れたかに関わらず新しい曲調が入ってくるのはいいことだ。シーケンサーやサンプラーも積極的に使った方がいい。