ミソティンはスウェーデンのヘビーメタルバンド。北欧神話を題材とする。ファルコナーはミソティンのベース、ギターのステファン・ヴァイナーホールが結成。ヨーロッパ的哀愁を多分に含んだ曲調。ボーカルはマティアス・ブラッド。
1997年。タイトルはもちろん北欧神話から採られている。タイトル曲の中に「オーディンの使い(Ravens)の翼の下で我々は生きる」という一節が出てくる。CDのレーベル面はケルトの組紐文様、ジャケット左上(または裏ジャケの裏)に書かれているロゴはルーン文字で「MITHOTYN」と表記されている。ボーカルはデス声と通常の声を使い分けている。メロディは徹底的に勇壮で哀愁が漂う。4人編成だが、実質的にツインリードギターで、キーボードも入る。
1997年。プロデューサーはキング・ダイアモンドのアンディ・ラロック。基本的に路線変更なし。コーラスは野太い。時折ブラインド・ガーディアン風のギターフレーズが出てくる。ファースト、セカンドとも日本盤はそれぞれ500枚しかプレスされていない。
1999年。日本デビュー盤。前作にもあったが、剣をせりあう戦闘シーンの音が入る曲がある。曲によってはヘビーメタルとメロディック・デスメタルの中間。ヴァルハラ、ヘイムダール、アスガード等の北欧神話単語満載。
2001年。ミソティンのベース、ギターだったステファン・ヴァイナーホールが結成したバンド。ステファン・ヴァイナーホールはギター兼キーボード奏者となっている。ボーカルは低いキーながら声域は広く、男らしさをたたえる声。メロディーに強い哀愁が漂う。傑作。
2002年。バラードもあるしミドルテンポもあるので普通のヘビーメタル。そういうジャンルの話は些末なことで、北欧メタルではない高品質なヘビーメタルが北欧に存在することの方が重要。詩は神話から脱却している。
2003年。ボーカルが交代。明確にファルコナーであると分かるメロディーを持っていることは大きな強みだ。前任のボーカルも3曲で参加している。ボーカルが替わったことよりも、デビューから一貫して印象的なメロディーが保たれていることの方が驚きであり、評価の対象である。
2005年。前作と同路線。ギターとベースが交代。デビュー盤のメロディーを維持。「パーガトリー・タイム」は「ファルコナー」そのもの。ボーカルは現状でも問題はないが、表現力か声の個性をもっとつければヨーロッパのヘビーメタル・バンドの一群から抜け出すことができる。
2006年。邦題「ノースウィンド~遙かなる大地」。ボーカルがデビュー当時のマティアス・ブラッドに戻った。オープニング曲のイントロとエンディング曲の最後は風の音。オープニング曲は前奏がなく、ボーカルがすぐに入ってきて、マティアス・ブラッドに替わったことをアピールする。ブラインド・ガーディアンやノクターナル・ライツ並みに覚えやすいメロディーで、ヘビーメタルのハードさも十分。キーボードとコーラスをうまく使うが、あくまでもサウンドの中心はギターとドラム。
2008年。前作よりもスウェーデン語の曲が増え、詩の題材も出身国であるスウェーデンの歴史から取られている。サウンドは「ノースウィンド~遙かなる大地」に連なる郷愁漂うヘビーメタルだ。コーラスが乗るときはバックでキーボードも使われることが多く、マティアス・ブラッドが歌うときはギター、ベース、ドラムだけで演奏されることが多い。バンドサウンドの部分がヘビーメタルらしさを強調している。ロック全体の中で見れば、ファルコナーのサウンドは一種の文化相対主義だ。
2011年。11曲のうち6曲が民謡の編曲もしくは民話を歌詞にした音楽。編曲はヘビーメタルで、デビューのころのサウンドに似ている。全曲をスウェーデン語で歌うが、ボーナストラックでは収録曲のうち4曲を英語で歌っている。民謡が多くなっても、スウェーデン語で歌っていてもカバー曲とインスト曲以外の演奏は哀愁のあるヘビーメタルになっている。「スヴァルタ・エンカン」「ディモルナス・ドロッティング」「ヘル・ペデル・オ・ハンス・シスター」で女性ボーカル、「スヴァルタ・エンカン」「グリムボリ」でオルガン、「ディモルナス・ドロッティング」「ヴィド・ロソルナス・グラヴ」「フル・シルフヴァー」でバイオリン、「オー、ティスタ・エンサムヘット」はチェロを使う。「エクルンダポルスカン」はバイオリンによる民俗舞曲のインスト曲。「グリマシュ・オン・モロネン」はコルネリス・ヴリースウィクのカバー。コルネリス・ヴリースウィクはスウェーデンの弾き語り歌手。
2014年。ハードなヘビーメタルばかりで、民謡風の曲はない。これがこのアルバムの評価を落とす。前作が民謡寄りの曲が多かったため意図的にヘビーメタルのハードさを押し出したのかもしれないが、曲調をハードだと感じさせるためにはミドルテンポの曲や民謡調の曲が必要だ。マティアス・ブラッドのボーカルも矢継ぎ早に歌うよりは音節を長く歌う方が上手さが伝わる。ヘビーメタルバンドならハードな曲が多いのは当然とはいえ、ある程度のバランスなり変化なりを取り入れることは全体を構成する能力のひとつでもあるだろう。
2020年。90年代のヘビーメタルに戻った部分と、2000年代以降のファルコナーを継続している部分が両方含まれる。マティアス・ブラッドの安定した低い声はヘビーメタルの中で十分な個性だが、このアルバムがファルコナーの最後のアルバムという。このまま引退するのは惜しい。最後の曲の「ラプチュアー」は、ブラックメタルだったミソティンのような曲調を含んでおり、ミソティン、ファルコナーの集大成のような曲だ。このアルバムが最後ということを前提に作曲されたかもしれない。民族楽器を入れなくてもメロディーだけで通用しうるバンドだった。「デザート・ドリームス」がオープニング曲でもよかった。