オーペスはスウェーデンのハードロックバンド。初期はメロディック・デスメタルバンド。メロディック・デスメタルの最初期から活動する。2000年代になりデスメタルの要素が少なくなり、ヨーロッパ特有のやや暗めのヘビーメタルとなっている。2010年代は70年代のロックに近いサウンドになっている。8枚目の「ゴースト・レヴァリーズ」からキーボードが加入し5人編成。
1994年。ボーカル兼ギターを含む4人編成。スウェーデン出身。イン・フレイムスやダーク・トランキュリティと同じ時期にデビューしている。メロディック・デスメタルで最初に注目されたのはイン・フレイムスの「ルナー・ストレイン」で1994年。その次がダーク・トランキュリティの「ザ・ギャラリー」で95年。アーク・エネミーのデビューは96年。オープニング曲は14分で、収録されている7曲のうち4曲が10分以上。「シルエット」はピアノだけでの演奏で、ピアノを弾いているのはドラム。バックの演奏はヘビーメタルで、途中でアコースティック・ギターを入れながらドラマチックさを増幅させている。ボーカルはデス声が中心だが、「ザ・トワイライト・イズ・マイ・ローブ」では通常のボーカルも出てくる。発表当時は相当話題になったアルバムだった。
1996年。前作よりさらに曲が長くなり、5曲すべてが10分以上。最長は20分。前作には1分や3分の短い曲があったが、今回はない。キーボードも使われない。曲の構成にかかわるミドルテンポの部分をアコースティック・ギターで演奏する。通常のボーカルで歌われるところが増え、「ネクター」以外の4曲はいずれもデス声と通常ボーカルが両方入っている。
1998年。ベースが抜け、ドラムが交代。ベースはボーカル兼ギターが演奏している。プロローグとエピローグが単独の曲としてあり、その間に7曲がある。いずれも9分以下で、一般のヘビーメタル・ファンになじみやすくなった。プロローグとエピローグをつけることでアルバム全体をひとつの曲と解釈することもできるが、そういう意味では大作志向と一般性の獲得を折衷したかたちとも言える。通常のボーカルのほかに、コーラスが入る曲もあり、メロディック・デス・メタルの一般化がサウンドの作り方に影響を与えている。「サークル・オブ・ザ・タイラント」はセルティック・フロストのカバー。
1999年。メロディック・デス・メタルだと言える部分の方が少なくなり、一般的な歌い方をするボーカルが多い。どこをどう聞いてもメロディック・デス・メタルと言えるところも残っている。サウンド上の進歩は、コーラスに2声が初めて出てきたことだ。ゴシック・ロックの影響がある。曲の構成は普通に戻った。10分前後が7曲のうち5曲。
2001年。前作の路線。ややメロディック・デス・メタルの路線が戻っているが、ピアノも使われており、これまでのサウンドを凝縮したようなサウンドだ。アルバムタイトル曲は最も長い12分で、ボーカルの全部分がデス声で歌われる。長い曲としては本格的なメロディック・デス・メタル。このアルバムから日本盤が出るようになった。ポーキュパイン・トゥリーのスティーブン・ウィルソンがボーカル、ギター、ピアノで参加。
2002年。「モーニングライズ」以来の大作志向。インスト曲の「フォー・アブセント・フレンズ」が2分台、それ以外の5曲はすべて10分以上。サウンドも「モーニングライズ」以来のメロディック・デス・メタル路線になっている。日本盤発売は2003年。
2003年。「デリヴァランス」と同時期に録音されたという曲を収録したアルバム。キーボードを大きく取り入れ、ゴシック・ロック、プログレッシブ・ロックのようなサウンドが中心になっている。キーボードはメロトロン中心。曲も短く、平均で5、6分。メロディック・デス・メタルの要素はまったく出てこない。オーペスとは違うアーティストだと言われても違和感はない。
2005年。キーボードが加入し5人編成。キーボードが活躍する曲がほとんどで、メーン・メロディーをキーボードが演奏する曲もある。メロトロンとオルガン、ピアノが中心。メロディック・デス・メタルの部分が消えたわけではない。ポーキュパイン・トゥリーのスティーブン・ウィルソンは参加していない。
2008年。アコースティック・ギター、キーボード、メロトロンを上手に駆使し、陰影を帯びた抒情的なボーカルが乗る。アコースティックギターによるゴシック風の、薄暗いオープニング曲があり、2曲目以降は6分から9分の曲が続く。最長で11分。デス声を使わなくても質の高い曲を作ることは可能だ。ゴシック・ロック、メロディアスなヘビーメタルいずれでも評価はいいだろう。聞き手、ファンが男性に偏るかもしれない。
2011年。1970年代のイギリスのハードロック、プログレッシブ・ロックを思わせる古風なサウンド。キーボードはオルガン、ピアノ、メロトロン中心。ボーカルは終始ジェスロ・タルのイアン・アンダーソンのような歌い方で、「ファミン」ではフルートも使われる。ギターは不協和音ではなく、ドラムも音は大きくない。2010年代に入って、1970年代のサウンドを再現する意味はいくらでも議論できよう。ただ、新しさが容易に見つけられないため、懐古趣味と取られてもしょうがない。
2015年。前作に続きオルガンとメロトロンを使う復古的なサウンド。現代の音響技術で録音しているので音は明瞭だ。シンセサイザーも刺激の少ない柔和な音色を使っている。ムーディー・ブルースとジェスロ・タルの間のような音。このアルバムは、用語の符丁としてのプログレッシブ・ロックを忠実に再現しており、70年代のイギリスにおいて既存の他のロックと区別するために生まれたときのプログレッシブ・ロックをやっている。しかし、音楽自体は保守反動そのものであり、メロディック・デスメタルの前衛性でスタートしたバンドとしては汚点とも言える。このアルバムをパロディーとして作っているならば、どこかでそれを明瞭にする必要がある。プログレッシブ・ロックという言葉に含まれるプログレッシブの側面をヘビーメタルの聞き手も作り手もことさら称揚し評価する傾向があるが、前衛性があるという意味でのプログレッシブ・ロックと、既存の参照元としてのプログレッシブ・ロックは区別した方がいいだろう。ヘビーメタルやハードロックに限らず、自らが体験できなかった時期の音を格好良く感じ、憧れを抱くことは誰にでもあり得る。北欧のハードロックアーティストが80年代アメリカのようなメロディアスなハードロックを量産するのも、ヘアメタル、グラムメタルを再現するバンドが近年増えているのも、心性は同じだ。
2016年。ロドリーゴの「アランフェス協奏曲」のようなイントロで始まり、「ヘリテッジ」「ペイル・コミュニオン」を踏襲するサウンドが続く。1曲の中でも、ハードに演奏する部分とピアノやアコースティックギターのみで演奏する静かな部分が対比され、曲のダイナミックさが強調される。タイトル曲のギターとベースのユニゾン、「ザ・ワイルド・フラワーズ」のギターソロやハードなエンディング、「イラ」などはハードロック、ヘビーメタルのバンドらしさを残す。「ソーサレス2」はパーカッションが活躍するインスト曲。ヘビーメタルから70年代ロックに変化した「ゴースト・レヴァリーズ」「ウォーターシェッド」のころは、その変化自体がオーペスの新しさとして評価できたが、変化したあとの結果が問われるようになったとき、つまり「ヘリテッジ」以降は、そこに着地した意味を問われる。オーペスのほとんどの曲を作っているミカエル・オーカーフェルトが70年代ロックに大きな憧憬を持っているため、このアルバムに似たサウンドが続くかもしれないが、変化し続けることがバンドを存続させる。
2019年。70年代前半のプログレッシブ・ロックのうち、ヨーロッパのアングロサクソン系を手本にしたハードロックをやっている。「ヘリテッジ」「ペイル・コミュニオン」の路線を継承している。キーボードはオルガン、メロトロン、ピアノが中心。長い曲はアコースティックギターの弾き語りでつないでいることが多い。70年代前半のプログレッシブ・ロック、ハードロックとの違いは、エレキギターの厚み、ボーカルの声の伸びだろう。オープニング曲の「ガーデン・オブ・アースリー・ディライツ」は3分半のインスト曲。「ネクスト・オブ・キン」はメロディーを意図的に奇妙にしている。「シャーラタン」は「アウェイク」のころのドリーム・シアターのような曲。最後の「オール・シングス・ウィル・パス」はジョージ・ハリソンの「オール・シングス・マスト・パス」を意識した曲名だろう。曲調は古風だが歌詞は現代の世界を批判しており、全体を通して物語を形成している。