1991年。アルバムデビューの4カ月前に発売された6曲入りEP。日本編集盤。ボーカル兼ギターとドラムが作詞、ギターとベースが作曲を担当している。ポップなロックンロールで、とげとげしさや毒々しさはない。破滅的なイメージの割には案外聞きやすい。「モータウン・ジャンク」「ユー・ラヴ・アス」収録。
1992年。ボーカル兼ギターを含む4人編成。ボーカル兼ギターとドラムが作曲、ギターとベースが作詞する。曲はポップでメロディアスだが歌詞はとても攻撃的だ。キーボードやコーラスも入り、一般の人にもなじみやすいサウンド。全曲にコメントがついており、有名な作家等から言葉を引用している。作家、あるいは箴言に引きつけられるところは、作家に対する敬意というよりも同化志向が感じられ、アーティストの自己表現として未熟だ。曲はいずれもすばらしい。「ボーン・トゥ・エンド」は広島が出ずに長崎が出てくる珍しい曲。「享楽都市の孤独」「リトル・ベイビー・ナッシング」「テネシー(虚無主義者達の歴史)」はメロディアス。退廃的なサウンドではないところが好感する。
1992年。シングル盤。「ユー・ラヴ・アス」のシングル・バージョン、フル・バージョン、ヘヴンリー・バージョン、ガンズ&ローゼズの「イッツ・ソー・イージー」のカバーを収録。
1992年。邦題「享楽都市の孤独」。シングル盤。「退屈な真実」はアコースティックギター中心のミドルテンポの曲。「アンダー・マイ・ホィールズ」はアリス・クーパーの「俺の回転花火」のカバー。
1993年。ややロック寄りになった。前作で見せた多彩なメロディーを10曲に詰め込んでいる。キーボード、コーラス、ストリングスを使い、ロックバンドとして可能なサウンドを最大限に生かしている。ボーカルは力強く、表現力も十分だ。「絶望の果て」「失われた夢」はストリングスやハモンドオルガンが入る。
1993年。邦題「哀しみは永遠に消え去らない」。シングル盤。「パトリック・ベイトマン」は6分半のアルバム未収録曲。「テネシー」はデビュー前の1989年に録音された曲。
1993年。シングル盤。「アス・アゲインスト・ユー」「ドンキーズ」は新曲。「ロート・フォー・ラック」はハッピー・マンデーズの「W・F・L」のカバー。4曲ともほぼギター、ベース、ドラムだけで演奏される。ジャケットは円形にカットされている。
1994年。シングル盤2枚を1枚のCDに収録した日本編集盤。6曲すべてが新曲。勢いがあったり、前向きなメロディーだったりして聴きやすい。
1994年。明るさがなくなり、歌詞も暗い。サウンドも前作よりさらにロック寄りで、楽器の生々しさが残る。聞きやすさよりも装飾のない純粋さを選んでいる。この当時のロック全体が時代の閉塞感を歌っており、その影響を受けてこのアルバムもそうした路線になっている。
1996年。多くの曲を作詞していたギターが抜け、3人編成。「ゴールド・アゲインスト・ザ・ソウル」のようなサウンドで、キーボード、ストリングスやホーン・セクションを使用。はれ物に触るような聞き方をしなくてもよくなったことは大きな変化で、多くの聞き手を獲得できるようになった。ロックファンにはデビュー当時から知られていたが、一般の洋楽ファンにはこのアルバムから広く知れ渡るようになった。
1998年。オルタナティブ・ロックの暗さや渇望感がメロディーに含まれるが、サウンドは前作よりも多彩だ。ストリングス、キーボードが主導する曲もある。緊張感は「ホーリー・バイブル」に近いところもある。「レディー・フォー・ドゥラウニング」、ボーナストラックの「ブラック・ホールズ・フォー・ザ・ヤング」はオルガンが効果的で、60年代から70年代のブリティッシュ・ロックでよく聞けるサウンド、「輝ける世代のために」はメロトロンが使われる。3人編成ではこのアルバムが最大のヒットとなっている。
2001年。曲調、サウンドがバラエティーに富み、これまでなかったようなディスコ、ドゥーワップ風コーラスが目につく。「ミス・ヨーロッパ・ディスコ・ダンサー」はギターがビー・ジーズの「ステイン・アライヴ」だ。ボーナストラックの「ザ・マッシズ・アゲインスト・ザ・クラッシズ」はコーラスがルーベッツの「シュガー・ベイビー・ラブ」。「オーシャン・スプレイ」はなまりのある日本語が使われている。それ以外の曲は突出した特徴を持つ曲に隠れているが、辛みのあるギターでほどよくロックの刺激を保っている。
2002年。ベスト盤。
2003年。シングル盤。6曲収録。「フォーエヴァー・ディレイド」はベスト盤に収録してもよかったほどいい曲だ。
2003年。未発表曲、カバー等を集めた企画盤。
2004年。ギターの角張った音がなめらかになり、音全体が軟らかくなった。キーボードもふんだんに使っているので、サウンドはポップスや一般的なロックと変わらない。ボーカルも聞きやすい。ポップというと明るくなった印象になってしまうが、むしろ以前のような若さを抑え、大人のイメージを出している。
2007年。デビュー時のイメージはほぼなくなり、メロディアスでオーソドックスなロックだ。メロディーの流れがよく、楽器の重ね方もうまい。ストリングスやホーン・セクションも使う。ほとんどの曲が2分から3分で、全体でも40分程度。「インディアン・サマー」「オータム・ソング」はいい曲だ。「ユア・ラブ・アローン・イズ・ノット・イナフfeat.ニーナ・パーソン」はカーディガンズのニーナ・ゴードンが参加している。
2009年。全曲の歌詞がかつてのメンバー、リッチー・エドワーズの残した詞となっている。前作とは大きく異なる言い回しや単語が使われているが、曲はあまり変わらない。ポップさは控えめになり、装飾楽器はストリングスだけになった。ジャケットの痛々しさが歌詞の鋭敏さを表している。歌詞の内容が聞き取れる人は、歌詞と曲の組み合わせに妙な引っかかりを感じるだろう。曲間に映画の台詞が入っており、日本語も出てくる。
2010年。ストリングスがメーンかと思うような流麗なサウンドだ。オープニング曲は前向きな拡がりのあるメロディー。「サム・カインド・オブ・ナッシングネス」は7人編成の混声合唱団がコーラスをつける。途中の低音ボーカルはエコー&ザ・バニーメンのイアン・マカロック。「オート・イントクシケイション」のキーボードはヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイル。この曲以降は徐々にストリングスが少なくなり、「ア・ビリオン・バルコニーズ・フェイシング・ザ・サン」以降はギター中心のロックサウンドになる。名盤と言って良い。
2013年。1960年代のボーカルアルバムを現代の演奏で再録音したような、古風なサウンド。適度にビートの強さがあり、アコースティックギターとコーラス、ストリングス、ホーンセクションを中心にメロディーが作られる。エレキギターの一般的な不協和音やエレクトロニクスはほとんど出てこないので、意図的に統一したサウンドにしたとみられる。アルバムの前半はゲストのボーカルが3人参加しており、いずれもそのよさを発揮する曲調になっている。「奇跡を見せてくれ」は1970年前後のポップスのようなホーンセクションが活躍する。「東京スカイライン(が恋しい)」は全編が東京に関する歌詞、「(君の皮膚に被さる)大地のような神聖なもの」にも日本が出てくる。「目的を失った応援歌」もいい曲だ。
2014年。邦題「フューチャロロジー(未来派宣言)」。前作と同時期に録音されたという。メロディーの流れのよさを保持し、前作よりもロックらしくなっている。アコースティックギターが減り、持続音のキーボード、シンセサイザー、エレキギターを中心とするサウンド。前作にあったホーンセクションは出てこない代わりに、エレクトロニクスをよく使う。前作が現代から見た過去、このアルバムが現代から見た未来をテーマとしていることは、サウンド上も明らかだ。ヨーロッパ各国を訪れたときの印象をもとに作曲しており、地名も各国語も出てくるが、各国の民族音楽をあからさまには取り入れてはいない。むしろこれまでのバンドのメロディーの範囲内がほとんどだ。アルバムタイトルから想像されるような希望のある歌詞よりも、現状から受ける混迷を描いている曲が多い。
2018年。前向きなメロディーが多いポップなアルバム。ギター、キーボード、ストリングスの音色からメロディー、リズムまで、中庸を意識したようなバンドサウンドだ。人工的な電子音も避けている。マニック・ストリート・プリーチャーズは「評価がある程度確立したバンド」なので、特に革新的な要素がなくても安心して聞くことができる。ブランドの社会的信用が重視されるヨーロッパや日本では、中庸であってもある程度の人気が持続するが、音楽のあり方が社会に放つ意味や、多様性の維持としての新しい表現を重視するアメリカでは評価を得ることがなかなか難しい。