レッド・ツェッペリンは世界で最も有名なハードロックバンド。ロバート・プラント(ボーカル)、ジミー・ペイジ(ギター)、ジョン・ポール・ジョーンズ(ベース、キーボード)、ジョン・ボーナム(ドラム、故人)。前期はブルース、中期はアート志向、後期はポップ化する。「ロックン・ロール」「天国への階段」「胸いっぱいの愛を」「ブラック・ドッグ」「コミュニケイション・ブレイクダウン」「カシミール」「移民の歌」等が有名。ポピュラー音楽学では、アメリカのグランド・ファンク・レイルロード、エアロスミス、イギリスのディープ・パープルなどとともに、音の大きさや豪快さ、大仰さが目立つ「男根ロック」の代表とされる。実際は、ブルースやハードロック、ソウル、ファンクを含めて音楽的試みを続け、1970年代の多くのロックバンドの参照元になった。現在でも影響力は大きい。ジョン・ボーナムの死去により1980年に解散し、メンバーはそれぞれソロ活動に入っている。
1969年。邦題「レッド・ツェッペリン登場」。クリームやジェフ・ベック・グループと同様に、当時流行していたブルースを多く取り入れている。レッド・ツェッペリンの新しさとしては、微妙な感覚を再現できる太くて生々しいエレキギター、音域が広い表現力の豊かなボーカルが加わり、従来のブルースロックやポップなロックとは異なる生々しさを提示したことだ。1曲目の「グッド・タイムズ・バッド・タイムズ」は当時のブリティッシュ・ロックからすれば、それほどインパクトはなく、「レッド・ツェッペリンのデビュー盤のA面の1曲目」ということで話題になることが多い。2曲目「ゴナ・リーヴ・ユー」が印象が強い。「時が来たりて」はジョン・ポール・ジョーンズのオルガンがいい。「コミュニケイション・ブレイクダウン」はハードでポップな曲なのでよくカバーされるが、アコースティックなインスト曲とブルースのカバーに挟まれる形で入っており、曲順がよく考えられている。ロバート・プラントは曲づくりに関わっていないが、ボーカルは安心して聞ける。
1969年。ブルースに依拠しながら、ギターが曲を主導するハードロック、ヘビーメタルの特徴を提示した。「胸いっぱいの愛を」「レモン・ソング」では自由な演奏、即興演奏が入る部分を持たせ、「ハートブレイカー」では本格的にギターソロを入れている。レッド・ツェッペリンのアルバムの中では、ハードロックの参照元の代表となるアルバム。ロバート・プラントが初めて作曲に参加。「胸いっぱいの愛を」はチャート上では最大のヒット。「リヴィング・ラヴィング・メイド」「モビー・ディック」収録。
1970年。10曲のうち、アコースティックな曲が5曲を占める。ハード・ロックと呼べるのは1曲目の「移民の歌」「アウト・オン・ザ・タイルズ」くらいだ。しかし、アコースティックギター中心の曲はそれぞれに特徴があり、ストリングスやバンジョー、ペダルスティール、手拍子などを入れている。「ザッツ・ザ・ウェイ」はロバート・プラントが歌詞を書いており、親から交遊を制限される少年の心理を描いている。大人の論理と子どもの純粋さの不一致はそれ自体が社会性を含み、曲以外の面でも新しい領域に踏み込んでいる。「貴方を愛し続けて」はジミー・ペイジとロバート・プラントが実力を見せつける。「ギャロウズ・ポール」収録。
1971年。邦題「レッド・ツェッペリンIV」。原題はメンバーのシンボルマークを並べており、読み方は示されていない。「ブラック・ドッグ」「ロックン・ロール」「天国への階段」といった有名曲を含んでいるために代表作とされている。ただ、LPでいうA面とB面でテンションに差がある。差があっても他のバンドのアルバムよりははるかに高品質だ。「天国への階段」はレッド・ツェッペリンの決意表明と解釈する岩谷宏の訳が有名で、日本でのレッド・ツェッペリンの人気に寄与している。「限りなき戦い」でフェアポート・コンヴェンションのサンディ・デニー参加。アメリカでは5年もチャートイン。
1973年。邦題「聖なる館」。ギターの粒立ちが軽くなり、ブルースのような粘りが。ロバート・プラントも大きな声を張り上げなくなった。新しい音を取り入れる姿勢はこれまでで最も大きく、ハードロックバンドというよりもロックバンドになっている。「クランジ」はソウル、ファンク風。「ディジャ・メイク・ハー」はレゲエ風。「永遠の詩」と「オーシャン」がすばらしい。「丘のむこうに」はジョン・ポール・ジョーンズのキーボード中心の曲。ジョン・ボーナムのプレイに光が当たる曲が多い。
1975年。2枚組。15曲のうち7曲は過去の録音。前作を引き継ぎ、さらに音楽性を拡大した。デビューアルバムでメンバーが傾倒していたブルースロックを追求し、2枚目から4枚目で音楽的好奇心と若さの衝動を爆発させ、5枚目で好奇心と芸術的野心を追い、このアルバムで野心を肥大化させた。ソウルやファンクなどアメリカ由来の曲も増えている。広がり続ける好奇心の象徴がオーケストラを使った「カシミール」だろう。音楽が拡散するに従って編曲ができるジョン・ポール・ジョーンズの存在感が上がる。1枚目の1曲目となる「カスタード・パイ」ではロバート・プラントの声、特に高音がかすれている。他の曲でも高音に張りがなくなっている。「死にかけて」はボブ・ディランの曲を下敷きにしているが、作曲はメンバー全員となっている。「トランプルド・アンダー・フット」はジョン・ポール・ジョーンズのクラビネットがよく利いている。「ワントン・ソング」収録。
1976年。ジミー・ペイジがアコースティックギターを使わず、エレキギターだけで録音している。ジョン・ポール・ジョーンズもキーボードを使わず、編曲もほとんどしていない。ギターの重ね録りはあるが、実質的にはデビュー当時のバンドサウンドに戻っている。ハードロック寄りに回帰したとも言えるが、それゆえに音楽的な幅は狭くなり、「フィジカル・グラフィティ」にあった重厚感が減っている。10分を超える「アキレス最後の戦い」はスリルのある曲。チャート上は1位を取っているが、売上枚数は大きく落ちた。日本盤の帯はレッド・ツェッペリンを「ヘヴィー・メタル・ロックの王者」としている。
1976年。邦題「永遠の詩」。映画のサウンドトラックとして出されたライブ盤。2枚組。1973年の録音で、「聖なる館」までの曲が収録されている。CDでは当初1枚だったが、2007年以降は「ブラック・ドッグ」「丘のむこうに」「ミスティ・マウンテン・ホップ」「貴方を愛しつづけて」「オーシャン」「ハートブレイカー」の6曲が追加されて2枚組となっている。「レイン・ソング」の長いメロトロンソロがいい。「幻惑されて」は26分あり、即興というよりはアンサンブルの演奏をしている。「胸いっぱいの愛を」は間奏にロックンロールを含んでいる。
1979年。ジョン・ポール・ジョーンズのキーボードが目立ち、これまでのジミー・ペイジのギターの重厚感に比べると軽さが前面に出る。「イン・ジ・イヴニング」「フール・イン・ザ・レイン」「ケラウズランブラ」がアルバムのイメージを形成している。「フール・イン・ザ・レイン」はサンバを取り入れ、イギリスのパンクが政治的自責感情からレゲエを取り上げた時期と重なっている。しかし、ハードロックバンドのイメージがあるレッド・ツェッペリンがサンバを取り入れると反感を買う。「ケラウズランブラ」は10分を超えるニューウェーブ風の曲。バラエティに富んでいることと、ポップなアプローチになったことは賛否ある。
1982年。邦題「最終楽章」。企画盤。1980年にドラムのジョン・ボーナムが死亡したため、レッド・ツェッペリンが解散。1970年から78年までに録音された未発表曲を集めた。A面は1970から1972年、B面は1976年から1978年の録音。1枚の作品としてもかなりのハードロック。
1990年。4枚組ボックス・セット。未発表曲を含む。
1997年。
2003年。ベスト盤。
2003年。邦題「伝説のライブ」。
2007年。ベスト盤。2枚組。初回盤にはDVDがついている。
2012年。邦題「祭典の日(奇跡のライヴ)」。2007年のライブ。ドラムはジョン・ボーナムの息子のジェイソン・ボーナム。レッド・ツェッペリンの契約レコード会社であったアトランティック・レコードの創始者を追悼するコンサートで再結成し、本編14曲とアンコール2曲をすべて収録している。観客との掛け合いなどはなく、若干のMCと演奏のみで構成する。ゲストアーティストはなく、4人で演奏されており、ロバート・プラントもよく声が出ている。「幻惑されて」はジミー・ペイジのソロが入り、「ノー・クォーター」ではジョン・ポール・ジョーンズ、「永遠の詩」ではジェイソン・ボーナムが紹介される。「カシミール」はジョン・ポール・ジョーンズがキーボードで演奏。
1993年。ホワイトスネイクのボーカル、デイヴィッド・カヴァーデイルとレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジが結成したグループ。ベースはグロリア・エステファン、ジョン・セカダのジョージ・カサス、ドラムはハートのデニー・カーマッシ。エアプレイのトミー・ファンダーバークがコーラスで、ベイビーズ、バッド・イングリッシュのリッキー・フィリップスがベースで参加している。ジミー・ペイジ、あるいは中期のレッド・ツェッペリンのサウンドに、デイヴィッド・カヴァーデイルのホワイトスネイクがかぶさっている。予想通りという意味では文字通りで、意外性の小さいサウンドだ。ホワイトスネイクが強く出る曲、「ルック・アット・ユアセルフ」「ホットな気分」などは、ヒットを狙ったようなアメリカン・ロックで今さらという不快感が残る。
1993年。シングル盤。バージョン違いの5曲が収録されているが実質は3曲。5曲のうち3曲はギターが異なるバージョンで、ジミー・ペイジの演奏そのものに価値があるような編集になっている。
1994年。ロバート・プラントとジミー・ペイジが、レッド・ツェッペリンの曲と新曲4曲を同時収録。レッド・ツェッペリンの曲はライブで、観客の声も聞こえる。演奏はオーケストラやモロッコのミュージシャンを使っている。「ロックン・ロール」や「胸いっぱいの愛を」といった代表曲ではなく、「カシミール」や「あなたを愛し続けて」のような曲を選んでいる。モロッコのミュージシャンが参加しているので、サウンドも民族音楽風の部分が多く、アコースティック楽器の量も多い。激しさを追求するようなサウンドではない。
1995年。シングル盤。「レイン・ソング」「強き二人の愛」はアルバム未収録。
1998年。ベースとドラムを固定したメンバーで録音し、4人編成のバンドの体裁をとったアルバム。全曲がバンドによる作曲で、実質的にジミー・ペイジ&ロバート・プラントのデビュー盤にあたる。ハードな曲をやらないスタイルをすでに確立しているので、ゆっくりした曲が多い。ストリングスが出てくると、条件反射のように「カシミール」を思い出すが、そうしたサウンドに近いのも事実だ。
1998年。シングル盤。「ザ・ウィンドウ」はアルバム未収録曲。