ザ・キラーズはアメリカのロックバンド。ボーカル兼シンセサイザー、ギター、ベース、ドラムの4人編成。もともとギター中心のバンドだった。デビュー当初はニューウェーブ、近年はアメリカンロックとなっている。オール・ディーズ・シングズ・ザット・アイヴ・ダン」の後半は政治的意味を帯びており、ヒットとは別に重要な曲となっている。代表曲は「ミスター・ブライトサイド」「オール・ディーズ・シングズ・ザット・アイヴ・ダン」「ウェン・ユー・ワー・ヤング」「ヒューマン」。
2004年。ボーカル兼シンセサイザーが全ての曲の作曲に関わり、サウンド上もシンセサイザーが主導する。シンセサイザーは濁りを含んだ厚い音。オープニング曲はベースとシンセサイザーが曲を引っ張る。「ミスター・ブライトサイド」はバンドの代表曲で、「オール・ディーズ・シングズ・ザット・アイヴ・ダン」はゴスペル合唱団によるコーラスがついており、ソウルの説得力が大きい。イギリス盤とアメリカ盤は収録曲が異なっており、イギリス盤は「チェンジ・ユア・マインド」の代わりにクイーン風の「グラマラス・インディー・ロックン・ロール」が収録されている。
2006年。前作にあった古風なシンセサイザーの派手な使い方を変え、キーボードとして使っている。ニューウェーブはイギリス中心のブームであったため、シンセサイザーが大きく使われているとイギリスで好意的に受け入れられるが、キーボードとしての役割に後退すると80年代のハードロックとなってしまう。しかし、ザ・キラーズはハードロックを突き抜け、地に足が付いたようなアメリカのロックを標榜する。「ウェン・ユー・ワー・ヤング」はブルース・スプリングスティーンのEストリートバンドのような音になっている。「ボーンズ」はホーンセクションを使ったポップな曲。「ディス・リヴァー・イズ・ワイルド」も、曲調、ボーカルの歌い方においてブルース・スプリングスティーンを意識したと思われる。
2007年。シングルのB面曲を中心に構成した企画盤。
2008年。デビュー作にあったニューウェーブの雰囲気は少なくなった。曲を整えたり、きれいにまとめたりしようとしたのか、以前よりも刺激や驚きが減っている。アメリカのバンドやアーティストはデビュー時に新しい音で成功すると、途中から音の傾向が変わり、広く支持されるような安心感のある音になってしまうことがある。それが成功して大物アーティストになれることもあるが、ザ・キラーズの場合は早すぎたか。シンセサイザーをシンセサイザーという楽器ではなくキーボードの代用にしてしまった曲が増えた。ニューウェーブの雰囲気の喪失はそこにある。オープニング曲の「ルージング・タッチ」はホーンセクションを使う。「ヒューマン」はペット・ショップ・ボーイズのようなサウンド。「ジョイ・ライド」「アイ・キャント・ステイ」はアコースティックギター、パーカッション、サックスを使う南洋風の曲。
2012年。「バトル・ボーン」はザ・キラーズの出身地であるアメリカ、ネバダ州のニックネーム。ニューウェーブの面影はなく、キーボードを含むアメリカンロックとなった。ミドルテンポが多い。ミートローフを聞きやすくしたような、キーンをハードにしたような、ブルース・スプリングスティーンを若くしたような曲が続く。ボーカル兼シンセサイザーのブランドン・フラワーズが大半の曲を作詞している。各曲はそれぞれ独立しており、個別の状況が描かれる。多くはうまくいかなくなっている人間関係であり、多かれ少なかれ誰もが経験していることだ。そうした状況を取り上げること自体が普通の日常を送る人々に対する共感の証しであり、ブルース・スプリングスティーンをアップデートした曲調が意味を持ってくる。アルバムタイトル曲はいい曲だ。
2013年。ベスト盤。
2017年。ロックを基本とし、曲によってエレクトロ寄りになる。「ラット」「ラン・フォー・カヴァー」「ザ・コーリング」「ハヴ・オール・ザ・ソングス・ビーン・リトゥン?」など、対象に何かを訴えかけたり呼び掛けたりしている曲が多い。オープニング曲が不遇な人に共感を示す歌詞になっていて、これがアルバムタイトル曲にもなっている。「ザ・マン」は成功した自分のことを誇示しているように見えるが、ブランドン・フラワーズがそんな歌詞を作るとは思えず、むしろそのような男に時代遅れや人間的な未成熟を感じさせる曲だろう。その観点で聞けば、「ザ・マン」は現代のマッチョイズム批判だ。
2020年。ベースは録音に不参加。ギターも10曲のうち5曲しか参加していないので、ブランドン・フラワーズの個人プロジェクトの度合いが高まっている。フリートウッド・マックのリンジー・バッキンガム、k.d.ラング、ワイズ・ブラッドが参加。曲が全体的に聞きやすくなっても、個々の曲は聞きどころを押さえており、単に大ベテランや若手のアーティストではなくリンジー・バッキンガムやk.d.ラング、ワイズ・ブラッドを選んでいることもその一つだろう。オープニング曲はブルース・スプリングスティーン、「ダイイング・ブリード」はノイへのオマージュ。
2021年。「バトル・ボーン」のブルース・スプリングスティーン風アメリカンロックをさらに押し進めたようなアルバム。実質的に、ブランドン・フラワーズのソロアルバムになっている。これまでのザ・キラーズのアルバムよりも内省的で、バンドの幅を広げた。曲の間に挟まれる話し声、オープニング曲の「ウエスト・ヒルズ」の哀惜のメロディー、荒涼としたギター、少ないキーボード音などが、音楽的にアメリカ中西部を想像させ、ブランドン・フラワーズが出身地のネバダ州を追想したアルバムと解釈できる。「ランナウェイ・ホーセズ」はフィービー・ブリジャーズが参加。
2023年。ベスト盤。