アイアン・メイデンはイギリスのヘビーメタルバンド。1980年前後にイギリスで起こった「ニュー・ウェーブ・オブ・ブリティッシュ・ヘビーメタル」の代表的なバンド。80年代のイギリスのヘビーメタルを、ジューダス・プリーストとともに引っ張った。中心人物はベースのスティーヴ・ハリス、重要人物はボーカルのブルース・ディッキンソン。デビューから現在まで、バンドのマスコットであるエディーをジャケットに使い続けている。最初の2枚のアルバムはボーカルがポール・ディアノ、80年代の全盛期はブルース・ディッキンソン、90年代後半はブレイズ・ベイリー、2000年以降はブルース・ディッキンソン。代表曲の多くは80年代の曲で、90年代以降は曲が長大になっている。
1980年。邦題「鋼鉄の処女」。ギター2人の5人編成。ボーカルはポール・ディアノ。当時の一般的なアグレッシブ・ミュージックは何だったかを考えれば、アイアン・メイデンの斬新さは大きかっただろう。ただ、セックス・ピストルズの衝撃やニューウェーブの斬新さに比べればややインパクトに欠けた。影響の範囲もヘビーメタルの中だけにとどまっている。実際にどのようなサウンドを作っているかにかかわらず、80年前後にイギリスからデビューしたハードロック、ヘビーメタル・バンドはみんなニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘビーメタルという言葉でひとくくりにされる。物のカテゴリーに「新」とか「ニュー」とか「ネオ」とか「モダン」がつけられた場合、それはそれまで存在した同一カテゴリーを「古い物」として扱われるべきという名付け側の意図があることを暗に示している。「今までのハードロック、ヘビーメタルは古い」というメッセージだ。ニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘビーメタルはパンクやニューウェーブに対する言葉ではなく、ジューダス・プリーストやレインボウに突きつけた言葉とも解釈できる。ベースが曲をリードするサウンドは誰もまねできず、仮に誰かがやればアイアン・メイデン風と呼ばしめる強い個性を持っている。「プローラー」「ランニング・フリー」「オペラの怪人」「トランシルバニア」収録。全英4位、アメリカではチャートに入らず。
1980年。シングル盤。全英34位。
1980年。シングル盤。全英29位。
1981年。シングル盤。全英35位。
1981年。ギターのデニス・ストラットンがエイドリアン・スミスに交代。歴史、ホラー趣味丸出し。過去の怪しいできごとに大きな興味を持つ青年がヘビーメタルをやればこうなるという例。「ラスチャイルド」につながるイントロが単独で1曲を構成している。全米78位、全英12位。
1981年。シングル盤。全英31位。
1981年。シングル盤。全英52位。
1981年。日本公演ライブ。全米89位、全英43位。
1982年。邦題「魔力の刻印」。ボーカルがポール・ディアノから元サムソンのブルース・ディッキンソンに交代。広い音域が歌えるボーカルになったこともあって、曲の高揚感や緊張感、ドラマティックさが格段に上がっている。6分以上の長い曲が3曲ある。「誇り高き戦い」「審判の日」収録。イギリスではこのアルバムで人気を確立した。アメリカではまだ新人バンド扱い。全米33位、全英1位。
1982年。邦題「誇り高き戦い」。「魔力の刻印」からのシングル。B面は「トータル・エクリプス」。88年に「キャン・アイ・プレイ・ウィズ・マッドネス」が3位になるまでは、この曲がイギリスで唯一、チャートのひと桁台に入ったシングルだった。したがって、アイアン・メイデンの代表曲は全年代を通じてこの曲ということになる。全英7位。
1982年。「魔力の刻印」からのシングル。B面は「リメンバー・トゥモロウ」のイタリアでのライブを収録。全英18位。
1983。邦題「頭脳改革」。ドラムがクライブ・バーからニコ・マクブレインに交代。黄金期のメンバーが出そろう。メンバーが変わってもベースの音だけでアイアン・メイデンと分かる。冒頭から2曲続けて6分台の曲が並ぶ。「鋼鉄の殺人鬼」はこの時代にしてはなじみやすいメロディー。全米14位、全英3位。
1983年。邦題「イカルスの飛翔」。「頭脳改革」からのシングル。B面はモントローズのカバー「灼熱の大彗星」。全英11位。
1983年。邦題「明日なき戦い」。「頭脳改革」からのシングル。B面はジェスロ・タルのカバー「やぶにらみのマリー」収録。全英12位。
1984年。1枚のアルバムにしては長く、50分ある。「暗黒の航海」はこれまでの長い曲よりはるかに長く13分ある。スピード感のある曲がオープニング曲となっているため、傑作とされることもあるが、ブルース・ディッキンソン時代のアルバムは総じてレベルが高く、この作品が飛び抜けていい出来、というわけではない。全米21位、全英2位。
1984年。邦題「悪夢の最終兵器(絶滅2分前)」。B面はベケットのカバー「レインボウズ・ゴールド」。全英11位。
1984年。邦題「撃墜王の孤独」。B面はネクターのカバー「キング・オブ・トワイライト」と「魔力の刻印」のライブ。10位台以上を5枚連続で維持してきたシングルチャート順位が20位に落ちた。イギリスと日本では感性が違うということを強く認識させる。イントロでためを作り、ハードな本編に移行するというスタイルが日本人に受け入れられたとするならば、ジューダス・プリーストの「ヘリオン~エレクトリック・アイ」やメタリカの「バッテリー」、ハロウィンの「インヴィテーション~イーグル・フライ・フリー」などと同じで、ジャンルに限らず日本人はこのスタイルが好きなのではないか。全英20位。
1985年。邦題「死霊復活」。ヘビーメタルのライブ盤としては屈指の傑作。このライブ盤を聞いて、イギリスの首相、ウィンストン・チャーチルの演説から「撃墜王の孤独」に至る流れをライブで期待する声が多くなった。「鋼鉄の処女」の途中で観客が盛り上がるのはエディーが登場したからだろう。全米19位、全英2位。
1985年。「死霊復活」からのシングル。B面は「サンクチュアリー」と「モルグ街の殺人」のライブ。ハマースミス・オデオンのライブ。全英19位。
1985年。「死霊復活」からのシングル。邦題「誇り高き戦い」。B面は「オペラの怪人」と「ロスファー・ワーズ」のライブ。「死霊復活」とは別の、84年のハマースミス・オデオンのライブ。全英26位。
1986年。シンセサイザーを導入した。同時期に「ターボ」を発表したジューダス・プリーストほど派手に入れているわけではない。裏ジャケットは最高傑作。「パワースレイブ」からの3作は過去、現在、未来という流れか。そうならば「現在」がライブ盤で、「未来」にシンセサイザー導入、は計算されたアイデアだ。A面の充実ぶりはすばらしい。アメリカでは80年代で最もチャート成績がよかったアルバム。また、アメリカではシングル盤がチャートに入ったことが一度もない。全米11位、全英3位。
1986年。シングル盤。B面は「リーチ・アウト」。ニコ・マクブレインの友人のバンド、The entire population, The sherman tankers のカバーらしい。もう一曲は「シェリフ・オブ・ハダースフィールド」。全英18位。
1986年。シングル盤。B面は「ザット・ガール」。FMの「アメリカン・ガール」のデモ・バージョンのカバーらしい。「ファニータ」はThe entire population, The sherman tankers のカバーらしい。全英22位。
1988年。邦題「第七の予言」。アルバムの最初と最後に共通のフレーズが入っている。1曲目をはじめ、前作以上にシンセサイザーが使われているが、曲の盛り上げに必要十分な使用で、うるさく感じられることはない。むしろ、ブルース・ディッキンソンが作曲した「キャン・アイ・プレイ・ウィズ・マッドネス」のドロップ・コーラスが、これまでにないアイアン・メイデンの姿を表しているということで、「路線変更の兆しか」と物議を醸した。「透視能力者」は名曲。ジャケットはかなりシンプルになった。全米12位、全英1位。
1988年。「第七の予言」からのシングル。第一弾シングルがこれだったからファンは不安になった。B面は「ブラック・バート・ブルース」とシン・リジーのカバー「マサカー」。いい曲はだれがカバーしてもかっこいい。「誇り高き戦い」の7位を上回り、バンド史上最高の全英3位。
1988年。シングル盤。B面は「プローラー'88」と「娼婦シャーロット'88」で、いずれもブルース・ディッキンソンのボーカルによる再録音。全英5位。
1988年。シングル盤。「透視能力者」のライブ。B面は「ザ・プリズナー」と「ヘブン・キャン・ウェイト」のライブ。88年のモンスターズ・オブ・ロック。A面は4分だがB面は13分もある。全英6位。
1989年。シングル盤。「インフィニット・ドリームス」のライブ。B面は「キラーズ」と「悪魔のメッセージ~悪夢への招待」のライブ。全英6位。
1990年。ギターがエイドリアン・スミスから元ホワイト・スピリットのヤニック・ガーズに交代。長い曲がなくなった。「母なるロシア」は間奏やエンディングに大仰さが薄れた分、シンプルになっただけで、本来はもっと長かっただろう。全米17位、全英2位。
1990年。シングル盤。B面はストレイのカバー「オール・イン・ユア・マインド」とゴールデン・イヤリングのカバー「キル・ミー・ス・ソワール」。全英3位。
1990年。シングル盤。B面はフリーのカバー「アイム・ア・ムーバー」とレッドツェッペリンのカバー「コミュニケーション・ブレークダウン」。バンド史上初のシングル全英1位。
1992年。80年代の名盤群のスタイルを踏襲。1曲目に勢いのある曲を置き、2曲目にライブ映えする曲がきている。最後の曲は長い。1曲目をブルース・ディッキンソンとヤニック・ガーズが書き、2曲目をスティーブ・ハリスが書いているということだろう。まだまだ新しいメロディーを生み出す能力が多分にある。90年代の最高傑作。全米12位、全英1位。
1992年。シングルだがレコードではなくなったのでA面、B面という概念がない。モントローズのカバー「スペース・ステーションNo.5」収録。全英2位。
1992年。シングル盤。全英21位。
1993年。「フィア・オブ・ザ・ダーク」にともなうツアーから「サムウェア・イン・タイム」以降の曲のみで構成されたライブ盤。全米106位、全英3位。
1993年。シングル盤。ライブ・バージョン。全英8位。
1993年。「ア・リアル・ライブ・ワン」から半年後に発売されたライブ盤。違いは「パワースレイブ」以前の楽曲で構成されているということ。全米140位、全英12位。
1993年。シングル盤。ライブ・バージョン。全英9位。
1994年。邦題「モンスターズ・オブ・ロック1992」。2枚組ライブ盤。「フィア・オブ・ザ・ダーク」までの曲で構成するライブ。3作もライブが続くと、またかという印象だ。20曲のうち5曲は7分を超える。最後の「ランニング・フリー」はエイドリアン・スミスが参加し、ギター3人で演奏。全英23位。
1995年。ボーカルがブルース・ディッキンソンからブレイズ・ベイリーに交代。よく言えばプログレッシブ・ロック風の曲、悪く言えばだれる曲が多く、ヘビーメタル・バンドにハードな曲を求めるごく普通のファンから見ればやや物足りない。低音で不安定になるブレイズ・ベイリーのボーカルもいただけない。曲調は全体に暗く、音域も狭いので聞き終わっても何か吹っ切れない。ボーナスCDの3曲はハードで出来がいい。全米147位、全英8位。
1995年。シングル盤。全英10位。
1996年。ザ・フーのカバー「マイ・ジェネレーション」とUFOのカバー「ドクター・ドクター」収録。
1996年。2枚組ベスト盤。ブレイズ・ベイリーがボーカルの新曲とライブが1曲ずつ入っている。「鋼鉄の処女」はサウンドハウス・テープス・バージョン。全英16位。
1996年。シングル盤。「ベスト・オブ・ザ・ビースト」に収録されている新曲。全英16位。
1998年。曲の良さは「X-ファクター」の比ではない。ブレイズ・ベイリーの歌唱力がもう少しつければ名盤と言ってもよい。キーボードの使用量は過去最も多い。「ザ・クランズマン」は米白人小説家、トーマス・ディクソンの代表作で、黒人差別組織クー・クラックス・クラン(KKK)を支持、美化した小説のタイトルと同じ。アメリカとイギリスでは異なるイメージで聞かれる曲だと思われる。ジャケットは今ひとつ。全米124位。
1998年。シングル盤。全英18位。
1999年。3枚組。1枚は14曲入り音楽CD。1枚はゲーム。1枚は6曲とゲームのセットアップCD。音楽の20曲はファンの人気投票で上位だった20曲を順番に並べている。1位は「鋼鉄の処女」で、「死霊復活」に入っているライブ・バージョンを使用。
2000年。ボーカルにブルース・ディッキンソンが復帰、ギターにエイドリアン・スミスが加入して6人編成になった。基本的に前作と同じ路線の曲で、ボーカルが入れ替わっただけだ。そう考えると、ブルース・ディッキンソンは音域が広いボーカリストなので「伝説の遊牧民」のような曲では高音を生かした歌い方をするが、ブレイズ・ベイリーは高音部分を自分の声の音域に合わせたために低音が不安定になったのではないか。勢いのある曲が並ぶ黄金期のハード路線に戻る気はないのか。明るい曲も少なくなった。全米39位、全英16位。
2000年。シングル盤。「撃墜王の孤独」「ウエイステッド・イヤーズ」はライブ。「孤独の撃墜王」はチャーチルの演説も含まれている。
2002年。2枚組ライブ。ブラジル公演。ボーカルがブルース・ディッキンソンで、ギターが3人いるときのライブ。歓声と合唱がとても大きい。ブルース・ディッキンソンのMCが「死霊復活」のときと同じところがある。
2002年。ベスト盤。
2002年。初代ドラムのクライブ・バーを支援するためのシングル。「誇り高き戦い」は「ロック・イン・リオ」から。「吸血鬼伝説」と「トータル・エクリプス」はクライブ・バー在籍時の未発表ライブ。
2002年。初代ドラムのクライブ・バーを支援するためのシングル。ジャケットも当時と同じ。「誇り高き戦い」は82年のシングル・バージョンと同じ。「アカシア・アベニュー22」と「ザ・プリズナー」はクライブ・バー在籍時の未発表ライブ。
2002年。邦題「鋼鉄の刻」。6枚組ボックスセット。
2003年。邦題「死の舞踏」。オープニングの2曲はハードで、ライブでも盛り上がりそうな曲。3曲目からは90年代の長いプログレッシブ・ロック風の曲と通常のハードロックが半分ずつくらいで出る。雰囲気や全体の流れは「フィア・オブ・ザ・ダーク」に似ている。「死の舞踏」と「パッシェンデール」はストリングスを使っている。13世紀、南仏のアルビジョワ(カタリ)派がキリスト教会から弾圧され、最後に逃げ込んだ場所がピレネー山脈の窓のない城塞で、1244年に信者200人が集団自決する。その城塞の場所が「モンセギュール」。追いつめたのは教皇の命を受けた十字軍。「パッシェンデールの悲劇」は、第1次大戦で大量戦死を招いた激戦で、パッシェンデールはベルギーとフランスの国境近くにある町の名前。ベルダンやソンムとともに、数十万単位の戦死者を出した場所で、パッシェンデールは第1次大戦の最後の激戦地。塹壕戦、すなわち人間対人間の戦争として世界で最後の戦地で、第2次大戦以降は爆撃機と戦車と軍艦が主要戦力となっていく。
2003年。シングル。「パス・ザ・ジャム」はアルバム未収録。「死の舞踏」には不似合いな曲で、外されるのも納得できる。「ブラッド・ブラザーズ」は「ブレイブ・ニュー・ワールド」の曲。そのバージョン違い2曲を収録。
2004年。シングル。「死の舞踏」はオーケストラ版のバージョン違い。アルバム収録バージョンよりもストリングスが派手に入っており、単独で聞けばシングル収録バージョンの方がいいくらいだ。ほかに未発表1曲とライブ2曲。
2004年。「ザ・ヒストリー・オブ・アイアン・メイデン パート1 ジ・アーリー・デイズ」のDVDが出たことに伴うシングル盤。タイトル曲はアルバムと同じ。2002年のライブ2曲と映像2曲を収録。計5曲のうち4曲が「魔力の刻印」。
2005年。ライブ盤。2枚組、16曲で94分。「死の舞踏」からは「ワイルデスト・ドリームズ」「死の舞踏」「レインメーカー」「パッシェンデール」「ノー・モア・ライズ」「ジャーニーマン」を演奏している。残りの10曲は10年ほど変わらない選曲。歓声は大きい。
2006年。邦題「ア・マター・オブ・ライフ・アンド・デス~戦記」。「フィア・オブ・ザ・ダーク」以来の傑作。このアルバムの評価は英米と日本で大きく異なると推測できる。前作と同様に戦争を題材にしているが、このアルバムは現在の戦争について書かれている。曲のメロディーは覚えやすく、あまり長さを感じさせない。
2009年。「サムホエア・イン・タイム」の時期を再現したというライブ。2枚組。「ウエイステッド・イヤーズ」「ムーンチャイルド」は初めてライブ盤に収録された。「パワースレイヴ」はキーボードが入ったライブが聞ける。「死霊復活」「ロック・イン・リオ」「デス・オン・ザ・ロード」とは異なり、曲ごとにライブの場所が違うので曲の前後はフェードイン、フェードアウトが多い。
2010年。前半に5分前後、後半に8分前後の曲を集め、アナログレコード時代のA面、B面を思わせる。オープニング曲は実質的に2曲と解釈した方が分かりやすい。ブルース・ディッキンソンがボーカルになってから30年近く経つにもかかわらず、高音を駆使した曲をいくつも並べているのはすばらしい。同じキャリアを積んだ同じ力量のボーカルを探すのは難しい。「ジ・アルケミスト」は80年代風のハードさがある。「ザ・タリスマン」は前半の静かな部分がなければいい曲になっていたのではないか。優れた曲がいくつかある及第点のアルバムというよりは、いい曲が並んだ合格点のアルバム。
2012年。ライブ盤。2枚組。
2015年。邦題「魂の書~ザ・ブック・オブ・ソウルズ」。2枚組。1枚目と2枚目で特にテーマを設けていない。1枚に収まりきらなかったから2枚にしたようだ。90年代以降の大作路線を踏襲しているが、2枚組になって評価がこれまで以上に上がるということはない。長い曲は30秒から1分半のイントロが付随し、ギターの3人がそれぞれソロをとることが多い。13分半の「ザ・レッド・アンド・ザ・ブラック」は間奏が6分以上ある。10分半のアルバムタイトル曲は前半と後半でテンポを変える。18分ある「エンパイア・オブ・ザ・クラウズ」は前半5分半と後半3分程度がピアノ中心のミドルテンポ、中間はバンドサウンドだが、全体として散漫だ。この曲を除いて1枚にしてもよかった。
2017年。ライブ盤。2枚組。2000年以降、アルバムを出すたびにライブ盤が出る。
2021年。邦題「戦術」。2枚組。1枚目は6曲で40分、2枚目は4曲で42分。10曲のうち、スティーヴ・ハリスが単独で作曲した4曲は9~12分、他のメンバーが共作した6曲は全て7分台以下に収まっており、スティーヴ・ハリスの大作志向が顕著だ。長い曲は80、90年代のアルバムに収録されている長い曲に似た雰囲気を持っている。日本を思わせるジャケットとアルバムタイトルだが、歌詞は日本に限定せず、「戦術」はローマ帝国、「失われた世界でさまよう」はアメリカ、「漆黒の時」はイギリス、「ケルト人の死」はケルト人を思わせる。内容に大きな意味を持たせていない。長い曲は途中でテンポを変えるなどの工夫はあるものの、イントロをカットしたり曲を途中で終わらせたりしても違和感はない曲もある。どの曲も概ねミドルテンポで、長い曲もテンポを上げれば80年代のハードな曲のようになりそうだ。
2012年。邦題「英吉利の獅子」。アイアン・メイデンのベース、スティーヴ・ハリスを中心とするバンド。日本ではスティーヴ・ハリスのソロ作として宣伝されている。アイアン・メイデンとは異なるメンバーで録音している。アルバムの前半は70年代、80年代のバンドがオルタナティブ・ロックを20年遅れでやっているような印象で、オルタナティブ・ロックの要領に適っているのはボーカルだけだ。ベースもギターもアンサンブルも80年代をなぞっている。「ザ・チョーズン・ワンズ」はボストンのようなギターソロを含む80年代風ハードロック。「アイズ・オブ・ザ・ヤング」も歌詞も曲調も懐古的だ。アイアン・メイデンでは実現しにくい曲をやっているのでソロ作を出す意味は感じられるが、方向は明確ではない。