NEUROSIS

ニューロシスはアメリカのヘビーロックバンド。4人編成。ポストメタルを創始したバンドとされる。

1
PAIN IN MIND

1987年。ギター兼ボーカルが2人とベース兼ボーカル、ドラムの4人編成。メインのボーカルがいるわけではなく、3人が1曲の中でも交互にボーカルをとっている。時代と地域を反映し、スラッシュメタルのようなハードコアとなっている。「セルフ・トート・インフェクション」「グレイ」はブラック・サバスの影響もみられる。「トレーニング」「ベリー・ホワッツ・デッド」などハードコアの曲はスレイヤーに近いが、これはむしろスレイヤーがハードコアに近かったと解釈すべきだろう。80年代後半はハードコアが退潮になっていたため注目されなかった。日本盤は2000年発売。

2
THE WORD AS LAW

1990年。ギター兼ボーカルの1人が交代。2~3分のハードコアだった前作から、4~7分台の非定型のハードコアになった。テンポが遅い曲もあり、一般的なイメージのハードコアとは異なる。「トィモローズ・リアリティー」はベースが目立つ。91年の再発売盤はボーナストラックが9曲あり、「デイ・オブ・ザ・ローズ」はジョイ・ディヴィジョン、「ヒアー・ナッシング、シー・ナッシング、セイ・ナッシング」はディスチャージのカバー。日本盤は2000年発売。

3
SOULS AT ZERO

1992年。キーボード兼サンプラーが加入し5人編成。キーボード兼サンプラーは80年代以前のバンドにいるキーボード奏者とは異なり、キーボードに内蔵された既存の音ではない独自の音を探すところに主眼がある。「フライト」のフルート、バイオリン、「ステライル・ヴィジョン」のトランペット、「クロニクル・フォー・サヴァイヴァル」のチェロは実際の楽器で演奏されている。10曲のうち5曲は7~9分台で、前作からさらに長くなった。長くなると曲の構成に某かの変化が必要になってくるが、それをバンド演奏以外の楽器やキーボード、サンプラーで補完している。全体としてこれまでで最もギターの音が厚い。このアルバムで日本デビュー。

4
ENEMY OF THE SUN

1993年。既存のハードコア、ヘビーメタルから離れ、曲に前衛性を持たせるようになった。93年に出た最初のアルバムと99年に出た再発売盤は内容が異なり、26分半あった「クレンズ」が再発売盤では16分弱になっている。10分近くあるオープニング曲の「ロスト」は轟音の演奏の背景にサンプリング音が流れている。「レキシコン」はブラック・サバス風のギターを基礎にした曲。「ザ・タイム・オブ・ザ・ビースト」から「クレンズ」はつながっており、「クレンズ」はパーカッションの合奏が長く続く。日本盤は2000年発売。

5
THROUGH SILVER IN BLOOD

1996年。キーボード兼サンプラーが交代。9曲のうち4曲が10分を超える。1分台の短い曲も2曲あり、両方ともほとんど演奏を伴わない実験音楽。96年はグランジからヘビーロック、オルタナティブロックへの過渡期であり、パンテラ、セパルトゥラ、ナイン・インチ・ネイルズ、デスメタルがハードなロックの最先端であったため、このアルバムもその影響下にある。キーボード兼サンプラーのメンバーがいる分、音の歪みの加工がナイン・インチ・ネイルズに近い。ハードなロックの中では前衛性が高いアルバムを提示したため、ヘビーメタルを発展させた形態であるポストメタルを創出したとされる。パンクの後に出たポストパンク、ロックの後に出たポストロックと同様に、ポストメタルも多かれ少なかれ自覚的に非定型であろうとする作品を総称する。このアルバムも、完成形を見越して作ったというよりは、どうなるか分からないまま作った結果こうなったというようなライブ感がある。日本盤は2000年発売。

6
TIMES OF GRACE

1999年。前作ほどではないが長い曲が中心。曲調も前作を踏襲しているが、音の整合感や聞きやすさが上がり、生々しさは減っている。新しい音像のインパクトは前作にあるだろう。このアルバムは多くの人に受け入れられやすいなじみのある音に近づけられている。ボーカル部分は少なく、曲自体も11曲のうち4曲はインスト曲か、明確なボーカルがない。従って多くの部分がバンド演奏となり、緊張感の持続は音の数の多少や音色、メロディー、整合感の中にある偶発的または意図的不整合感を使って維持する。前作のような雰囲気を持ったアルバム、という到達目標で作ったアルバムなら、うまく到達したと言っていいだろう。日本盤は2000年発売。

SOVEREIGN

2000年。EP盤。4曲収録。「フラッド」は「エネミー・オブ・ザ・サン」の「クレンズ」と同様にドラム合奏のインスト曲。4分と短い。タイトル曲は前半の13分が通常のバンド演奏、後半は電子音とドラムの実験音楽。

7
A SUN THAT NEVER SETS

2001年。ハードコア、スラッシュメタルの要素は後退し、テンポを大幅に遅くした曲や、音の数を減らした曲が多い。ブラック・サバスの「黒い安息日」の前半を拡大したような、あるいは80年代前半のニューロマンティクスの静かな部分をヘビーロックで再現したような、抑鬱的な曲が続く。KORN、ナイン・インチ・ネイルズがアメリカで流行し、ザ・キュアーを筆頭とするゴシックロックが再評価され、ゴシックメタルが拡大していたので、同時代のロックの影響を多分に受けている。ゴシックロックの90年代ヘビーロック的解釈。ギターが抑制的に演奏してもドラムは強く叩かれる。

8
NEUROSIS&JARBOE

2003年。前衛ロックのスワンズの女性ボーカルだったジャーボーが参加。ニューロシスのメンバーはメインボーカルをとっていない。従来のギター、ベース、ドラムも演奏されるが、シンセサイザー、電子音のプログラミングもこれまでより多く使われる。ジャーボーを含むメンバー全員に「エフェクト」の表記がある。音の基本的な形態はロックだ。エフェクトが大きくかかった曲はインダストリアルロックに近くなる。ジャーボーはメロディーを付けて歌うので、ニューロシスのアルバムの中でもボーカルに情緒があるが、曲によっては絶叫もしている。ニューロシスの実験的創作がボーカルとエフェクトの方面に出たアルバム。

9
THE EYE OF EVERY STORM

2004年。前作での実験を踏まえて、演奏の強弱を大きく付け、ボーカルの表現の幅をこれまで以上に広くした。「ブリッジズ」はそれを極限化している。「ア・サン・ザット・ネバー・セッツ」をインディー・ロック寄りにしたようなロック。音の数を絞って緊張感を出している。10分近くある「ア・シーズン・イン・ザ・スカイ」はこのバンドなりの弾き語りのような曲。ギターはシューゲイザーのような音響も使う。

10
GIVEN TO THE RISING

2007年。ハードさと整合感を「タイムズ・オブ・グレイス」のころまでに戻した。「ウォーター・イズ・ノット・イナフ」はギターがリズムに合わせて音を刻む。「ジ・アイ・オブ・エヴリィ・ストーム」の構造と雰囲気を引き継いだ曲は残っているが、ハードな曲があるだけで、アルバムの印象は変わる。アルバムタイトル曲が1曲目に置かれ、ポストメタルのヘビーメタル的要素を多く含ませていることが、アルバムの印象を決定づけている。3曲目から徐々に「ジ・アイ・オブ・エヴリィ・ストーム」の路線に近づき、7曲目の「ウォーター・イズ・ノット・イナフ」でリセットされる。

11
HONOR FOUND IN DECAY

2012年。「ジ・アイ・オブ・エヴリィ・ストーム」や「ア・サン・ザット・ネバー・セッツ」のように、途中で突然轟音になるような構成の曲、音の分厚さが突然変わるような曲が続き、それがバンドの音として定着しているとも言える。しかし、音楽の配信が普及し、スマートフォンで聞くことが主流になると、ミドルテンポの暗い曲、長い曲が聞かれにくい。ニューロシスが90年代後半以降に追求してきた音楽性は、多数に聞かれるという点では不利になっている。日本盤は出なかった。

12
FIRES WITHIN FIRES

2016年。アルバム全体で40分という短さは初期の2枚以来だが、曲は5曲。曲調はこれまで通り。