フリーダム・コールはムーン・ドックのボーカル、クリス・ベイが結成したバンド。ドイツのヘビーメタルバンドとしては特にコーラスを重視し、自らを幻想の世界の先導者とする歌詞が多い。物語に沿って歌詞が進んだり、キーボードも使われたりするので、サウンドはヨーロッパの伝統的なヘビーメタルとなっている。
1995年。アクセプト~シナー~ヴィクトリーのギター、ハーマン・フランクが結成したバンド。4人編成。ドイツのヘビーメタルは基本的に英米追従型と、ドラマチックでスピーディーなヨーロッパ型に分けられるが、このバンドは英米型だ。ボーカルのクリス・ベイの声から、ピンク・クリーム69に似たハードロックとも言える。
1996年。ややメロディーがポップになった。サビのコーラスは厚くなった。フェア・ウォーニングのトミー・ハートとヘルゲ・エンゲルケがコーラスで参加。フィリップ・カンダスもパーカッションで参加している。「アウト・イン・ザ・コールド」はバン・ヘイレンの「ホット・フォー・ティーチャー」を思い出す。
2000年。ハーマン・フランク以外のメンバーが全員入れ替わった。キーボードが専任で加わり、5人編成になっている。ドラムは元ビクトリー。前2作と大きく異なり、イントロからハードな曲に移行する典型的なヨーロッパ型ヘビーメタルとなった。それほど大仰ではなく、くどさがない。新ボーカルはタリスマンのジェフ・スコット・ソートに似た声。
1999年。ムーン・ドックのボーカル、クリス・ベイとガンマ・レイのドラム、ダン・ツィマーマンによるプロジェクト。ベースもムーン・ドックのメンバーで、ギターはサシャ・ゲルストナー。ドイツ・ロマン派音楽の思想をヘビー・メタルに受け継ぐ。歌詞は物語になっているが、曲はストーリーの順番にはなっていない。厚いコーラスとオーケストラ風キーボードをふんだんに使っている。クリス・ベイはボーカル、ギター、キーボードを担当しているので、結果的にアレンジの主導権を握っている。コーラスにはドリームタイドのボーカル、オラフ・ゼンクバイルが参加。
1999年。ミニ・アルバム。ウルトラヴォックスのカバーを収録。コーラスにガンマ・レイのダーク・シュレヒター、ヘンニュ・リヒターが参加。2曲は「ステアウェイ・トゥ・フェアリィランド」収録曲のバージョン違い。純粋な新曲は2曲。その2曲が両方とも出来がよい。フランスと日本で出され、他の国では発売されなかった。
2001年。デビュー盤をさらにスケール・アップした。オペラ風のコーラス、大仰なオーケストレーションに磨きがかかる。根本的なサウンドの特徴はブラインド・ガーディアンやガンマ・レイに近いが、このバンドの個性は、希望的なメロディーが多いということだ。キーボードは金管楽器系を多用し、ストリングスとは異なるドラマチックさを出したのはいいアイデア。
2002年。ギターが交代。日本盤は発売されなかった。エドガイのトビアス・サメット、アット・ヴァンスのオリバー・ハートマンがコーラスで参加。メロディーを主導しているのはギターではなくキーボードになってきている。キーボード専任もしくはボーカル専任メンバーを増やしてもよい。
2004年。ライブ盤。キーボードを加え、5人編成で演奏している。ボーカルのクリス・ベイもギターを弾くので、ギター2人のサウンドになっている。スタジオ盤をかなり忠実に再現しており、コーラスも4人くらいでやっている。充実した演奏。日本盤は出なかった。2枚組になっており、2枚目は「タラゴン」に2曲を追加したスタジオ盤。「ヒロシマ」はウィッシュフル・シンキング、「Dr.STEIN」はハロウィンのカバー。
2005年。ギターとキーボードがバランスよくメロディーを主導し、分厚いコーラスもいつも通り。覚えやすいメロディーを作り続けることの難しさからすると、「スターチャイルド」「キャリー・オン」などは感嘆に値する。全曲を型どおりのヘビーメタルにしなかったのもいい判断だった。
2007年。ギターとベースが交代。ブックレットによると、このアルバムはドラムをトミー・ニュートンが録音し、それ以外のボーカル、ギター、ベース、キーボードをクリス・ベイが録音していることになっている。すなわち、メンバー4人のうち、3人は録音に参加していない。「録音」と「演奏」が別の意味で書かれているならば、4人は全員演奏しているとも言える。4人のうち2人が入れ替われば、コーラスに影響が出そうだが、メンバーとは別にゲストのコーラスが10人参加している。10人にはアット・ヴァンスのオリバー・ハートマンも含まれている。これまでのアルバムに比べて、キーボードに厚みがなく、コーラスもやや細い。標榜するサウンドは変わらないので、前向きなメロディーの大仰なヘビーメタルであることには変わりない。最後の曲の「ファー・アウェイ」はバグパイプ風キーボードが曲全体を覆う。「ザ・クエスト(アンプラグド・ヴァージョン)」は「クリスタル・エンパイア」収録曲のバージョン違い。
2010年。ほぼ4人のメンバーで録音されている。キーボードはクリス・ベイが演奏している。厚いコーラス、キーボードによる大仰なサウンドは健在で、コーラスで始まる曲が4曲ある。あらかじめ物語が設定されているので、デビュー当初のような明るい曲調は少ない。
2012年。ドラムはダン・ツィマーマンではなくなり、クリス・ベイのバンドとなった。クリス・ベイはギターとキーボードも演奏。バンドの他の3人のほか、コーラスのみに4人参加し、8人でコーラスをやっている。14曲のうち2曲をギターが作曲、1曲をベースが作曲、11曲をクリス・ベイが作曲している。「バック・イントゥ・ザ・ランド・オブ・ライト」「ヴァレイ・オブ・キングダム」はこれまでの良さを継承した曲。「サン・イン・ザ・ダーク」はヘビーロック風。日本盤は出ていない。
2013年。ベスト盤。2枚組。1枚目は各アルバムから1~4曲選び、時系列に並べている。2枚目は代表曲をヘビーメタルではないジャンルで演奏した企画盤。ヒルビリー、フォーク、レゲエ、スカ、スイングの形式で演奏するが、キャンプファイア風という「フリーダム・コール」はアコースティックギターの弾き語りと変わらない。
2014年。全曲をクリス・ベイが作曲し、そのうちギターが2曲、ベース、ドラムが1曲ずつ共作している。歌詞の基になっている物語はドラムが創作している。「ナイツ・オブ・タラゴン」「カム・オン・ホーム」「ジャーニー・イントゥ・ワンダーランド」「フォロー・ユア・ハート」は明るいメロディー、厚いコーラス、ファンファーレ風のキーボードなど、フリーダム・コールのサウンドの刻印が明確に示される。「ビヨンド・エターニティ」のバグパイプのように聞こえる音はキーボードによるとみられる。日本盤は出ていない。
2016年。9曲をクリス・ベイが作曲もしくは共作し、3曲をギターが作曲している。クリス・ベイの曲はコーラスが厚く、ボーカルハーモニーで始まる曲も多い。キーボードの量は減り、管楽器の代役をしていたファンファーレ風のキーボードもない。ギター中心のサウンドになったとも言える。クリス・ベイが作る曲は、当初からボーカルを重ねる前提になっているとみられる。全体としては、これまでどおりのサウンド。
2019年。ベースとドラムが交代。キーボードも適宜使う。フリーダム・コールとしてはこのアルバムで20年となり、明るめのメロディアスなヘビーメタルでは個性を確立したと言える。アルバムタイトル曲はそのような文脈の中で出てきた曲かもしれないが、ジューダス・プリースト並みの恥ずかしさがある。「ジ・エース・オヴ・ユニコーン」「デイズ・オヴ・グローリー」もフリーダム・コールが幻想の世界の先導者になるという歌詞だが、虚構の世界から現実の世界に降りたアルバムもあっていいだろう。