FOALS

フォールズはイギリスのロックバンド。キーボードを含む5人編成。毎回趣向の異なるアルバムを出しており、実験精神はロックバンドの範囲内ながら旺盛。

FOALS EP

2007年。エレキギターの音にまとわりつく持続的歪みのイメージに対し、意図的に逆の音を使っている。音を短く切っているので、それが跳ねる音としてダンス音楽に通じている。「ハマー」「マスレティックス」はアルバム収録曲と同じ。「アストロノーツ・アンド・オール」はアルバム未収録曲。「ビッグ・ビッグ・ラヴ」は別バージョン。「バルーンズ」はライブ。

1
ANTIDOTES

2008年。邦題「アンチドーツ(解毒剤)」。ギターとキーボードを短く切ってリズム楽器のように演奏する。ギターの音に濁りや歪みはあまりなく、ギターというよりも打楽器やエレクトロニクスのように使われることが多い。同じ音が連続して弾かれると、ブルースと同じようにための効果が出てエネルギーの解放を大きくする。背景音が持続するのは2000年代らしさのひとつで、イギリスのロックならではだろう。曲によってはホーンセクションを使う。ボーカルは二重に収録されていることが多く、それほど重視していないようだ。メロディーとリズムを明瞭に出すところはロックバンドらしい。

2
TOTAL LIFE FOREVER

2010年。シューゲイザーに影響を受けたフリート・フォクシーズがロックをやっているようなサウンド。リズムの主体はドラム、メロディーはエレキギターが担っており、エレクトロニクスのバンドではなくロックバンドであることを確認させる。前作とのサウンドの違いは大きい。ボーカルは前作と同様に複数重ねているが、はっきり聞き取れる。ボーカルもギターもドラムもロックの感性を失っていないことは、エレクトロニクス全盛の時代には貴重だ。「スパニッシュ・サハラ」収録。

3
HOLY FIRE

2013年。デビュー盤とは大きく異なる、歪みのかかったギターを使う。不協和音をサウンドに取り入れ、従来の跳ねるようなギターや輪郭の曖昧なシンセサイザーと対比させることで変化の大きさを目立たせる。ドラムが明確にリズムを刻むのはデビュー以来変わらない。メロディーは陰鬱ではなく、「バッド・ハビット」などは前向きだ。「アウト・オブ・ザ・ウッズ」はマリンバやパーカッションを多用する。「インヘイラー」「プロヴィデンス」はこれまでで最もハードな曲。

4
WHAT WENT DOWN

2016年。1、2曲目は前作のハードな部分を継承する、盛り上がりの大きい曲。3曲目以降はこれまでのアルバムに出てきたサウンドを1枚のアルバムで振り返りながら、背景音を加えたような曲が続く。「ナイト・スウィマーズ」は「アンチドーツ(解毒剤)」のころのような、ギターを短く刻むダンス調のロック。この曲がアルバムの中で浮いて見えるほど、アルバム全体が持続音と不協和音に包まれている。最後の「ア・ナイフ・イン・ジ・オーシャン」もハードで後半を大きく盛り上げる。

5
EVERYTHING NOT SAVED WILL BE LOST PART1

2019年。ベースが抜け4人編成。ボーカル兼ギターがボーカル兼ベースに転向。当初から2枚1組で計画された。シンセサイザー中心のオルタナティブロックで、2枚を通して聞くと、1枚目は躍動感のあるロック、2枚目は一般的なロックだ。アルバムタイトルはメッセージ性があり、これがテーマだと推測できる。メンバーの近年の社会的関心事を私と君との会話や関係の中に落とし込み、今よく考えて行動しないと取り返しが付かないと訴える。

6
EVERYTHING NOT SAVED WILL BE LOST PART2

2019年。弾むような曲がほとんどなく、暗めのヘビーロックのようなギター中心の曲が並ぶ。40秒の「イカリア」は途中の小曲というよりも、このアルバムをA面、B面に分けた時の、B面のイントロにあたる。従ってこのアルバムにはアナログ盤の両面にイントロが付いていることになる。A面をハードロック、ヘビーロック、B面はブルースロック風にした意味を考えると「イカリア」と「10,000フィート」が重要になってくるだろう。黒いダイヤモンドは石炭。際限ない工業化はやがて地球を滅ぼすというのがB面のメッセージで、言わんとすることは文明論的には正しいのだろうが、石炭による工業化で先に成功したイギリス人が現在の地球の状況を危惧するのは傲慢と言えなくもない。それでもアーティストとしては作品によって危機を訴えるしかなく、社会性と音楽を高いレベルで両立していると言える。