パワーウルフはドイツのヘビーメタルバンド。オルガンを含む5人編成。東欧の狼男伝説をバンドの主要テーマとしている。3枚目のアルバム以降、ドイツで人気を得ている。2010年代後半からオーケストラや合唱を大きく取り入れている。
2005年。ドラキュラ伝説を重視する古風なヘビーメタル。オルガンが重用される。ハードさを追求せず、歌詞の世界を音で構築することに主眼があるようだ。アイアン・メイデンの影響を受けていることは明らか。大仰、かつハードさを両立しようとするバンドが多いヨーロッパのヘビーメタルの中では独自性があると言えるが、デビュー盤ということで音がデモテープに近い。
2007年。ボーカルの声がアイアン・セイヴィアーに近くなった。曲も大陸ヨーロッパの一般的なヘビーメタルに近くなり、有名バンドと比較しても遜色ない。アルバムは狼男の伝説を用いてメンバーが物語を創作している。曲調が大仰になり、メロディーもよくなった。キーボードはオルガン以外の古典的な音が増えている。
2009年。アイアン・セイヴィアー、ランニング・ワイルドのようにメロディーが覚えやすくなり、前作からさらにコーラスも増えている。「パニック・イン・ザ・ペンタグラム」はアイアン・メイデンとハロウィンの影響がある。「ウェアウルヴズ・オブ・アルメニア」はロシア民謡の「ポーリシュカ・ポーレ」のメロディーをそのまま引用している。最後の曲のエンディングは「オープニング:プレリュード・トゥ・パーガトリー」につながるようになっている。
2011年。ドラムが交代。90年代のジャーマンメタルと2000年代の大陸ヨーロッパのメロディアスなヘビーメタルを合わせ、ランニング・ワイルド、アイアン・メイデンのギターフレーズを参照する。曲のタイトルを繰り返し歌う、掛け声に近いコーラスを多用する、曲を短くまとめ長くしない、など覚えやすさの基本的要件を多くの曲で備える。キーボードは教会オルガンが主体となった。コーラスは男女30人以上が参加している。「ナイト・オブ・ザ・ウェアウルヴズ」はアイアン・メイデンへの敬意。
2013年。邦題「陰翳礼讃~プリーチャーズ・オヴ・ザ・ナイト」。ドラムが交代。2枚目の「ループス・デイ」以降、ヨーロッパ特有のハードなヘビーメタルに大きく傾き、このジャンル、地域の一般的なバンドの曲調と差がなくなっている。「シークレッツ・オヴ・ザ・サクリスティ」は80年代後半のハロウィンの音。ラテン語のタイトルの曲が3曲ある。社会との接点が分かりにくく、度々「ハレルヤ」を挿入する歌詞は評価が分かれる。日本盤は2015年発売。
2015年。邦題「狂気崇拝~ブレスト・アンド・ポゼスト」。キーボードの使い方が変わり、ギターと同じメロディー、ボーカルと同じメロディーをギター、ボーカルと同時に弾く。ランニング・ワイルド風、ハロウィン風の曲はなくなり、音楽的にはバンドの個性を示すことができたと言える。前作と同様に、最後の曲の後半は雷鳴のような効果音が2分以上続いて終わる。このアルバムで日本デビュー。日本盤はカバー曲の企画盤「メタラム・ノストラム」をボーナスディスクとして付けている。アモン・アマース以外の9曲は80年代後半から90年代前半の選曲。クローミング・ローズの「権力と威光」が選曲されている。ブラック・サバスは人気が薄いトニー・マーティン時代の「ヘッドレス・クロス」が選曲されている。アモン・アマースの曲以外は、メンバーが少年時代に聞いていた曲なのだろう。ハロウィンやブラインド・ガーディアン、マノウォー、ディオも好んで聞いていたはずだ。
2018年。キーボードが教会オルガンからピアノ、ストリングスに広がった。教会オルガンも主要な音として使われるため、大きく変わったという印象は少ない。むしろ、他のバンドとの差がさらに見えにくくなった。日本盤は、他のバンドがパワーウルフの曲をカバーしたボーナスCDが付いており、音楽的な発展の余地がまだいくらでもあることを感じさせる。
2020年。ベスト盤。2枚組。
2021年。前作の曲調に合唱が強化された。合唱の参加者は減っているが、サビでのボーカルの補強は分厚くなっている。コロナ禍では30人もの合唱隊を使うのは難しく、4パートごとに2人ずつ8人で録音している。「ビースト・オブ・ジェヴォーダン」は合唱なしでは成り立たない。パワーウルフは近年ではドイツの有力なヘビーメタルバンドになっているが、音楽的にはかなり保守的だ。好んで使う音が20世紀までの伝統的な音にとどまる。バンドの個性が狼男と東欧の伝説でも構わないが、別の側面を開発しなければ長く人気を保つのは難しい。