1994年。ギター2人の5人組。メロディアスなギターを特徴とするデスメタルはカーカスの「ハートワーク」から始まるが、デビューからメロディアスなデスメタル・バンドはダーク・トランキュリティー、イン・フレイムスが最初。ギターのイエスパー・ストロムブラードはドラムも演奏。「ハルガラテン」はバイオリン中心の民謡。「アイ・オブ・ザ・ビホルダー」はメタリカのカバー。このアルバムが出たとき、ハードさとメロディーの調和で当時のヘビーメタルファンにかなりのインパクトを与えている。日本では95年のミニ・アルバムを含み16曲入りで95年に発売された。デビュー当時、「ビハインド・スペース」のイントロを使ったCMが頻繁に流れた。
1996年。ギター演奏を中心とし、ボーカルメロディーよりも楽器演奏の時間が長い。曲構成もアーク・エネミーほど分かりやすくはない。ギターが常にハーモニーを奏でており、哀感を強くしている。「デッド・エタニティ」収録。
1997年。ミドルテンポの曲ではアモルフィス並みに民族色が濃くなる。これはデビュー時から変わらない。ジャケットは大きく向上。「エブリシング・カウンツ」はデペッシュ・モードのカバー。日本盤はボーナストラックとしてミニ・アルバム「堕落の神告」を含む。
1999年。ギターとベースが抜け、ドラムがギターになり、ベースとドラムを加入させた。ボーカルは表現力が豊かになり、曲もすばらしくなった。デスメタル特有のリズムも当然あるが、通常のヘビーメタルで聞かれるようなヨーロッパ型のリズム、すなわちバスドラムの連打もある。いわゆるメロディック・デス・メタル一辺倒ではなくなったところに名盤と呼ばれるゆえんがある。「ビハインド・スペース’99」はデビュー盤のオープニング曲の再録音。「クラッド・イン・シャドウズ’99」の再録音。ヨーロッパのギター、キー・マルセロが参加。
2000年。前作を上回る出来。ボーカルはさらにメロディアスになり、普通のボーカルと変わらない部分もある。表現力に関してはアーク・エネミーやチルドレン・オブ・ボドムよりはるかに高次元で比較にならない。もはやデス声ではない。サウンド装飾に現代的なものが目立ち、キーボードも必要に応じて導入、「ホラクル」以前のオーソドックスなメロディック・デスメタルとは決別した。ボーナストラックはボーカルがデス声というだけで、曲自体はヘビーメタルそのもの。
2001年。ライブ盤。
2002年。オープニング曲はキーボードのイントロから始まり、早くも作風の変化を感じさせる。「コロニー」から「クレイマン」の路線をさらに押し進めたサウンド。キーボード、コーラスはいままでと比べてもかなり多い。イエスパー・ストロムブラードはアーク・エネミーのマイケル・アモットやチルドレン・オブ・ボドムのアレキシ・ライホに決定的な差をつけた。イエスパー・ストロムブラードはアーク・エネミーやチルドレン・オブ・ボドムがやっているような曲を書こうと思えば書けるが、マイケル・アモットやアレキシ・ライホはそうではない。プロデューサーがフレドリック・ノルドストロームではなくなったことも大きい。このアルバムが出たとき、サウンドがかなり変化したとして注目を浴びると同時に、伝統的メロディック・デスメタルのファンと現代的ラウドロックを許容するファンの間で大きな議論を呼んだ。同時期に出たダーク・トランキュリティーの「ダメージ・ダン」も同じように現代的サウンドに変化したこともあって、メロディック・デスメタルの潮流にも変化があることを示したアルバムとなった。
2003年。シングル。「リルート・トゥ・リメイン」のサウンド傾向を最も端的に表している曲。「ランド・オブ・コンフュージョン」はジェネシスのカバー。DVD付き。
2004年。95年に発売され、「ルナー・ストレイン」に追加収録されていたミニアルバムの独立盤。「ジェスター・レース」に収録されている「デッド・エタニティ」と「ザ・インボーン・ライフレス」のデモバージョンと、メタリカの「アイ・オブ・ザ・ビホルダー」、アイアン・メイデンの「モルグ街の殺人」のカバー収録。
2004年。各曲の前後にラジオ電波の同調音やプログラミングによるサンプル音が入り、そこから音量の大きいメーンの曲に入っていく。ボーカルはデスメタルのそれではなく、ラウドロックの叫ぶような歌い方。バックの演奏を装飾するかたちでキーボードが使われる。ギターは従来通りメロディアスだが、アーク・エネミーのようなソロをとる弾き方ではなく、全体の中の一楽器として協奏的に響く。メロディック・デスメタルを超え、ロックの一線に出た。
2006年。前作の路線で、曲は個別に独立している。オープニング曲の「テイク・ディス・ライフ」はハード。「デッド・エンド」に出てくる女声ボーカルはモーリン・マクガバンに似ており、歌詞にも「モーニング・アフター」が出てくる。最後の曲は蛇足か。勢いを残したままアルバムが終わった方がよい。「クレイマン」「リルート・トゥ・リメイン」以降ではハードなサウンド。
2008年。イン・フレイムスが属するとされるジャンルは当然、ハードなロックになるだろう。それが仮にメロディック・デス・メタルだとするならば、ハードなロックの中の、さらにハードな部類と言える。そうした音楽を好んで聞くファンは、さらにハードな音楽が出てくるとその音楽に眼移りしやすい。また、ハードさをものさしとして判断する傾向が大きいため、文学的成長やメロディーの豊潤さなど、ハードさ以外の部分で向上があっても評価されにくい面がある。このアルバムは、ここ数年の近・未来的サウンド、すなわちアメリカ寄りサウンドから、メロディアスなヘビーメタルに戻っている。キーボードの音がないわけではない。ボーカルはデス声ではなく以前のままで、バックの演奏のみが後退したように聞こえる。曲そのものの質は落ちていない。「ザ・チョーズン・ペシミスト」はヘビーメタル・ファンから最も理解されにくい曲であり、ヘビーメタル・ファンではない洋楽ファンからはかなり支持される曲であるが、このアルバムをわざわざ聞く洋楽ファンはほとんどいないだろう。結果としてヘビーメタル・ファンの評価が全体の評価となってしまう。この曲はイン・フレイムスにとって一種の挑戦であるはずだ。意識しているかしていないかは別にして、かつてプログラミング音やスクリーモ型ボーカルを取り入れたのと同じ流れの中でUKロックを取り入れていると思われる。ヘビーメタル・ファンにとって、UKロックは退屈だろう。「ヘビーメタル・ファンにとって退屈であること」と、曲の良し悪しは別の判断だ。このバンドは依然としてヘビーメタルと呼ばれるだろうが、ヘビーメタルの中「だけ」で評価するのが不適切な段階に来ているのではないか。
2011年。ギターのイエスパー・ストロムブラードが抜け、エンゲルのギターが加入。キーボード、エレクトロニクスをサウンド上の重要な要素として用いながら、ジャンルの中心はヘビーメタルとなっている。ここ数年はプログラミング音とヘビーメタルの可能性を模索しているが、そろそろ次の段階に踏み出してもよいのではないか。「ジェスターズ・ドアー」はプログラミングによる演奏に語りが乗る。
2014年。ヘビーメタルを基盤としたニューウェーブ風のサウンド。メロディー楽器はギターをメーンにし、シンセサイザーがそれを補う。デビュー当初はイン・フレイムス、ダーク・トランキュリティー、アーク・エネミーが同じジャンルでまとめられていたが、イン・フレイムスはメンバーの知的水準が高かったためやがてそのジャンルから離れ、ヘビーメタルの偶像を追求しなくなっている。大衆志向的なダーク・トランキュリティーやアーク・エネミーが劣るということはないが、イン・フレイムスが選んだサウンドは少数の層に支持されるサウンドとなった。オープニング曲の「イン・ブレイン・ヴュー」、その次の「エヴリシングズ・ゴーン」はヘビーメタルの力強さを含んでいるが「パラライズド」「スルー・オブリヴィオン」はニューウェーブのメロディアスな曲。「ホエン・ザ・ワールド・エクスプローズ」は女性ボーカルを使い、シンセサイザーの使用とは別方向でのニューウェーブを取り入れている。全曲をボーカルとギターが共作。
2016年。スクリーモ風の絶叫、デスメタル風のボーカルが出てくるのは「ドレインド」「ジ・エンド」「スルー・マイ・アイズ」くらいで、ほとんどの曲はメロディーをきちんと歌い上げる。前作ほどではないものの、プログラミングや薄い背景音のシンセサイザーは使われる。「ライク・サンド」から「ビフォー・マイ・フォール」までは前作に近い。「ウォールフラワー」「セイヴ・ミー」も前作に近いだろう。ギターやドラムなど、伝統的バンド楽器はヘビーメタルの要素を強く残すが、曲調はオルタナティブロック、ラップのないハードなリンキン・パークに近づく。ギター、ドラムのヘビーメタルらしさから脱却する時、バンドとして2度目の変革期になるのだろう。そのタイミングはそう遠くない。