MARILYN MANSON

マリリン・マンソンはアメリカのヘビーロック、インダストリアル・ロックバンド。中心人物もボーカルのマリリン・マンソン。名前はマリリン・モンローとチャールズ・マンソンの合成。ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーに発掘されたため、インダストリアル・ロックのサウンドに近くなっている。ジャーナリストとしての視点を持っており、白人中産階級の創られた理想像、特にアメリカ社会に浸透しているピューリタニズムが、現実の社会と乖離している状況を曲に反映している。「アンチクライスト・スーパースター」「ザ・ゴールデン・エイジ・オブ・グロテスク」がヒット。代表曲は「ザ・ビューティフル・ピープル」「ザ・ドープ・ショー」。

1
PORTRAIT OF AN AMERICAN FAMILY

1994年。キーボードを含む5人編成。中心人物はボーカルのマリリン・マンソン。ボーカルのメロディーにあまり抑揚がなく、サウンドはそれほど暗くない。キーボードもそれほど出てこず。ジャケットはアメリカの白人家庭。

 
GET YOUR GUNN

1994年。「ポートレイト・オブ・アン・アメリカン・ファミリー」と同時に出た4曲入りEP盤。日本盤は1998年発売。

 
SMELLS LIKE CHILDREN

1994年。15曲入っているシングル盤。「スウィート・ドリームス」はユーリズミックスの、「ロックン・ロール・ニガー」はパティ・スミスのカバー。「アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー」はスクリーミン・ジェイ・ホーキンスをカバーしたのか、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルをカバーしたのかわからない。「スウィート・ドリームス」は初期の代表曲。全米31位。

2
ANTICHRIST SUPERSTAR

1997年。メロディーはややオルタナティブ・ロックで、サウンドはいわゆるインダストリアル・ロック。ボーカルにはあまりメロディーの抑揚がない。人工的な音の上に抑えたボーカルが乗ると、退廃的な印象がある。バグルスやMのような80年代初期のモダン・ポップがロックやヘビーメタルになったようなサウンド。「ザ・ビューティフル・ピープル」はよくラジオでかかったテンポのいい曲。「クリプトオーキッド」はバグルスを思い出す。全米3位。「ザ・ビューティフル・ピープル」収録。

 
THE BEAUTIFUL PEOPLE

1997年。「ザ・ビューティフル・ピープル」を中心とする日本企画盤。5曲入り。「スウィート・ドリームス」はユーリズミックスのカバー。

REMIX&REPENT

1997年。「アンチクライスト・スーパースター」の曲のリミックスとライブ。5曲のうち2曲がライブ。全米102位。

3
MECHANICAL ANIMALS

1998年。前作のような、故意に音を歪ませていることがありありと分かるサウンドではなく、ほとんどの音がきちんときれいに聞こえる。それによってメロディーがよく分かるようになり、聞きやすくなった。人工的なサウンドを使うにしても、音が割れない。いわゆるインダストリアル・ロックの先駆者だったナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーがこのアルバムに関わっていないということが大きいと思われる。世界的に売れるアーティストが聞きやすくなるというのは大ヒットになることが多く、その通りになっている。「ゴールデン・イヤーズ」はデビッド・ボウイのカバー。全米1位。

I DON'T LIKE THE DRUGS(BUT THE DRUGS LIKE ME)

1999年。シングル盤。タイトル曲とそのバージョン違い4曲を収録。

ROCK IS DEAD

1999年。シングル盤。アルバムからのシングルではなく映画「マトリックス」のサウンドトラックから。

THE LAST TOUR ON EARTH

1999年。ライブ盤。全米82位。

4
HOLY WOOD

2000年。19曲あり、4部に分かれている。全体的に暗く、サウンドも「アンチクライスト・スーパースター」と「メカニカル・アニマルズ」の両方が入っているという印象だ。楽しいとか明るいというような曲がないので軽い感覚では聞けない。まじめに歌詞を読んだり、詩とサウンドの相関性を分析したりするにはボリュームがあり、聞き手を敬遠させる。ドラムはスージー・クアトロの「キャン・ザ・キャン」のようなリズムをよく使う。このアルバムは「アンチクライスト・スーパースター」と「メカニカル・アニマルズ」とともに3部作で、このアルバムが第1章、「アンチクライスト・スーパースター」が第3章であるという。全米13位。

THE FIGHT SONG RARE TRACKS

2001年。シングル盤。8曲収録。「ワーキング・クラス・ヒーロー」はジョン・レノン、「ファイヴ・トゥ・ワン」はドアーズのカバー。

5
THE GOLDEN AGE OF GROTESQUE

2003年。前作より明るく、暗さはそれほどない。アルバムのコンセプトはあるといえばあるが、前作までほど難しくなく、大規模でもない。覚えやすいメロディーも複数あり、ヒット性に富んでいる。「モブ・シーン」はサビで女声コーラス使用。「ドール・ダガ・バズ・バズ・ジゲティ・ザグ」収録。

 
THIS IS THE NEW SHIT

2003年。シングル盤。「マインド・オブ・ア・ルナティック」はヒップホップのゲットー・ボーイズのカバーで、10分近く歌詞を朗読している。

LEST WE FORGET:THE BEST OF

2004年。ベスト盤。日本盤は20曲収録。

6
EAT ME,DRINK ME

2007年。ミドルテンポで抑鬱的な曲が多い。声を割るようなマリリン・マンソンの歌い方が曲の雰囲気に合っている。わずかに時間をずらしてボーカルを二重に録音し、底から上に向かって訴えるようなイメージを強調している。「ハート・シェイプド・グラスィズ」収録。11曲で52分半。

7
THE HIGH END OF LOW

2009年。前作に比べてバラエティーに富んでおり、曲数も時間も増えた。各楽器がボーカルと同じように活躍し、バンド演奏に主軸を置いたサウンドだ。「アルマ・ガッデム・マザーファッキン・ゲドン」「ウィアー・フロム・アメリカ」はヒット性がある曲。インダストリアル・ロックのイメージが強いアーティストなので、「ランニング・トゥ・ジ・エッジ・オブ・ザ・ワールド」のようなアコースティック・ギター中心の曲は意外性が大きくなる。ピアノによるバラード「イントゥ・ザ・ファイア」も同様。曲もいい。1曲目は唐突に終わる。

8
BORN VILLAIN

2012年。キーボードが抜け、ドラムが交代。曲調としてはややシンプルになった。ギター、ベース、ドラムと最小限のシンセサイザーでそのままライブでも再現ができそうなくらいに隙間が多くなっている。マリリン・マンソンにとっては簡素な演奏。それは表現方法の一種とも解釈できるが、イメージするところの鋭さや緊張感、不穏さに至っているかといえば、それよりも音をそぎ落としすぎたという印象だ。「ザ・フラワーズ・オブ・イーヴル」はボードレールの「悪の華」に影響を受けた曲。「うつろな愛」はカーリー・サイモンの有名曲のカバー。

9
THE PALE EMPEROR

2015年。ベース、ドラムが抜け、ギターが交代。主にマリリン・マンソンとギター兼ベース兼キーボード、ドラムの3人で録音。演奏は以前の厚みが戻り、音にも多様性がある。マリリン・マンソンのボーカルは個性が強いので曲の雰囲気をゴシックロック寄りに感じさせるが、「ディープ・シックス」はハードロック、「オッズ・オブ・イーヴン」はブルースロックだ。「ウォーシップ・マイ・レック」「バーズ・オブ・ヘル・アウェイティング」はボーカルの表現力によるところが大きい。

10
HEAVEN UPSIDE DOWN

2017年。インダストリアルロックを基調としたヘビーロックが中心。オープニング曲の「レヴェレーション・ナンバー12」はビートルズの「レボリューション9」を思わせるが、それほど前衛性はない。「キル・フォー・ミー」はエレクトロロック。アルバムの前半は歌詞も含めて批評性がある現代的なロックだが、後半になるとそれらが抑えられ気味になる。CDの曲タイトルを大文字で表記している曲はメッセージ性が強い。アルバムタイトル曲や「スレッツ・オブ・ロマンス」は私的だ。

11
WE ARE CHAOS

2020年。カントリーのアーティストと共作しているため、アコースティックギターやピアノ、キーボードなど伝統的な楽器や曲調が多くなっている。メロディーが明確で覚えやすい曲も多い。前作に続きアルバムの前半と後半で曲の雰囲気を変えており、マリリン・マンソンがCDではなくレコードを聞いて育った世代のアーティストであることを実感させる。オープニング曲の「レッド・ブラック・アンド・ブルー」は星条旗を意味する「レッド・ホワイト・アンド・ブルー」をもじっているが、ブラック・ライヴズ・マターと関係があるのかどうかは不明。「ドント・チェイス・ザ・デッド」は90年代のオルタナティブロック、「ペイント・ユー・ウィズ・マイ・ラヴ」は70年代ロック、「パフューム」はグラムロック風。このアルバムの収録曲に共通してみられるのは、80年代までにあった伝統的な音を使って懐古的安心感を呼び起こしながら、マリリン・マンソンが持つ暗さや危うさと同居させ、これまでと異なる雰囲気を創出していることだ。カントリーのアーティストと共作していることの効果が出ており、アメリカでのカントリーの強さも反映したアルバムとなっている。。