ミューズはボーカル兼ギターのマシュー・ベラミーを中心とするロックバンド。3人編成。イギリス出身。科学技術の進歩や現代文明と人間について考察するアルバムが多い。パーカッションやホーンセクションだけでなく、エレクトロニクス、リズム・マシーン、ノイズを用いた2000年代サウンド。ライブの演出は大がかりで、見せることにも意識を置いている。
1999年。ボーカル兼ギター兼キーボードを含む3人編成。イギリス出身。ほとんどの曲でキーボードが使われるが、全体のサウンドはギターが中心。キーボードはメロトロンとオルガンが過半数。緊張感のあるボーカルとギターで、繊細なメロディーを作る。ポップで前向きな曲は少なく、鬱屈した感情を歌い上げる。「サンバーン」「マッスル・ミュージアム」収録。
2000年。アルバム未収録曲で構成された企画盤。ブックレットの表記は8曲。隠しトラックと思われる曲が3曲収録されている。リミックスのようなサウンドで、3曲目にはボーカルも入る。「フィリップ」「ドゥ・ウィ・ニード・ディス?」はライブ。
2000年。シングル盤。
2001年。ベースとキーボードの活躍が多くなった。メーン楽器がギターではなくキーボードの曲も複数ある。サウンドの緊張感も大きくなり、ベースにはディストーションがかかる。ハードになったと言えるが、それはベースによるところが大きい。キーボードの音も現代風になった。日本盤の帯には「究極の過剰の美学」と書かれているが、それほど過剰だとも思わない。レコード会社による音の性格付けか。
2001年。シングル盤。タイトル曲はライブ。
2001年。シングル盤。ライブ1曲、アルバム未収録曲1曲収録。
2001年。シングル盤。タイトル曲はライブ。スタジオ録音の3曲はアルバム未収録曲。「プラグ・イン・ベイビー」はライブ。「ピアノ・シング」はクラシックのピアノ・ソナタのような演奏。
2002年。ライブ盤。
2003年。ライブ盤収録の新曲のスタジオ録音バージョンを収録。フランキー・ヴァリ、またはボーイズ・タウン・ギャングの「君の瞳に恋してる」のカバー収録。「イン・ユア・ワールド」はバッハのトッカータとフーガニ短調と同じフレーズが使われる。
2003年。シングル盤。エレクトロニクスのイントロから徐々に盛り上がり、ファルセットのサビに到達するミューズの得意技。
2003年。キーボードの量が減り、ギターが増えている。ベースがギターの役割を果たすのはベン・フォールズ・ファイヴと同じだ。アルバムの真ん中に短いインストが入り、アルバムを前半と後半に分けている。ハードな曲はこれまでよりハードになり、静かな曲ではストリングスを使う。アルバムの中での激しさと静けさに幅が出た。
2006年。コーラスが厚くなり、ギターとキーボードが同時に演奏される曲が増えた。3人のバンドとしてはサウンドが厚いと言える。メロディーも覚えやすくなり、ギターのフレーズにも印象的なメロディーが多い。ボーカル兼ギター兼キーボードのマシュー・ベラミーは事実上ドラムとベース以外のほとんどの音を演奏しているため、担当楽器の表記があまり意味を持たなくなっている。このアルバムで世界的にデビュー。
2008年。ライブ盤。CDとDVDの2枚組。「イントロ」はプロコフィエフのバレエ音楽「ロミオとジュリエット」の「騎士たちの踊り」。CDは14曲、DVDは20曲収録されており、異なる日の公演なので演奏も若干違っている。ボーカルのファルセットはスタジオ盤とほぼ同じ。ヒットした「ブラック・ホールズ・アンド・レヴァレイションズ」からの選曲が多く、ドラマチックさと覚えやすさが同居するサウンドを無難に演奏する。
2009年。11曲のうち、最後の3曲は「エクソジェネシス(脱出創世記)」として第1~3部を構成している。これを1曲とすると9曲で、8曲にかっこつきの邦題が付いている。曲はどれも壮大もしくは抒情的。「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ユーラシア」は途中でクイーンの「伝説のチャンピオン」を思わせるサウンドが出てくる。この曲のエンディングはショパンのノクターンが使われる。「アンナチュラル・セレクション」はアバの「レイ・オール・ユア・ハンズ・オン・ミー」に近いフレーズが出てくる。「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ユーラシア」と「アイ・ビロング・トゥ・ユー」にはタイトルのあとに別のタイトルを足しているが、曲の構成も2曲がつながったような形になっている。「エクソジェネシス(脱出創世記)」は計約13分で、オーケストラ風の編曲をしている。「レジスタンス」「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ユーラシア」はジョージ・オーウェルの「1984」に出てくる概念を歌詞に使っている。
2012年。邦題「ザ・セカンド・ロウ~熱力学第二法則」。キーボード、エレクトロニクスはもちろん、ストリングス、合唱団、ホーンセクション等まで、現代的な音楽の構成要素として考えうるものはおおむね使っている。バンドとしては3人編成なので、ギター、ベース、ドラムの音を聞きやすく整えることなく、粗い感触のままにしている。ボーカルが単語をバラード並みに長く引き延ばして歌いながら音階を上げていき、同時にバックの演奏を徐々にハードにしていき、聞き手がため続けた抑圧を解放する。ミューズの曲の特徴はこの点に集約され、これが一貫して続いている。「パニック・ステーション」はスティービー・ワンダーの「迷信」を意識した曲。「セイヴ・ミー」「リキッド・ステイト」はベースのクリス・ウォルステンホルムがボーカルをとる。
2013年。ライブ盤。デビュー以来、アルバムを2枚出すごとにライブ盤を出している。CDは13曲、DVD、ブルーレイは20曲収録。「レジスタンス(愛の抗戦)」「ヒステリア」「ナイツ・オブ・サイドニア」「スターライト」はさすがに歓声が大きい。
2015年。ギターが目立つ曲が多く、キーボードによるメロディーの補完が少なくなっている。4曲目までは前作のサウンドに近く、「マーシー」はキーボード主体でメロディーを構成する。「リーバーズ」以降はギターが華々しく、「アフターマス」までギターが曲を主導する。「ザ・グローバリスト」の後半はエルガーの「エニグマ変奏曲」の「ニムロッド」を使用。「ドローンズ」はパレストリーナのミサ曲を使用。「ニムロッド」はイギリスのイベントで、ミサ曲は英国国教会の聖餐でそれおぞれ使われるので、イギリス人にはなじみのある曲。2曲連続でクラシックを取り入れ、それをアルバムの最後に入れていることについては、議論されることを織り込んだ選曲だろう。特にミサ曲はボーカル兼ギターのマシュー・ベラミーが1人でボーカルを多重録音し、歌詞も付けているので個人的メッセージはあるだろう。ジャケットもこれまでで最も主張が強い。キリスト教を含めた宗教が世界を乱しているというような主張なら、ありきたりだ。
2018年。デビュー以来続く、人間と科学技術の関係の哲学的考察をテーマとしている。技術の進歩が人間の記憶や思考を上回った現在において、人間の可能性と不可能性、人間らしさの行方を考えている。マシュー・ベラミーは文明論や科学論、哲学書をよく読んでいるようだ。「ブラック・ホールズ・アンド・レヴァレイションズ」以降の曲調を変えず、シンセサイザーとドラムマシーンを積極的に使うロックとなっている。マシュー・ベラミーのボーカルはこれまで通り情感を込めながら朗々と歌う。「プレッシャー」はホワイト・ストライプス、または「プラグ・イン・ベイビー」を思わせる。
2022年。1970年代から90年代のロックに敬意を表しながら、これまでのミューズの音の中に取り込んだような曲が並んだ。これまで通り分厚いギターとシンセサイザーが曲の隙間を埋め尽くす。アルバムタイトル曲はマリリン・マンソンも取り上げたグラムロック、「コンプライアンス」は80年代ハードロック、「リベレイション」は70年代クイーン。「ユー・メイク・ミー・フィール・ライク・イッツ・ハロウィーン」はオルガンを重用しており、最後はバッハの「トッカータとフーガ」を思わせる。「キル・オア・ビー・キルド」はパンテラを始めとするヘビーロックか。「ヴェローナ」は2000年代のミューズが好んで作っていたシンセサイザー・ポップに近い。