1971年。ミートローフと女性ボーカルのストーニーによる、ポップでメロディアスなソウル。2人とも60年代ソウルを受け継いだ声量の大きいボーカルだ。バックの演奏はホーンセクション、ストリングス、パーカッション、女性コーラスを含むバンドサウンドで、当時のポップス、ソウルで一般的なポップオーケストラを使っていると言っていいだろう。ハードロック系の作曲家が作った「シー・ウェイツ・バイ・ザ・ウィンドウ」「キス・ミー・アゲイン」「レディー・ビー・マイン」は長め。「キス・ミー・アゲイン」の後半はギターソロがブルースロックを思わせる。プロデューサーが作曲している曲はソウル、ファンクが強い。「ゲーム・オブ・ラヴ」はアイク&ティナ・ターナーのカバー。女性ボーカルのストーニーは後にリトル・フィートのボーカルとなった。日本盤は2017年発売。
1977年。邦題「地獄のロック・ライダー」。ギターとピアノを主体とするポップなロックバンドがブルース・スプリングスティーンのハードな曲を演奏しているようなサウンド。トッド・ラングレンが編曲しているためピアノとコーラスがふんだんに使われる。演奏もトッド・ラングレンのユートピアのメンバーが中心。全曲をジム・スタインマンがロックミュージカル風に作曲している。このアルバムが長期にわたって売れ続けている理由は、緩急の付いたドラマチックなサウンドもさることながら、若年層の共感を得やすい物語の内容にある。性的欲求や一時的恋愛感情で動く10代後半の男が、肉体的だけでなく精神的関係と永続性、つまり純愛を求める女との間で葛藤し、破滅的結果(バイク事故による自殺)に向かう。ロックを聞く若者はいつの時代にも精神的に未熟であり、特に男性は全員が自らの未熟を理解できない。そうした中で、無根拠な全能感を抱きがちな10代後半の若者が、生きていく上での人間関係の喜びや苦しみ、葛藤や焦燥といった感情を最も切実に、身近に共感できるエピソードは、男女間の恋愛、あるいはそれにまつわる肉体と精神の一致と乖離だ。アルバムでは、その経緯がB面の3曲で語られる。「ロックンロール・パラダイス」は野球の実況をかぶせてセックスを暗喩している。若者にとって最も強力な印象を残すセックスを扱うことで、このアルバムに対する共感を強めている。日本ではサウンド面の特徴のみが強調され、物語の解釈に対する評価がほとんどなかったため、大きな人気を得ることができなかった。「ユー・トゥック・ザ・ワーズ」はトッド・ラングレンのフィル・スペクターの趣味が出ている。「暴走」はエドガー・ウィンターがサックスを吹く。
1981年。ミートローフの「地獄のロック・ライダー」を作詞作曲したジム・スタインマンのソロアルバム。トッド・ラングレンとユートピアのメンバーが参加しており、「地獄のロック・ライダー」のイメージに近い。曲も5分から8分と長いが、物語にはなっていない。ジム・スタインマンが5曲でボーカルをとる。「愛と死とアメリカン・ギター」はジム・スタインマンの2分半の語り。「死ぬまでロックンロール・ダンス」は女性ボーカルが多くの部分を歌う。10曲のうち「愛と死とアメリカン・ギター」「荒野に叫ぶ愛」「死ぬまでロックンロール・ダンス」以外の7曲は何らかの形でミートローフが再録音している。「渚の誓い」はミートローフでは「燃える魂」と邦題が変わっている。「ザ・ストーム」はニューヨーク・フィルによる
1981年。前作に続きジム・スタインマンが全曲を作詞作曲。トッド・ラングレンは録音に関わっていないが、前作に近いバンドサウンドとなっている。「ピール・アウト」と「デッド・リンガー・フォー・ラヴ」は音の数が多く、前作の流れを汲む。「デッド・リンガー・フォー・ラヴ」はシェールが参加している。「アイム・ゴナ・ラヴ・ハー」はブルース・スプリングスティーンの「明日なき暴走」を思わせる。
1983年。邦題「真夜中の彷徨」。キーボード、ピアノを含むバンドで録音。3分から4分の曲がほとんどとなり、ストリングスやホーンセクションを使わない一般的なロックのサウンドになった。曲によって作曲者が異なり、ミート・ローフとベース、ピアノ奏者と共作、あるいは録音に関わっていないアーティストの作曲となっている。ミート・ローフの力強いボーカルは残るが、曲と演奏に大仰さや派手さはない。「プロミスド・ランド」はチャック・ベリーのカバー。
1984年。邦題「ロック・ライダーの悲劇」。キーボードやドラムの音、ギターのハードさにこの当時のハードロックの影響がみられるが、編曲のよさは「デッド・リンガー」のころに戻っている。9曲のうち「ファースト・ライダー」「燃える魂」の2曲はジム・スタインマンが作曲。オープニング曲の「バッド・アティテュード」はザ・フーのロジャー・ダルトリーが参加している。「モダン・ガール」は80年代のクイーンを思わせる。
1986年。シンセサイザーを基本とするポップなロックの上に、エレキギターを載せている。サミー・ヘイガーとエドワード・ヴァン・ヘイレンによる「トップ・ガンのテーマ」に近いサウンドだが、それよりもハードなことが多い。それぞれの曲はアレンジに凝っていない。「ワン・モア・キッス」とアルバムタイトル曲は曲間なしに連続して聞かせる。日本盤は出なかった。
1986年。イギリス盤。ジャケットが異なる。
1987年。ライブ盤。ギター2人、ベース、ドラム、キーボード、女性コーラス2人録音。ギターはバランスのボブ・キューリックとアロウズ、ウォッカ・コリンズのアラン・メリル、ドラムはレインボーのチャック・バーギ。「地獄のロック・ライダー」からの4曲はいずれもアルバムより長く演奏している。歓声も大きい。
1989年。邦題「プライム・カッツ~ベスト・オブ・ミートローフ」。ベスト盤。「ロック・ライダーの悲劇」から「ライヴ・アット・ウェンブリー」までの3枚から選曲。ライブ盤から選ばれている曲はいずれも「地獄のロック・ライダー」収録曲。日本盤は1994年発売。
1993年。邦題「地獄のロック・ライダーII~地獄への帰還」。ジム・スタインマンが全曲の作詞作曲をしている。「地獄のロック・ライダー」の続編と言われているが、継承しているのは曲の大仰さだけで、内容の継承には失敗している。「地獄のロック・ライダー」のヒットが長期にわたった要因は、サウンドの大仰さやミュージカル風の曲調というよりも、誰もが経験する心理的葛藤を描いていたことであり、ロックや音楽というジャンルを超えて普遍的だったからだ。ミートローフとジム・スタインマン、その周辺の関係者はヒットの要因を読み誤っており、アルバムの歌詞が恋愛感情の展開に終始してしまっている。このアルバムが出た90年代前半は、80年代から残る保守的ハードロックと、グランジを含むオルタナティブロックが両方存在したが、このアルバムは前者のサウンド傾向を持っている。「地獄のロック・ライダー」の続編を思わせるタイトルと、ジム・スタインマンが関わっているという点で大衆層の安心感を生んだ。売り上げだけをみれば「地獄のロック・ライダー」に及ばないものの、大きくヒットしている。しかし、過去のヒット作のイメージをなぞっただけで社会性や若年層の共感に欠け、アルバムとしての評価は「地獄のロック・ライダー」よりもはるかに下がる。
1995年。邦題「君の為に僕は嘘をつく」。シングル盤。「ホワットエヴァー・ハプンド・トゥ・サタデー・ナイト」と「愛にすべてを捧ぐ」はライブ。「ホワットエヴァー・ハプンド・トゥ・サタデー・ナイト」は映画「ロッキーホラー・ショー」の「ホット・パトゥーティー~ブレス・マイ・ソウル」のカバー。ミートローフがミュージカルと映画で歌っている曲。「愛にすべてを捧ぐ」は5分半。
1995年。邦題「ウェルカム・トゥ・ザ・ネイバーフッド~地獄からの脱出」。「地獄のロック・ライダー」とは関係ないが、物語調になっている。ジム・スタインマンが作曲した2曲はカバーで、このアルバムのために作曲したわけではない。多数のヒット曲を作曲しているダイアン・ウォーレンが3曲を提供しているが、他のアーティストに提供しているのと同じような曲なので面白みに欠ける。「アムネスティー・イズ・グランテッド」はサミー・ヘイガーが作曲し、ギターとボーカルで参加している。ジム・スタインマンの曲を使いながらダイアン・ウォーレンの曲も歌い、「地獄のロック・ライダー」のようなヒットを望んでいることが見えすぎてしまった。「君の為に僕は嘘をつく」「愛の幕が下りた時」収録。
1998年。邦題「地獄の旋律~ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ミートローフ」。ベスト盤。2枚組。「何があろうとも」「この世はもはや汚れきったか」「永遠の接吻」は新曲。「何があろうとも」「永遠の接吻」はアンドリュー・ロイド・ウェバーとジム・スタインマンが共作している。「永遠の接吻」はオーケストラとロックバンドを使ったミュージカル仕様のサウンド。「地獄のロック・ライダー」は7曲のうち5曲が入っている。ボーナストラックの「愛にすべてを捧ぐ」のライブは13分。
2003年。バンドサウンドとオーケストラ、曲の出来とも品質が高い。ミートローフのボーカルもソウル寄りになり、ドラマチックさが増している。前半の5曲を「チャプター1」、後半の6曲を「チャプター2」とし、前半はシックス・エイ・エムのジェイムス・マイケルとニッキー・シックスの曲を中心とする。後半は曲ごとに作曲者が異なる。オープニング曲からの3曲が特によく、ジム・スタインマンに頼らなくても質の高いアルバムができることを証明している。「いつまでも若く」はボブ・ディランのカバーで、「スロー」のバージョンを朗々と歌っている。アルバムタイトル曲はトッド・ラングレンが参加。日本盤は出なかった。
2006年。邦題「地獄のロック・ライダー3~最後の聖戦!」。「地獄のロック・ライダー」のシリーズはこのアルバムで完結する。14曲のうち7曲はジム・スタインマンが他のアーティストやミュージカルのために作った曲のカバー。プロデューサーのデスモンド・チャイルドが6曲を共作、ダイアン・ウォーレンが1曲を単独で作曲し、ジム・スタインマンはアルバム制作に具体的に参加していない。「地獄のロック・ライダーII~地獄への帰還」と同様に、男性の視点で恋愛感情を描く。物語としては男性の願望は成就しないため、神が決めたことを変えることはできないという不条理を描いているとも言えるが、聞き手の共感は得にくい。アルバム全体としてはギターがラウドロックのように厚く、オーケストラもコーラスも人数が多い。「バッド・フォー・グッド」はクイーンのブライアン・メイがギターで参加している。ジム・スタインマンの原曲ほほぼ忠実にカバーし、最初と最後にトレードマークの音を加えている。「イン・ザ・ランド・オブ・ザ・ピッグ、ザ・ブッチャー・イズ・キング」は大陸ヨーロッパ型のヘビーメタル。「モンストロ」はオルフの「カルミナ・ブラーナ」の冒頭のような1分半の曲。
2010年。脚本家が書いた物語に基づいて、主に30代のアーティストが作曲している。30代という点が重要で、アルバム全体がオルタナティブロック風になっているのは作曲者の年代によるところが大きい。カントリーやフォークのアーティストも多く、必然的にギターの比重が大きくなる。これまでのアルバムで最もキーボードが少ないのではないか。「ロス・アンジェルーザー」は親しみやすいメロディー。「ラヴ・イズ・ノット・リアル/ネクスト・タイム・ユー・スタブ・ミー・イン・ザ・バック」はスティーヴ・ヴァイとブライアン・メイがギターで参加しているが、目立つのはスティーヴ・ヴァイだけだ。「ライク・ア・ローズ」はビースティー・ボーイズを思わせる。「カリフォルニア・イズント・ビッグ・イナフ(ヘイ・ゼア・ガール)」はザ・ダークネスのジャスティン・ホーキンスらしさが出たメロディーだ。「エルヴィス・イン・ヴェガス」はデスモンド・チャイルドとボン・ジョヴィのジョン・ボン・ジョヴィが作曲しており、2000年代風のボン・ジョヴィのような曲になっている。デラックス・エディションは10曲で66分のライブ盤が付く。ライブ盤にはイーグルス・オブ・デス・メタル、ドアーズ、ビートルズのカバーが含まれる。「愛にすべてを捧ぐ」はミートローフのボーカルを強調した編曲。「66%の誘惑」はテンポを落とした演奏になっている。ジャケットの右側にキャピトルレコードのビルが描かれている。日本盤は出なかった。
2011年。邦題「地獄へのフリーフォール」。3分から5分の曲が並び、長く凝った曲はない。フォーク、ヒップホップののアーティストが参加し、世界よりもアメリカを意識した内容とサウンドになっている。ミートローフとしては珍しく、社会情勢を踏まえた曲が多い。日本盤にはミートローフによるコメントが掲載されているが、コメントの原文はブックレットに掲載されていない。ミートローフは作詞作曲に関わっていないので、他のアーティストがミートローフの意向をくんで作曲している。従って作曲者によってメッセージが直接的であったり物語風であったりと幅がある。「善良な神の正体、それは醜いものが苦手な女性」はパブリック・エナミーのチャック・Dが参加している。「愛の傷はいつか輝く(夢のカリフォルニア)」はママス&パパスの「夢のカリフォルニア」のカバー。日本盤は2012年発売。
2016年。邦題「ブレイヴァー・ザン・ウィー・アー~勇者再誕」。全曲をジム・スタインマンが作曲しているが、過去の曲を再利用しており、改変しているものの新たに作曲しているわけではない。アルバム全体として物語を読み取ることはできない。オープニング曲の「フー・ニーズ・ザ・ヤング」からミュージカル風で、「地獄のロック・ライダー」のサウンドを期待する聞き手には安心感をもたらす。「ゴーイング・オール・ザ・ウェイ」は6部構成で11分半。女性ボーカル2人とミートローフが会話をするように進む。この曲から「ラヴィング・ユー・イズ・ア・ダーティー・ジョブ」までの3曲は女性ボーカルが曲の主導権を握る。前作に比べキーボード、ピアノ、ストリングスが戻り、ミートローフのイメージ通りのサウンドになっている。明るめの曲は少ない。日本盤ボーナストラックの「フォー・ホワット・イッツ・ワース」はバッファロー・スプリングフィールドの「フォー・ホワット」のカバーで、作曲者のスティーヴン・スティルスが参加している。ジャケットはヨハネの黙示録の四騎士を描いており、ミートローフが勇者として描かれている。