1995年。アメリカの、しかもフロリダから出てきたというのにヨーロッパ的な音を出すバンド。ボーカルがクイーンズライチのジェフ・テイトを思わせるがジェフ・テイトほど個性的ではない。存在自体が貴重だった。キャメロットとはアーサー王伝説に出てくるアーサー王の居城の名前。「プラウド・ノマド」収録。
1996年。中世に詩の題材を求めることが多い。曲は悪くないがボーカルが弱い。ミドルテンポが多いのも起伏がなさすぎてだれる原因だ。
1998年。ボーカルがコンセプションのロイ・S・カーンに交代。ボーカルが変わろうと変わるまいと、曲の出来は向上しており、クオリティが高くなったことをボーカルの交代のせいのみに語ってしまうことはできない。ただ、ギターやキーボードはまだあか抜けない。「シージ・ペリロス」とはアーサー王物語に出てくる「命取りの座」のこと。
1999年。プロデューサー、スタジオの差はこれほどサウンドに影響を与えるのかという見本。カーンの声域に合わせて作曲されているのでそれにともなって各楽器の音域も広がる。これが旋律の上がり下がりに幅をもたらし、華麗さに拍車をかける。「シャドウ・オブ・ユーサー」はアーサー王伝説を基にした詩であるとともに、バンドを象徴する曲であると言える。
2000年。ライブ盤。スタジオ収録の曲も3曲入っている。安定した演奏。
2001年。前作と同路線。すでに前作で大変貌を遂げた衝撃の大きさと比べると、感動の度合いは低い。前作よりも大きな話題になること自体が奇妙。
2003年。ゲーテの傑作「ファウスト」をモチーフにしている。統一的なテーマを持ったアルバムはこれが初めてであること、もとになった「ファウスト」のストーリーと照らし合わせるとこのアルバムが「ファウスト」の途中で終わっていること、これまで必ずジャケットに登場した紋章が出てこないこと、の3点を考えると、この作品はバンドが一つの転機を迎えていることが分かる。「ファウスト」は傑作だが難解で、言わんとするところは「近代的精神を持った人間の理想的な生き方とはどう生きることなのか」ということだ。ゲーテがそのことを最も象徴的に描いた部分はこのアルバムには出てこない。つまり、結論は次作以降に持ち越されることが明らかで、一つの目標に向かって壮大な音楽ドラマが繰り広げられることを期待させる。今作でも出てくる女性ボーカルが次作でさらに重要な役割を果たすことも予測できる。物語の筋として重要な曲は「フィースト・フォー・ザ・ヴェイン」と「ヘレナズ・テーマ」。ラプソディのルカ・トゥリッリやイアン・パリーが参加していることは、さして重要ではない。
2005年。ゲーテの「ファウスト」に照らし合わせると、このアルバムの物語上のクライマックスは「ザ・ブラック・ヘイロー」のサビで、その後の曲はキャメロットの主張を交えた結末を描いている。だからこそ「ザ・ブラック・ヘイロー」がアルバムタイトルとして選ばれており、他の曲をアルバムタイトルにすることはあり得ない。「ファウスト」をもとにした作品は、最も重要なあらすじを織り込みさえすればあとは比較的自由に作者がアレンジできる。このアルバムでは、主人公が神に救済されて天国に行くのではなく、「エピカ」の冒頭に戻っていくという話になっている。サウンドは「エピカ」「ザ・ブラック・ヘイロー」とも「カーマ」の路線。ストリングスの使い方は優れている。
2007年。キーボードが加入し5人編成。各曲が独立している。サウンドはどの曲もよく似ており、「エピカ」や「ブラック・ヘイロー」の路線。キーボードが加入したといってもキーボードのソロなどが増えているわけではなく、これまでのようにオーケストラ風のサウンドが曲を覆い、雰囲気を作っている。
2010年。14曲のうち、後半の4曲は計9分の組曲になっている。オープニング曲の「グレイト・パンデモニウム」は徐々にハードになっていく曲。ソイルワークのボーカル、ビヨーン・ストリッドが参加している。「ゾディアック」はサヴァタージのボーカルのジョン・オリヴァ、「ハウス・オン・ア・ヒル」はエピカの女性ボーカル、シモーネ・シモンズが参加する。アルバムは全体として神秘的な暗さがあり、「ブラック・ヘイロー」や「ゴースト・オペラ」の路線と変わらない。オーケストラ風のキーボードが大陸ヨーロッパの雰囲気を醸し出す。
2012年。ボーカルが交代。新しいボーカルは前任者のロイ・カーンに似ており、声はロイ・カーンよりもやや癖がなく聞きやすい。演奏と曲調は変わらないので、これまでのサウンドとほとんど同じだ。全曲を新ボーカルとギターのトーマス・ヤングブラッド、キーボード奏者、プロデューサーのサシャ・ピートの4人で作曲している。前作と同じように3部構成で9分の曲があるが、1曲としてまとめられている。全体として、急激な変化を望まず、トーマス・ヤングブラッドのこれまで通りのサウンド志向を貫いている。
2015年。キーボードがオーケストラの代役となってメロディーを主導する大陸ヨーロッパ型ヘビーメタル。ディレイン、ナイトウィッシュ、アーチ・エネミーの女性ボーカルが参加している。ヨーロッパで人気のあるメロディアスなヘビーメタルバンドのうち、キャメロットの特質はアルバム全体に暗さとハードさを両立すること、女性を特別な立場で描くこと、の2点だ。それは「ザ・フォース・レガシー」で確立されて以降今作まで続いており、ジャケットにも反映されている。ドラマチックでシンフォニックなメロディー、という他のアーティストにも適用できるような曖昧な個性ではない。2点の特質のうち重要なのは女性を特別に描き、ボーカルにも女性をあてていることだ。これはロイ・カーン、トミー・カレヴィックと、低域の抑揚に長けたボーカルを採用していることにもつながっている。。キャメロットが女性ボーカルを頻繁に参加させるほど女性を重視すれば、低域をうまく歌える男性ボーカルは逆に男性性を際立たせることになり、ロイ・カーン、トミー・カレヴィックのボーカルに必然性が出てくる。キャメロットに高音域をうまく歌える男性ボーカルがいてもあまり意味はなく、無名であっても低音域が歌えるボーカルが重要だ。それは曲の内容が要請している条件だ。ロイ・カーンの後任に、安易に有名人を迎えなかったトーマス・ヤングブラッドとサシャ・ピートはキャメロットの個性をよく理解している。ヨーロッパでは女性をメーンボーカルとするバンドの人気が高いが、キャメロットがナイトウィッシュやウィズイン・テンプテーションのように女性ボーカルを立てれば、個性は失われるだろう。
2018年。ドラムが交代。ボーカル、ギター、キーボードとプロデューサーのサシャ・ピートが4人で共作している。アルバム全体から受け取りうる社会的意味が、一般の人には分かりにくい。ポピュラー音楽は小説や演劇ではないので、読み替えないと分からない内容ではなかなか理解されない。ポピュラー音楽は、ポピュラーから離れてハイブラウに近づくと批判性を失ったとみなされる。サウンドは前作を引き継ぎ、オーケストラ風のストリングスをシンセサイザーで代用しながら若干の人工的電子音も入れる。「バーンズ・トゥ・エンブレイス」は児童合唱、「イン・トワイライト・アワーズ」は女性ボーカルが入る。一般的な意味での女性ボーカルはこの曲のみで、もう1人の女性ボーカルはデス声で参加している。