KANSAS

カンサスはアメリカのプログレッシブ・ハードロックバンド。バイオリン奏者を含む6人編成。楽器を兼任するメンバーが多いため、ボーカル、ギター、キーボード奏者がそれぞれ2人いる。プログレッシブロックとポップなハードロックを両立した数少ないバンド。重要人物はボーカル兼キーボードのスティーヴ・ウォルシュ、ギター兼キーボードのケリー・リヴグレン、バイオリン兼ボーカルのロビー・スタインハート。「永遠の序曲」「暗黒への曳航」がヒットし、「伝承」「すべては風の中に」が代表曲となった。2010年代後半以降は7人編成。

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KANSAS

1974年。モンキーズをアメリカで成功させたプロデューサー、ドン・カーシュナーが自らのレーベルを設立して手がけたのがカンサス。バイオリン奏者を含む6人編成で、ボーカルとギターとキーボード奏者が2人ずついる。ドラムがイギリスでプログレッシブ・ロックに影響を受けてアメリカに帰ったらしく、イエスのような展開を持つ曲が多い。「栄光への軌跡」のドラマティックさ、「アパージュ」から「母体崩壊」に至るメドレーの構成は、当時のアメリカン・ロックとしては奇跡のように思える。全米174位。「寂しき風」は80位。

2
SONG FOR AMERICA

1975年。初期の代表作である「ソング・フォー・アメリカ」収録。オープニング曲はロビー・スタインハートの独壇場「ダウン・ザ・ロード」だが、その後は長尺の曲が並ぶ。ケリー・リヴグレンが作った曲はプログレッシブ・ロック、それ以外はロックンロール。両者の融合した4枚目からヒットする。全米57位。

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MASQUE

1975年。邦題「仮面劇」。「イカルス」収録。プログレッシブ・ロック風の曲でも安易にストリングスを使わず、徹底してオルガンとムーグ、アープ等のシンセサイザーで通すところは好感が持てる。ジャケットは16世紀の画家ジュゼッペ・アーチンボルドの「水」。このアルバムにはサブタイトルがついており、なぜカンサスがジャケットにアーチンボルドを使ったのかが何となく分かる。一般的にこの作品までが初期。全米70位。

4
LEFTOVERTURE

1976年。邦題「永遠の序曲」。ドロップ・コーラスの傑作「伝承」で始まるバンドの代表作。日本ではケリー・リヴグレンの艶のあるギタープレイに人気が集まった。ドラマチックさや曲展開の鮮やかさを失わずに適度なポップ性を兼ね備えた名盤。全米5位、400万枚。「伝承」は11位、「神秘の肖像」は64位。

5
POINT OF KNOW RETURN

1977年。邦題「暗黒への曳航」。ドラマ性のある曲もコンパクトになり、大仰さは薄れた。アコースティックの名曲「すべては風の中に」収録。「永遠の序曲」、「暗黒への曳航」とも400万枚売れている。全米4位、400万枚。「すべては風の中に」は6位、「暗黒への曳航」は28位。

 
TWO FOR THE SHOW

1978年。邦題「偉大なる聴衆へ」。人気絶頂のときのライブ。アメリカン・プログレッシブ・ハード・ロックのライブ盤では最高傑作と思われる。初期の長い曲も多く演奏している。シングル・カットされたのはファーストの曲だった。全米32位。

6
MONOLITH

1979年。邦題「モノリスの謎」。日本では、ファンの要望により「謎の沈黙」が短縮バージョンでシングル・カットされた。再びケリー・リヴグレンとそれ以外のメンバーの曲で差が目立ってきた。「まぼろしの風」収録。全米10位。「まぼろしの風」は23位、「リーズン・トゥ・ビー」は52位。

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AUDIO-VISIONS

1980年。デビュー時のメンバーで録音された最後の作品。だんだん曲がコンパクトになっている。「ノー・ワン・トゥゲザー」は初期のめくるめく展開をうまくまとめたような曲。同年にスティーヴ・ウォルシュとケリー・リヴグレンはソロ・アルバムを制作。「ホールド・オン」「ローナー」「カーテン・オブ・アイアン」収録。全米26位。「ホールド・オン」は40位、「ガット・トゥ・ロック・オン」は78位。

8
VINYL CONFESSIONS

1982年。ボーカルがジョン・エレファンテに交代。AOR色が濃くなる。かつてロビー・スタインハート、スティーヴ・ウォルシュが得意としたロックンロール系の曲は皆無。「プレイ・ザ・ゲーム・トゥナイト」「チェイシング・シャドウ」収録。全米16位。「プレイ・ザ・ゲーム・トゥナイト」は17位、「ライト・アウェイ」は73位。

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DRASTIC MEASURES

1983年。ロビー・スタインハートが脱退。5人編成。9曲のうちジョン・エレファンテ作曲が6曲、ケリー・リヴグレンが3曲。「炎の欲望」収録。全米41位。「炎の欲望」は58位。

 
THE BEST OF KANSAS

1984年。このベスト盤のために作ったジョン・エレファンテの曲が1曲ある。「伝承」はリミックス。初期の曲は「ソング・フォー・アメリカ」のみ。全米154位、300万枚。

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POWER

1986年。ボーカルにスティーヴ・ウォルシュが復帰、ケリー・リヴグレンが脱退し元デキシー・ドレッグスのスティーヴ・モーズが加入、ベースのデイヴ・ホープが脱退し元ストリーツのビリー・グリアーが加入。スティーヴ・モーズのうまいギターを生かした曲もあり、ハードロックに近くなった。全米35位。「オール・アイ・ウォンテッド」は19位、「パワー」は84位。

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IN THE SPIRIT OF THINGS

1988年。バラードで始まり、曲のほとんどがミドル・テンポ。アダルト・オリエンテッド・ロック 色がまた濃くなり、ボブ・エズリンの計算されたプロデュースで時流に乗ったサウンドと言える。全米114位。

 
KANSAS

1994年。邦題「伝承」。2枚組ボックス・セット。「キャン・アイ・テル・ユー」はデモ・バージョン、「母体崩壊」と「宇宙への祈り」と「謎の沈黙」は未発表ライブ。「ホイールズ」は新曲。

 
LIVE AT THE WHISKY

1994年。92年のライブ。スティーヴ・モーズが抜け、ギターとバイオリンが弾けるデヴィッド・ラグズデイルが加入、キーボード専任としてグレッグ・ロバートが加入。「伝承」と「暗黒への曳航」の曲が多い。「超大作」のイントロで始まり「超大作」で終わる。

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FREAKS OF NATURE

1995年。カンサス史上最もハードなアルバム。バイオリンの活躍度は過剰とも言えるほど。ギターとユニゾンするしリズムも刻む。

ALWAYS NEVER THE SAME

1998年。ロンドン響と共演。

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SOMEWHERE TO ELSEWHERE

2000年。全盛期の頃のメンバーに戻った。全曲がケリー・リブグレン作曲。1曲目は「仮面劇」の「イカルス」の続編。2曲目のエンディングは「超大作」のテーマが出てくる。

 
PROTO-KAW

2002年。邦題「アーリー・レコーディングス・フロム・カンサス」。カンサスがデビューする前の1971年から73年に残されたテープをCD化。デビュー時のメンバーでいるのはケリー・リブグレンのみ。7人編成でバイオリンがいない代わりにサックス奏者がいる。後にデビュー盤に収録されるプログレッシブ・ロック指向の大作も入っている。5分台の3曲以外は7分から13分の大作ばかり。

 
DEVICE VOICE DRUM

2002年。2枚組ライブ盤。96年に行った日本公演に比べて、初期のアルバムからの選曲が多い。したがってほとんどの曲がケリー・リブグレンの作曲になる。「イカルスII」と「銀翼のイカルス」はメドレーで演奏される。「ザ・プリーチャー」は聖歌隊が合唱。

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THE PRELUDE IMPLICIT

2016年。邦題「暗黙の序曲」。スティーヴ・ウォルシュ、ケリー・リヴグレンが抜け、シューティング・スターのボーカルほか数人が加入し、7人編成。ドラムのフィル・イハート、ギターのリッチ・ウィリアムスだけが創設メンバーとして残っている。バイオリンはデヴィッド・ラグズデイルが再加入している。シューティング・スターのボーカルだったロナルド・プラットはスティーヴ・ウォルシュに近い声で歌う。多くの曲はプログレッシブ・ロックのイメージを伴ったドラマ性の高いメロディーだ。70年代半ばまでにあったロックンロールやカントリー風の曲はなく、明るいメロディーも少ない。ドラマチックな曲が意図したとおりに聞かれるには、ドラマチックではない曲がいくつか必要だ。また、そのような曲が多面性として理解される。70年代のカンサスの評価の要因にバイオリンが入ったプログレッシブ・ロックがあるのは確かだが、プログレッシブ・ロックとは異なるポップさも含めて評価が成り立っている。サウンドの焦点を狭くしすぎた。

LEFTOVERTURE LIVE&BEYOND

2017年。ライブ盤。2枚組。1枚目は「永遠の序曲」以外のアルバムに収録された曲のライブ。2枚目は「永遠の序曲」の曲順に収録している。1回のライブではなく、複数のライブから曲ごとに選んでいる。「永遠の序曲」はカンサスの代表作だが、それでもその中の「深層心理」「挿入曲」「少年時代の謎」はライブ盤に収録されてこなかった。スタジオ録音以外の演奏が聞けるのは貴重だ。「伝承」の最初のコーラスはライブでのコーラスではなくスタジオ録音を流用している。ギター2人とキーボードが専任となり、演奏は安定している。スティーヴ・ウォルシュに近い声のボーカルが、70年代の名曲をそのままのイメージで歌っていることは、バンドにもファンにも希望を与える。「奇跡」はやや切れが悪い。1枚目は70年代の曲と「暗黙の序曲」収録曲が中心の選曲で、今回は「ソング・フォー・アメリカ」「ダウン・ザ・ロード」「謎の沈黙」など他のライブ盤に収録されている人気曲は入っていない。

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THE ABSENCE OF PRESENCE

2020年。キーボード中心のロック。ギターも2人いるがキーボードとともに全体の音の厚みを加える役割の方が多い。メロディアスなロックだがボーカルの音域がそれほど広くなく、表現の幅もあまりないため記憶に残りにくい。70年代では新しい音の1つだったシンセサイザーが今ではありふれた音になり、自己主張していたギター、バイオリンが伴奏中心になったため、刺激が少ない。少なくとも、スティーヴ・ウォルシュとロビー・スタインハートが持っていたロックンロール、カントリーの感性は現在のメンバーには薄く、作曲の幅が限られている。2020年代に入ってもアルバムを出せることが

POINT OF KNOW RETURN LIVE&BEYOND

2021年。ライブ盤。2枚組。「レフトオーヴァーチュア・ライヴ&ビヨンド」と同様、1枚目が「暗黒への曳航」以外の収録曲のライブ、2枚目が「暗黒への曳航」の再現ライブ。1枚目の「壁」はアレンジが変わっているので収録する意味がある。2枚目の「伝承」は最初のコーラスからライブで再現し、曲の一部を観客に歌わせる。「まぼろしの風」はアコースティック版。

 
BEFORE BECAME AFTER/PROTO-KAW

2004年。カンサス結成前にケリー・リブグレンが組んでいたバンドが新たに録音したアルバム。ボーカル、ギター兼キーボード、ベース、ドラム、キーボード、サックス兼フルートの6人編成。ケリー・リブグレンはギター兼キーボード。キーボード専任奏者はオルガン中心。8、9分の長い曲から3分の短い曲までいろいろだが、最も長い「シオファニー」がプログレッシブ・ロックに近い。エマーソン・レイク&パーマーのような感じ。カンサス初期のような重厚でドラマチックな雰囲気はない。それはキーボードの音の薄さ、あるいは音の濁り具合でそう聞こえるのかもしれないが、ボーカルの平板さも軽さを助長している感がある。少なくとも、スティーブ・ウォルシュやジョン・エレファンテより声域が狭い。「アホロートル」はキング・クリムゾンの「クリムゾン・キングの宮殿」と「永遠の序曲」の「超大作」を足したような曲。ボーナスCDでは「ベレクセス」のライブ収録。

 
THE WAIT OF GLORY/PROTO-KAW

2006年。ギター兼サックスが加入し7人編成。全曲をケリー・リブグレンが作曲している。1曲が平均6分あり、ほとんどがミドルテンポ。トランペット奏者もゲスト参加しており、管楽器がよく使われる。楽器の中心はキーボード、ギター、ベースで、管楽器がメーンを取ることはない。メロディーはかつてほど高揚しない。ボーカルも迫力に欠ける。