1985年。邦題「キリング・イズ・マイ・ビジネス」。メタリカのギター、デイブ・ムステインが結成したバンド。ギター2人の4人編成。当時、ハードコアとともに音響的にハードだったスラッシュメタルを演奏している。ハードコアよりも音楽的であろうとする意志は読み取ることができ、アンサンブルも整理されている。ギターの刻み方は高速。ボーカルはデビュー当初のメタリカと大差なく、それほどうまくない。メロディーは明確なので、2、3年後に出てくる速さ一辺倒のスラッシュメタル・バンドより聞きやすい。「メカニックス」はメタリカの「フォー・ホースメン」と同じメロディー。オープニング曲のイントロはバッハの「トッカータとフーガニ短調」。
1986年。邦題「メガデス」。大手レコード会社から発売。スラッシュメタルが当時新しい音楽として認識されていたことの証だ。アンスラックスほどではないが、メロディアスだ。「ウェイク・アップ・デッド」「ピース・セルズ」は長くない曲だがいったん曲をリセットするような展開がある。「迷信の恐怖」はハウリン・ウルフのカバー。「ピース・セルズ」収録。
1988年。邦題「ソー・ファー・ソー・グッド・ソー・ホワット」。ギターとドラムが交代。サウンドがどんどん派手になっていく。ベースのデイヴ・エレフソンが作曲に関わるようになった。このアルバムはメガデスの歴史の中ではそれほど重要とされていないが、「セット・ザ・ワールド・アファイア」は第三次世界大戦、「フック・イン・マウス」は検閲に対する批判を扱い、社会性を帯びている。「アナーキー・イン・ザ・UK」はセックス・ピストルズのカバー。「イン・マイ・ダーケスト・アワー」「フック・イン・マウス」収録。
1990年。再びギターとドラムが交代。ギターはカコフォニーのマーティー・フリードマン、ドラムはニック・メンツァ。このころにはスラッシュ・メタルが大きなジャンルになり、メガデスはすでに有名バンドだった。デイヴ・ムステインのボーカルに迫力がでてきて、ギターも刻む量が大幅に増えた。ジャケットはこれまで以上に明快な批判性があり、曲も技巧的だ。スラッシュ・メタルの大きな特徴を正面から取り入れ、ヒット作になった。「ホリー・ウォーズ」「ハンガー18」「トルネード・オブ・ソウルズ」収録。
1991年。「ハンガー18」のAORバージョンを収録した企画盤。アルバムより2分短い。アダルト・オリエンテッド・ロック風に演奏されているわけではない。「殺しの呪文」と「フック・イン・マウス」はライブ。日本盤は4分40秒の「日本のファンへのスペシャル・メッセージ」が収録されている。
1992年。邦題「破滅へのカウントダウン」。スラッシュメタルを含むヘビーメタル、ハードロックがこの年から過去の流行となっていくが、前作の路線をそのまま引き継いでいる。ギター、ベースを重ねて厚い音にするサウンドから離れ、つまりスラッシュメタルの典型的なサウンドから離れ、一般的なヘビーメタルのサウンドに近づいている。「スウェティング・バレッツ」はポップとも言える曲だ。「狂乱のシンフォニー」「スキン・オー・マイ・ティース」「キャプティブ・オナー」収録。
1992年。邦題「狂乱のシンフォニー」。シングル盤。「アナーキー・イン・ザ・UK」「ハンガー18」はライブ。日本のファンへのスペシャル・メッセージを収録。
1994年。曲に変化が見られ、スラッシュメタルからハードなヘビーメタルに移行した。オープニング曲からこれまでになかったような余韻を残すメロディーを使い、サビの部分での複声、ディストーションのかからないギターも出てくる。サウンドがヘビーメタルになっているだけで、メロディーは一般にも通用する。ヘビーメタル、スラッシュメタルが時代遅れであることが明らかだったことを考えれば、多少の変化を見せることも一つの対応だったと言える。「ア・トゥー・ル・モンド」収録。
1995年。アルバム未収録曲等を集めた企画盤。「ノー・モア・ミスター・ナイス・ガイ」はアリス・クーパー、「パラノイド」はブラック・サバス、「怒りの日」はセックス・ピストルズのカバー。
1996年。メガデスのボーカル兼ギター、デイブ・ムステインの別バンド。デイブ・ムステインはギター専任。4人編成。ドラムはスイサイダル・テンデンシーズのジミー・デグラッソ。ヘビーメタルではなく、ロックとパンクの中間。ボーカルは低めの声で、モトリー・クルーやアンスラックスのボーカルが変わったときと同じ印象を受ける。ベースが強調されている。
1997年。グランジ、オルタナティブ・ロックの影響を受けたらしく、ギターのサウンド、メロディーに諦観がある。「アイル・ゲット・イーヴン」「ア・シークレット・プレイス」は特にその傾向がある。「ユーズ・ザ・マン」は変化を感じさせる曲だが、初期のころの展開も含んでいる。「ハヴ・クール、ウィル・トラヴェル」でブルース・ハープを使用。「ディスインテグレーターズ」はヘビーメタル。「シー・ウルフ」は90年前後の雰囲気を残す。全体として、ヘビーメタルとオルタナティブ・ロックの股裂き状態になり、どういう方向に持っていきたいのかに迷いが生じている。
1997年。6曲入りライブ盤。「アングリー・アゲイン」は「ヒドゥン・トレジャーズ」収録曲。「ユーズ・ザ・マン」はアルバム通りに演奏し、前半はオルタナティブ・ロックになっている。日本独自企画。
1998年。5曲入りのインスト盤。
1998年。「クリプティック・ライティングス」にライブを加えた2枚組。
1999年。ドラムが交代し、Y&T、スイサイダル・テンデンシーズのジミー・デグラッソが加入。ヘビーメタルから別のロックに転換しようとする意志が感じられる。しかし、ヘビーメタルへの未練を捨てきれないサウンドになっているため、別のロックがどうしてもヘビーメタルの派生に聞こえてしまう。サウンドの方向を変えること自体は表現の拡大として好意的に解釈できるが、大胆に変えた方がよかった。オープニング曲の「インソムニア」は東欧風のバイオリンとナイン・インチ・ネイルズ風のインダストリアルサウンドを取り入れたヘビーメタル。マリリン・マンソン、曲によってはフィア・ファクトリーに近いサウンドで、人工的な音が増えている。「ブレッドライン」「エクスタシー」はヒット性が高い。このアルバムを、ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーがプロデュースし、ある程度統一した音を提示できていれば批判は少なかっただろう。
2000年。シングル盤。6曲入り。「狂乱のシンフォニー」はナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーがプロデュース。10分近くある。メガデスではなく、(例えば)匿名で曲を発表していれば、クラブ・ミュージックやテクノでは受け入れられたかもしれない。
2000年。ベスト盤。「キル・ザ・キング」「ドレッド&ザ・フュージティヴ・マインド」は新曲。「キル・ザ・キング」は「狂乱のシンフォニー」のころのサウンド。「ドレッド&ザ・フュージティヴ・マインド」は「ラスト・イン・ピース」のころの雰囲気がある。他の12曲はデビュー以来のシングル曲等を新しい順に収録している。約5分の隠し曲があり、ヒット曲の一部をつなげた遊びのような曲となっている。
2001年。ギターが交代しアル・ピトレリが加入。「リスク」のようなインダストリアル・ロック風のサウンドではないが、「クリプティック・ライティングス」のような雰囲気では、元に戻ったとしても評価はあまり高くない。ヘビーメタルを通過したオルタナティブ・ロック。ストリングスも入り、ボーナストラックはカントリー調。売れたいという意識はむしろこのボーナストラックに感じられる。「リターン・トゥ・ハンガー」は「ハンガー18」とよく似ている。「サイレント・スコーン」はトランペットが入る。「モト・サイコ」収録。
2002年。ライブ盤。2枚組。24曲で2時間を超える。ヒット曲をほぼ網羅している。「シー・ウルフ」はドラムソロを含む。
2002年。デビュー盤のリマスター盤。ジャケットが異なる。
2004年。デイブ・ムステイン以外のメンバーが入れ替わり、ギターはクリス・ポーランドが復帰。実質的にデイヴ・ムステインのソロアルバムとなっている。ドラムはヴィニー・カリウタ。オーソドックスなヘビーメタルで、「ラスト・イン・ピース」「狂乱のシンフォニー」以来の本格的ヘビーメタル回帰作。キーボードをほどよく取り入れ、曲もギターをよく刻むことが多い。メロディーは暗さや陰鬱さよりも力強さがある。「ダイ・デッド・イナフ」「キック・ザ・チェア」「ティアーズ・イン・ア・ヴァイアル」「バック・イン・ザ・デイ」はいい曲だ。ジャケットは「ラスト・イン・ピース」の続編を思わせる。
2005年。ベスト盤。17曲収録。未発表曲や新曲はない。
2007年。またメンバーが入れ替わっている。ベースはホワイト・ライオンのジェイムス・ロメンゾ。ヘビーメタルはロックの下位ジャンルの中では過激でも何でもなくなったが、ヘビーメタルとはどういう音か、を示すのにちょうどいいサウンドとなっている。ドラムやギターが鋭角的で、ハードでメロディアス、制御されたアンサンブルを保持し、男性性を誇示している。全盛期のサウンドに近い。「ワシントン・イズ・ネクスト!」「アメリカスタン」は政治的な内容であることがすぐ分かるタイトル。「ア・トゥー・ル・モンド」は「ユースアネイジア」に収録されていた曲の再録音で、ラクーナ・コイルの女性ボーカル、クリスティーナ・スカビアが参加している。日本盤ボーナストラックの「アウト・オン・ザ・タイルズ」はレッド・ツェッペリンのカバー。
2007年。ライブ盤。2枚組。2005年のライブなので「ユナイテッド・アボミネイションズ」からの曲は入っていない。22曲のうち13曲は「ルード・アウェイクニング」と重なっている。南米の公演なので歓声が大きい。
2009年。ギターが交代。ストリングスやアコースティックギターも使い、前作に勝る(ヘビーメタルとして)質の高い曲が並ぶ。「クリプティック・ライティングス」や「リスク」の頃はロックファン全体を向いた作曲がなされていたが、「ザ・システム・ハズ・フェイルド」以降のアルバムはヘビーメタル・ファンに受け入れられればいいという考え方のようだ。「ヘッドクラッシャー」はライブで盛り上がるであろう曲。「ザ・ハーデスト・パート・オヴ・レッティング・ゴー...シールド・ウィズ・ア・キス」はミドルテンポで暗めの曲。「ボディーズ」は「狂乱のシンフォニー」を思わせるメロディー。
2011年。ベースが交代し、デイヴィッド・エレフソンが復帰。「エンドゲーム」の路線を継承。
2013年。ヘビーメタルというよりもヘビーメタル風のロック。デイヴ・ムステインが低めの声で歌う。ヘビーメタルのバンドのイメージを保持したまま新しい方向を打ち出すのは容易ではない。保守的であった「ユナイテッド・アボミネイションズ」「エンドゲーム」「サーティーン」から離れようとする意思は感じられるが、メガデスというバンド名で出すとこれまでのメガデスの歴史を背負うことになり、イメージに縛られる。今回の場合、メガデス以外のバンド名で出したとしても、時代錯誤感がある。「ビルト・フォー・ウォー」はパンテラのような曲。「コールド・スウェット」はシン・リジーのカバー。
2015年。シングル盤。ギターとドラムが交代。
2016年。ボーカルの声が低いまま、曲調はヘビーメタルに戻っている。声が低くとどまっているのはデイヴ・ムステインの加齢によるとみられる。「ポスト・アメリカン・ワールド」はアメリカを肯定し、批判的勢力を敵視する。「ライイング・イン・ステイト」は西洋市民社会が衰退することに脅威を感じている。カバー曲の「フォーリン・ポリシー」は他の国への支援を不要と主張する。これらの曲に共通するのは、自らが属する社会の価値観や秩序を維持し、異なる価値観を否定する態度だ。このアルバムは、否定というよりも威圧的で、この時期のアメリカの空気を反映している。ディストピアというタイトルがこれらの曲を含めて包括的に意味づけられているのかどうかは不明。しかし、これまでのメガデスのアルバムタイトルは収録曲の1曲を採用していることが多く、今回もそうであるならば、タイトル曲以外はそのままデイヴ・ムステインの政治的主張であり、幼稚化したと言わざるを得ない。