MARIAH CAREY

  • 90年代、00年代の世界的女性歌手。アメリカ出身。
  • 90年代前半は歌唱力、90年代後半からはエンターテイメント性を追求している。
  • ボーイズIIメンと共演した「ワン・スウィート・デイ」は全米シングルチャートで16週1位の大ヒット。
  • 日本では「恋人たちのクリスマス」が有名。

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MARIAH CAREY

1990年。邦題「マライア」。アメリカの女性歌手。チャート上でも売り上げ枚数でも間違いなく90年代トップの女性歌手である。80年代を代表する女性歌手はマドンナであったが、エンターテイメント性を追求したマドンナとは異なり、歌唱力を前面に出した。サウンドもソウルやゴスペル風が多く、(マドンナよりは)シンプルな演奏が多い。80年代はMTV全盛でロックもポップスも装飾過多になっており、音楽の中核とも言える歌唱力を売りにして、さらに年代が変わる節目にデビューしてきたことが清新さにつながった。楽器は演奏しないが、自ら作曲、編曲を行う。当時のアフリカ系女性歌手と変わらない歌唱力だ。声量を要する部分での力み具合はソウル歌手と同じ。超高音のボーカルが複数の曲で出てくるが、いずれも曲の終盤でフェード・アウトされ、やや渇望感が残る。それを狙いとしているとも理解できる。全米1位シングルを4曲も出している。全米1位、900万枚。

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EMOTIONS

1991年。マライア・キャリーが世界的にヒットするきっかけになったアルバム。特にオープニング曲からの3曲がすばらしく、「エモーションズ」「キャント・レット・ゴー」は今でも代表曲のひとつになっている。ミニー・リパートン並みに広い声域が堪能できる。プロデューサーにC&Cミュージック・ファクトリーの2人がかかわっているが、バックの演奏はソウル風。「サムデイ」のイントロはハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツの「二人の絆」を思わせる。全米4位、500万枚。

 
MTV UNPLUGGED EP

1992年。邦題「ヴィジョン・オブ・ライヴ」、現在は「MTVアンプラグド」。MTVの番組を収録したライブ盤。7曲収録。「マライア」から「ヴィジョン・オブ・ラヴ」「サムデイ」、「エモーションズ」から「エモーションズ」「イフ・イッツ・オーヴァー」「メイク・イット・ハップン」「キャント・レット・ゴー」の4曲。「アイル・ビー・ゼア」はジャクソン・ファイブのカバー。男声ボーカルとデュエットしている。コーラスはゴスペル風の合唱隊がついている。アルバムと同じような歌唱力をライブで実証している。全米3位、300万枚。

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MUSIC BOX

1993年。一般的な女性歌手が歌うサウンドに近くなった。声の幅に余裕があるので、力強さや張りの点では他の歌手より秀でている。高音を使う曲が減り、声域の広さをアピールすることはなくなった。4曲目まではソウル、ゴスペル風。5曲目の「ナウ・ザット・アイ・ノウ」で突然ダンス音楽に変化。一気に明るくなる。「ウィズアウト・ユー」はニルソンの有名曲のカバー。「想い出にできない」はベイビーフェイスと共作。全米1位、1000万枚。

 
ANYTIME YOU NEED A FRIEND

1994年。シングル盤。ゴスペル・コーラスがつくバラード。5曲とも同じ曲でリミックスが異なる。

 
MERRY CHRISTMAS

1994年。クリスマス曲を収録した企画盤。「恋人たちのクリスマス」はクリスタルズの「ハイ・ロン・ロン」を思わせる編曲で特大ヒットとなった。「クリスマス(ベイビー・プリーズ・カム・ホーム)」はダーレン・ラヴのカバー。「もろびとこぞりて/ジョイ・トゥ・ザ・ワールド」は「もろびとこぞりて」とスリー・ドッグ・ナイトの「喜びの世界」を1曲に編曲している。「あめにはさかえ/グロリア(イン・エクセルシス・デオ)」と「ジーザス・オー・ホワット・ア・ワンダフル・チャイルド」を収録したのはすばらしい。クリスマスはキリスト教の祝祭なので、演奏はゴスペル風が多い。特に最後の2曲は一般的なゴスペル・グループのアルバムと同じように、オルガンとベース、ドラムで演奏される。全米3位、500万枚。

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DAYDREAM

1995年。「ミュージック・ボックス」の路線。ボーカルの細かい表現力に主眼を置き、力を込めて歌うことが少なくなった。アップテンポの曲がほとんどなく、多くの曲がバラードだ。歌唱力があるのは理解できるが、ある程度は楽しさがほしい。「ワン・スウィート・デイ」はボーイズ・II・メンと共演し大ヒット。16週にわたって全米1位となり、ビルボードのシングルチャート史上最長を記録した。「オープン・アームズ」はジャーニーの「翼を広げて」のカバー。全米1位、1000万枚。

 
ALL I WANT FOR CHRISTMAS IS YOU

1996年。邦題「恋人たちのクリスマス」。シングル盤。洋楽のクリスマス曲では70年代のジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)」、80年代のワム!の「ラスト・クリスマス」に並ぶ代表的な曲。「もろびとこぞりて」はリミックス。

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BUTTERFLY

1997年。ヒップホップで有名なショーン・パフィ・コムズ(パフ・ダディ)がプロデューサーとなり、サウンドが大きくヒップホップ寄りになった。声を張り上げて力強く歌うことがほとんどない。声を殺すように歌っても一流のコントロール能力があるのかもしれないが、アルバムのほとんどの曲をそうした歌い方にする必要はなかった。オープニング曲の「HONEY」はサビよりもサビまでの部分がよい。「バタフライ」も歌唱力を堪能できる。9曲目の「ホエネヴァー・ユー・コール」まで来てやっと安心する。「HONEY」のデフ・クラブ・ミックスはいい編曲。「ベイビードール」はマライア・キャリーとミッシー・エリオットが共同で作詞している。全米1位、500万枚。

 
THE ONES

1998年。全米1位のヒット曲12曲と新曲1曲、カバー2曲、バージョン違い1曲を含むベスト盤。ボーナストラックの「マホガニーのテーマ」はダイアナ・ロスのカバーで、この曲も新曲。「ホエン・ユー・ビリーヴ(フロム「プリンス・オブ・エジプト」)」はホイットニー・ヒューストンとデュエットしている。「スウィートハート」と「アイ・スティル・ビリーヴ」はともにカバー。「ホエネヴァー・ユー・コール」は新曲とは言えないが、アルバム収録曲とは異なり、男声ボーカルとデュエットしている。日本盤には「恋人たちのクリスマス」が収録されている。日本の洋楽史上最高の350万枚を売り上げているという。全米4位、500万枚。

 
WHEN YOU BELIEVE(FROM THE PRINCE OF EGYPT)

1998年。シングル盤。マライア・キャリーとホイットニー・ヒューストンがデュエットしている。「アイ・アム・フリー」はマライア・キャリー、「ユー・ワー・ラウド」はホイットニー・ヒューストンがそれぞれ単独で歌う。

SWEETHEART(THE STORY)/JD&MARIAH

1998年。シングル盤。同一曲の異なるバージョンを5曲収録。

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RAINBOW

1999年。プロデューサーや制作メンバーが変わり、「デイドリーム」以前の伸びる歌唱力が聞ける。「キャント・テイク・ザット・アウェイ(MARIAH'S THEME)」はすばらしい。「ブリス」はこれまでで最も長時間の高音ボーカルを使っている。「ハートブレイカー」はジェイ・Zと共演、リミックス・バージョンではミッシー・エリオットと共演し、スヌープ・ドギー・ドッグが作曲で参加している。「ハウ・マッチ」はアッシャーと共演し、作曲ではトゥパック・シャクール(2パック)が参加している。「アフター・トゥナイト」はデイヴィッド・フォスターとダイアン・ウォーレンが作曲で参加し、デイヴィッド・フォスターがプロデュース。「見つめて欲しい」はフィル・コリンズのカバー。「クライベイビー」はスヌープ・ドギー・ドッグが参加し、サウンドもいわゆるG・ファンクになっている。「サンク・ゴッド・アイ・ファウンド・ユー」は98°と共演し、歌詞に合わせてサウンドもゴスペル風。ブックレットについている大きな写真はマネの「オランピア」を意識しているのではないか。全米2位、300万枚。

 
HEARTBREAKER

1999年。シングル盤。3曲とも同じ曲で、2曲目はジェイ・Zのラップがないバージョン、3曲目はミッシー・エリオットが参加している。

 
THANK GOD I FOUND YOU

2000年。シングル盤。同一曲のバージョン違いを2曲収録。

 
CAN'T TAKE THAT AWAY(MARIAH'S THEME)

2000年。シングル盤。ライブ1曲収録。シングル盤としてはジャケットも収録曲もいい。

 
AGAINST ALL ODDS/MARIAH CAREY FEATURING WESTLIFE

2000年。シングル盤。邦題「見つめて欲しい」。フィル・コリンズのカバー。同一曲をバージョン違いで4曲収録。

 
LOVERBOY

2001年。シングル盤。リミックスはリュダクリス、女性ラッパーが参加している。

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GLITTER

2001年。前作に続きヒップホップ・アーティストの参加多数。有名なアーティストではリュダクリス、バスタ・ライムス、ネイト・ドッグ、ジャ・ルールなどが参加している。ヒップホップに傾いたサウンドで、ファンクやダンス音楽のサンプリング、カバーも多い。歌い方はバランスが取れている。「ターン・ユー・オン」はロバート・パーマーまたはシェレールのカバー。「ドント・ストップ」はジェームス・ブラウンを聞いているような曲だがトム・ブラウンの「ファンキン・フォー・ジャマイカ」をサンプリングしている。「ラヴァーボーイ」はファンク・バンド、キャメオの「キャンディ」をサンプリングして、キャメオも曲に参加している。エミネムがエアロスミスの「ドリーム・オン」をサンプリングして、その曲にジョー・ペリーが参加したのと同じ。全米7位、100万枚。全米1位シングルが出なかったのはこのアルバムと「チャームブレスレット」の2枚だけ。

GREATEST HITS

2001年。2枚組ベスト盤。全米52位、100万枚。

THROUGH THE RAIN

2002年。シングル盤。「チャームブレスレット」収録曲とそのバージョン違い3曲を収録。

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CHARMBRACELET

2002年。「バタフライ」に近いサウンド。オープニング曲の「スルー・ザ・レイン」は徐々に盛り上がり、サビでは熱唱になる。「ボーイ(アイ・ニード・ユー)フィーチャリング・キャムロン」から「クラウン」までの6曲は「バタフライ」の路線。ほとんどの曲が静かなイントロで、ささやくような歌い方で入り、曲によってはサビが熱唱型になることもある。メーン・メロディーがささやくような歌唱でバック・ボーカルが熱唱型というのも複数あるが、最初から最後まで通常のボーカルで通してほしいというのが正直なところだ。「イレジスタブル(ウエスト・サイド・コネクション)」は文字通りウェッサイのサウンド。「ブリンギン・オン・ザ・ハートブレイク」はデフ・レパードのカバー。全米3位、100万枚。

THE RIMIXIES

2003年。リミックス盤。全米26位。

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THE EMANCIPATION OF MIMI

2005年。邦題「MIMI」。ヒップホップ風味は残っているが、マライア・キャリーの歌い方に熱唱が増え、「バタフライ」以降最高の売り上げを記録した復活作。「マイ・アゲイン」や「ステイ・ザ・ナイト」はミニー・リパートンのような超高音ではなく、通常の高音ボーカルでめいっぱい歌う。「サークルズ」はすばらしい。ボーカルに関しては「チャームブレスレット」の雰囲気はほとんどない。スヌープ・ドッグ、トゥイスタ、ネリーが参加。アルバムタイトルの「MIMI」とはマライア・キャリーのニックネームらしく、プッチーニの歌劇「ラ・ボエーム」の主人公ミミとは関係ないようだ。全米1位、600万枚。

 
IT'S LIKE THAT

2005年。シングル盤。同じ曲の4バージョン収録。

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E=MC2

2008年。邦題「E=MC2~MIMI第2章」。全盛期にあったような高い声のボーカルが、アルバムの冒頭で出てくる。90年代からのファンはそれだけでアルバム全体に大きな期待を抱く。メロディーの線が2つある曲が複数あり、その両方をマライア・キャリーが歌っていることが多い。バラードで歌唱力が発揮できるのは理解できるが、ボーカルのスタイルをこのままにして、アップテンポの曲やダンス音楽を入れた方が90年代並みの人気を取り戻しやすいのではないか。ヒップホップのアーティストが参加していてもマライア・キャリーの存在感が大きい。全体として前作での「復活」のイメージを維持している。「ラヴィング・ユー・ロング・タイム」はカニエ・ウェストのようなサウンド。「アイ・ステイ・イン・ラヴ」は後半がすばらしい。

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MEMOIRS OF AN IMPERFECT ANGEL

2009年。邦題「メモワール」。曲の前半を鼻歌のように歌い、後半に少しだけ本来のボーカルを入れるという曲が多い。マライア・キャリーのアルバムは、ジャケットの全体的な雰囲気と曲調が一致しており、ジャケットが黒いと伸びやかなボーカルが期待できる。白いとささやくようなボーカルが多くなる。マライア・キャリーとしては、90年代は本格的ボーカルアルバム、2000年代はヒップホップ・ソウルを歌ってポップスの王道を歩んでいることになるが、ハウスやクラブ・ミュージックでもいいのではないか。「アイ・ウォナ・ノウ」はフォリナーのカバー。