1983年。4人編成。ボーカルがデフ・レパードのジョー・エリオットに似ており、サウンドも「オン・スルー・ザ・ナイト」のころによく似ている。少しキーボードが入る。アルバム・タイトルは「メタル・マジック」だがサウンドはハードロック。バンド名のパンテラとは、紀元前30年ごろ、パレスチナのマリアを強姦してイエス・キリストを生ませたローマの兵士。宗教上は、キリストは聖母マリアから性交渉なく生まれたとされているが、歴史的には軍人と地元女性の私生児とされる。すなわちキリストの実父がパンテラ(パンサー、豹)である。この名前を冠したイタリアのスポーツ車が「デ・トマソ・パンテーラ」で、1970年代に北米で安く販売されていた。
1984年。サウンドがハードになり、ギターは派手に弾いている。デフ・レパードのハードな部分を抽出したかのようなサウンドで、「炎のターゲット」からヒット性の高い曲を除いた感じだ。
1985年。一気にヘビーメタル・バンドと化す。特にギターの派手な演奏は、80年代のハードロック全盛期を象徴している。曲はジューダス・プリーストやアイアン・メイデンに近くなったが、それに見合うボーカルではない。曲によってはアクセプトにも近くなる。スピーディーな曲も多い。
1988年。ボーカルがフィル・アンセルモに交代。歌い方はジューダス・プリーストのロブ・ハルフォードに似ており、サウンドはオーソドックスなヘビーメタル。この路線を続けていれば、いずれはアメリカでは珍しい典型的なヘビーメタルとして、ヴィシャス・ルーモアズやメタル・チャーチとともに評価されたはずだ。
1990年。リズム・ギターに重点を置いたサウンドで、スラッシュメタルに近くなった。ドラムもメタリカの「メタル・ジャスティス」のように乾いた音で、80年代後期にサンフランシスコで流行したリズム感強調のスラッシュメタルを思わせる。まだ、曲によってオーソドックスなヘビーメタルを演奏しているところもある。このアルバムでメジャー・デビュー。
1992年。邦題「俗悪」。「カウボーイズ・フロム・ヘル」で新たに試みたスタイルをほぼ全曲に適用しており、ボーカルは低音を中心に歌っている。メロディーを歌い上げるという感じではない。バンドのサウンド傾向は、イギリスからアメリカに比重が移り、このアルバムで完全にアメリカの音となった。同時にアルバムは大ヒットして、他者の追随から脱皮し、個性を確立した。ヘビーメタルのファッションの変化にも大きな影響を与えた。歴史的に重要なアルバム。全米44位。「マウス・フォー・ウォー」「ファッキング・ホスタイル」「ライズ」収録。
1993年。シングル盤。「ウォーク」「ファッキング・ホスタイル」等のバージョン違い4曲とライブ2曲。日本のみの企画盤。「ウォーク」の曲にあわせて体を動かしたとき、休符のところで体もしくは頭が下がる。これは強拍が従来のロックのリズムと異なることを示しており、レゲエのリズム感覚と同じ。レゲエを感じさせずにレゲエのリズム感を導入した画期的な曲だ。
1994年。邦題「悩殺」。シンコペーションのリズムの中で、長く続く音の音程を変化させることによってミドルテンポでも頭を振れるようにした結果、これが新しいロックのスタイルとなった。ボーカルは歌うというよりはがなっている。多くのバンドがこのアルバムを手本にしてサウンドの変化を試みた。「ビカミング」「アイム・ブロークン」「スロータード」収録。「プラネット・キャラバン」はブラック・サバスのカバー。全米1位。
1995年。邦題「悩殺ライブ」。シングル盤。94年のライブ。日本のみの企画盤。
1996年。邦題「鎌首」。前作と同路線。オープニング曲からアグレッシブさを前面に出している。日本盤に解説をつけなかったのはすばらしい判断だ。前作とあまり変化のないサウンドをどうとらえるか。「ドラッグ・ザ・ウォーターズ」収録。全米4位。
1997年。邦題「ライブ・狂獣」。世界共通の公式ライブ盤としては初。「カウボーイ・フロム・ヘル」から「鎌首」までのアルバムから選曲。「カウボーイ・フロム・ヘル」の途中にテッド・ニュージェントの「狂い猫」のイントロを挿入している。最後の2曲はスタジオ録音。「アイ・キャント・ハイド」はいい曲だ。全米15位。
2000年。邦題「激鉄」。ややサウンドの傾向が変わり、通常のヘビーメタルが多くなっている。ボーカルとギターの特徴は同じだが、「ウォーク」のような曲が減っている。全米4位。
2001年。邦題「激鉄EP」。未発表曲1曲とブラック・サバスの「ホール・イン・ザ・スカイ」、テッド・ニュージェントの「狂い猫」のカバー収録。
2003年。ベスト盤。未発表曲はない。