HAKEN

ヘイケンはイギリスのプログレッシブロック、ヘビーメタルバンド。6人編成。

1
AQUARIUS

2010年。2010年代に、10分以上の曲が4曲もあるアルバムを出すプログレッシブロックバンドは、その構成を採用する発想がかなり古い。90年代のエイリオンを変わらない。シンセサイザーをキーボードの代用として使い、デスボイスも使い、長大な曲を複数置き、アルバムを一つの物語でまとめるのは、21世紀の現代から見れば男性性が大きい。しかし、このアルバムで展開される物語は時代に合っている。気候変動問題を扱っているからだ。物語は1枚のアルバムで完結しているが、悲劇性があるにも関わらず悲劇的な印象はあまりない。もっと深く陰鬱にしてもよかった。

2
VISIONS

2011年。このアルバムも物語が設定されている。前作に続いて作詞しているボーカルが、偏執的な少年に関する物語を書いている。音響面ではギター中心になり、ロックよりもヘビーメタルに近くなっている。そうなれば、このジャンルの宿命としてドリーム・シアターとの比較をされてしまうが、演奏技術を聞きどころとはしていないため見劣りするわけではない。とはいえ、2010年代にプログレッシブ・ヘビーメタルをやるバンドとして、前作のような時代意識や必然性があるわけではない。最後の曲は22分ある。

3
THE MOUNTAIN

2013年。メンバー全員が作詞に参加した。6人で作詞ではなく、曲ごとに1~3人で作詞している。そのことよりも、作曲面での幅の広がりがこのアルバムの評価を高くしている。物語の制約を受けない分、作曲が自由になった。「コックローチ・キング」「サムバディ」のジェントル・ジャイアントを模したボーカルなど、参照元が明らかな曲もあるが、「ビコーズ・イッツ・ゼア」は前半のアカペラから始まって後半に編集されたノイズが入るなど、新しい挑戦がある。10分を超える「フォーリング・バック・トゥ・アース」「パレイドリア」はヘビーメタル寄り。

RESTORATION

2014年。EP盤。3曲収録。ベースが交代。2008年のデモCDを現メンバーで再録音している。19分ある「クリスタライズド」は途中にジェントル・ジャイアント風のコーラス、キーボードが出てくるので、結成当初からジェントル・ジャイアントに影響を受けていたことがわかる。ドリーム・シアターのマイク・ポートノイが参加。

4
AFFINITY

2016年。各曲が相互に関連したアルバムではないが、テーマはコンピューターと人間との関係について統一されている。デビュー以来初めてメンバー全員が作詞作曲に関わっている。「イニシエイト」はネットワークあるいはSNSで多数の人につながり、炎上し消費される個人を描く。「1985」はドラムやシンセサイザーが80年代を模倣しており、この時代のコンピューターに支配的だったフレームワークが80年代に大きく変化することを示唆している。マイクロソフトとアップルの覇権が始まることを意識しており、いわば人間がコンピューターにからめとられる時代の始まりと捉えている。16分近くある「アーキテクト」はアーキテクチャやアルゴリズムに支配される個人を描き、それがジョージ・オーウェルの小説の世界を思わせると言う。「エンドレス・ノット」は信じることができる物語とヒーローが必要と言い、「バウンド・バイ・グラヴィティ」はコンピューターによって人間の営みが再構築されてもその中で営みは元に戻ると歌う。この曲の最後はオープニング曲の「アフィニティ・エグゼ」につながっており、アルバム全体が「エンドレス・ノット」になっている。コンピューターやネットワークが人間を不安、不幸にしているとしても、長い目で見ればいつの時代にもある社会的拘束の中で人間が再構築され、歴史が続いていくというのがアルバムの構成のようだ。

L-1VE

2018年。ライブ盤。DVD2枚とCD2枚のセット。

5
VECTOR

2018年。前作と同様にメンバー6人が作詞作曲をしている。10分を超える曲はあるが、アルバム全体は45分になり、アナログ盤1枚に収まるようになった。精神疾患患者と医師についての歌詞で統一されている。「ザ・グッド・ドクター」では電気ショックを思わせる歌詞があることから、治療法が未発達な時代の話であることが分かる。今回は明確なストーリーを読み取るのが難しい。ギターが中心となる曲が多く、それはヘビーメタル、プログレッシブ・ヘビーメタルに大きく近づくということにもなるが、それだけでは評価しにくい。

6
VIRUS

2020年。90年代から2000年代のスラッシュメタルのような曲で始まる。その次の「インヴェイジョン」も含め、パンテラのようなバウンドがよくみられる。アルバムの内部に5部構成の「メサイア・コンプレックス」が展開されており、5曲で17分ある。「ザ・ストレイン」はドラムの手数が多く、音を詰め込むデヴィン・タウンゼンドの影響がある。過去の有名アーティストへの愛着と、そこに連なろうとするバンドの自己愛から脱出し、独自の強い個性を創り出す時期に来ている。日本盤ボーナストラックは日本語の歌詞を日本育ちのアメリカ人女性が歌う。日本人とは異なりリズムに合わせた日本語を載せている。

7
FAUNA

2023年。キーボードが交代。曲ごとに動物が歌詞に登場し、何の動物かはCDのブックレットに示されている。前作よりはギターが前面に出なくなっている。「ジ・アルファベット・オブ・ミー」は80年代ニューウェーブの雰囲気がある。「ラヴバイト」はポップなメロディーだ。「エレファント・ネヴァー・フォーゲット」はコーラスがなくてもジェントル・ジャイアントだ。曲によっては時事問題に関連している。