ミュルクル、ミシュクルは女性ボーカルのアマリー・ブルーンによるブラックメタルのプロジェクト。民族音楽にも傾倒する。
2014年。EP盤。女性ボーカルがギター、ベースも演奏し、ベースとドラムはゲストミュージシャンが演奏している。2分以下の2曲は。3~5分の曲はボーカル以外がブラックメタルそのものだ。サタニズム的な曲ではなく、主にボーカルによって崇高さを表現するブラックメタルといえる。ボーカルは曲によって、あるいは部分によって通常のボーカル、民族音楽風コーラス、ブラックメタル型ボーカルを使い分ける。
2015年。北欧ブラックメタルの音楽的文脈に女性的なボーカルを乗せた。女性的なボーカルとは単に女性が歌うボーカルと異なり、女性の聖性を押し出したボーカルであり、ミソジニーが強いブラックメタルに女性性を加えたことが特異だ。単に女性がボーカルをとることとは別の意味がある。オープニング曲はバイオリンやハルダンゲルバイオリンを使い、宗教性のある女声合唱で歌われる。「ヘヴネン」「モーデット」はブラックメタル。「スカディ」は前半がブラックメタル、途中で女性的ボーカルになり、ブラックメタルに戻る。「オンド・バーン」はブラックメタルよりもヘビーメタルに近い。1、2分の短い曲はピアノの弾き語りが多い。このアルバムのみ日本盤が出ており、アーティスト名はミシュクルとなっている。
2016年。ライブ盤。「エム」の収録曲を中心に、ピアノとアコースティックギターだけで演奏している。6人の少女合唱団がコーラスで参加している。従って、体裁としてはブラックメタルではない。ボーカルは宗教音楽ほどの厳格さはないが神秘性はあり、歪んだ響きを排除している。「ソング・トゥ・ホール・アップ・ハイ」はバソリーのカバー。最後の曲はエンディングに30秒弱の拍手が入っている。
2017年。オープニング曲は効果音が入ったほぼアカペラの曲。2曲目は途中にニッケルハルパが入ったブラックメタルで、ボーカルは3種類を使い分ける。3曲目はヘビーメタルに近く、ここまでは「エム」と同じ構成になっている。最後の2曲は民族音楽風インスト曲と、合唱、朗読の実験的な曲。ブラックメタル型ボーカルを使う曲は少なく、声の大きさや高さ、力強さを競うような歌い方もしない。反キリスト教性とマッチョイズムを重要な要素とするブラックメタルに対し、非マッチョイズム的な女性ボーカル、母性を思わせるボーカルを取り入れることで、ブラックメタルのあり方に批判を加えている。女性がヘビーメタルのバンドに入ったとしても、男性と同じように振る舞うなら男性が入ったのと変わらず、過剰に性的に振る舞うなら男性視線を助長しているのと変わらず、母性的な振る舞いがマッチョイズムを前景化させる。
2018年。
2020年。ギター、ピアノ、バイオリン、パーカッションなどで演奏する民族音楽のアルバム。エレキギター、ベース、ドラムは使われていない。これまでのアルバムやEP盤に出てきた民族音楽の要素が、アルバム全体で表現されている。ボーカルはすべて通常の歌い方。
2023