FOO FIGHTERS/PROBOT/THEM CROOKED VULTURES

フー・ファイターズはニルヴァーナのドラマー、デイヴ・グロールが結成したバンド。デイヴ・グロールはギター兼ボーカルに転向している。細かいアレンジをせず、豪快にロックンロールをやっている。小細工のないアメリカのロックをイメージすれば、筆頭に上がってきそうなサウンドだ。

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FOO FIGHTERS

1995年。ニルヴァーナのドラム、デイヴ・グロールがギター兼ボーカルに転向し、ギター、ベース、ドラムの4人編成で結成。デイブ・グロールがすべての楽器を演奏して録音している。メンバーは録音のあと集めた。このバンドがニルヴァーナと比較されることは宿命だが、ニルヴァーナのような曲を入れず、アメリカの大陸的鷹揚さを備えたロックにしたのは賢明だ。メロディーが前向きで、近寄りがたさはない。全米23位、全英3位。

THIS IS A CALL

1995年。シングル盤。アルバム未収録曲2曲収録。日本盤はCDシングル盤で発売。

 
I'LL STICK AROUND

1995年。シングル盤。「ハウ・アイ・ミス・ユー」「オゾン」は未発表曲で、これもデイヴ・グロールが1人ですべての楽器を演奏している。「フォー・オール・ザ・カウズ」「ウォーターシェッド」はライブ。

BIG ME

1996年。シングル盤。「フローティ」「ガス・チェンバー」「アローン・アンド・イージー・ターゲット」はライブ。「ガス・チェンバー」はアングリー・サモアンズの55秒のカバー曲。

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THE COLOUR AND THE SHAPE

1997年。バンド編成で録音。バラエティー豊かになり、曲が全体的に明るい。グランジ・ロックやオルタナティブ・ロックといったジャンルをあまり考えさせない。13曲のうち11曲はデイブ・グロールがドラムを演奏している。前作よりもハードな曲はハード、ポップな曲はポップで、めりはりがついている。ディストーションが大きくかかったギターは減っているので聞きやすい。「モンキー・レンチ」収録。全米10位、全英3位。

MY HERO

1998年。シングル盤。キリング・ジョーク、ヴァニティ6、ゲイリー・ニューマン、ジェリー・ラファティーのカバーを収録。ジェリー・ラファティーのカバーは「霧のベイカー街」。

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THERE IS NOTHING LEFT TO LOSE

1999年。ギターとドラムが交代。メロディーをそのままにして、ややハードなギターを増やした。ロックらしさを出している。「ザ・カラー&ザ・シェイプ」とこのアルバムが、このバンドの路線の両輪になり、その範囲内で曲がつくられていく。全米10位、全英10位。

BREAKOUT

2000年。シングル盤。「アイアン・アンド・ストーン」はオブセストのカバー。

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ONE BY ONE

2002年。ロックのハードさと覚えやすいメロディーを両立した名盤。メロディーはポップで、ヒット性が多分にある。日本盤ボーナストラックはほとんどビーチ・ボーイズのような曲だ。全米3位、全英1位。

 
ALL MY LIFE

2002年。シングル盤。「シスター・ヨーロッパ」はハードでもポップでもなく、アルバムに入れなくて正解だ。

 
TIME LIKE THESE

2003年。アルバム未収録曲の「ノーマル」はアルバムに入っていてもよかった。「ライフ・オブ・イルージョン」はジョー・ウォルシュのカバー。オリジナル曲はどれもすばらしい。

 
PROBOT/PROBOT

2004年。ヘビーメタルで活躍するアーティストを曲ごとに参加させ、デイブ・グロールがほとんどの楽器を演奏する。ヴェノムのクロノス、セパルトゥラ、ソウルフライのマックス・カバレラ、モーターヘッドのレミー・キルミスター、ナパーム・デス、カテドラルのリー・ドリアン、セルティック・フロストのトム・ウォリアー、ヴォイヴォドのスネイク、キング・ダイアモンド等が参加。参加したアーティストはそれぞれ自分がやっている音楽に近いサウンドや曲で歌っている。

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IN YOUR HONOUR

2005年。2枚組で、1枚目はロック、2枚目はアコースティック・サウンド。ロックの方は、前半がハードさをメーンに置き、中盤からオーソドックスなロックン・ロール風となる。ポップなメロディーはあるが、前作よりも抑えられ、ロックの楽しさよりも激しさに比重がある。アコースティックの方はピアノやストリングスを適度に使用し、カントリー風にならないような配慮がされている。ノラ・ジョーンズやレッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズ等が参加。全米2位、全英2位。

 
BEST OF YOU

2005年。シングル盤。アルバム未収録曲2曲を収録。「FFL」はハードコア。「キス・ザ・ボトル」はオーソドックスなロック。

 
DOA

2005年。アルバム未収録曲2曲を収録。「スキン・アンド・ボーンズ」はライブ・バージョン、「アイ・フィール・フリー」はクリームのカバー。

SKIN AND BONES

2006年。アコースティック楽器によるライブ盤。全米21位。

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ECHOES,SILENCE,PATIENCE&GRACE

2007年。ロックの曲とアコースティックの曲が混在する。アコースティック楽器の曲の多さが特徴といえる。ライブになれば、このうちの何曲かは通常のロック・スタイルで演奏され、何曲かはそのままアコースティック楽器で演奏されるだろう。ピアノはデイブ・グロールが演奏。「チア・アップ、ボーイズ(ユア・メイク・アップ・イズ・ランニング)」はメロディアスなハードロック。「バラード・オブ・ザ・ビーコンズフィールド・マイナーズ」のギターはカーキ・キング。全米3位、全英1位。

 
THEM CROOKED VULTURES/THEM CROOKED VULTURES

2009年。クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュ・オムがボーカル兼ギター、レッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズがベース兼キーボード、フー・ファイターズのデイヴ・グロールがドラムのバンド。デイヴ・グロールはレッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムに似たドラムの叩き方で、手数を抑えながら迫力を出している。レッド・ツェッペリンを土台にして、ジョシュア・オムとデイヴ・グロールが羽を伸ばしている印象だ。ジョシュア・オムのボーカルが力まないところもいい方に作用している。フー・ファイターズらしさは「マインド・イレーサー、ノー・チェーサー」に出ている。

GREATEST HITS

2009年。ベスト盤。2枚組。新曲2曲収録。

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WASTING LIGHT

2011年。デイヴ・グロールのボーカルや2人のギターが豪快な印象を持たせるが、アンサンブルはきれいにまとまっている。メロディーもよく、「イン・ユア・オナー」や「ワン・バイ・ワン」のいいところを受け継いでいる。アメリカのハードなロックとしては、2000年代を代表するバンドになったと言ってよい。全米1位、全英1位。

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SONIC HIGHWAYS

2014年。アメリカのハードなロックを、キーボードやストリングスやホーンセクションをあまり入れず、てらいなくやったときに質の高さを保てるバンドは少ない。サイケデリックと呼ばれたり、インディーズ風であったり、シューゲイザー風であったりするような曲を作るのは、定型的でない分、オーソドックスなロックよりも簡単だ。ロックに限らず、音楽に限らず多くの文化的な創作物は、本流がその根本的な魅力を持っているけれども、そのよさを具現化するには高い能力が必要だと感じさせる。デイヴ・グロールはニルヴァーナのメンバーとしてデビューしていなくてもいずれ別のバンドで成功しているのではないか。全米2位、全英2位。

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CONCRETE AND GOLD

2017年。キーボード奏者が加入、6人編成。メンバーが増えてサウンドに厚みが出るとともに、楽器の数による強弱も広がっている。「ラ・ディ・ダ」でのキーボードの音の分厚さはギターの代役を果たしている。「ダーティ・ウォーター」でも厚み重視の音が使われており、音色の種類を増やすというよりは音の量を増やすことに主眼があるようだ。アメリカ的なハードロックの豪快さと滑らかなメロディーの調和はこれまでどおり。「サンデー・レイン」はドラムのテイラー・ホーキンスがボーカルをとり、ドラムはポール・マッカートニーが演奏している。「ザ・スカイ・イズ・ア・ネイバーフッド」は弦楽器が3人参加し、デッド・ウェザーのボーカル、アリソン・モシャートが参加している。アルバムタイトル曲は初期のブラック・サバス風のギターになっている。全米1位、全英1位。

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MEDICINE AT MIDNIGHT

2021年。これまでのポップなメロディーのまま、女性コーラスやストリングスも使ってギター中心のロックを展開する。「クラウドスポッター」はデイヴィッド・エセックスの「ロック・オン」をハードロックにしたような曲。アルバムタイトル曲はエリック・クラプトンのようなギターソロが入る。「ウェイティング・オン・ア・ウォー」「ラヴ・ダイズ・ヤング」はこれまでのフー・ファイターズのよさを継承した曲。全米3位、全英1位。

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BUT HERE WE ARE

2023年。ドラムのテイラー・ホーキンスが死去したため、ドラムはデイヴ・グロールが演奏している。フー・ファイターズは、豪快さとポップなメロディーを備えたロックでありながら、デイヴ・グロールの歌詞が抽象性と普遍性を持っているため他のバンドとは異なる高い評価を獲得してきた。今回はメンバーが亡くなったあとのアルバムとして、以前よりも注目された。別離をテーマにした曲では、テイラー・ホーキンスに言及しなくても聞き手の多くはテイラー・ホーキンスを想像する。言及しないからこそ聞き手は身近な人にも当てはめることができる。アナログ盤のA面に当たる6曲目までは、これまでのようなハードな曲調が多いが、B面は定型的な展開から離れた内省的な曲調になる。デイヴ・グロールが、亡くなった母のことを歌ったとみられる「ザ・ティーチャー」は10分を超える。展開も終わり方も実験的だ。