1978年。キーボードを含む5人組。このアルバムが出た当時、アメリカではカンサスやスティクスが似たような音楽をやっていた。ヴァン・ヘイレンやライオットもデビューした。イギリスではプログレッシブ・ロックが衰退しており、ジューダス・プリーストが「ステンド・クラス」を出してヘビーメタルの音を完成させている。しかし、世の大勢はパンクであり(アメリカではディスコ)、難しい時期にデビューしたと言える。サウンドはプログレッシブ・ロックとハードロックの中間で、ヨーロッパ特有の暗さや悲しみを持っている。特にボーカルは、そうしたイメージを多分に持った声で歌っている。キーボードが多彩で、この点はアメリカン・プログレッシブ・ハードロックと同じ。アルバムタイトル曲をはじめ、「イン・ザ・ビギニング」「ベイビー・ロック・ミー」「ユニバース」「ザ・ブリンガー」等名曲が多い。全英58位。
1979年。前作と同路線で、やや余裕がある。サウンドから感じられる緊迫感は和らいだ。イギリスではあまり売れなかった。「リボーン」「チェンジズ」「フーリッシュ・ハート」収録。
1980年。ライブ盤。「キングダム・オブ・マッドネス」から2曲、「マグナムII」から6曲。全英34位。シングル盤はアルバム未収録の「インヴェイジョン」で全英47位。
1982年。キーボードが交代。キーボードはムーグ系からオーケストラ系に変わった。ハードロック色が強まり、急激な曲展開は少なくなった。イギリスではここからヒットするようになる。「ザ・スピリット」「ソルジャー・オブ・ザ・ライン」「ザ・ライツ・バーント・アウト」「セイクレッド・アワー」収録。全英17位。
1983年。かなりハードロックになり、キーボードが主導権を握る部分は少なくなった。ギターも音圧が大きく、このアルバムを聞いてプログレッシブ・ロックに近いと思う人は少ないだろう。コーラスもやや厚くなってきた。全英38位。
1985年。一般に「チェイス・ザ・ドラゴン」から「オン・ア・ストーリーテラーズ・ナイト」までの3枚は、ジャケットがロドニー・マシューズで共通しているので3部作のような扱いを受けている。この3枚は、すべての曲をギターのトニー・クラーキンが作詞作曲している。事実上、トニー・クラーキンとボーカルのボブ・カトレイがマグナムそのものである。アレンジがアメリカのロックに近い曲もあり、イギリス的サウンドからアメリカ的サウンドに移り変わっていく流れは、ホワイトスネイクの歴史とよく似ている。キーボードがアダルト・オリエンテッド・ロックのような柔らかい音で、曲のほとんどの部分で鳴っており、かつての「必要な部分だけ弾く」という使われ方ではない。アルバム2曲目にヒット性の高い「ジャスト・ライク・アン・アロウ」を置いており、名盤の条件を備えている。バランスが取れ、メロディーも優れた傑作。「ハウ・ファー・エルサレム」「レ・モル・ダンサン」収録。全英24位。
1985年。ベスト盤。
1986年。邦題「ロンリー・ナイト」。このアルバムから、バンドとして初めてのシングルヒットを出し、オープニング曲の「ロンリー・ナイト」が全英70位となった。しかし、この曲はポリスを想起させ、マグナムのこれまでの姿ではない。サウンドは大きく変わり、イエスが「ロンリー・ハート」で使ったようなディスコチックな処理が頻繁に出てくる。あるいはモダンなアレンジによってヒットを連発した80年代のラッシュに影響されたとも言える。コンピューターで制御されているかのようなドラムの音と、ほとんど活躍の場がないギターで、ハードロック・バンドとしての看板を下ろした。ファンが「オン・ア・ストーリーテラーズ・ナイト」でひと区切りをつけたい気持ちが分かる。イギリス的雰囲気になっているのはボブ・カトレイのボーカルだけ。全英24位。
1986年。ベスト盤。
1987年。ベスト盤。
1988年。バンド史上最高の全英5位。イントロのギターが印象的なオープニング曲は全英32位。「スタート・トーキング・ラブ」は22位、「イット・マスト・ハブ・ビーン・ラブ」は33位で、一枚のアルバムから3曲もヒットが出ているのはこのアルバムだけ。覚えやすく、心に残りやすいメロディーが1曲おきに出てくる。サビでのコーラスも厚い。前作ほどテクノロジーに依存しておらず、ロックとしてはごく普通のサウンド。ギター、キーボードが完全にバックの演奏に徹しており、その分曲の良さが前面に出てきている。
1990年。70年代に活躍したキッスやエアロスミス、チープ・トリック、アリス・クーパーがこのころ復活のアルバムを出している。80年代半ばのヘアメタル・ブーム、80年代後半のスラッシュ・メタル人気でハードロックが全盛期となり、マグナムにも影響をもたらした。メロディアスなハードロックで、ヒットしそうな曲がほとんど。ロックン・ロールはない。全英9位。
1991年。人気絶頂期に出たライブ盤。「ロンリー・ナイト」以降の曲が中心で、それ以前の曲は「オン・ア・ストーリーテラーズ・ナイト」「キングダム・オブ・マッドネス」「ザ・スピリット」など。LPは2枚組。全英50位。
1992年。前作と同路線。「エブリ・ウーマン、エブリ・マン」と「ザ・ロング・ライド」はサックスが使われる。「オンリー・イン・アメリカ」は厚いコーラス。ハーモニカやパーカッションも使われ、前作のアメリカ路線がさらに進んだようにも見えるが、全体としてはメロディアスなハードロックと言える。全英27位。
1993年。アコースティック楽器による過去の曲の再録音。キーボードはピアノ、ギターはアコースティック。スタジオ録音なのでサウンドの細かい処理は丁寧に行っている。「オンリー・ア・メモリー」はボーカルと多重コーラスだけ。「フーリッシュ・ハート」はホーン・セクションが入りR&Bの雰囲気。
1994年。ライブ盤。「オン・ア・ストーリーテラーズ・ナイト」発売後の85年のライブ。
1995年。オーソドックスなハードロック。80年代前半のドラマチックさと80年代後半のアダルト・オリエンテッド・ロック路線がうまく混ざり合ったアルバム。全英57位。
1996年。ライブ盤。1995年録音。「キングダム・オブ・マッドネス」で本編が終わり、アンコールはドラムソロと3曲。このアルバムで解散。
1999年。ベスト盤。
2000年。ベスト盤。「キングダム・オブ・マッドネス」から「ジ・イレブンス・アワー」まで。
2002年。再結成盤。サウンドは「ウィングス・オブ・ヘブン」の路線をもっとドラマチックなハードロックにした感じで、印象に残るメロディーがいくつも出てくる。トニー・クラーキンの作曲能力に関しては、25年たってもまったく衰えない。非常に質が高い。アメリカ的明るさはなく、したがってボブ・カトレイのボーカルが最大限に生かされている。日本盤についているライブは録音日時不明とされているが選曲からして90年代半ば以降。
2004年。安定した曲が多く、「ザ・ラスト・グッバイ」「ザ・スケアクロウ」はいい曲だ。突き抜けるようなメロディーや哀愁を帯びたメロディーは減っているが、質は保たれる。
2007年。再結成後ずっと同じ路線。ただ、曲調がどの曲も似通っていることも継承しており、トニー・クラーキンが1人で作曲していることの弊害とも言える。期待通りのサウンドといえばそうだが、もう少し挑戦的であってもよいのではないか。全盛期である「オン・ア・ストーリーテラーズ・ナイト」以来、約20年ぶりロドニー・マシューズがジャケットを描いている。
2009年。
2011年。
2012年。