2005年。アメリカ出身のドラマー、ジェイムズ・マーフィーの個人プロジェクト。2枚組で、1枚目は新曲で構成、2枚目はこれまでにシングル盤などで発表した曲を寄せ集めている。1枚目はロックのバンドサウンドを意識したクラブ・ミュージックと従来のハウスが同居している。ロックとダンス音楽を折衷し、クラウトロックのような反復リズム、ニューウェーブのようなパーカッションを多用し、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ルー・リードのように歌詞を聴かせるロックを作る。ダンス音楽に接近することで2000年代以降の一般性を獲得し、クラウトロック、ニューウェーブ、ルー・リードを参照することで知性の高い層の評価を獲得する。オープニング曲の「ダフト・パンク・イズ・プレイング・アット・マイ・ハウス」は、曲調としてはポストパンク、ニューウェーブで、ジェイムズ・マーフィーの歌詞が聴き取りやすい。「トゥー・マッチ・ラヴ」「オン・リピート」は同一のリズムを終始反復し、ボーカルにメロディーをあまりつけない。「ムーヴメント」などはライブ演奏すればかなりハードなロックになるだろう。「グレイト・リリース」は盛り上がりがすばらしい。2枚目は長い曲が多く、8曲のうち2曲が3分台、あとの6曲は7分から11分。「ギヴ・イット・アップ」「タイアード」は完全にバンドのサウンド。「ルージング・マイ・エッジ」は1960年代から現在までのポピュラー音楽の重要シーンを並べ、「角が取れた」と回想する。この曲もクラウトロックの影響を受けたヴェルヴェット・アンダーグラウンドのような曲を2000年代に再現したような曲。
2007年。9曲のうち7曲はジェイムズ・マーフィーを含む複数のアーティストが参加している。ややニューウェーブ寄りになり、パンク風のギター・サウンドは減っている。現在を現在の視点から語るのではなく、過去を現在の視点から語り、取り戻せない過去と知りつつ葛藤や小さな後悔を思わせる歌詞が多い。「ゲット・イノーキュアス!」「us v them」などは複数のボーカルがいるのでサビにコーラスがつく。「サウンド・オブ・シルバー」は楽器もボーカルも1人でやっているが、「ウォッチ・ザ・テープス」「オール・マイ・フレンズ」等はバンド・サウンド。「オール・マイ・フレンズ」は反復リズムの曲。「ニューヨーク、アイ・ラヴ・ユー・バット・ユア・ブリンギング・ミー・ダウン」は弦楽四重奏まで入ったロック。ボーナストラックの「ノース・アメリカン・スカム」(クリス・メナス・ダブ)はいい編曲。
2010年。「ドランク・ガールズ」「オール・アイ・ウォント」のようなニューウェーブ風バンドサウンドと、「ワン・タッチ」「アイ・キャン・チェンジ」のようなエレクトロ・ポップの曲があり、80年代前半のイギリスのロックを現代風に再現する。「アイ・キャン・チェンジ」「ホーム」はザ・スミスを思わせる曲。「パウ・パウ」は「オン・リピート」風の曲。エレクトロ・ポップに近い曲は長めで、歌詞は繰り返し部分のない長い物語になっている。このアルバムでLCDサウンドシステムは活動を終了するという。
2017年。2016年に再結成。この時期に再結成してアルバムを出すアーティスト、特にアメリカのアーティストについては、時代状況を反映しているかどうかを確認すべきだ。再結成ではない通常のアーティストであっても、社会の分断や(反)ナショナリズムに言及することが多いからだ。このアルバムでは、直接的にそのような言及をしている部分は見当たらず、「サウンド・オブ・シルバー」のように私的な経験を思い出すような歌詞が多い。ただ、曲の雰囲気としては、別の行動があったかもしれないと自省するような精神性があり、「LCDサウンドシステム」や「サウンド・オブ・シルバー」にあった快活な曲は少ない。ダンス音楽のイメージは縮小している。メロディーはシンセサイザーを中心に構成し、ジェイムズ・マーフィーの精神的な成熟を表すのに大きな役割を果たしている。メンバーが8人いることになっているが、多くの曲は3人以下で録音し、ジェイムズ・マーフィーが多重録音している。「アザー・ヴォイシズ」「アイ・ユースト・トゥ」「チェンジ・ユア・マインド」「コール・ザ・ポリス」「エモーショナル・ヘアカット」はバンドサウンドに近い。